アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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もっかい!

”はい、コーヒー。”

「あ、ありがとう先生。」

 

 一人の仕事人と、一人の黒猫が睨み合っている。いや、決して険悪な雰囲気ではない。旧友との再会をしたのはいいものの話すような話題が無いか、何と言い出そうかお互いに迷っているのだろう。

 

「…久しぶり、アオホシ。」

「うん、久しぶりキャスちゃん。」

 

 カズサが額に手を当て、「あー…」と声を漏らした。

 

「ごめん、その名前で呼ばれるの嫌だからさ、名前で呼んでくれる?」

 

 今度はアオホシが「あー…」と言いながら目を逸らす。

 

「いやーあの…その、あだ名でずっと呼ばれてたじゃん。だからその、名前、知らなくて…。」

「…そういやアタシもあんたのフルネーム知らないかも。」

 

 そう言うと、少しの沈黙が部屋に流れる。そしてその沈黙を2人の笑い声がかき消した。

 

「あはは、お互いに本名知らずにつるんでたってわけ…。それじゃあ改めて、杏山カズサ。カズサって呼んでいいから。」

「宮本アオホシ。よろしく、カズサ。」

 

 2人がテーブルを挟んでグッと固い握手を交わす。初めて出会った日もあんな感じで仲が良かったのだろうか。

 

”そういえば、カズサは何の用事なのかな?”

「あぁこれ。アイリ達と息抜きにクッキー作ったんだよね。それで作りすぎたからおすそ分け。」

 

 はい、とかわいい包装に包まれたクッキーを渡される。よく見ると星型や猫、アイスクリームの形など、さまざまな形があった。

 

「?カズサってアイリさんと知り合いなの?」

「え、あぁ言ってなかったね。私、トリニティ学園所属だから。」

「えっ!?」

「トリニティで、今は放課後スイーツ部ってとこに居る。」

「えぇっ!?じ、じゃあ今バンド組んでるの!?」

「え、何で知ってんの…。いや、先生か。」

 

 カズサにジト目でこちらを睨まれる。ただそのカズサをアオホシが今までに見たこと無いほどのキラキラした眼で見ている。

 

「聴きたい聴きたい!キャs…カズサの演奏聴きた―い!!」

「はぁ!?何急に…」

”私も聴きたいかも。”

「先生はしょっちゅう見に来てるでしょ!」

「じゃあなおさら聴きたい!先生だけずるい!!」

 

 アオホシがカズサに駄々をこねだす。旧友と久々に出会って、その旧友も音楽をしてたら興味が湧くのも無理はない。じたばたとソファの上で暴れだす。初めてこんな姿見たかも。

 

「というかバンドのこと知ってるんだったらどうせもうすぐ発表なのも知ってるでしょ!それまで我慢しろっての!」

「ぐぅ…それはそうなんだけどさ…」

”アオホシ、強要するのはダメだよ。”

「うぅ…カズサの演奏聴いてるのにそれ言うのダメでしょ…。」

 

 しおしおとどんどんアオホシが萎れていく。

 

「さっきも言ったけど、もう1週間後なんだからさ。そんくらい我慢しなよ。満足させるような演奏してやるし。」

 

 カズサがニッと歯を見せる笑いをアオホシに向ける。衝突…考えの交錯もあったが、それらも乗り越えた彼女たちだ。良い演奏をするのは、間違いないだろう。

 

「はぁ、しょうがない。我慢するよ…。その代わり、ホントに満足できなかったら許さないかんね!」

「ふん、あんたに言われなくてもしっかりするし。というか、私の演奏はもうすぐ聴けるけどあんたの演奏はいつ聴けるのよ?」

「そんなんもちろん今すぐ……。」

 

 アオホシが何かを言いかけて止まる。少し黙って首を振り、また喋りなおす。

 

「いや、カズサよりもう少し後になるかもね。その時が来るかも分かんないかも。」

「は?どういう…」

「でも、絶対に来させてみせるから。」

 

 何かを決意した眼でアオホシがカズサを見て、そう言った。

 

「……はぁ。相変わらず意味わかんないこと言って…、でもそんだけ言うってことは来るでしょ、その時ってやつ。」

「ふふん、祈ってて。」

「はいはい。用件は済んだし、私は帰るから。先生、コーヒーありがとね。」

”カズサもクッキーありがとう。気を付けて帰ってね。”

 

―――――

 

 カズサが持ってきてくれたクッキーを先生と分け合って食べた。思ってるよりしっかり甘くて、かなり美味しかった。

 アタシは、アタシの音を知ってもらうためにわざわざトリニティに来た。

 迷ってる暇はない。トリニティ謝肉祭まではあともう少し。それまで、動かなきゃ。

 

”よし、大体は終わったかな…。”

「こっちも終わったよ。」

 

 先生に処理済みの仕事を渡す。

 

”ありがとうアオホシ、助かったよ…。今日も練習していくかい?”

