アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

11 / 39
約束 + <番外編 アビドス&便利屋>

「とりあえず、ゲヘナはこのくらい集まりました!」

 

 バサッと机に紙を広げ、その全ての欄に名前がびっしりと書かれている。

 

「お~かなり集まったんじゃない?」

「そうね…まさか風紀委員長と万魔殿も署名をしてくれるとは思わなかったわ。」

「一応私達の方でも署名はちょっとずつ集めてる。今のところ、アビドス学園とブラックマーケットで書いてもらった分、それとサオリの分だけになるけど…。」

「といっても私達が知ってる子ってそのくらいしかいないからねー。」

 

 音楽祭を開くための署名活動を始めてから3日ほど経ち、風紀委員はもちろん、ゲヘナ生のほぼ全員の署名が集まっている。便利屋のみなさんの方でも署名を集めてくれているらしく、カヨコさんは少ないと言っていたが手伝ってもらえるだけでもありがたい。これだけでも十分なほどなのだが、キヴォトス全体にアタシの音楽を聴いてもらうためには、まだ足りない。ここにある全学園の署名を集めなければ…。

 

「次の学園、どこに行こうかな…。」

「先生とは一緒に行かないのー?」

「それも考えましたけど…、できる限り頼らずに行ってみようかなって。」

 

 先生と一緒に行けば多分どの学園にも行けるし、どの学園でも署名が集まるだろう。ただそれで得た署名は、アタシの音楽を聴きたくてしてもらう署名とは違う。キヴォトス一のジャズプレイヤーになるのに、近道は無いのは分かってる。だからこそ、こういうものはできる限り自分の力で進めたいのだ。

 

「くふふっ、アオホシちゃんは偉いね~。でも、頼れるものは頼った方が良い時もあるんだから、忘れないでよね?」

「それは、ハイ。どうしようもなくなりそうだったら、ちゃんと皆さんも頼ります。」

「それで、次の候補はどこ?」

「一応、ミレニアムに行こうと思ってます。ミレニアムに行ってから、百鬼夜行、山海経に行ってレッドウィンター、D.U。それで最後にトリニティの予定です。」

「トリニティは確かに、先生連れて行かないと流石にまずいかもね。」

 

 エデン条約での一件があってから、ゲヘナとトリニティの仲は当時に比べればかなり良くはなった。ただそれも形式上であって、トリニティ近くのスイーツ店などに行くと、ヒソヒソと噂されているのが一目で分かるくらいだ。

 

「もし誰かに馬鹿にされたりとかがあったり遠慮なく言いなさい。私達の大事なクライアントを馬鹿にするということは、私達を馬鹿にするということと同じ。目にものを見せてやらないとね?」

「アル様を馬鹿にするやつが…!?!?絶対に許せません!!!!どこのどいつですか!!!」

「まだいないから!そのショットガン仕舞ってちょうだい!?」

 

 どうやらカヨコさんとムツキさんの話によると、あれでアル社長はアウトローに憧れているらしい。なんか、優しさが抜け切れてないからあんまりアウトロー向いてない気がするけど…。

 

「それで、何時からミレニアムに行くのー?」

「ゲヘナはほぼ集まってるので、明日からにでも行こうと考えてます。」

「そう。あと確認なんだけど、この前ここで吹いてくれたでしょ。あの時の動画SNSにあげたりしても大丈夫?」

 

 カヨコさんがアタシが吹いている動画を見せながら伝える。一体いつの間に撮ってたんだろう。

 

「署名活動っていうか、そもそもアオホシの知名度アップにもつながると思う。アオホシの存在が知れ渡れば、署名してくれる人ももっと増えてくれるかもしれないから。」

 

 もちろんOKを出して、明日から本格的に別学園での活動を始めるので、その日は早めに解散した。

 

 

 家に帰ると、姉ちゃんがご飯の用意をしてくれていた。いつもよりも早い帰りだ。

 

「おっ、おかえりー。」

「ただいま、早いね。」

「今日はなんか早めに終わったんだよ。手洗ってから手伝ってー。」

 

 パジャマに着替えて手を洗い、別でもう作ってあった味噌汁を温め直す。今日は回鍋肉だ。なんてことない会話をしながら、味噌汁をお椀によそい、食卓に運ぶ。

ご飯をおかわりして満足したお腹を休めながら、冷えた麦茶を飲む。テレビを見ながらビールを飲んでいたお姉ちゃんが、ふと口を開いた。

 

