仮想の鬼神、幻想の都に墜つ   作:じゅじゅじゅ

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 すっくん、本誌で虐められててかわいそう

 愛してるよ、すっくん。




第七話 おーる・いず・うぇる

 

 

 紅魔館の地下室に、パラパラと小さな破片と砂埃が舞い散る。崩れた石壁の瓦礫の上で、静かに横たわるフランとそれを見下ろす宿儺――――以外にも、一つの生き物の影があった。

 壁越しに一部始終を眺めていた小悪魔は、興奮冷めやらぬといった様子で頬を赤く染め、鼻息を荒くしていた。

 

 ここ幻想郷には、数多くの超常的存在が生息しており、それなりに娯楽だって充実している。それどころか、定期的に大規模な異変が発生し、それを対処するために博麗の巫女が駆り出されたりもする。

 平穏とはかけ離れた日常を味わえる、まさに素敵な楽園だが――――それでも大妖怪クラスのガチバトルというのは滅多に起こらない。「スペルカードルールが普及している」という理由もあるが、一番は「小さな箱庭の中で、強者が暴れ回るのはよろしくない」という至極真っ当な倫理観に基づいているからだ。

 

 もちろん、小悪魔もそれには同意する。

 とはいえ、悪魔らしく混沌と混乱を愛する小悪魔からすれば、派手な喧嘩(自分は巻き込まれないものとする)と他人の些細な不幸(自分は以下略)は大好物なワケで――――つまるところ、フランと宿儺の死闘を初めてプロレスの試合を見に来た少年のように楽しんでいた。

 

(いや〜!!!見応え抜群だったコアねぇ〜!見たところ妹様もご無事みたいですし………願わくば宿儺様がやられるシーンも見たかったんですが……まぁ、及第点コアね)

 

 頭の中で不遜な事を考えながらも、満足した小悪魔はその場を離れようとする。

 瞬間、自分の目の前――――鼻先スレスレの位置を、殺意マシマシの斬撃が通過する。

 

「どこへ行く?この下奴が」

 

 もし当たっていれば、絶対に無事では済まない威力の斬撃に怯んでいる暇すらなく――フランと話ていた時とは別人のように――両面宿儺の冷淡な声に呼び止められる。

 

 

「貴様がこそこそ嗅ぎ回っている事など、俺もこの女(フラン)も気付いていた…………見逃してやった対価を払え。……今すぐこの女を運び、俺を客室に案内しろ。レミリアには、『約束は果たした』とでも伝えておけ」

 

 

 肯定以外の返答をすれば、即座にあの斬撃が飛んでくるのが分かる。

 さっきまで、まるで他人事のようにフランが殴られるのを楽しんでいた小悪魔は、その暴力の矛先が自らに向いているのを理解し――――幸の薄そうな顔を悲痛に歪め、情けない声を上げる。

 

「ひ、ひぇぇぇ〜〜〜ん」

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、宿儺のために用意された豪奢な客室に朝日が差し込む。

 

 「派手な装飾は好まん」という宿儺本人の希望により、前日の夜、数点の調度品が部屋から運び出されたものの――高級ホテルのスイートのような一室で、宿儺は寝息を立てていた。 

 

 部屋の中央、天蓋付きのキングサイズベッドが己の存在感を主張しているものの、宿儺はそれを利用せず、あえて小さなソファーを使って睡眠を取っていた。

 

 鬼神と呼ばれた大男が身体を丸めながらソファーで寝ている様子は、まさにシュールそのものなのだが――それを指摘できる命知らずはいない。

 

 

 否。この館において、ただ一人だけ存在していた。

 

 

「ソファーに丸まってご就寝だなんて、まるで猫ちゃんみたいですね。……でも、せっかくならパジャマくらい使って欲しかったです。お嬢様のはサイズが合わなかったのでしょうか?…………むむむ、意外と寝顔は可愛らしいですね。というより、この人の目って寝てる時はこんな感じになるんですか。咲夜ちゃんびっくり」

 

 

「解」

 

 

 宿儺が起き抜けに放った(牽制用の)斬撃を、時止めによって回避したパーフェクトメイド――――十六夜咲夜は、ほっぺたを膨らませながら抗議する。

 

 

「もう、お部屋が散らかっちゃうじゃないですか!昨日の地下室だって、魔法で修繕するためにパチュリー様が徹夜で頑張ったんですからね!おかげでパチュリー様はここ3日もお風呂に入れてないんですよ!いつもは2日なのに!!

