アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。 作:えーすえいち
「うーーーん……」
棚に並べられているリードの箱を見てから、値札を見る。
「ななせん…えん。」
ポケットを探り、財布を開く。到底で手が届く値段ではない…というか、別に今はリードに困ってることも無いから買う予定も無いのだけれど。
イチカ先輩と少しだけ話してから解散して、その後も少しだけ練習をした。良い練習場所は見つかったので、その日はそれで終了。翌日、トリニティに来たことはそんなにないので散歩がてら楽器店や、目に着いた気になる店に入ったりをしていた。
(リードが高いのは分かってるつもりだけど…)
さすがトリニティというべきか、リードも近くの楽器店とは違ってはるかに高額だ。そもそも置いてある楽器そのものの値段もめちゃめちゃに高い。0がいくつあるのか数えたくもなくなる。
店を出て、練習をしに戻る。色んな人が喋りながら歩いているのを見て、やはりゲヘナに比べて平和だと感じた。スケバンとかが暴れてるのはどこでも変わらないけど生徒間の争いというか、喧嘩が少なく感じる。ゲヘナが異常なのか、トリニティが特別平和なのかが分からなくなってきた…。
「おいおいおいおい、な~んでこんなところにゲヘナ生がいるんだァ~~?」
…前言撤回しよう。キヴォトスに治安の良いところなんてのは無い。後ろから聞こえてきた声に振り向く。そこにはアタシの退路を塞ぐように横に並び、ガンを飛ばしているスケバン達がいた。ゲヘナでも見慣れた光景だ。
「ここはトリニティだぜぇ~?降りる駅でも間違えちゃいまちたか~?w」
「ギャハハ!あり得るな、ゲヘナ生って総じてバカなんだって聞くしな!」
だ、だるい。トリニティの生徒だし、手を出しちゃダメなのは分かってるんだけど…。
「てかコイツ何持ってんだよ?」
「ゲヘナ生のことだし、どうせ爆弾とかだろ!トリニティ襲撃しに来たってそうはいかねーぞコラァ!」
言いがかりに次ぐ言いがかり。勝手に難癖をつけて興奮し、どんどんとヒートアップしていく。
「いや、これはただの楽器ケースで…。」
「はん!冗談言えよ、トリニティにわざわざ楽器持ってくるバカがいるかっつーの!」
「それはいるんじゃね?楽器店そこにあるし。」
「…それはそうか…ってともかく、うさんくせーんだよ!ゲヘナ生は暇そうで良いよな!」
別に暇ではない。
「粛清してやろーぜ粛清!こういうたるんだバカは一回のめさねーと分かんねーんだからよ!」
「あははっそれ良いな!」
スケバン達が背負っていた銃を取り出そうとする。まずいな、ホントに銃撃戦になってもアタシが撃ったら一瞬でアタシが悪者になってしまう…。正当防衛が通じないことは無いかもしれないけど、トリニティでゲヘナ生が問題を起こしたという字面がそもそもまずい。どうしたものか…。
そう思っていると、さっきまで喧嘩づいていたスケバン達の顔色がどんどん白くなっていく。白というか青を通り越している。まるで幽霊か何かでも見てしまったみたいな感じだ。
「伏せてください!!」
言われるがままに伏せて目を閉じ、頭を防御する姿勢を取る。すると、閉じた瞼の奥から何かが発光したように感じた。直後にスケバン達の悲鳴とアサルトライフルの銃声が数発聞こえる。ホ、ホントに何が起きてるんだ?
