アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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めちゃめちゃ遅れて申し訳ないです


噂になってる?

「……にしても、だいぶ上手くなってますよ。」

「ホントっすか?…に比べたらまだまだっすよ…」

「でもここの押さえ方とか…」

「やっぱ見てもらった方がいいっすね、…りやすいっす。」

 

 扉越しに聞こえてくる声に耳を澄ます。

 

「ちょっと疲れたっすね…」

「あー、休憩します?」

「いや、まだもうちょっとしたいっす。せっかく…がいるんだし…」

 

 先輩が、誰かとなにかをしている声だけが聞こえてくる。

 い、いや、まだそうって決まったわけじゃ無いから……勘違いかもしれないから…

 

「ていうか、……シさんの…ックスも見せてほしいっすよ。」

「あ、じゃあせっかくだし先生も呼んで……。」

「え、そ、それはハードル高いっていうか…」

「先生の……凄いですよ。」

 

 ゴソゴソと何かを探っている音が聞こえてくる。ックス!?先生が凄い!?ていうか見せるってまさか、まさか!?!?

 

「エッチなのはダメーーー!!」

 

 

 

 勢いよく扉が開かれたそこには、ギターを持っているイチカ先輩と、サックスを取り出そうとしているゲヘナ生がいた。

 

――――――

「ということで私の後輩のコハルっす。ほら、挨拶するっすよ。」

「せ、正義実現委員会1年の下江コハルです。さっきはその、ごめんなさい…。」

 

 勢いよく入ってきたコハルという子は、しおしおと萎れている。自分の勘違いと初対面、しかもゲヘナ生というのでかなり怖がられているのかもしれない。

 

「ゲヘナ学園1年の、宮本アオホシ。コハル、よろしくね。」

 

 握手のために手を差し出すと、ギュッと握ってくれた。

 

「それで、何をするかとか改めて聞いてもいいっすか?」

「基本的にはやることは同じっちゃ同じです。アタシが学園内で吹く頻度が増えるんで、それの護衛…って言っちゃ固いか。見守りと、あと噂でも何でもいいから、アタシのことと謝肉祭に出るための署名をしてるっていう広報をしてほしいです。」

「そ、それ私がやるの…?」

「一応ここに来て知り合った人には手伝ってもらうようにしてるよ。サクラコさんにも伝えたし。」

 

 モモトークの画面を見せる。昨日の内にサクラコさんにも大体のことを伝えると、

 

[シスターフッドの方でも知らせておきます。]

[ぜひとも頑張ってください]

[わっぴ~!]

 

 と返信がきた。協力してくれるのはありがたいのだがわっぴ~って何だ?

 

「だからそうだな…トリニティスクエアで演奏してるし、知ってる人とか連れてこれる?」

「…まずはあんたの演奏を聴いてからにさせて。まだよくわかってないから…。」

「おっけー、それじゃあレッツゴー!」

 

 コハルの手を引いてトリニティスクエアへ向かう。

 

 

 

「ほ、ホントにここで吹くつもり…?」

 

 コハルが周りを見渡しながらそう聞いてくる。何をいまさら。

 

「そうだよー?」

「こんなに人いるのに?」

「むしろ見てほしいからそれが良いんだよ?」

「そ、そうだけど…うぅ…」

「ちょっと?周りの人の事も良いけど、ちゃんとアタシのサックス聴いてよね。」

「わ、分かってるわよ!」

 

――――――

「あら?コハルちゃんはまだ来ていないんですか?」

「今日は正義実現委員会の方で用があるみたいで、今日は来ないと聞いた。」

 

 ハナコちゃんの疑問に、アズサちゃんが答える。

 

「それは残念です…それはそうと、アズサちゃん、ヒフミちゃん。ある噂をご存じですか?」

「噂…ですか?」

 

 その噂とやらが、とあるゲヘナ生についての噂らしい。そのゲヘナ生はいつもサックスを入れた楽器ケースを持ち歩いており、公園や学園内で何時間も演奏をしているらしい。その演奏を聴いたものは魅了されてしまい、四六時中そのメロディーのことを思い出して何も手がつかなくなってしまうという…。

