仮想の鬼神、幻想の都に墜つ 作:じゅじゅじゅ
よろです。今回長め。
戦闘描写、頑張ったつもり
――――紅魔館 大図書館
乱雑に積み上げられた魔導書の山が、ガサガサと音を立てて崩れる。しばらくすると、崩落した山の残骸から酷い顔色をした1人の少女が這い出てくる。
ボサボサのまま放置された紫の頭髪に、ヨレヨレになった薄紫色のナイトガウンを身にまとった――――まごう事なきズボラ美少女が、汚らしい呻き声をあげた。
「ゔぅ〜〜……こあが戻ってこない〜〜。
……はぁ、またサボり。今週で13回目だわ。
……でも、今日ばかりは変な巻き込まれ方してなきゃいいんだけど……」
目線を下に落とし、地下から感じる強大な妖力――紅魔館が誇る可愛らしい問題児の姿を幻視する。
この騒乱にレミリアや咲夜が介入していない以上、
ふと、自分の中の好奇心が刺激されるのを感じる。
レミリアの能力によって『謎の男』が浮かび上がった際、真っ先に調査を依頼されたのがパチュリーだった。
幸いにも身体的な特徴が大きく、歴史的にも非常に有名な人物であった事から、文献も比較的多く存在していた。その結果、意外にも調査はすぐに終了する。
平安最強にして歴代最強の呪術師 『両面宿儺』
今となっては、完全に失われた技術である“呪術”を用いて、その名を轟かせた伝説の傑物。平安時代において、人々は神や妖怪を恐れず、たった1人の人間である“彼”を恐れた。
「呪いの王」「仮想の鬼神」などという二つ名を持ちながら、忽然と歴史から姿を消した謎の男。
そんな男が今になってこの幻想郷に降り立つという事実に、少なからずパチュリーは恐怖と不安を感じていた。
だがしかし、それ以上に。それ以上に、抗いがたい魅力を感じているのも事実だった。
(魔法や仙術や道術とも異なり、独自の進化を遂げた“幻の技術”……!その中でも歴代最強の使い手と呼ばれ、歴史に名を残す程となると……彼自身の研究価値はもちろん、一つ一つの知識さえ千金に値するわ……!)
ごくりと生唾を飲み込みながら、服の袖を握りしめる。
(知りたい……!何としてでも知りたいわ!)
趣味の読書に没頭したり、魔法研究を進めていく過程において、専門外の知識というのは、己が意図せずとも自然と集まってくる。
しかし、それでも“呪術”という分野に限定して言えば――紙面に出回っている情報は、他と比較して圧倒的に少なかった。それどころか、苦労を重ねて文献をかき集めたのは良いものの――その基本理念や概念は、魔法使いであるパチュリーにとって理解しがたいものだった。
(本来ならば、忌避されて当然の『負の力』を用いるという逆転の発想。…………ただ、それ故に多くの人から避けられていたのは間違いない。その上、術式が“相伝”するという性質も相まってか、家系ごとに厳格な情報統制がなされていたんでしょうね……)
古今東西の多様な技術と比較してみても、ベースとなるその理念や運用法が
実際、宿儺に関する情報も、術式や能力を明確に記述したものは存在しておらず、武勇と畏怖のみが一人歩きしている様に感じられた。
(だからこそ、知りたい…………!!両面宿儺。アナタは一体、何者なの?)
