アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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イベントストーリー -ive Alive!のネタバレを含んでいます、ご注意下さい


音を始める。音を終える。

”やっ、アオホシ。今日も吹いてるねぇ。”

 

 とある日、イチカさんと出会った公園で吹いていると先生が話しかけてきた。

 

「あれっ先生?トリニティに用事でもあったの?」

”うん、放課後スイーツ部に用があってね。”

「何それ!?そんな部活あるの!?気になる!!」

 

 放課後スイーツ部…作るのかな?にしても心躍る部活名だ。ただそれを部活にするとなんとなく太りそうな気もするけど…あと部活って言ってるけど部費出てるのかな…。

 

「そういや用って…もしかしてスイーツ一緒に食べたとかじゃ無いよね。」

”食べたのは食べたけどメインはそれじゃないよ。バンドのお手伝い。”

「食べたんじゃん。ってバンド?先生別のバンド入ってたの!?」

”いや、困ったときに助けるだけだよ。バンドメンバーではないし。”

 

 それならまぁ、良いのかな…。

 

「というか、トリニティにもバンドってあるんだね。あんまそういうのやんないのかと思ってた。」

”あれ?アオホシ知らないの…ってそりゃそうか。こういうのがあるんだよ。”

 

 そういうと先生がタブレットを見せてくる。そこにはとあるポスターの画像が映し出されていた。

 

「学園祭オープニングライブ、募集中…締め切り…2週間後!?もうすぐじゃん!」

”これに放課後スイーツ部のみんなが出ようとしてるらしくて、それの手伝い…と言ってもまだ何にもしてないけどね。”

「えーーーーいいなーー!すっごい面白そうじゃん!っていうか、スイーツ部がバンドってのもまた珍しいね?」

”入選商品がさ、これ。”

 

 先生が指差したところを見ると、フレデリカ・セムラと書かれていた。…あんま知らないな。化粧品か何か?

 

”これがなんかかなりレアなスイーツらしくて、これを取りに行くためにバンドするんだって。”

「ほー、まぁなんにせよいいね。どんなバンドするとかは決まったの?」

”ロックバンドの予定らしいよ。コピーじゃなくてオリジナルにする予定だって。”

 

 なるほど、ロックバンドでオリジナル曲を…えっオリジナルって言った?

 

「先生これの締め切りって…」

”うん、2週間後。”

「2週間で新しく曲書いて演奏するってこと?」

”そのつもりだろうね。”

「それはまた挑戦的だね…。」

 

 甘く見積もって1週間で曲を書けたとして、残り1週間で完璧に合うようになるまで演奏…。中々にハードスケジュールだし、毎日楽器漬けの日々になるだろうな。

 

”アオホシは出ないの?”

「アタシが出たら問題でしょ…。トリニティの学園祭、しかもオープニングなのに、そこにゲヘナ生が出てきたら変でしょ。」

”アオホシだったらいけると思うけどなぁ。”

「どういう信頼なの…。」

”あはは、でもほんとにアオホシだったらいけるとは思ってるよ…それじゃアオホシ、頑張ってね。”

 

 

 先生が手を振って帰っていく。足元にはペットボトルの水が置いてあった。アタシが買った覚えはない…ここに来たのはさっきの先生だけ。

 

「キザなんだからさ…。」

 

 ありがたく蓋を開け、水を飲む。

 学園祭の話を聞いたとき、正直なところ出演したいという思いが湧いてきた。ただアタシはあくまで特別に許されているだけのゲヘナ生。トリニティが特別にゲスト出演を許したとして、ゲヘナ生を起用するだろうかという話ではある。

 

「うーん…あっそういえば…」

 

 先生の話を聞いて思い出した。鞄の中を漁り、1冊のノートを取り出す。表紙には作曲ノートとマジックで書かれている。

 

「…これそろそろ完成させてもいいかもね。」

 

