アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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バババ、バンドカズサ…!?トリニティ音楽イベント来てますじゃんですよ!


ご趣味は?

「またお越し頂き、ありがとうございます。」

 

 翌日、先生からモモトークで再度トリニティに来てほしいと言われた。しかも、アタシ一人という条件付きで。そして今アタシは、またあのティーパーティーの机の前に立っている。一人かつ、今度はサックスを持ちながら。

 

「結果から先に言いましょうか。ティーパーティーは、あなたがトリニティ自治区内で演奏と署名活動を行うことを許可します。今から書類を持ってきますので、そこにサインをお願いします。」

 

 案外あっさりと許可を貰うことができた。

 

「ただ、書類へサインをした後でいいので…お手本として何か一曲、吹いていただけますか。ここで吹いていいので。」

「はい、それくらいならいくらでもいいですよ。」

 

 ナギサさんの後ろに立っていた生徒が、書類とペンを持って帰ってきた。空欄の場所に宮本アオホシと書きナギサさんに渡す。ナギサさんが他2人にも書類を回し、ティーパーティーの全員分の名前が書かれる。

 

「それじゃあ、どういう感じの曲が良いですかね。」

「…リクエストでいいのですか?」

「といってもアタシが知ってる曲だけになっちゃいますけど…ジャズだったら大体覚えてますよ。」

 

 楽器ケースからサックスを取り出し組み立てる。先生に聞いた感じ、トリニティには学園内に教会があるらしく、キリエみたいな曲が有名なようだ。お嬢様学校なところも大きく、クラシックが主な音楽になっている…と思っている。

 

「……そうですね…。セイアさん達は、何かありますか?」

「そこで私達に振るのかい…。ふむ、といってもキリエが吹けるはずも無いだろう。自由に吹いてもらって構わないよ。」

 

 結局自分で選んで吹くことになった。ご飯何が良いって聞かれてなんでもいいと返されたときのだるさをまさかここで感じるとは思わなかった。姉ちゃんいつもごめん。

 

「そーですねー…じゃあこれで。」

 

 マウスピースを咥えると充分静かだった部屋が一気に無音に近くなる。そもそもこの曲、ソプラノサックスだからテナーで吹くと全然違うけど。

 今日のような晴れの日にちょうどいいような曲だ。散歩をして、アタシの前を横切っていく小鳥たちがバサバサと音を立てて帰っていく。商店街のようなにぎやかさの中、全てが日常として確かに存在し、その一部であることを自覚する。散歩を終えて、いつもの練習をする。例え他の人の目に普通に見えなくても、アタシにとっての日常を誰も汚染することはできない。これがアタシのやりたいこと、好きなことだから。

 あまり激しめでもないので、少し眠たくさせてしまっただろうかと思いながら、演奏し切る。

 

「ふぅっ。ジョッソ・コルトーレン作曲、私のお気に入りでした。」

 

 ぱちぱちぱちと控えめな拍手が鳴る。

 

「素晴らしい演奏だったよ。聴いていてとても楽しかった。」

「えぇ、昼下がりを思わせるような…とても良い曲でした。」

「……。」

 

 ナギサさんとセイアさんが褒めてくれた。ミカさんは頬杖を突きながら、そっぽを向いている。

 

「これほどの腕があるなら、きっと大丈夫だろう。では、正式に許可を与える。存分に、どこでも演奏してくれて構わない。正義実現委員会に捕まるようなことは起こさないのを期待しているよ。」

「はい!ありがとうございます!」

 

 

 

 

「とは言ったものの…。」

 

 ティーパーティーから正式に許可を貰ったとはいえ、そのことを周知されているわけでも無いので、周囲の目線が変わることは無く。今回に関しては先生もいないので、ティーパーティーの部屋を出た瞬間に滅茶苦茶に絡まれた。セイアさんに注意された直後に騒動を起こすわけにもいかないので、とりえあず学園を出て適当に演奏できる場所が無いかぶらついている。ただそもそも演奏ができるような場所があるのが稀なことが大きく、散歩をしていてもそれらしい場所は見つからない。

 

(なーんか懐かしいな…。)

 

 ゲヘナ学園高等部に進学したときのことを思い出す。

 何にもやることが無く、向かってくるやつをボコボコにして返していく日々を送っていた中等部の頃、つるんでいたスケバンにあるバーに半ば無理やり連れて行かれた。そこが、アタシとジャズの出会いだった。それで、姉ちゃんが突然サックス買ってくれて…。ヒナちゃんとしっかり話したのも、その後だったかな。

 そう昔を懐かしんでいると、どこかから音が聴こえてきた。弦を弾く音だ。

 

「…ギター?」

 

 音が聴こえてくる方へと歩を進める。

 かなり広めの公園に、ベンチが等間隔で複数置かれている。ランニングコースとしても使えそうな舗装された広い道があり、音の出所は中央のベンチからだ。そこには、赤い腕章をつけ、脚を組みながらギターを弾いているトリニティ生が座っていた。

 

「ん~……お?」

 

 こちらに気づいたようで、顔を上げる。

 

「…その制服、ゲヘナ生っすか?」

「はい。」

 

 笑みを崩さずにそう話してくる。

 

「こんなところにゲヘナ生がいるのも珍しいっすね…何か用っすか?」

「あーいや、用というか…演奏できる場所を探してたんですけど、その途中でギターの音が聴こえて。それ、ギターっすよね。弾くんですか?」

「あぁ…これは…」

 

 少し歯切れの悪い様子でヘラリと笑う。何か悪い質問だっただろうか。

 

「ちょっとだけ触ってみてる感じっす。自己紹介が遅れたっすね、トリニティ学園正義実現委員会所属、仲正イチカっす。」

「ゲヘナ学園高等部一年、宮本アオホシです。」

 