◇◇◇◇◇◇◇
紅魔館の地下――フランドール・スカーレットの私室で、台風のような風切り音がこだまする。
1体のフランが弾幕による援護射撃で退路を塞ぎ、残る3体のフランがレーヴァテインを振り回しながら果敢に宿儺を攻め立てていた。
一見すると、フランが圧倒的に優勢にも見える戦況だったが――――その表情はまさに対照的だった。
――歯を食いしばりながら焦りの表情を浮かべる4人のフラン
――防戦を強いられつつも嘲笑の崩れない宿儺
フランの猛攻を4本の腕が、逸らし・受け止め・巧みにいなし続ける事によって、レーヴァテインの切先がその肉体を捉える事は無かった。とはいえ、流石の宿儺もこれだけの猛攻に対処しながら、術式を用いて反撃に出るのは困難な様子で――戦況はこう着状態に陥っていた。
しかし、当事者であるフランドール・スカーレット本人は、現在の戦況が“薄氷の上に立っただけの張りぼて”である事に気付いていた。
(
前衛として宿儺を抑えていたフランの内の一体が、宿儺から脇腹に蹴りを入れられ、小さく呻きながら後退する。
(既に
自らの切り札が攻略されつつある現状に、フランは焦りを募らせていく。しかしながら、宿儺を睨みつけるその視線は――未だ光を失っていない。
(何としてもアイツに“一瞬の隙”を作らせる……!その時に、渾身の
幼女たちから殺意の籠った攻撃を向けられながらも、それらをいなし続ける宿儺は――――己の中のフランの評価を上げつつ、闘いを楽しんでいた。
(この分身体……スペックとしては悪くない。一つ一つにしっかりとした実体があり、肉体能力も本体とそう変わらない。身体に妖力を帯びている事から推し測るに、やろうと思えば単独で術の行使すらできるのだろう。……単体の性能だけで比較すれば、1000年前に
左右から挟撃の形で突進してくる2体のフランに対し、宿儺は――極小の斬撃をチェンソーのように掌に纏いながら――レーヴァテインを掴み取り、空いた2本の腕で殴りつける。
(各個体ごとに自立した思考があり、その上で感覚を共有しているのだろう……連携に無駄がない…………装備の槍は、コイツ自身の妖力で0から生成しているのか?だとすれば、破壊や没収に意味は無いな)
掴んだ槍をあっさりと手放し、後方から飛んできた弾幕を回避する。
(そして何より…………奴は焦りこそ感じているが、
期待に胸を膨らませ、嘲りからではなく――――本物の喜びから笑みを浮かべ、咆哮する。
「ククッ、良いぞ!そう来なくてはな!!!!」
沈黙を保っていた腹の口が再び呪詞の詠唱を始め、顔に張り付いた4つの瞳がギョロリと動きながらフランの正確な位置を捕捉する。
「解」
不可視の斬撃が、再びフランの肉体を引き裂く。
4人のフランの全身に――浅いながらも――切り傷が刻まれる。しかし、そこで僅かな変化が生じた。
前衛として攻め続けていた個体の傷は回復せず、後方から弾幕を飛ばし続けていた個体のみが、時を巻き戻すかの様に傷を回復させていく。
「やはり貴様が本体か」
「チッ!…………な〜に?後から分かってたアピールしちゃうとか、お兄ちゃんだっさ〜い」
「ククッ、分身にばかり俺の相手を任せ、後ろで怯えていた貴様に言える事か?」
「……はぁ?」
額に血管を浮かび上らせながら、ドスの効いた声でフランが返答する。
今、まさに冷静さを失おうとしているフランに――内心でほくそ笑みながら、宿儺は更なる楔を打ち込む。
「良い良い。所詮、妖怪とはいえただの凡夫。……怯える事もあるだろう、恥じる必要はない。
…………ふむ、そうだな。地べたに這いつくばり、赦しを乞うのであれば今日は見逃してやろう。その代わりと言ってはなんだか、貴様の姉を少々嬲らせて貰うが…………悪くない話だろう?」
空間が軋む音が聞こえる。もはや眼前のフランの瞳孔は完全に開ききり、殺意すら塗り潰すほどの憤怒が見て取れる。
「……殺す」
爆音と共にレーヴァテインを振り上げた4体のフランが宿儺に肉薄する。
圧縮された時間の中、4つの刃が自らを貫かんとするのを察知しつつ、宿儺は僅かに落胆していた。
(少し煽り過ぎたか?よもや策も無しに突っ込んでくるとはな…………これだけ高性能な分身であれば、そう何度も作り直す事は出来ぬだろう。まずは分身を破壊し、少し焦らせてみるか)
既にフランの動きに対応しきった宿儺は、身を翻しながら刃を避け、4人のフランに手で触れる。
「ケヒッ!この俺を相手に、4人で向かってくるとは……頭数が足りていないんじゃないかぁ?」
『捌』
相手に直接触れる事で発動する――――相手の強さに応じて出力の変わる斬撃。事実上の即死技を、(本体に対してのみ出力を抑えながら)躊躇なく使用――
ふと、本体のフランに触れている手に違和感を感じる。まるで砂漠で砂を掴み取るように、あるいは川の清流に手を差し伸べるように。自らの手から何かが零れ落ちていく感覚があった。
見れば本体であるフランの肉体が、無数のコウモリへと