 一番最初のページに何回も音符を書き直した跡が残っている。まだタイトルも決まってないし、最後までできているわけでもない。ただこの曲は、バンドで吹きたいと考えてる。

 書いてあるメロディーをなぞって吹いてみる。出だしは良い感じ。ただ中盤からの盛り上がりに欠けるというか…ソロも入るし、そこまで作りこむ訳じゃ無いけど…。

 

「バーバラババッ、バーバー…うーん…ここ連続の方がいいかなぁ…」

 

 ペンを取って数十秒で詰まり始める。前もこんな感じになってやめにしてたんだっけな…。だんだんと自分の作ってるものが何なのか分からなくなってくる。

 

「うがーーーー!やめやめやめ、帰ってから!もう帰ってからしようこれ!今は吹く!」

 

 乱雑にペンとノートを鞄に投げ込み、勢いのままサックスを吹く。ただ先ほど考えたフレーズが悪い気はしなかった…問題はどこに入れたらもっと良いかだ。でもそれより良いものがどこかにあるんじゃないかと考えてしまう。思考がぐるぐると回るだけ回って、結論にたどり着けない。

 結局、帰ってから考えることにしようと今日はサックスの練習だけになった。最後の一音で全ての息を吐き、パッと口を離す。

 パチパチパチと拍手が聞こえてきた。

 

「あのっ、これ署名書いても良いですか?」

 

 白い制服を着た少女がそう話しかけてくる。

 

「どうぞどうぞ、ありがとうございます!」

 

 譜面台に置いてあるペンを取り、新たに署名欄に名前を書いてくれた。公園で吹いていたとき、ほぼ毎日吹いていたおかげかトリニティに住んでいる人たちが何人か書いてくれたおかげでギリギリ1枚は埋まりそうな感じがする。ただやはり状況としては未だ向かい風だ。ミレニアムのときはもっと署名が多かったし。

 

「さっきの演奏、凄かったです。音に圧倒されちゃいました。」

「それはまた、ありがとうございます。」

 

 ちらりと署名欄に書いてくれた名前を見ると、栗村アイリと書かれていた。

 

「その…唐突なんですけれど、作曲ってしたことありますか?」

「作曲は…したいんですけど、なかなか上手くいってないですね~。」

 

 今日一番悩んでいた話題で質問をされるとは思ってなかったので、少し驚く。トリニティ生だし、さっき先生が言っていたスイーツ部の子だろうか。

 

「そ、そうなんですか…じゃあさっきの演奏は…?」

「さっきのはアドリブっすね。今日思ったのを即興で音で作った感じです。」

「そんなことできるんですか…!?凄い…」

「アイリさんは…何か楽器やられるんですか?」

「え?名前…あっ署名に書いてましたね…。楽器は、キーボードの予定です。触ったことあんまり無いんですけど…。」

 

 ベンチに座りながら話を聞く。どうやら先生の言っていたスイーツ部の子で間違いないらしい。自分から言い始めたことなのでしっかりしないと、とかなり意気込んでいるようだった。その子に、少しかじった程度の作曲のやり方を一応教えておいた。といっても自分の自由にするのが一番だとも言っておいた。ありがとうございます!と一礼され、笑顔で帰っていくのを見送った。

 本当に何となくだが、何か危ないような感じがした。

 

 帰ってから作曲ノートを開きいざ続きをと思ったが、全く何も思いつかなかったのと普通に眠かったので1ミリも進まなかった。

 

 

 次の日の夕方、いつも通り公園で吹き何人かの署名が集まった。帰りに楽器店に寄っていくことにした。

 数回入った店内は新品の匂いとでも言おうか、独特の香りが広がっていた。

 壁に飾られているサックスは店内の蛍光灯を反射し、ギラギラと金色に輝いている。その隣に書かれている値段も…輝いている。

 

「20万、30万、ご、50万…。」

 