 

「ふむ、トリニティでゲヘナ生の噂が流れているのがそもそも珍しいことだが…」

「サックス奏者の噂ですか…。聴いた人を魅了させてしまうメロディーというのが、少し気になりますね?」

「魅了…なんとも心躍る響きですね♡一体どんなメロディーなのかとても気になります♡」

 

 アズサちゃんが言っていた通り、このトリニティでゲヘナ生の噂が流れていること自体が珍しい。というのも、美食研究会や温泉開発部みたいな指名手配というか、危険人物として噂されているのはいるけれど、こういった七不思議みたいな噂は初めて聞いたかもしれない。

 ただ、確か前にナギサ様があるゲヘナ生に自治区内での署名活動を許可したと言っていた。その人だろうか…。

 

「みんないるっ!?」

 

 ガラッ!と勢いよく補習授業部のドアが開けられる。声の主はどうやらコハルちゃんだったようだ。随分と焦った様子で入ってきた。

 

「あら、コハルちゃん?今日は用事があるのでは…」

「み、みんな早くトリニティスクエアに来てっ!とにかく凄いからっ!!」

 

 私達を急かすようにトリニティスクエアへと促すコハルちゃん。どういった用件か聞く間も無く、ただコハルちゃんを追いかけていく。

 

「何があったんだ?ゲリラ戦でもあったのか?」

「ゲ、ゲリラ戦では無いと思いますけど…でも何があったんでしょうね?」

「…もしかして、噂の魅了するゲヘナ生ですかね?」

 

 少しばかりワクワクした様子でハナコちゃんがそう言う。

 どんどん目的地へと向かって行くにつれて、何か音が聴こえてくる。

 

 意図的に見ないようにしてる人がいる。ゲヘナの制服を着ているからだろう。耳を塞いで通る人もいる。ゲヘナ生の出す音を入れたくないからだろう。

 ただそれが、あまりにも勿体ないと感じた。この音を騒音で済ましていいはずが無いと思った。今どの音よりも大きいそれはクルセイダーちゃんよりも固く、強く、美しかった。

 

「…これは…。」

「凄く大きい音だな。だというのに、聴いていて心地いい。」

「これが噂のメロディーですか…確かに、魅了されるというのも分かりますね。」

「でっ、でしょ!?凄いのよ!これ!」

 

 コハルちゃんがふんふんと鼻を鳴らしながら興奮気味にそう言う。

 どうやら1曲吹き終わったようで、その人は楽器から口を離して私達の方を向いた。

 

「アオホシ!あんたの言う通りちゃんと連れて来たからね!」

「おー!ありがとうコハル!」

 

 どうやら約束か何かをしていたようで、私達はその通りに連れてこられたようだ。アズサちゃんとハナコちゃんが一歩前へ出て、アオホシと呼ばれた人物と話す。

 

「初めまして。トリニティ1年補習授業部所属、白洲アズサだ。先ほどの演奏、途中からだったがとても良かった。」

「トリニティ2年補習授業部所属の、浦和ハナコです。生徒間で噂になっていたのはあなたのことだったんですね。」

「これはご丁寧にどーも。ゲヘナ高等部1年帰宅部の宮本アオホシです。噂っていうのは?」

 

 ハナコちゃんがアオホシさんに先ほども話していた噂について説明した。それを聞いたアオホシさんはあっはっはと盛大に笑う。

 

「アタシそんな感じで噂になってんだ?でも、そんくらい知られてるってことは結構いい感じかもね。」

「えぇ、トリニティでゲヘナ生のこういった噂は珍しいと思います。」

「温泉開発部だったりはかなり有名だが…。」

「あー、それは…大変申し訳ないというか…。」

 

 たははと頭を掻きながら苦笑いするアオホシさん。ふと、隣の譜面台に乗せられた紙に目が行く。

 

「これは…?」

 

 譜面台にテープで貼られている貼り紙を読むと、どちらも署名用紙のようだ。片方は、キヴォトス全体の音楽祭のための署名。もう一つは、アオホシさんがトリニティ謝肉祭出演のための署名だ。