(これでは“捌”や“解”を当てたとしても大してダメージは通らんな。……だとするなら、先ほどの激昂はブラフか。まさか俺の方が乗せられていたとは……)
フランの感情を読み違えた事で突如として2択を迫られる。
――――本体への追撃か、捕えている分身の破壊か――――
僅かに逡巡するも、今は本体以上に分身を破壊する方が優先度が高いと判断し――改めて術式を使用する。
「捌」
触れていた3体のフランが細切れになって消滅していく。完全に破壊しきったという手ごたえを確かめながら、やがて本体への追撃を開始する。
しかし、宿儺の眼前――僅か数メートル先で――無数のコウモリの集合体から、元の姿に戻りつつあったフランと視線が交差する。もはやフランの瞳に焦りは見られない。
あるのは、希望・確信・高揚・緊張――――そして“罠にかかった獲物を見るような”捕食者としての傲慢さ。何かを掴むようにして伸ばす右手に、宿儺の本能が警鐘を鳴らす。
「きゅっとしてドカーン……なんちゃってね」
フランと戦闘を開始して以来、初めて――――宿儺の顔から嘲笑が消えた。
ドレスに付着したコンクリートの破片を手で払い、崩落した瓦礫の山を抜け出す。殴打により体の内部へダメージが蓄積したせいか、全身に不快感を感じるものの――――
口の中に溜まっていた血塊を吐き出し、眼前に立ち塞がる異形の男――両面宿儺を睨みつける。
フランドール・スカーレットの真骨頂にして、奥義でもある能力。その名も『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』は、文字通り生物や物質はもちろん、場合によっては一部の概念にさえ干渉できる。自らの手の中で、対象の弱点であり、最も脆い部分でもある“目”を強制的に作り出し、それを握り潰す事によって全てを破壊する――――恐ろしい能力。
この幻想郷においてもトップクラスに危険な力であり、その歯止めが効かない破壊力は実の姉であるレミリアすら遥かに凌ぐ。
そしてその能力は、宿儺に対して
3体の分身を犠牲にして隙をつくり、宿儺の“目”を己の手の中に作り出した。しかし、それを握り潰す段階で問題が生じる。
あくまで“目”とは、対象の最も脆く弱い部分を指す。しかし、仮に
(アイツの“目”そのものが、膨大な力によって守られていた。その所為で、どれだけ力を込めても壊せる気がしなかった…………こんな事、今までなかったのに……!!)
無意識のうちに唇を噛み締めながらも、目線は宿儺から外さない。
だが、そんなフランにも能力を通じて分かった事があった。
それは、「宿儺は殺せる」という事だ。
――――決して不死身ではなく、無敵でもない
――――同時に自然災害のような、理不尽な現象でもない
――――肉体という器を持ち、魂によって動く、
同時にその事実は、フランを激しく動揺させた。
生まれながらにして才能を与えられ、その気性ゆえに世界を知らなかった少女が体験する――初めての挫折。
もし仮に、宿儺がもっと理不尽な存在だったのなら、「自分の方が弱くても仕方がない」と納得出来ただろう。しかし、現実は違う。
血肉があり、命があり――――そして、死がある。存在としての格が違うだけで、同じ枠組みにいる事が
(心のどこかで自分が最強だと思ってた……紅魔館のみんなより………お姉ちゃんよりも、私が強かった。魔法使いや博麗の巫女相手だって、弾幕ごっこじゃなきゃ勝てるって思ってた。……でも、私はこの人に勝てない)
じわりと視界が滲み、形容しがたい不快な感情が心に溢れる。だが、逃げ出したいとは思わない。不思議な感覚だった。負けるのが嫌で、闘っている相手に対しても劣等感と恐怖に近い感情を抱いている。
それでも、この場から離れようという気が一切湧いてこない。いや、それ以上に、胸の奥から焦がすほどに熱い感情が――氾濫した大河の如く、フランの理性を越えて押し寄せてくる。
(ぜっっったいに負けたくない………!!!フランは今まで、戦うのが好きだったんじゃなかった……勝つのが好きだったんだ!弱者を甚振って、強者として振る舞うのが好きだった。……でも、今は違う。とにかくコイツに“負けたくない”。何も出来ないままやられて、バカにされるなんて許せない!!!)
こちらが回復している間、宿儺は攻撃してこなかった。現に今も、嘲笑?とは若干異なるものの、ニヤニヤとした笑みを浮かべ、4本の腕を組みながらコチラの様子を窺っている。
(別に勝ち筋はゼロじゃない。……まずはアイツを弱らせる。力を消費させ、肉体にダメージを与え続けて“目“を丸裸にしてやる。……その状態で能力を発動すれば、アイツは間違いなく死ぬ)
そう結論付けるも、あまりの無謀さに乾いた笑みを浮かべてしまう。
(まだ、一度だって攻撃を当てられてないのに?……それどころか、壊された分身は丸一日経たないと再生しない。その状態で、私がアイツを弱らせる?…………仮に出来たとしても、一度目に失敗して、タネも割れちゃった切り札が今度こそは通用するって?)