「アオ…ジャズは、どうなってんの?」

「毎日練習欠かさずにしてるよ。あと、前にジャズバーで1回演奏した。お客さんもいーっぱい居たよ。」

「そっか。アオは凄いな、あたしは音楽なんてぜーんぜんわかんないからさ。」

 

 どこか遠い目をしながら、ちびちびとビールを飲む。せっかく綺麗なのに、ろくに手入れをしないから少しだけぼさっとした髪が鈍く輝く。アタシのサックスと、似た輝きを放つ。

 

「姉ちゃん、いつもありがとう。」

「…なに、急に。」

 

 姉ちゃんは、アタシの知ってる人の中で一番凄い。

いろんなバイトを掛け持ちしながら、アタシのサックスを買ってくれた。この年になってからようやく、それがどれほどの凄さなのかを理解し始めている。アタシだったら、バイトなんてしてられない。ジャズができないからとかじゃなくて、純粋にやりたくないのもある。でもそういった嫌なことを、一日も休まずにやり続けて、しかもそれで貰ったお金を自分の為じゃなくて、アタシのサックスを買うために使った。それから、アタシの一番のあこがれは姉ちゃんになった。

サックスを買ってくれた当時、アタシは信じられなかった。どんなにガキンチョでも、帰ってくる時間が遅くもなれば、何かをしていることくらいは察しがつく。それがバイトで、お金を貯めてくれてるんだと知って、それが全てアタシのサックスに変わったとき、アタシは怒った。

姉ちゃんに怒ったのもあったが、その9割は自分に対してだった。自分がジャズに興味を持って、サックスを自分でお金を貯めて買うなんて言わなければ、姉ちゃんが貯めたお金は、姉ちゃんのために使えたかもしれなかった。姉ちゃんはもっと、自分のために時間を使えたのかもしれなかった。そう思うとなぜか怒りと涙があふれてきて止まらなくなって、家を飛び出していた。

その日に決意した。このサックスを1度だって手放さない。絶対に、ジャズをやってやる。キヴォトス一のジャズプレイヤーになってみせる。そう、決意した。

 

「別に、言ってみただけ。食器洗っとくよ。」

「……ん、ありがと。ジャズ、頑張りなよ。」

「うん。」

 

 

 

 

 翌日、メモを握りしめながらミレニアム行きの電車に乗る。初めて行くところへの行き方を何回も見直しているのだが、本当に合ってるのかが不安になる。電車内のアナウンスを聞き逃したくないし、数分ごとに現在地を知らせる液晶ディスプレイを見ている。

 

『次はーミレニアムサイエンススクール前ー。ミレニアムサイエンススクール前です。お出口は左側ー、お荷物お忘れないよう、ご注意ください。』

 

どうやら次の駅で降りるようだ。さぁ、ジャズのためにも、行くぞ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

<番外編>便利屋&アビドス

 便利屋68本部にて。

 

「アオホシがゲヘナで署名を集めてくれているとは言え、私達が何もしないわけにはいかないわね…。」

「このままだとアオホシちゃんが動いてくれてるのに報酬だけもらうハメになっちゃうもんねー。」

「それだけは絶対に避けなければいけないわ!ということで、私達も行くわよ、署名活動!」

 

 陸八魔アルは危惧していた。

私達便利屋68が風紀委員会に滅茶苦茶に目をつけられており、ゲヘナ学園に入れば即刻お縄になってしまうため、ゲヘナ学園での署名活動が全てアオホシにまかせっきりになってしまうことに。そしてこのまま何もしていないと、アオホシだけが動いているのに、もしアオホシがキヴォトス一のジャズプレイヤーになったときに報酬を払ってもらえないのではないかと考えていた。それだけは避けなければならない。

 

「行くって言っても…どこに?」

「ブラックマーケットにでも行くー?素直に署名してくれる人がいるのかとは思うけどね。」

「あの学園なら、多分してくれるはず!」

 

――――――

「ぎゃあああああ!!!!」

 

 爆発。悲鳴。

日が照り付けるとある砂漠では交戦が繰り広げられていた。

 

「ん、ホシノ先輩、ドローンで援護する。」

「おっけ~。それじゃ行くよ~。」

 

 気だるげな言い方でありながらも狼耳の生徒と的確な連携を取りながら、自分たちよりも圧倒的な数と戦力を持つヘルメット団を追い返していく。

ここはアビドス高等学校の敷地。カイザーローンがブラックマーケットでの不法取引をしていたことが連邦生徒会の操作により判明しPMC理事が足切りされ指名手配になった後、カイザーに雇われていたヘルメット団が襲撃してくることも減った。

