アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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何をするだぁーっ

「どうぞご自由にお掛け下さい。」

 

 とあるシスター服の人に「お時間いただけますか」と言われ、大聖堂に連れてこられた。宗教勧誘はお断りしてるし、正直すっごい怖い。殺されるんじゃないのかと気が気じゃない。

 

「その制服を見るに、あなたはゲヘナ生のようですね?」

「は、はい。」

 

 密室じゃないだけで、二人きりで聖堂で尋問紛いのことをされている。特に何も情報は持ってないのだけれど…。

 

「あなたがティーパーティ―の方々がおっしゃっていた、サックスを演奏するゲヘナ生ですか。」

「えぇまぁ…。」

「お茶が入りました。どうぞ。」

 

 ティーカップを渡される。何か睡眠薬でも入っているんじゃないのかと疑いたくなってしまう。

 

「申し遅れました、シスターフッド所属の歌住サクラコと申します。先ほどの演奏、聴かせてもらいました…とても良かったです。」

「それは、ご丁寧にありがとうございます。」

「あれは、一つの曲なのでしょうか?」

「あーいえ、曲の一部ですね。アドリブのコピーの練習です。」

「アドリブ?」

 

 先ほど吹いていたものが何なのか、アタシが何を演奏していたのかの説明を一通りした。シスターというのもあるのか、ジャズはあまり知らないようだ。そもそもシスターがポップ系の音楽を知ってるのだろうかとも思ったが。

 

「なるほど、ジャズ…。」

「それでジャズの曲にはアドリブが入ってて、サックスプレイヤーのアドリブを真似てました。7割くらいがコピーの練習で、残りが独自のソロの練習です。。」

 

 ふむ……と言いながらサクラコさんが顎に手を当てて考え込む。

 若干薄暗い教会で2人きり、しかも解散した後に話しかけてきたので警戒していたが、話してみると案外そう怖い人でも無さそうだった。むしろ聞き上手というか、シスターだから懺悔とかで人の話を聞きなれているのだろう。

 

「あなたは、あのイチカさんにもジャズを教えていらっしゃるとか。」

「あーそれは…教えてるっていうか、ジャズを布教しただけっすね。」

「布教?」

「知ってもらいたいなって思って、イチカさんの前で吹いただけです。練習とかは全部イチカさんが独学でやってますし。」

「ということは、自分には教える能力は…」

「お恥ずかしながら無いっすね~。」

 

 後頭部を掻きながらそういうと、サクラコさんの表情がにわかに暗くなる。何か地雷を踏んでしまったか?

 

「あ、あの~何かダメだったでしょうか…。」

「え、あぁいえ……その、前にあるシスターから悩みごとを打ち明けられまして。その、聖歌の歌い方が難しいと…。」

 

 聖歌の歌い方…。そもそも聖歌をあまり知らないアタシからすると、どう難しいのかが分からない。ただシスターが聖歌を歌えないと言うのはまぁ、確かに問題なのかもしれない。

 

「なるほど。それで、何と返したんですか?」

「それが…私が何か言う前に謝ってどこかに行かれまして…。」

「あー…。」

 

 多分、その生徒さんはサクラコさんが怒ってると勘違いして逃げたのだろう。話したらそうでもなくなったけど、圧を感じるからなぁ…。

 

「それで、改めて別の日にその方に伝えようとも思ったのですが…。」

「ですが?」

「…その、どういうアドバイスをすればいいのかがあまり分からず…。」

 

 クッ…とかなり苦悩していそうな顔をして彼女はそう言った。歌のアドバイス、というか全体的にアドバイスは難しい。ましてや又聞きになっているアタシからすれば言えることは少ない。前にもヒナちゃんに、どうすればそう音を迷いなく出せるのと聞かれたとき、覚えてるからとしか言えなかった。そう言ったらジト目で見られて「…そう」とだけ言われて戻っていったし、多分あれは回答を間違えたんだろうなとは思ってる。

 