 

「あ、もしよかったらそれに署名お願いします。」

「音楽祭は分かりますが…こちらは一体…?」

「そのまんまです。トリニティ謝肉祭でバンドで出演したいんですけど、ナギサさんに直談判しに行ったら、せめて過半数以上の票を集めてきなさいって言われたんで。」

「…オープニングセレモニーの方ではなく?」

「はい、ステージ企画みたいなやつあるでしょ?それに出演したいんで。」

 

 これは驚いた。ゲヘナ生がトリニティで行われる文化祭の出演を願っているとは、思いもしなかった。しかもそれももうティーパーティーに聞いた後…。どちらの紙にも既に何人かの名前が書かれていた。一番最新の名前は…下江コハル。

 

「質問、してもいいでしょうか?」

 

 ハナコちゃんがアオホシさんにそう言った。

 

「単刀直入に聞きます。何故アオホシさんはゲヘナ学園の文化祭や、そういった音楽ライブへの出演ではなく、このトリニティ謝肉祭での出演を選んだのですか?」

 

 確かに気になる。他のライブ、フェス等、さっきの演奏を聴いた感じでは出場が容易にできる気がした。オーディションでもあれば、一発で合格できるだろう。

 

「1つ目は、アタシの音をみんなに知ってもらいたいから。みんなは、文字通りみんなです。キヴォトスにいるみんな。」

 

 少し考えてから、人差し指を立てて言う。

 

「2つ目は、アタシがキヴォトス一のジャズプレイヤーになるためです。例えトリニティ生がゲヘナ生のことが苦手であっても、それでも音だけは通じると思ったから。」

 

 ハナコちゃんが黙って聞いている。

 

「それで、これは最近できたんすけど…」

 

 照れくさそうに頬を掻いて、私たちの目を見る。

 

「友達と、約束したんです。アタシの音を、絶対すぐ聴かせてやるからって。元よりトリニティで吹くことを諦めてなんかはいません。でも、その約束をしたからよりこのトリニティでやりたいって気持ちが強くなりました。」

 

 友達との約束。そのために、ゲヘナ生がトリニティで…。その友人にそうまでするアオホシさんが凄いのか、その友達が凄いのか。

 

「…なるほど♪」

 

 ハナコちゃんがそう言うと、署名用紙に歩いていき両方に名前を書いた。それを見た後、アズサちゃんも、私も続けて書いた。

 

「vanitas vanitatum, et omnia vanitas。全ては虚しく、どこまで行こうとその全ては虚しいままだ。でも、その虚しさが努力をしない理由にはならない。例えどれほどの逆境下でも、それが諦める理由にはならないように。アオホシ、私はあなたを応援するよ。」

「私も力になりたいです!この演奏、もっと知られるべきですよ!!」

 

 アオホシさんがへにゃりと微笑み返す。コハルちゃんが数人正義実現委員会の人達を連れて帰ってきた。

 また、演奏が再開した。

 

 

 

【最初はもちろん怪しいって思ったわ。ゲヘナ生だし、そもそも楽器を演奏する生徒自体あんま見ないし。イチカ先輩が最近になってギターをよく触ってるのを見てたけど、アオホシが手伝っていたとはね…。トリニティ謝肉祭での出演を手伝ったって?アオホシが言ってた?ふふん、そうよ!もっと感謝するべきなんだから!なんてったってエリートの私が手伝ってあげたんだからね!

…といっても、ホントに頑張ったのはあいつだと思うけどね。手伝ったとはいえ、ほんの少しだけ。演奏も、演奏にこぎつけるまでの署名活動もほとんどはあいつのサックスが凄かったから。私達は、観客を連れて来ただけ。そういえば、イチカ先輩がまたギターの練習に付き合ってほしいって言ってたわよ。次暇なとき、絶対来なさいよね!】




ストーリーが全く思いつかなくて、めっちゃ遅れました。
別でもう一個あっためてる二次創作あるのが多分それが悪いと思います。
そっちも近いうちに出そうと思ってるんで、そっちのアイデア出なくなるまで書いた方がいいんかな…。
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