借金も同じように減りはしたものの、まだ残ってはいる。そしてたまにヘルメット団も襲撃にやってくる。どうやらカイザーに雇われていながらもコテンパンにしたことが許せないらしい。

 

 

「くそっ、覚えとけー!」

「二度と来んじゃないわよ!!」

「うへ~、あんなベタな捨て台詞残していくことってホントにあるんだね~。」

 

 ただ何度挑まれようとも、アビドス廃校対策委員会が存在する限り、何度でも追い返すだけだろう。

 

「全く…もうカイザーに雇われてるわけでも無いくせに何でこうもしつこいのかしら!」

「ん、でも何度来ても追い返すだけ。」

「そうだけど…あんな奴らに使う物資がもったいないって話!少しは借金がマシになったとはいえ、潤沢に使えるほど軽くなったわけじゃないのに!」

「それはそうですね~。アビドスに入りたいとかだったら遠慮なく来てくれても良いのですけれど…。」

 

 教室へと戻ると、オペレーターをしてくれていたアヤネが出迎えてくれた。

 

「おかえりなさい!怪我はありませんね?」

「うへ、アヤネちゃんは優しいね~。優しさでおじさん目がつぶれちゃいそうだよ~。」

 

 戻ってくるなりソファに飛び込み、ゴロゴロと休憩をし始める。時間帯も昼下がり、昼食を食べた後で食後の運動とも言えるような軽さで戦闘を終え、全員がほんのりと眠気を帯びていた。各々が借金返済のために働くところだが、これといって思いつくことも無く、ノノミがシロコを甘やかしたり、ホシノは昼寝を始め、アヤネとセリカは借金返済のためのバイト探しと、各々がのんびりと過ごしていた。

 

「ん…今日は平和。」

「そうだね~。出来ることならこうやってお昼寝ばっかりしてたいけど…。」

「……?あれ?」

 

 シロコとホシノがなんてことない会話をしていると、監視カメラを見ていたアヤネがふと声を漏らす。何か異常でもあったのだろうかとホシノが体を起こし、ソファに浅く座る。

 

「うへ、どうしたのかなアヤネちゃん?」

「いえ、その…」

 

 アヤネがカメラの映像を指さす。見ろということだろうか、全員が監視カメラの映像を覗き込むと、そこに映っていたのは見覚えのある4人組だった。

 

「は!?便利屋じゃない!」

「ん、襲撃?」

「…いや、敵意は無さそうな感じ?銃も構えてないし…。」

「だとしても何をしに来たんでしょう~?」

 

 一度カイザーに雇われ、対策委員会と敵対したことがある便利屋。その後、アビドスの近くに持っていた事務所の家賃が払えなくなり、アビドスを去ったかと思われたがなんやかんやでホシノがPMCの元へと行ったとき、ホシノ奪還の手助けをした。

 ホシノを奪還する手助けをしたり、覆面水着団として活動していた時にその正体が対策委員会だと気づかずに憧れていたところを見ていた対策委員会一行は、便利屋に対して「何となく警戒はするべきだけどそこまで警戒するべきじゃない人達」という認識をしている。

アビドスから別の場所に拠点を移しているため、自分たちに会うことも少ないと思っていたのだが、その便利屋がわざわざアビドスに来ているという事実に何かしらの違和感を全員が感じ取っていた。

 

「とりあえず、中に入れますか~?」

「…そう、しますか。多分、大丈夫だと思うので…。」

「それじゃ、おじさんが迎えてくるからお茶とか用意しておいてあげて~。」

「ん、私も行く。」

 

――――――

「ケホッケホッいつ来ても凄い砂漠ね…。」

「アアア、アル様が咳を…!!!!す、全て無くしましょうか!?」

「やめてちょうだい!?今日は戦闘じゃなくて話に来ただけなんだから!」

 

 アルを先頭にアビドス高校の校門をくぐる。すると、タイミングを見計らったかのように下駄箱の方から2人の人影が現れた。

 

「うへ、便利屋の人達が何しに来たのかな?」

 

 マックスというわけでは無いが、まぁまぁ警戒されている。銃を構えず、背負ったりホルスターに直したりと一応敵意が無いことをアピールしたつもりだったが、それが逆に警戒心をあおったのだろうか。

 