「それで、先ほどの演奏を聴いてこれほどの才がある方であればきっとと思ったのですが…。」

「なんかすいません…。」

「い、いえいえ!あなたが謝ることはありません!ただどうアドバイスすればいいのか…」

「ふーーむ…」

 

 暗くなっていく教会で2人が頭を捻る。アドバイス、アドバイスかぁ…。

 

「…サクラコさんは普段聖歌を歌うときって何を意識してるとかってありますか?」

「えっ?えぇと、そうですね…息遣いでしょうか。どこで息継ぎをするとかは意識していますが。」

「ならそれを言ってあげたらどうですか?」

 

 かなり適当に言ったが、自分が意識してることを相手にも伝えるのは十分に効果が出ると思う。歌とかは何に意識を置くかによって変わってくるものだと思うし。

 

「…それでも良いのでしょうか?」

「良いんじゃないですか?適当ですけど、勉強とかも自分がどうやって解いてるかを教えるだけで分かりやすさって変わりますし…。」

「…そうですね、明日それを言ってみることにします。ありがとうございます。」

 

 パァッと花が開くような笑顔でそう言われる。やはりそこまで怖くない方なのだろう、オーラというか纏っている雰囲気が近寄りがたさを醸し出してしまっているだけでとても優しいシスターだと思う。

 

「遅くまで引き留めてしまって申し訳ございません。付き合ってくださってありがとうございます。」

「いえいえ、悩みが解決できたなら良かったです。」

「良ければぜひ今度、日曜日の朝のミサを見に来てください。そこで聖歌を歌いますので。」

 

 すっかり日は沈み、辺りは暗くなってしまっている。サクラコさんに手を振って今日は帰ることにした。

 

 

 言われた通り、日曜の朝にトリニティ大聖堂に来た。

 誘われてもあまり好んで行くところではないし、誘われたとはいえアタシなんかが来ていい場所なんだろうかとも思った。

 

「来たは良いんだけど…やっぱなんだかなぁ…」

 

 ずんと高い壁がアタシを見下ろす。ここに来てまで尻込みをするのも変な気はするけれど、それでも何となく近寄りがたい。

 

「あの、何かお困りでしょうか?」

「ひゃい!?」

 

 ボーッと立っているところを後ろから声をかけられる。そこにはサクラコさんとはまた別のケモノ耳がついたシスターが立っていた。

「も、申し訳ありません…!そこまで驚かせるつもりは無かったのですけれど…。」

「い、いえ…こっちこそすいません…。」

「ミサを見に来られた方ですか?ぜひお入りください、もうすぐ始める予定ですので。」

 

 後光が刺すような笑顔でそう言われた。シスターフッドの人って優しい人しかいないのかな?

 誘われるままに教会内に入ると、シスターが立つ台がズラリと並んでいた。ステンドグラスと窓から差す朝日が教会を照らし、照明がある室内よりも仄暗い感じが神聖さを醸し出していた。

 

「ほぁ~~……」

 

 思わず間抜けな声が漏れてしまう。アタシ以外にもトリニティ生や、自治区内に住んでいるであろう住人もやってきていた。思っていたよりも人はいる。ますますアタシが居ていいのかと思ってきてしまい、とりあえず一番後ろの椅子に座ることにした。

 まだ朝方で、少しだけひんやりとした空気が少しだけ眠気を誘う。聖歌を聴いてる最中に寝てしまいそうだなと思いながら、ミサが始まるのを待つことにした。

 

 ぞろぞろと舞台袖からシスターが現れ、舞台に置かれた台の上に並んでいく。そろそろ始まるようだ。

 隣に置かれたピアノ…オルガンだったかがイントロを奏でる。違いはよくわかっていない。

 聖歌、または讃美歌。

 昨日の夜に調べた通りでは、主を讃えるための歌で、音楽の始まりはこの歌から来たとも言われている。讃える歌から始まり、やがてクラシック音楽と芸術へと変貌していき音楽全ての始まりとも言われている歌の一つ。ゆったりとしたメロディー、激しくない音程の変化。高音と低音に分かれて歌われるその歌詞も、確かに誰でもない主を讃えるための歌だった。