呆れるほどに勝率の低い話だったが、それでもフランの心に燃える炎は勢いを失わない。半ば無意識ではあるが――――生涯で初めて愉悦の為ではなく、誇りの為に戦おうとする大妖怪の心は折れなかった。
「……待たせちゃった?隙だらけの敵に攻撃しないだなんて、お兄ちゃんも紳士的なトコロがあるんだね?」
「構わん。それ以上に、楽しめそうだったからな」
「……皮肉のつもりだったんだけど。はぁ……」
「…………フランドール・スカーレットだったか?」
「うん、そうだよ。…………そう言えば、お兄ちゃんの名前って聞いてなかったっけ?なんて言うのかしら?」
「両面宿儺……宿儺で構わん」
「スクナ……すくな……へぇ、宿儺ねぇ。うん、覚えておくね」
戦闘中とは思えないほど、凪いだ空気が漂う。不思議とフランの緊張感は解けていき、思考もスッキリとしていく。対する宿儺も――元々、自然体だったのもあるが、フランに向ける視線も和らいでいた。
「一つ謝っておいてやる」
「??……急にどうしたの?」
「どうやら俺は、貴様という
思いもよらない謝罪。圧倒的強者であり、傍若無人を素で行くような男の――――彼なりの敬意を感じ取ったフランは、不覚にも心の底から笑ってしまった。
「あははははっ、なによそれ!お兄ちゃんって、そういう事も言うタイプだったんだね!……ふふっ、あ〜笑っちゃったわ」
目元に浮かんだ涙を拭いながら、清々しい笑みを浮かべて宿儺を見つめ返す。
「じゃあ、こっからは全部出し尽くすつもりでやるから。……恐らく
そう言い残し、フランは己の中に残された理性を全て手放し――――肉体を狂気へと委ねた。
完全に正気を失いつつも、見違えるような動きで攻め続けるフランに、宿儺はより笑みを深めて向き合っていた。無茶苦茶な太刀筋ではあるものの、彼女という器が決壊するほどの膂力で放たれる槍の一撃は、斬撃を纏った宿儺の拳を軽く弾き返す。
神速の立ち合いを続ける2人は、やがて地下室の壁を破壊し、コンクリートや石壁をバターのように斬り合いながらも戦闘を続ける。
(この女の狂気は一種の“縛り”のようなものだな。…………一切の理性を捨て去る事で、肉体の限界を超越した戦闘人形として稼働できる。よもや、ここまでのモノを魅せてくれるとはな。……やはり、ここへ来たのは正解だった)
腕の一本が手掌を向け、網目状の斬撃を飛ばす。意識の無いフランは、もはや斬撃を避ける素振りすら見せず、自己治癒力に任せて強引に攻勢を継続する。
瞬間、フランが本能によって『能力』を発動しようと試みるが、宿儺相手にその隙は与えられない。すぐに距離を詰めると、4本の腕を用いた怒涛の殴打をフランに叩き込む。手数において劣るフランは、能力の中断を余儀なくされ、壁をクッキーのように砕きながら吹き飛ばされていく。
(とはいえ、このまま楽しむ訳にもいくまい。……恐らく今の奴は、肉体に極度の負荷をかけ続けた状態にある。放置すれば、この俺が何もしなくとも奴の身体は自壊するだろう…………レミリアとの縛りもある事だ、ここらが潮時だな)
雰囲気を変えた宿儺は、拳に呪力を纏わせ、真剣な眼差しでフランを見据える。鬼たちの狂宴が終わりを告げようとしていた。
何一つとして物体の存在しない、空白の世界。
見渡す限りの白を眺めながら、私――フランドール・スカーレットは足を伸ばし寛いでいた。
さっきまでの狂騒が嘘であるかのように――静かな心地よさを感じる。
(というより、どう考えてもさっきの状況がオカシイでしょ。なんで女の子の一人部屋に、化け物みたいな見た目の男がいきなり入ってきて、殺し合いを始めるのよ……)
心の中で悪態をつくも、嫌悪感は無い。むしろ、今までの人生で感じた事がないほど、自分の精神が安定しているのが分かる。
「はぁ〜、でも勝ちたかったなぁ」
ため息と共に、思わず本音が溢れてしまう。
そんな自分しか居ないはずの空間の、何気ない独り言に返答があった。
「贅沢者め。十分な身の丈を与えられていながら、それ以上を望むか?」
もはや声の主が誰か判断するまでもない――――呆れた顔で振り返ると、せせら笑う異形の男が立っていた。
「なんでスクナお兄ちゃんがここにも居るのよ……」
「そんな事はどうでもいい……所詮は、胡蝶の夢。妄想と現実の狭間における、俺と貴様の精神が作り上げた幻想だ」