「こんにちは、小鳥遊ホシノ、砂狼シロコ。急に来てしまって申し訳ないわね。生憎、連絡先を持っていなくて電話もできなかったの。」

「ん、それは良い。何の用?」

「今回は何も物騒なことをしに来たわけじゃないの。だから、その武器をしまってくれるとありがたいわ。」

 

 相手の口から戦闘をしに来たわけでは無いと言われ銃を構えていないのもあり、どうやら本当に敵意は無いらしい。ホシノが先に銃を下ろし、それを見た後にシロコが銃を背に直す。

 

「しまってくれて感謝するわ。ひとまず、中に入らせて頂戴?ここじゃ目も痛くなっちゃう。」

「…そうだね、案内するよ。」

 

 

 便利屋をソファに座らせ、退路を防ぐかのようにセリカとアヤネが扉の方に、便利屋の対面にシロコ、ホシノ、ノノミが座る。

 

「お茶です。」

「ありがとーメガネっ娘ちゃん!」

「メ、メガ…。」

 

パックのお茶をテーブルに座る全員に出し、アルがずずっと出されたお茶をすする。まだ熱かったようで小さい声で「あっつ……」と言ってから茶を置く。といっても先ほどから教室の中が異様に静かで、その小さな声も全員に届いていただろう。

対策委員会は言うまでもなく警戒していた。ただでさえ襲撃と借金の取り立てくらいでしか来客がないアビドスに便利屋がわざわざ、しかも話したいことがあると言って全員が座っているこの異常に、全員が空気をピリつかせていた。

そしてついに、アルが口を開こうとしていた。何かとんでもないことが口から出るのだろうと、もしそれが戦闘開始の合図であった場合、すぐにでも応戦できるように準備を始める。その結果アルの口から放たれたのは、

 

 

「ジャズに、興味はあるかしら。」

 

 

ジャズに関してだった。

 

「んっ?」

「うへ?」

「ジャズ?」

「「??」」

「「「「?」」」」

 

その場にいた全員が困惑する。ジャズに関して興味があるか聞いただけなのに、全員が一様に疑問符を出したことについてと、一体何が始まるのかと警戒していたのに対し放たれた一言がジャズに興味があるかという日常会話で飛び交うような質問だったこと。

 

「…た、戦いにきた訳ではない?」

「へ?戦い?なんの話?」

「だ、騙されないわよ!それが暗号でどこかにまたヘルメット団やPMCが隠れてるんでしょ!今すぐにでも襲ってくるわよ!!」

「い、いるんですかアル様!?!?!勝手についてくるなんて、始末してやりますどこですか!!!」

「どういう誤解!?違うわよ!今日は誰にも雇われてないわよ!」

「雇われてはいるでしょ。」

「そっそうだけど、ここに来たのは私達の意思よ!」

 

 ひとまず誤解を解くところからだった。どうやら便利屋は本当に襲撃に来たわけでも何でもなく、それ以外の別の目的のために来たという事。そして対策委員会を警戒させてしまっていたことに対して、双方とも謝罪をした。

 

「うへ、じゃあホントに別の目的で来たんだね…。」

「そ、そうよ。警戒させてしまったことは申し訳ないわ。」

「すいませんすいませんすいません…。」

「こちらこそごめんなさい~。早とちりでしたね。」

「ん、襲撃に来た訳じゃ無いのは分かった。それで、本題は?」

「さっきも言ったけど、ジャズに興味はあるかしら。」

「ジャズ、ですか。」

「ジャズって、何?」

 

 セリカも、アヤネも対策委員会全員がジャズに対してもう一度疑問符を浮かべる。

 

「ジャズは、かなり昔からある音楽の1つで、クラシック音楽の次に生まれたと言っても良い。主に使われる楽器は、ピアノ、ドラム、ベース、サックスそしてトランペット。今から見せる動画は、あるジャズプレイヤーの練習の演奏。」

 

 カヨコが簡単なジャズの説明をすると、ホシノ達に向けてスマホの画面を見せる。そこには、黒髪のベリーショートの女の子が、サックスを吹いている映像が映っていた。ヘイローがついており、周りに置いてある荷物からこの子も学生であることが推測できる。ただ、それよりもこの中心に映っている女の子の激しさに目がいく。頭を振ったり、体ごと動かしたりしながら、目をつむって、一生懸命に吹いている。何故この子はこんなにも必死なのだろう。そして、画面越しに見ているはずなのに、音が大きい。若干音割れもしてる?でも何となく、聴いていたくなる音だった。音割れしてるのはもったいないとはいえ、なぜかどこか聴き心地が良く、生で聴いたらもっと良いのだろうなと感じるような音がした。

