アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。 作:えーすえいち
「ハハハハハッ!!!オラオラオラ金渡してくれよコラァ!たんまり持ってんだろォ!?」
最悪だ。いつも通りゲヘナ学園に通おうとしたら、通りすがりのスケバンにめちゃめちゃに喧嘩を売られてしまった。サックスはあまり振り回したくないし、かといってこの状況をどうにかしないと学園にも行けないし、練習もできない…。一応成績くらいは良くしたいんだけどな…。
「ずーっと気になってんだけどよぉ、その抱えてるデケーのは何だよ?」
「これ?これはサックスって言って…」
「サックスだぁ~?ハッ、じゃあやっぱり金持ってんじゃん?んなもん買えるくらいたんまり持ってんだったら私達にもさぁ、ちょっとくらい頂戴よォ?」
「…」
ダメだ。今のはもうカチンと来た。穏便にすましてあげようと思ったけどもうダメ。このサックスを馬鹿にするのは、バイトをしてしてしまくって買ってくれた姉ちゃんを馬鹿にするのと同じ。絶対に許さない。
背中に背負っていたショットガンを引き抜き、銃口を目の前まで近づいていたスケバンに向ける、というか当てる。そのまま引き金を引き、ゼロ距離でショットガンを食らわせる。
「なっ、テメェェ!アタシのダチを撃ったなァ!?」
「アタシの姉ちゃんと…アタシのサックスを、馬鹿にすんなぁ!」
ケースを傷つけないように、丁重に扱いながらスケバン達に向かって行く。ライフルを向けられ、相手が撃つよりも早く懐に入り、銃身を蹴り上げる。その勢いのままお腹にショットガンを放つ。
「ぐぼぉ!?」
腹を押さえて蹲り、気絶までもっていくために背中にもう一発放つ。これで静かになった、と思っていたがまだ1人残っていたようだ。ただもう戦意喪失しているようで、へたり込んでしまっている。
「お……お前、思い出したぞ…その無慈悲なまでの戦い方、片手に持っているケース……!お前が、絶殺仕事人アオホシだな!?!?」
なんっだそのクソダサい二つ名は。そんなんでアタシ知られてんの?最悪すぎる…ジャズプレイヤーとしては程遠い二つ名じゃん…。
「大人しくしろ!ここで発砲音があったとの通報があったぞ!!銃を捨てて手を挙げろ…あれ、アオホシ?」
また新しい敵かと思ったが、振り返るとそこに居たのは他の風紀委員を連れながらアタシにスナイパーライフルを向けているイオリだった。
「やっほ、イオリ先輩。」
「アオホシ、ここに居たのか。いつもの音が聞こえないから、時間を間違えてないかちょっと焦ったんだぞ。で、ここで何をしてる?」
「チャイムあるのにアタシの音を時報代わりにしないでくださいよ。何も、このスケバン達にカツアゲされかけただけです。アタシのサックスの事馬鹿にしたから痛い目に合わせちゃいましたけど。」
既に伸びているスケバン2人と、頭を押さえて蹲っているスケバンを見てから「なるほど。」と言い、アタシに向かって敬礼をした。
「私が来るまでよく戦ってくれた、鎮圧感謝する。後処理は私達に任せて、学園に行ってくれて構わない。」
「はーい。それじゃ、また学園で。」
少し遅れてしまったが、学園に着き、1年の教室に入ると見事に誰もいなかった。まぁ、真面目に教室で授業受けてるゲヘナ生がいる方が変なのか。とりあえず適当な座席に座ってから今日の分の教材BDを見る。今日はキヴォトスの歴史ね…。
キーンコーンカーンコーン
昼食を知らせるチャイムが鳴る。早く食堂へ行かないと、かなり混んでしまうので急いで鞄とケースを持って食堂へと向かう。食堂へ入ると、空腹にさらに追い打ちをかけるかのような揚げ油の良い匂いが漂ってくる。今日のメニューは揚げ物か、最高。
「フウカ先輩、お疲れ様です。」
「あ、アオホシちゃん!今日はエビフライ定食だよ!」
最高すぎる。揚げ物の中では、見た目だけで心が躍り食べて舌が喜ぶものだと思う。トレーにエビフライ、味噌汁、ごはんを乗せてお礼を言い、座れる席を探す。混んできているせいか、なかなか見つからない。キョロキョロと探しているとアタシの名前を呼ぶ声が聞こえ、そちらを向くと、エリカ先輩とキララ先輩が座ってこちらに手を振っていた。
