アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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噂をすれば何とやら

”はい、これがアオホシので、こっちがヒナのね。”

 

 先生から譜面を渡される。タイトルはFIRST SOUND。

 昨日先生とヒナちゃんに聴かせた後、初めて作曲した譜面を先生からくれと言われたので、ノートを渡した。次の日にはこうして譜面として帰ってきたわけだ。

 

”大筋や書いてあったメロディーはそのままにして、ベースラインは私の自由に足したけど良かったかな?”

「うん!全然良いよ!」

「…うん、これなら私でも弾けそう。」

 

 出来上がった譜面を光にかざす。初めて、アタシが作った曲…。

 

”それじゃあ、今日は解散にしよう。仕事もほっぽっちゃってきちゃったs”

せ~~ん~~~せ~~~い~~~!?今日提出の書類が来ないと思ったら、何をサボってるんですか~~!!??」

”……すぐ戻るから、解散で。”

 

 先生が慌ててシャーレへと戻っていく。

 

「私も当番だし戻るね。アオホシ、この曲絶対弾けるようになるから。」

「うん!ありがとー!」

 

 ヒナちゃんも続いて防音室から出ていき、少しだけ掃除をしてから家へ戻った。

 

 

 数日後。

 ブーッブーッと着信音が鳴る。先生からの電話のようだ。

 

”もしもし、アオホシ?”

「先生?どうかした?」

”栗村アイリって子、知ってる?”

「栗村…あぁ!えーと、スイーツ部の子だっけ?あの子署名してくれたんだよねー、めっちゃ優しくて話しやすい子だったよ。」

”その子、最後に見たのいつ?”

 

 先生の声がにわかに真剣そうに感じる。時間が押してるときのような切迫さだ。

 

「…ここ数日は見てない。というか、前に見たのもその署名に来た時だけだし、少なくともアタシが今演奏してる公園には昨日も一昨日も来てないよ。」

”分かった、ありがとう。”

「アタシの方でも探そうか?」

”…いや、大丈夫。ありがとう。”

 

 ツーッと電話が切られる。何かがあったのはほぼ確定。いつもいる場所にいないとか、そういう感じだろうか。先生は大丈夫だと言っていたが…念のため探すことにしよう。といってもアイリさんに詳しいわけでも無いけれど…。

 

「スイーツ部だし…無難にスイーツ店とかから探してみるか。」

 

 ケーキ専門店、おしゃれなカフェ、パンケーキ屋、タピオカのワゴン車、有名なデパートの和菓子売り場、35アイスクリーム…

 トリニティである程度有名なスイーツに関する店は探した。ただそのどこにもアイリさんはいなかった。

 

「あ、うまこれ…」

 

 歩き回って得られたのは、35アイスクリームのチョコミント味が思ってたよりも美味いということだ。前にゲヘナ生が「あれ歯磨き粉だよな」「は?」という会話をしていたのを、店の前に来た時に思い出し頼んでみたのだがこれが中々美味い。

 

「ん?あれは…」

 

 持ち帰りにしたはいいものの溶けてしまうのも嫌なので、店の近くにあるベンチで座って食べていると辺りを見渡しながら歩いてくる先生がいた。

 

”いない…。あれ?アオホシ?”

「ある程度有名なところ見て回ってアイリさん探したけど、どのスイーツ店にもいなかったよ。」

”そっか…。そうだろうね、多分スイーツ店にはいないかも。”

「えっ?」

”アイリ、別の何かで悩んでたみたいだったし…。多分、人を探してるんじゃないかな。”

 

 ということはスイーツ店を探し回っていたアタシは大外れだったわけだ。

 

「悩んでたって?」

”…アオホシになら、話してもいいかな…。”

 

 ベンチの端に寄り、スペースを空けて座るのを促す。

 

”前にスイーツ部がバンドを始めるって言ったよね。”

「うん、賞品がセムラみたいな名前のやつ取りに行くって聞いたけど。」

”それを言いだしたのはアイリなんだ。でも多分狙いは…セムラじゃなかったんだと思う。”

「ふぅん?なんか別の目的ってこと?」

”ただの憶測だけどね。でも今までもやけに頑張るなって思うところはあった。”

「でもなんだっけ、結構レアなんでしょ?賞品。スイーツ部って名乗る以上やっぱ取りたいっていうのじゃ無いの?」

”そうだといいんだけど、それで全部カバーできるような頑張りようじゃないっていうか…なんていうか…。”

 

 ふーむ。部外者だからなんとも言えないが、大体こういう時の先生は正しい気もするしなぁ…。

 

”それはそうと、探してくれてありがとね。”

「んーそりゃ気になるからね。でもまぁ、多分すぐ見つかりそうな気もするよ。少なくとも今日中には。」

”そうかな。そうだといいけど。”

「だいぶ日も沈んできてるし、アタシはそろそろ帰るよ。スイーツ店にいないってことはバンドに関係するどこかに居そうだけどね。」

”うん、ありがとう。気を付けて帰ってね。”

 

 先生と手を振って別れる。頑張りすぎてる、かぁ。

 バンドをやってるとあるみたいな話はどこかで聞いたことがある。他のメンバーに比べてペースが遅いとか、自分だけ明らかに合わせれてなくて嫌になってメンバー抜けるとか…。

 アイリさんのあの優しさの感じや、前に話したときにも「私が言いだしたことだから」というワードがやけに引っかかった。責任感が重いのだろうか…。

 信頼してる仲間だから、友達だからこそ起きる問題だってある。いわゆる贔屓みたいな。そう思ったことはあんまり無いけど、何でそいつに言って俺には何にも言わないんだよ!的なやつとか…。難しい話ね、ホント。