演奏が終わり、動画が止まる。

気づけば全員がスマホの画面を見るために前のめりになっており、全員がぐっと姿勢を戻し、背もたれに勢いよくもたれる。

 

「うへ~…この子凄いね。そのジャズの界隈で有名な子なの?」

「いや、大きなステージに立った経験は少ない。小さめのジャズバーを満員にするくらいの知名度はあるけど、全員がこの子を知っているわけじゃない。」

「この演奏で有名じゃないの!?どんだけジャズって厳しいのよ…。」

「ん、凄い演奏だった。」

「それで、この子とジャズがどういう…?」

「ジャズ以前に、音楽に興味はあるかしら。」

「「「「「音楽に?」」」」」

 

 詳細を説明した。音楽祭を開くための署名活動を手伝っていること、依頼主はキヴォトス一のジャズプレイヤーになるために音楽祭を開きたいとのこと、そして依頼主が各学園を回って署名活動をしており、その助けのためにアビドスに来たこと。

 

「ふ~~む…音楽祭ね~…」

「前に晄輪大祭がありましたよね、あんな感じになるんでしょうか?」

「そう思ってもらって良い。一応考えた中には一般の観客も入れていいことにするつもりらしいけど。」

「その依頼主の子、随分とした自信ね。だってこんなに上手な人がいるのに世界一になるって言ってるんでしょ?」

「…多分なんですけど、その依頼主の人ってこの映像の人ですよね?」

「えっ?そうなの?」

「依頼主の素性について話すことはできないわね。守秘義務ですもの。」

 

 興味が湧いてきたのだろうか、最初の警戒心を忘れて対策委員会が質問をしていく。

 

「…1つ、聞いても良いかな。」

「なんでしょう、カヨコさん?」

「あなた達は、この子の演奏を聴いてどう思った?」

 

 カヨコが目を鋭くさせてそう聞いた。どこか対策委員会を値踏みするような目だ。

 

「ん…。私は音楽のこととかはよくわからないけど、とにかく凄いとは思った。」

「うーん、私もシロコ先輩と同じかな…。それにジャズって聞いた感じその動画みたい1人で演奏するわけじゃないんでしょ?ならなおさらバンドの演奏を聞かないとわかんないっていうか…。」

「それは…そうですね。でも、何というか…どこか、感動する感じがありました。」

「あっアヤネちゃん、それ分かります~!何ででしょうね?」

 

 なぜかアルが「そうでしょうそうでしょう」とでも言いたげなどや顔をしながら微笑んでいる。

 

「う~ん、おじさんも大体同じかな。具体的に凄いなって思ったのは、こうやって動画越しに聴いてるはずなのに音が何となく体に響く感じがあることだと思うな~。」

「…そうだね。それは私も驚いたかな。」

「それでさー、結局署名はしてくれるのー?」

 

 長い話に飽きてしまったのか、机に顔を乗せてしまっているムツキがそう言った。ホシノ達が目を合わせ、意見は既に一致しているようだった。

 

「「「「「もちろん!」」」」」

 

――――――

 便利屋が帰った後。来客がいなくなったことによって緊張状態から解け、全員がどっと疲れた様子で座っていた。

 

「いやー、久しぶりにまともな来客だったから良かったね~。」

「まとも…まとも?」

「戦闘が無かったってだけでしょ…。にしても、動画の子凄かったわねー。」

「…もし音楽祭が開催したら、私達も出場できるんでしょうかね?」

「どうでしょう…流石に参加する人は限られるんじゃないでしょうか…。」

 

 どうやらアオホシの動画を見て、全員が何かに焚きつけられた様子だった。

 

「あれがジャズかぁ…。」

「あれのキヴォトス一を目指してる子がいるのね…。」

 

 感動した映画を見終えたかのような、ぼーっと毒気を抜かれたかのような独特の雰囲気が場を包んでいた。

 

「…あの、私達でも、署名を集めてみませんか?」

「ん、同じこと考えてた。」

「うへ、やっちゃう~?」

「…バイト先の先輩とかにも聞いてみようかしら…。」

「ふふっ、みんな同じこと考えてますね~☆」

 

 とあるジャズプレイヤーのファンが新たに、5人増えたのだった。

 




アンケートの投票ありがとうございました!
各学園のを見たいという意見しか無かったので、書いていきたいと思います。
あと評価もありがとうございます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。