「いや、今日はちょっと別の用事があるから。また次ヒナちゃんかアタシが当番の時に回すね。」

 

 バッと脱いでいた上着を来て、鞄を持つ。挨拶をしてからシャーレを出て、トリニティ学園へと向かう。

 

 

 

「む、止まれ。ティーパーティーに何か用か。」

「はい、話があります。」

「…少し待て。」

 

 数分して監視役の人が戻ってくる。

 

「ナギサ様はこの後数分後に別の会議がある。あまり長引かせないように。荷物は全てそこの机に置け。」

 

 言われた通りにして、ティーパーティーに会いに行く。

 扉を開けると、ナギサさん以外の方は見当たらず、一人で紅茶を飲んでいた。

 

「こんにちは、アオホシさん。演奏、署名活動の方はあれからどうでしょうか。」

「こんにちは、ナギサさん。順調に進んでおります。」

「それは良かったです。…では、本日はどういったご用件で来られたのでしょうか?」

「トリニティ謝肉祭に、私のバンドを出演させてください。」

 

 ピタリと紅茶を飲む手が止まり、ティーカップがソーサーに置かれる。アタシを見るその目つきが、少しだけ鋭くなった。

 

「それはまた、何故でしょうか。」

「アタシの音を知ってもらいたいからです。」

「それは知っております。ですので、私達はあなたに活動の権利を与えました。トリニティ学園内だけでなく、自治区内での活動権限を。それでは不満ですか?」

 

 既にもうほぼ喧嘩腰みたいな返しをされる。事実トリニティ的には1人でもゲヘナ生に自由にさせる権利なんてのは渡したくはないんだろう。

 

「不満では無いです。むしろ感謝ばかりです。」

「では…」

「でもそれでは、アタシの音が埋もれていくばかりです。」

「……」

「アタシがどこで吹いたって、ストリートミュージシャンの域を出ません。ましてやゲヘナ生であれば、トリニティ生の興味を引くことすら難しい。」

「だから謝肉祭の出場を許してほしい、と。」

 

 ナギサさんの目つきがどんどんと鋭くなる。睨んでいるのを隠そうともしない。

 

「当然できません。」

「ゲスト出演のような形であったとしても?」

「難しいですね。もし私が許したとしても、他の生徒の方達が許さないでしょう。」

 

 言った。重要なことを言ってくれた。

 

「他の生徒が許さない…。であれば、他の生徒の方達の許しがあれば、出場は可能でしょうか?」

「……最低でも過半数ですね。」

「ありがとうございます。署名にして、必ず持ってきますので。」

 

 話が早くて助かる。早々に礼と挨拶を済ませ、部屋を出る。イチカさんに話をしに行こう。トリニティ謝肉祭に出場するために、他の生徒の署名を集めるんだ。

 正義実現委員会へ訪問しに行く。ドアをノックしてから入ると、イチカさんが仕事をしていた。

 

「あれ、アオホシさん?何か用っすか?」

「イチカさん…いや、正義実現委員会の方達にもご助力願いたいです!」

「?」

 

 イチカさんに事の顛末を話した。

 

「なるほど、トリニティ謝肉祭の出場権限…活動権限とはまた別で貰いに行くんすか…。」

「随分とまたチャレンジャーですね…。」

 

 別の仕事をしていたマシロさんも話に加わってくる。

 

「それでご助力っていうのは…」

「今回に署名活動に関しては、学園の生徒が重要です。多ければ多いほど良いのは間違いありませんが、生徒の過半数以上がアタシの案に賛成してくれれば、アタシも出場できる。」

「…広報してほしい、ってことですか?」

「大体そうです。あと、単純に正義実現委員会の皆さんにも署名にご協力いただきたいのもあります。」

「それはもちろん。ただ別の仕事もあるっすからねぇ…。」

 

 うーんとイチカさんが腕を組む。そりゃそうだ、暇なわけなかった…。その点を完全に考慮してなかった。

 

「うーーん…あ、一人だけ心当たりはあるっすよ。今日はもう帰っちゃってるんでモモトークで連絡しておくっすから、明日またここに来てほしいっす。」

「ホントですか!ありがとうございます!」

「いえいえ、実際アオホシさんの演奏はもっと知られてほしいっすから。少しでも助けになれば幸いっす。」

 

 イチカさんに礼を言って今日は解散する。明日から本格始動だ。

 

 

 

【アオホシについて?悪友…って言えばいいのかな、昔つるんでた友達。今は友達だと思ってないのかって?別に、そういうわけじゃないけど…。

あいつの演奏?うん、聴いたよ。というか、聴かせるから!って言われたし。私なんかより、めちゃくちゃ上手かった。先生も一緒にいたけど、他の人たちよりもずば抜けて頭に残ってるよ、あの日のこと。それに、めちゃくちゃかっこよかった。あの日以来あんまりベースは触ってないけど…でもたまに触るたびに、思い出すよ。】

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