「ありがとうございます、席取ってもらって。」
「いーのいーの!それより今日も昼に吹くんでしょ?」
「はい、今日のBDは全部見終わりましたし。」
「じゃあそれ聞きながら私残りのBD見よーっと。アオの演奏って聞いてて気持ちいいからさー。」
「へへ、ありがとうございます!」
エビフライを頬張り、すかさず白米を口の中に入れる。エビのぷりぷりと衣のサクサクが綺麗にマッチし、じゅんわりと出る油とうま味が味覚を刺激する。白米が進む進む。キャベツの千切りだけでも白米が進みそうな勢いだが、おかわり自由というわけではないので与えられた白米だけで勝負する。油を流すようにわかめと豆腐の味噌汁を啜る。うんまぁ…。
「…アオって幸せそーに食うよね。」
「へっ、そうですか?」
「うん、めっちゃ笑顔で食べるじゃん。」
だってご飯美味しいしなぁ…。美味しいご飯を食べて幸せな顔をするのは何も間違いじゃないはず。
最後の白米を口に入れ、お冷をぐっと流し込む。ふぅ、ご馳走様でした。トレーを回収の所に置いて、フウカさんに美味しかったですと伝えると、ありがとーと良い笑顔で返された。フウカさんには頑張ってほしいものだ。フウカさんとジュリちゃんが居なきゃこんな美味しい学食は食べれていないのだから。
「お、もう行く感じ?よし、それじゃ行きますか。」
「おっけー。今日はどこでやるの?」
「今日は…運動場の方が良いですかね。天気も良いですし。」
ゲヘナ学園は思っている以上に広い。第一校舎を出て正面に見える校庭の噴水を左に曲がると、学生広場と中央運動場が見える。学生広場でも良いんだが、あそこは往来が多い。そしてゲヘナで往来が多いとなると争いに発展しないことが無い。なのであそこで吹くとサックスが傷つけられそうで若干怖いのだ。そのため、運動場の方がガラが悪い人が完全にいないわけでは無いが、比較的安全だ、と思ってる。
運動場につき、トラック全体が見える場所へ移動する。
「うん、ここら辺かな。」
ケースや鞄を近くにまとめておき、サックスを組み立てる。黒のブレザーを脱ぎ鞄の上に置いておく。ゲヘナの制服は白シャツか黒シャツかを選べるのだが、白シャツはジャズマンの証なのと、お姉ちゃんのおさがりで白シャツがあったのでそれを着ている。さて、今日も練習だ。
「ねーエリカちゃん。」
「どしたんキララちゃん。」
「私たちアオっちのサックスほぼ毎日聞いてるけどさぁ、もしかして凄いんじゃない?」
「それは、アオっちがってこと?」
「アオっちが私たちが分かってないだけでめっちゃ上手かもってのと、そんなのを無料でほぼ毎日聞けてる私たちの運が凄いんじゃないかってこと。」
「それは…あるかもね。だって私もサブスクで音楽聴いたりするけど、アオっちのサックスってなんか、音が分厚いっていうかさ、勢い感じるじゃん。」
「分かるー!なんか、聴いててビリビリするよね!近くで聴いてるからってだけかもだけど。」
「しかもこれ練習なんでしょ?じゃあ本番とかってもっとヤバいんじゃない?」
「え~!ガチの演奏ってことでしょ?めっちゃ聴きた~い!」
「絶対上手いよ。だって、毎日こんなにさ、汗だくで必死に吹いてるんだもん。絶対、上手い。」
【アオっちはねー、毎日すっごい頑張ってたよ!ちょうど入学式が終わって何日か経ってさ、新入生で面白い子いるかなーって思って、エリカちゃんと一緒にぶらぶら歩いてたら、運動場の方からなんか、笛の音がしてなんだろーって思って行ったの。そしたら、アオっちがいて。汗だくになりながら、何と戦ってるんだって感じで吹いてて。今思うとあの時から凄かったんだよね、だって、私たちに背中向けて吹いてるはずなのにさ、サックスの音がビリビリーッて体に響くんだよ。…え?私たちが一番仲良しの先輩って?アハハ!うれしー!また今度暇出来たらさ、エリカちゃんも呼んで一緒にクレープ食べにいこーよ!サックス頑張ってね!】