……大体、こんな美少女が起こしに来てくれたんです。男性冥利に尽きますよね?」

 

 

 一瞬、「マジで殺してやろうか」との思いが過ぎるも、八雲紫との“縛り”を思い出し心を鎮める。

 幻想郷に来て以来、寝起きついでに腹を立てたり、女子供にナメられるという事態が頻発していることに思い当たり――宿儺は渋面を浮かべながら、心で怨嗟を唱える。

 

(それもこれも全てあの女(八雲紫)のせいだ…………この屈辱は必ず返してやる。だが、当面はこの状況を受け入れざるを得ないだろう……業腹だが……この程度で腹を立てていてもキリがない)

 

 気持ちを切り替え、改めて咲夜の方を振り返ると――ルームサービスに使われる、白いワゴンのようなもので朝食を部屋に運び込んでいる最中だった。

 白亜の食器の横に銀製のスプーンとフォーク、ナイフが純白のナプキンの上に並べられる姿は、それだけで一枚の絵画とも呼べるほど映えていた。

 

 テーブルに置かれたラタン調のベーカリーバスケットの中は、焼きたてのパンがぎっしりと詰められており、小麦の焼ける香ばしい匂いが宿儺の食指を掻き立てる。

 その隣にちょこんと添えられた小皿には、綺麗な半透明の真っ赤なジャムと常温で程良く溶かされたバターが用意されている。

 

 ガラスの台座には果物が盛られ、オレンジ・マスカット・リンゴ・キウィ・バナナ……そのどれもが鮮やかな色彩を放ちながら、もぎたての様な瑞々しさを持っていた。

 

 最後に配膳されたプレートは実にシンプルだった。付け合わせのハッシュドポテトと温野菜にベーコンエッグ。しかしながら、丁寧に調理された事の分かる、美しい仕上がり具合だった。

 

 

 ごく一般的な――それでいて、洗練された西洋風の朝食。

 

「ほぅ、洋食か。食した経験はないが…………悪くない」

 

 新たな美食との出会いを予感し、思わず宿儺の喉が鳴る。気が付けば咲夜に対する苛立ちは消え、目の前の一皿に対する期待と好奇心で胸が占められている。

 

「これを作ったのは貴様か?」

 

「はい、そうですよ。…………それでは改めまして、おはようございます宿儺様。朝食をご用意しておりますので、どうぞご賞味ください」

 

 

 

 

 

 朝食を摂り終えた宿儺は満足していた。

 食文化が平安時代でストップしている彼にとって、咲夜の手作り朝ごはん(本格的な洋食)は、まさに未知との遭遇でもあったが――――結果として、彼の肥えた舌を唸らせた。幻想郷トップクラスの料理の腕前を誇る、咲夜ちゃんの面目躍如である。

 

 唯一、食事中に咲夜が愚痴(昨晩、宿儺に殴られたこと)を耳元で囁いてくる事が宿儺の気に障ったが、それすら許せてしまうほどに美味であった。

 

 両方の口の周りをナプキンで拭いながら、改めて咲夜に声をかける。

 

 

「中々の腕前だ……頭の湧いた料理人を除けば、文句はないな」

 

「ふふ、ツンデレさんですね(ありがとうございます)。……5分後に食後の紅茶を用意しておりますので、それまでお寛ぎください」

 

 くるりとターンを決めて、退室しようとした咲夜は何かを思い出した様に足を止め――宿儺の方を向き直す。

 

 

「そう言えば、お嬢様から感謝の言葉を預かっておりました。『狂気も落ち着いて、こんなにも満足げなフランを見るのは久しぶり。ありがとう』との事です。惰眠を貪るお嬢様に代わり、紅魔館一同、そして個人的にも感謝申し上げます」

 

 

「構わん。俺にも利があったゆえ、手を貸したまでだ」

 

 

「(やはりツンデレさんでは?)かしこまりました。……ところで、本日のご予定はいかがしますか?日中はお嬢様が眠っていらっしゃるので……用件があるなら私か美鈴・小悪魔が対応しますよ……とりあえず、屋敷でも見て回ります?」

 

 

「まぁ、そんなところだな……飽きたら近くを散策するとしよう。供はいらん。後は俺が勝手にやる」

 

 

「承知しました。では、そのように」

 

 

 

 

 

 

 食後の一服を終えた宿儺は、紅魔館の屋敷を散策する。

 基本的に全ての部屋(私室や更衣室を除く)への立ち入りが許されているため、手当たり次第に見つけた部屋に入っていく。時折、使用人の妖精メイドや珍しい下級妖怪とすれ違うものの、屋敷の大きさに対して住人の数は少ない。