 何年かけてようやく払う事ができるであろう値段に口角が引きつる。置いてある音楽雑誌を手に取り、ピアノ、ドラムのページを見る。こちらも同様に高い。ピアノに至っては50万以上が基本みたいな値段で並んでいる。ははは…と乾いた笑いが漏れてしまった。

 店内を見渡せば、色んな服を着た人たちが各々に楽器を見て回っていた。トリニティの制服を着た生徒はもちろん、ゲヘナ、ミレニアム、百鬼夜行…あらゆる制服の生徒が集まっている。それだけでなく、大人もかなりいる。タトゥーをした人だっているし、お嬢様のような人だっている。

 

 外の少しひんやりとした風が入ってくることで誰かが入ってきたことに気づく。

 雑誌を読むフリをしながらドアの方をちらりと見ると、楽器ケースを持ってきている人がいた。店内に入り、通る人の邪魔にならない場所で立ち止まる。入ってきた時からその人は少し俯いていた。立ち止まり、目を数秒閉じる。眉間にだんだんとシワが寄っていき、やがて何かを決意したかのように歯を食いしばって顔を上げた。その人は楽器ケースをレジへと持っていく。

 楽器ケースは、数枚のお札へと変わった。持ってきた封筒に札束を入れるその手は少しだけ震えているように見えた。

 

 また別の人が入ってくる。リュックを背負った人だ。

 ずんずんと進んでいき、トロンボーンがかかっている壁の前で立ち止まる。下には15万、20万あたりのものが並べられており、上の方には30万から60万近くするものだって飾られている。

 ジッと眺めてから、店員さんを呼ぶ。何かを聞いており、その会話までは拾えない。15万のものと30万のものを取ってもらい店員さんがその人に何かを言うと慌てて首を振った。そして店員さんが両方を吹く。

 値段によって音が違う。高ければ高いほど、良い音を出すことは保障されている。ただ使いこなすかは本人の腕次第だ。店員さんが吹き終わり、腕を組んで考えている。

 そしてその人は30万の方を選び、レジで精算を済ます。新しく楽器ケースの荷物が増えた。入ってきた時よりも、胸を張って歩いているように見えた。

 

 音を続けるのは難しい。

 続ける条件が必ずある。お金、場所、時間が要る。

 続けるための壁がある。技術、知識、理論を覚えなきゃいけない。

 いつか終わらなきゃいけなくなる時が来るのかもしれない。今すぐにやめなきゃいけなくなるのか、じわじわとやめなきゃいけなくなるのかは分からない。

 

 でも、楽器を売ったあの人が音楽を嫌いになることは無いだろう。

 楽器を買ったあの人は、もしかしたら思っていたよりも早くやめてしまうかもしれないだろう。

 

 でも、どんな人も初めて音を出した日のことを忘れることは無いと思う。初めて吹いた日、弾いた日、叩いた日。その日を必ず覚えているだろう。

 

 

 雑誌を閉じて家へ急いで帰り、晩御飯を食べて風呂に入る。寝る前に机に向かって作曲ノートを開き、残りの部分を埋めていく。タイトルはFIRST SOUND。

 

 

 

翌日、ヒナちゃんの当番なのは分かっているので、ヒナちゃんが来ているであろうタイミングでシャーレへ向かう。

 

「先生!」

 

 勢いよくドアを開けると案の定仕事に追われている2人が居た。

 

”ノックはしてね…ってアオホシ?どうしたの?”