 こういったしっかりとした場所で聴くことはあまり無い。なんせ無宗教だし。慣れない場所からか、少し緊張してしまっていたのだろう。聖歌を聴いているうちに緊張がほどけてくることでどんどんと瞼が重くなってきていた。それにまぁまぁ早めの朝ではあるし、しょうがないっちゃしょうがないんだけど限界が近い。あ、ダメだこれ…………

 

 

 

 パチパチパチパチパチという拍手で慌てて起きる。あぁ、終わったのか。やべ、結局起きれなかった…。ごしごしと目をこすり、正面を見直す。舞台に立っていたシスターたちが去っていき、周りの人達も帰っていくようだ。ということはぶっ通しで寝てたってことか。恥ずかし…。

 周りの人が出ていくのを見届けてからアタシも出ることにする。陽はすっかり昇って、風が木々を撫でていた。神聖な場所にいたからか何となく気分が晴れやかになった、気がする。

 

「アオホシさん、いらっしゃったのですね。」

 

 サクラコさんが別のシスターを何人か連れて教会から出てきていた。

 

「おはようございます、サクラコさん。」

「はい、おはようございます。ミサはどうでしたか?」

「いやー、普段こういうところに来ること無いので緊張してたのかちょっと寝ちゃいまして…。でも聖歌は聴きましたよ。良かったと思います。」

 

 たははーと笑い飛ばしながら言ったがまあまあ失礼なことを言ったかもしれない。誘われといて寝るってかなり酷いなこれ。

 

「ふふっ、慣れない場所ですと退屈ですものね。この後はご予定などありますか?」

「そーですねー…せっかく学園に来てるんだし、サックスの練習していこうと思ってます。良い歌も聴けましたし、なんか吹けそうな気するんで。」

「そうですか…ぜひ頑張ってください。幸いがあらんことを祈っております。」

 

 かなり無礼を働いてしまった気もしたが、それすらも笑って流してくれた。シスターって凄いんだなぁ…。サクラコさん達に手を振って公園へと向かうことにした。今日はゆったりめに吹くことにしよう。

 

――――――

 

「今のは…?」

「彼女がナギサさんが言っていた、署名活動と演奏活動の許可を与えたゲヘナ生です。」

 

 ヒナタさんの疑問に答える。他のシスターたちがにわかにざわついている。

 

「サクラコ様、ゲヘナ生と交流を…?」

「一体何故…」

 

「とても気さくな方でしたね。」

「えぇ、とても親切な方でした。今日伝えた聖歌に関してのアドバイスをくださったのもあの方ですよ。」

「まぁ、あの方がですか!あとでお礼を言いに行かねばなりませんね!」

「えぇ、ぜひお礼を…。」

 

「お、”お礼”…?」

「やはり始末するおつもりなのでしょうか…。」

「当然でしょう、ゲヘナ生がトリニティにいるのが許されていること自体おかしいのですから…。」

 

(…多分また誤解されてますね…。はぁ、また今度アオホシさんに誤解の解き方でも聞きに行きましょうか…。)

 

 

 

 

【えぇ、覚えています。先生に次ぐ、数少ない相談相手ですので。

学園祭での演奏はお見事でした…ですがそれ以前に、彼女の演奏を聴いたことがあるのです。後から聞きましたが、あのときの演奏が初めてトリニティ学園内で吹いた演奏だったらしいですね。

今でも、たまに相談に乗ってもらっています。聖歌に関することもそうですが、ごくたまに一緒にスイーツを食べに行ったりもしました。私があまり時間を作れないのもありますが、この前ミラクル5000を一緒に食べましたね。…え?他のシスターたちが言っていたというのは…?ゲヘナと秘密裏に手を組もうとしている噂が流れている!?そ、そのようなことは全く考えていないのですが…!?】




2024/05/04 最後のコメントを追加しました
何となく難産でした。シスターって凄い大変そうですよね、暇無さそう。
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