 屋敷のいたる所に見事な家具や骨董品、歴史的に希少であろう物品が多数置かれているが――――これと言って宿儺の興味を引くものは無かった。

 

 屋敷の散策に半分飽き始めてきた頃、明らかに雰囲気の異なる巨大な扉が現れる。

 

「ほぅ、大図書館か」

 

 金のドアプレートに書かれた“大図書館”の文字に興味を引かれ、そのまま扉を開ける。

 

 

 中は廊下の照明とは異なり、暖色系でありながらもしっかりとした光力で照らされていた。宿儺の背丈を優に越える大きな本棚が、見渡す限り一面に立ち並び、隙間なく収納された本が自らの装丁を見せつける姿は――一種の要塞のような威圧感を感じさせる。

 

 巨大な円柱状の室内は、階をぶち抜くような形で中央が吹き抜けになっており、何層にも重なった本棚がまるで迷宮のように見える。また、所々にバルコニーや作業台、階を登り降りする為の螺旋階段が設置され、実用性がありながら建築美においても優れていた。

 

 本好きの子供が想像するような秘密基地――――そのスケールを100倍にした様な、幻想的な“本の魔宮”が広がっていた。

 

 

 見事に好奇心を刺激された宿儺は、いくつかの本を手に取っては中身を眺め、それを本棚に戻すという事を繰り返していた。

 

(なるほどな……此処は中々に()()()()()。古今東西、ありとあらゆる書物が集められている……とはいえ、こうも本が多くては“目当てのモノ”が見つからんな)

 

 

 本を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返しながら、奥へと進んでいくと――――どさりという音が背後から聞こえる。

 

 

「ふむ、丁度良い……貴様に、探して貰いたい本があるのだ」

 

「ひぇぇぇ〜、なんで宿儺様がここに〜」

 

 尻餅をついた小悪魔が情けない声を上げる。宿儺とのやり取りがトラウマになったのか、その顔面には「全力で逃げたい」という意思が分かりやすいほど出ていたが――ここに彼女の意図を汲んでくれる者はいない。

 

「クク、否とは言わせん。貴様が自らここの司書を名乗っていたのは覚えている……早速だが……」

 

 宿儺が小悪魔に命令(強制)しようとした時、二人のものでは無い誰かの――――荒く死にそうな息づかいが聞こえてくる。

 

 

「ひへぇ……ひへぇ……かひゅっ……こ、こぁ〜?どこに行ったの〜?ただでさえ体力もないのに、魔力切れで…………こぁ〜?怒らないであげるから、サボらないで出てきて頂戴……うぅっ、ほんとに限界」

 

 満身創痍、疲労困憊といった紫色の塊が、本棚の角からぬっと現れる。

 髪のキューティクルは壊滅し、肌に化粧っ気はなく、目元には深い隈が出来ている。生活リズムの崩壊を表すようにぽっこりとハミ出たお腹は、モデル体型とはかけ離れているものの――ニッチな男性が熱狂しそうなフォルムをしていた。

 

 女子力というものを根絶させたような見た目ではあるが、素材が美形であるおかげか“かろうじて美少女”の枠組みに入るであろう女性がエントリーした。

 

 

「貴様、何者だ?」

 

「ひへぇ……え、誰?……って、見ない顔ね。見た目も珍しいし、宿儺みたい。

 

……………??!!アイェェェ! スクナ!? スクナナンデ!?」

 

 

 死にかけの喪女が、床をのたうち回りながら発狂する。

 バタバタと彼女が動く度、僅かに漂ってくる彼女の体臭から――咲夜との朝の会話を思い出し、レミリアに教えて貰った情報から当たりを付ける。

 

「風呂に入らない女……貴様がパチュリー・ノーレッジか」

 

「…………かひゅっ」

 

 

 乙女としての尊厳を殺された少女は、小さな断末魔をあげ――白目を剥きながら停止する。

 そこには、理解不能の生物を見て困惑する宿儺と、その背後で笑いを堪えながら活き活きとする小悪魔がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 再起動したパチュリーが大急ぎで風呂へと走り去った後、小悪魔に案内された宿儺は、大図書館の一角にある読書スペースで“目当ての本”を物色していた。

 

(幻想郷縁起……その写本か……。なるほど、これは()()。編纂者の独断や主観によるものが大きいが……幻想郷の土地や有力者、能力の概要を学ぶには丁度良い。この情報を基に、今後の目処を立てていくとしよう……)

 

 

 迷い家から始まり、紅魔館へと降り立った()()が物語を動かす――その時が近づいていた。

 

 

 




 

 幕間でした。
 もう少し幕間書くかも。こっから週一ペースに戻します





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