 

 

 

 

 

 翌日。今日はアタシが当番の日なので、シャーレへと向かう。

 

「先生おっはよー。」

”あ、おはようアオホシ。そういや昨日のことなんだけどね、解決したよ。”

「おっ、ホント?」

”うん、スイーツ部とも話して万事解決。”

「そりゃ良かった。結局どういうのだったの?」

”話していいのかな…まぁ概要はこういうので…。”

 

 どうやらスイーツ部でバンドをやろうと言い始めたのはアイリさんらしく、そのアイリさんの本当の目的はセムラではなく、特徴の無い自分を変えたかったためだそうだ。

 

「な~るほどね~。」

”なんにせよ、解決できて良かった。今も練習してるみたいだし、本番が楽しみだね。”

「そうね。友達…信頼できる仲間がいて良かったよ。きっとその人達にしか解決できなかっただろうし。」

”アオホシも手伝ってくれてありがとう。もう後1週間後くらいに選考会だし、一緒に見に行こうか。”

「いいね、けどまずはこの書類片づけてからね。」

”…はぁい。”

 

 必死に目を逸らそうとしていた紙の束を突きつける。そうやって色んなところで生徒のこと助けてるから、どんどん処理しなきゃいけない仕事が溜まっていくんだよね。別に助けるのが悪いことだっていう訳じゃないけど…。

 

 

 

”アオホシ~…休憩しない?”

「まだ始まったばっかでしょ…ほら、せめてあと10分は手動かして。」

”え~~~~ん…”

 

 仕事を始めてものの15分ほどで音を上げ始める。ホントにこれで大人なのか?

 

「ドラム叩いてるときはカッコいいのになぁ…。」

”そりゃ楽しいからね。でも仕事は楽しくない!”

「楽しくないのは分かるけど、仕事に楽しさ求める方が違うんじゃないんすかね…。」

”正論やめてね。”

 

 愚痴と駄弁りを交えながら手を動かしていく。こういうのは心を殺しながらもくもくと進めるのが一番いいんだけど、たまにはこういうのも悪くはない。

 

「はぁ、しょうがないな。ちょっと休憩しますか。」

”やったー!話が分かるなアオホシは!”

 

 先生が我先に給湯室へ向かっていく。数秒後にコーヒーとお菓子を持って出てきた。アタシの対面のソファに座りながら、コーヒーを啜る。

 

「しかし、仲間…仲間ね…。」

”ん、どしたの?バンドメンバーに何か?”

「んぇ、あぁいやそういうわけでは…無くはないけど。そうじゃなくてちょっと昔の事思い出しちゃった。」

”昔?”

「先生には言ってなかったっけ…。アタシ、中等部のころはちょっと荒れてたっていうか、ダサかったんだよね。」

 

 砂糖とミルクが入ったコーヒーが、湯気を立てる。

 

”へぇ、アオホシにもそういうエピソードあるんだね。”

「何だと思ってんのさ。まぁ、いわゆるスケバンだったんだよね。」

”…ふむ?”

「といっても、自分から喧嘩吹っ掛けたりとかは少なかったよ。歩いてたら絡まれることが多いし、それら全員返り討ちにしてたらいつの間にかダッサイ異名もつけられてたし。」

”異名?”

「うん、前スケバンに絡まれたときに返り討ちにしたら、絶殺仕事人アオホシって言われた。」

”……ふっ。”

「笑うな!アタシだってせめてもうちょっとカッコいい異名欲しかったよ!!」

 

 鼻で笑われた。それにアタシが言い始めたんじゃなくて他のスケバン達が勝手に言い始めたんだし。

 

「んまぁそのスケバンだった時に仲間…って言うほどじゃないけど、悪友みたいな子いたんだよね。あ、その子ももちろんスケバン。」

”なるほど。”

「スケバン界隈っていうの?その中では結構有名な子だったみたいだよ。」

”…なんて名前だったとか覚えてる?”

「えー、その異名ばっか聞いてたから本名…思い出せないな。アタシはその子キャスちゃんって呼んでたけど…。」

”……あっ。”

 

 先生が思い出したように顔を上げ、私の方を見る。?なんか見つけたんだろうか。

 

「んでまぁ、その子と偶然入ったジャズバーがあって、そこでアタシはジャズに出会ったってわけ。」

”な、なるほどね。”

「なんだかんだ言ってその子と一緒に居て楽しかったからさ…元気にしてるかな。」

”多分元気にしてるけど…それも結構元気に…。”

 

 先生の視線が泳ぐ。誰かに今すぐにでも共有したいものがあるけど、誰に話そうか迷ってるときみたいな視線の泳ぎ方だ。

 コンコンとドアがノックされ、返事を待たずに誰かが入ってくる。

 

「先生。息抜きにアイリ達とクッキー作ったんだ。良かったらこれ差し…入…れ……」

 

 入ってきた人と目が合う。何となくだが、見たことがある顔だった。ピンクのインナーカラーを入れた黒髪、綺麗なツリ目をしたその人をアタシは見たことがある。そしてそれは客人側も同じだったようだ。

 

「アオホシ!?」

「キャスちゃん!?」




ちなみに35アイスクリームはご存じ31アイスクリームです。
31ってバスキン・ロビンスで頭文字取ってBRだから31なんですね。
なので35はバソキン・ソリス(Basokin・Soris)で頭文字取ってBSで35です。
チョコミントは嫌いではないです。
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