「こんにちは、アオホシ。」

「こんにちは!あのね、作曲したの。」

 

 アタシが入ってきてもまだ動いていた先生の手がピタリと止まった。

 

「まだメロディーラインしかできてないし、完全じゃないんだけど…作曲、したの。」

”うん。”

「今じゃなくても良いんだけど、聴いてくれない?」

”いや、今聴こう。防音室に行こうか。ヒナも一緒に。”

「え、仕事は…」

”仕事は後でもできるからね。今はとりあえずアオホシの曲だよ。”

 

 仕事のせいか気だるげだった顔が切り替わり、防音室へと全員で移動した。

 

”よし、いつでもどうぞ。”

「うん、それじゃタイトルは…FIRST SOUND。」

 

――――――

 彼女が初めて作曲をしてきた。スイーツ部の話をしたからだろうか。正直何度かアオホシが作曲をした曲を聴いてみたいとは思っていた。理論を知ってはいるだろうけど、それらに囚われていない純粋で、不格好で、原石の曲。

 久々に知らない曲を聴いて、良いと感じたかもしれない。決して他が悪いとかそういったわけじゃないけど、起承転結をしっかりと盛り込んでいる曲だと思う。

 今のジャズはあらゆるジャンルがある。ビバップ、モード、ブルース、あるいはフュージョン…ヒップホップとの融合だってある。色々な音楽ジャンルとの融合だって面白い。普段聴いている曲のジャズアレンジだって面白い。いつもと違う味を頼みたくなるような、たまに違う味のラーメンを頼むような。

 でも彼女はずっと根底のジャズだ。ストレートに、ジャズを吹いている。他の味も良いとは言うけど、ずっと紫関ラーメンの醤油味を頼み続ける。彼女の身の回りの曲を入れてしまうと、おそらくこの曲は生まれていない。だからこれは、彼女自身の曲なのかもしれない。

 

 彼女はキヴォトス一のジャズプレイヤーになると言っていた。感情全てを音に出せるようなプレイヤーになると。音こそそうだけど、それは彼女の作る曲にすらも反映されているのだろうか。

――――――

 最近は有名な曲のコピーの練習が多い。ピアノを触る回数も、パーティで初めてピアノを触って練習を始めた時よりも増えているだろう。そのせいか気が抜けると、いつの間にか鍵盤を叩いているときのように手が動いてしまっている。

 今日は私の当番日だったのだが、突然アオホシがシャーレにやってきた。初めて作曲をしたので聴いてほしいと言い、先生はすぐに防音室へと向かった。もちろん私もついて行った。

 

 前々から彼女の才能には圧巻していた。これほどの才があるのだったら、もっと有名になったっておかしくないのにずっと思っていた。

 改めてそう思わされた。

 彼女が作ってきたその曲は、間違いなく今練習しているコピーよりも簡単な方だったと思う。激しくはあるけど、分かりやすくて、演奏しやすい。といっても、すぐに弾けるかと言われれば違うけど。アオホシが作った曲だからなのかは分からないけれど、とにかく私もこの曲を弾いてみたい。そう思った。

 

 隣から、”はは……”と笑いが聞こえてくる。先生も、私と同じ気持ちなんだろうか。

 アオホシの演奏が終了する。黙って私達を見ている。

 

”アオホシ。”

 

 スッと先生が拳を突き出す。アオホシが右手を先生に、左手を私に突き出してきた。

 

”最高だ。”

「良いわね。」

 

 にんまりと一番の笑顔を見せ、拳を合わせた。

 

 

【アオホシさんに会ったのは忘れてないです!何せみんなで初めてバンドをすることになって、アドバイスをくれた方の1人ですから!結局、自分で作曲するんじゃなくて、ツムギさんがくれた曲を演奏しましたけど…。それに今でもたまにキーボードを触ってみてるんです、もっと弾けるんじゃないかなって。

あの日に聴いた演奏はまだ耳に残ってます。初めて出会ったときもそうですが、学園祭での先生方の演奏もです。先生がドラムを叩いていたのは意外でしたが、あの時の先生たちはとても…とてもかっこよかったです。初めて聴いた音楽ばかりで、新鮮で面白かったのもあったけど、どこか情熱って言うんでしょうか…。そういったものを感じた気がしました。】




FIRST SOUND

FIRST NOTE

イベントストーリーはやっぱり触れたいので、触れることにしました
無意識のうちにアオホシが大と雪祈のハイブリッドになってしまっている…
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