 セイアさんが言っていた正義実現委員会の人らしい。話しやすそうな人だし、何となく親切そうな感じがした。

 

「ん、そのケースって…。」

「これは、サックスです。テナーサックス。」

「ほぉ~~…ということは、結構詳しいんすか?」

「詳しいって程じゃないですけど…吹けます。」

「なるほど。」

 

 そう言うと、イチカさんが突然パンと手を合わせて頭を下げた。

 

「お願いっす!私に、ギター教えてほしいっす!!」

「……えっ?」

 

 

 

「普段、そこまでハマってる趣味とかが無いんすよ。何というか、頑張るぞってなっても急激にその感じが無くなるっていうか…。」

 

 隣に座って、イチカさんの話を聞いた。まぁ、何となく分かる気もする。

 

「それで、先生にギターを勧められたんす。普段だったらそれもすぐ辞めちゃうんすけど、先生に勧められたっていうのと、せっかくギターもあるのに、やらないのもなんだかなーって感じで…。」

「でも、聴こえてきた感じではしっかり弾けてましたよ?」

「うーん…弾くことはまぁ、できるんっす。ただやっぱりどこかこう…熱中できないっていうか。いまいち燃えるものが無いっていうか…。」

 

 彼女の言葉に耳を傾けながら思考する。確かに上手く弾くだけならば、誰でも練習を積めばできることだ。そこに彼女は熱が欲しいと……。

 ニヤリと口角を上げる。

 

「イチカさん、ちょっとだけ吹いてもいいですか?」

「え?」

 

 ベンチから立ち上がり、イチカさんの正面に立つ。せっかく良い音を出すギターを持ってるんだ、それを腐らせるなんてもったいなさすぎる。

 

「今から、ジャズを吹きます。」

「ジャズ…っすか?」

「はい、ジャズという曲名じゃなくて、ジャズそのものを吹きます。」

 

 ピンとこない様子で首を傾げる。言うより実際に聴いてくれた方が早い。

 

 早速マウスピースを咥え、目いっぱいに息を吹く。

 熱さを感じさせるのなら、カバーじゃダメだ。全てにおいてのオリジナルを、出せる全てのインプロを聴かせなきゃいけない。

 吹いていて気持ちのいい音を繋げる。聴いていて気持ちいい力強さを出す。気持ち悪さも気にせず織り込む。息の続く限りの連打を続け、スケールを繰り返す。フラットの数がどれだけ増えても気にしない。目に汗が入る。目をつぶっていても音は吹ける。指が全てを覚えている。覚えているフレーズを繋げ、オリジナルを捻じ込む。あなたにこの音が、どう聴こえているのだろうか。

 

――――――

 

「……はは…。」

 

 正直、笑うしかなかった。

 最初はもちろん警戒してた。トリニティの自治区内に、ゲヘナ生がいること自体普通じゃないし。私が一人なところを狙って来たやつなのかもしれないとも思った。たった数分話しただけだけど、それが思い違いだったことに気づき、ゲヘナ生にしちゃ珍しいタイプだなと思った。とにかく騒動を起こさないので他のゲヘナ生よりもはるかにマシだ。

 そんな大人しいゲヘナ生が、私にジャズを聴かせると言った。楽器ケースを持っていたし、吹く前に見たその楽器はまぁまぁ使い込まれている感じもした。だから、私より上手いのは当然のことだろうと思っていた。ただ、今まで色んな趣味を後輩や先輩からもオススメされたが、そのどれもが初速は良くても、すぐに減速してしまう。だから正直、彼女が吹くと言ったジャズとやらも、そこまでだろうというある種の諦めが既にあった。

 だから、度肝を抜かれた。

 これが、ジャズ…。この激しさがジャズなのか。この音の連続がジャズなのか。このフレーズがジャズなのか。

 

 カッコいい、な。

 

 演奏が終了した。彼女がグイと袖で額を拭う。閉じていた目を開き、私を見るその目には、確かな熱を感じた。青く燃えていた。

 

「どうでした?ジャズ。」

「…あんた、めっちゃかっこいいっすね。」

 

 そう言うと、その子はニカリと歯を見せて笑った。

 

「ジャズ、教えてもらってもいいっすか?」

「もちろん!」

 

 

 

【えぇ、ゲヘナ生っすけど、あの子のことは嫌いじゃないっす。むしろお気に入りっていうか。私にジャズを初めて教えてくれた子っすからね。それでジャズを教えてくれることになったんすけど、ギターが弾けるわけじゃないって言われて。ただ彼女がいつもやってる練習とか、色々教本みたいなやつも教えてもらって、それでたまに練習してます。……そっすね、ジャズだけは、すぐ辞めなかったっすね。やっぱり、凄かったんすよねぇ…。いや、実は何度も辞めそうにはなったんすよ。やっぱり向いてないかもなーとか思って。それでギターを置いて別の事をするんすけど、でも、頭の中から離れないんっすよ。今もずっと、あの日聴かせてくれたのが。だから、時間をおいてはまたいつの間にかギター触ってたりしてて。だから、それに気づいたときは…やっぱり嬉しかったっすね。】




ジョッソ・コルトーレン 私のお気に入り

ジョン・コルトレーン My favorite things

総UA数が1万超えてる…ありがとうございます!あと合計文字数も10万文字超えてました。唐突に思いついて書き始めて20話以上投稿できているのも、読んでくださっている皆さんのおかげです。本当にありがとうございます!
そしてこの小説をきっかけにBLUE GIANTを知ってくださる方が少しでもいらっしゃれば幸いです。どうかBLUE GIANTを読んでください!
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