銃声が鳴りやみ、ザリ、ザリと誰かが近づいてくる。
「大丈夫ですか?何か騒ぎらしかったので、咄嗟に鎮圧しましたが…。」
ソロリと目を開けると、白髪が程よく太陽を反射しキラリと輝いて見えた。片翼がヒラヒラと小刻みに揺れ、その声の主はアタシの安否を確認してくれた。
「怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます…。」
手を引っ張ってもらい、立ち上がる。
「この方々は正義実現委員会に送りますので、安心してください。それでは…」
「えっあっあーあの!」
「はい?」
「な、何かできることとかありませんか!?」
白い羽を持った人が困惑の表情を浮かべる。
「えぇと…お礼とかなら、大丈夫ですよ。私達は自警団ですので。そういえば、自己紹介をしていませんでしたね。私の名は守月スズミと申します。」
「宮本アオホシです…。っていや、その!お礼…にはなっちゃうんですけど、そのできることならしますので!!」
「う、う~ん…。そうですね…。」
助けてもらったお礼をせずに練習に戻るのも後味が悪いというか、お姉ちゃんから何かしてもらったらお礼は返せと教えられたので、ホントに些細な事でも良いから何か返したい。
スズミさんの目がアタシの持っていたケースに移る。
「失礼ですが、その、そちらは…?」
「これは、楽器ケースです。サックスが入ってます。」
「ふむ…。であれば、それで何か1曲吹いてもらってもよろしいですか?」
「そんなんでよければ、いくらでも!」
「ここでいつも吹いているのですか?あまり聞こえたことは無いですが…。」
「昨日トリニティでの演奏許可貰ったばっかりなんで、まだそんなには吹いてないです。でもここが一番吹きやすいかなって思って。」
スズミさんにベンチに座ってもらい、正面に立つ。
「それじゃなんか、吹いてほしい曲とかあります?」
「リクエストもできるのですか…といっても私のお気に入りの曲を知っているか分かりませんし…好きに吹いてもらって構いませんよ。」
「ふーーーむ。またか…」
腕を組んで少し悩む。他の人に聴かせた曲を吹いても良いんだけどな。同じジャズがあるわけないから、その時その時で全然違ったりしてるし…。でもそれはそれでなんというか、味気ないっていっちゃ変だけど、同じ味が来たら飽きちゃうし…。
「うーーん、これかな。アルト・ブレンキンのうめき声ってやつ、吹きます。」
――――――
前に先生がいたコンビニを襲おうとしていたスケバン2人に言われた言葉がまだ頭から離れていない。
『なんてセンスだ、いったいいつの時代の曲だよ!?』
『センス押し付けおじさんがいる!!』
センス押し付けおじさん…。そんなに悪いんでしょうか、私のセンスは…。センスというより、私のお気に入りの曲をただ聴かせただけなんですが。罰として無理やり聴かせたのが良くなかったんでしょうか。もし真正面から話していたら、罰としてじゃなく、友達と会話をするときのように気軽に曲を話ができていたらあんな反応じゃなかったんでしょうか…。
目の前に立ち、サックスを構えたゲヘナ生が演奏を始めました。バーバッという2つの音を聴いただけなのに、かなり強めの向かい風が吹いてきたような圧を感じました。レイサさんを呼ばなきゃいけない。そう思いモモトークを送ろうと思いましたがこの演奏を前にしてスマホを取り出すのを、少し無礼に感じました。何よりスマホによって、この演奏をほんの1秒でも聞き逃したくありませんでした。
彼女が演奏を終了し、サックスから口を離しました。
「アルト・ブレンキンのうめき声でした…。あざした!」
ぱちぱちと拍手を送りました。もっと有名になっても良い演奏だったと、聴いた後になって思いました。というか、聴いている最中にこの演奏に集中したくて他の事を考えたくありませんでした。
「アオホシさん。もう一人自警団員がいまして…その方をここに呼んで、もう一度吹いてもらっても良いでしょうか?」
「おぉ!ぜひ呼んでください!色んな人に聴いてもらいたいんで!」
了承ももらったので、レイサさんにモモトークと場所を送るとすぐに返信が返ってきました。
[ここに来てください。]
[事件ですか!?分かりました!!]
[今すぐ向かいますので、持ちこたえてください!!!]
[レイサさん?]
返信が止みました。……多分勘違いしたまま来そうですね。
【はい!みんなのスーパースター、宇沢レイサがあの時の事を全てお話いたしましょう!といっても、スズミさんと一緒にアオホシさんの演奏を聴いたことがあるというだけですが…。
最初の印象は…そうですね、凄い人だなぁと思いました。あれだけ大きな音で吹いていたら、周りの人から何か言われてもおかしくなかったのに、そんなことを微塵も気にせずに夢中で吹いていましたね。実際アオホシさん、曲を吹き終わるまで私の事に気づいていなかったみたいでしたし…。周りの人のことを気にせずに外で楽器を演奏するなんて、多分私には絶対できません…。だから少しだけ羨ましいなと思いました。演奏については、とにかく圧巻でした!さっきも言いましたけど、とにかく音がおっきいんです!でもやっぱり楽器の音って近くで聴きたくなるんですかね、かなり近い距離で聴いていましたが、そこまでうるさいなと感じることは無かったです。多分アオホシさんの演奏の技術が凄いんだと思いますが…。】
アルト・ブレンキン うめき声
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アート・ブレイキー Moanin'
最近原神と崩壊スターレイルが自分の中でアツくて明らかに更新遅れてます、すんません!!!!