他人と深く関わる事の無かったフランに、その意味は分からない。だが、感覚としては理解出来る。なによりこの空間の持つ心地よさが、フランに異論を挟ませない。
心の蓋が軽くなっていくのを感じ、聞きたかったことを聞いてみる。
「ねぇ、無意識だったから分からないんだけど…………フランは善戦できたのかな?」
「驕るな。この俺を相手にして、一対一で善戦できる者などそうはおらん」
「……少しくらいリップサービスしてくれてもいいのに……乙女心が分からないんだね?」
「なんだ?心にも無い賛辞が欲しかったのか?」
ぐうの音も出ないフランは少し黙り、宿儺の顔を見つめる。歪に変形した右の相貌からは、相変わらず感情が読み取れない。しかし、遠くを眺めつつ――満足気な表情を浮かべる左半分の相貌に、不思議と安心感を感じてしまう。
夢と現実の狭間、人生初めての経験が重なったせいか――普段なら絶対に口にしないような、弱々しい本音が溢れる。
「ずっと私は孤独だった…………私の力は誰かに向けるには危険過ぎるし、私の精神にはそれを制御できるだけの器が無かった……。だからフランは、閉じこもる事を選んだ。誰も傷付けず、誰とも関わらない……それでも、私が私で在れたのは『私が誰よりも強い』っていう、自信があったから。だから、孤独だって受け入れられた」
宿儺は何も答えない。しかし、今はそれがありがたかった。
自身の内に込み上げてくる感情を押し殺し、平然を装う。やがて暫しの沈黙の後、震える唇を動かしながら言葉を絞り出す。
「…………ねぇ、フランって弱いのかな?」
「……くだらんな」
剥き出しの感情を前に揺れ動く少女に、宿儺は冷たく言い切る。
予想通りの返答に、フランは安堵と寂寞にも似た感情を抱くが――――彼の言葉はそこで終わらない。
「人も妖怪も、皆誰しもが、この世に生まれ落ちた瞬間から孤独なのだ。誰かに埋めて貰うモノでも、自ら選択するようなモノでもあるまい。……1000年前、多くの猛者たちがこの俺に挑んできたが…………その殆どがこの俺にくだらん期待を抱き、そして無様に散っていった」
「だが、お前が持つ“能力”はこの俺に届きうる刃であり、お前が持つ“矜持”は大妖怪に足るものだった。…………打算もなく、計画もなく、未来の全てを投げうってまで『この俺に勝つためだけに』歯向かってきた貴様には、妖怪としての“飢え”があった」
「人間、妖怪、術師、呪霊…………
フランは素早く顔を背ける。
この男に、ぐしゃぐしゃになった泣き顔を見られるのが嫌だったから。この数百年、自分が最も求めていた言葉を、この男に与えられたというのを認めたくなかったから。
喉の奥で嗚咽を押し殺し、濁流のように溢れてくる涙と鼻水を必死になって拭う。もはや取り繕うまでもないが、それでもこれ以上、弱いところを見せる訳にはいかない。
「……今度は負けないから」
宿儺は私の言葉に反応せず、笑いながら背を向けて白い空間を歩いていく。
やがてその後ろ姿が小さくなったタイミングで、ふと立ち止まる。
「それに、存外。貴様は孤独ではないようだぞ?」
紅魔館の地下、台風が過ぎ去ったような破壊の痕が残る残骸の中で、一人の少女が横たわっていた。
両腕を切断され、全身に痛々しい打撲痕が残るその姿は、一見すると凄惨な殺人現場そのものだったが――――当の本人は安らかな表情で、静かな寝息を立てて眠っていた。
フランの強さは、大体アニメ版の漏瑚と同じ(かそれよりちょい下)くらい……という設定になっています。まぁ、おおよそ自然呪霊くらいの強さです。
漏瑚
・呪霊の中では最強格。大地への恐怖が具現化した存在。
・極の番 隕 とかいう戦略級の必殺技
・領域展開とかいう、決まれば必勝の技が使える
フラン
・高名な吸血鬼の末裔で、現存する吸血鬼の最強格
・技が豊富。かつ、分身ってエグくね?
・程度の能力がチート
単純な火力や広範囲攻撃・結界術は漏瑚が上で、タイマンや能力が強いのがフランというイメージ。
また、これが本作における力の基準にもなりますので、明確にフランより強いとされている東方のキャラクターは『漏瑚以上』で描写します。
ただ、宿儺からの評価が高いのはフランの方です。
最後に妖怪としての意地を見せたのと、宿儺にも届きうる能力を持っている事が評価されました。