アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

30 / 39
救護始めっ

 トリニティ自治区内のとあるファミレス。テーブルを挟んで4人が座っており、ドリンクを少しずつ飲みながらある1人を待っていた。

 

「いや~お待たせ…っと。」

 

 アイスを乗せたメロンソーダを持ちながら、補習授業部のみんながいるテーブルへと戻る。

 

「それでは、作戦会議を始めましょう!」

 

 ヒフミがふんふんと身を乗り出す。補習授業部のみんなと出会って、演奏を終えた放課後。ファミレスに集まって、アタシたちは作戦会議をしていた。

 

「ヒフミ議長、議題は?」

「はい!アオホシちゃんがより多くの署名を集めるためにはどうすればいいか、です!」

 

 アズサとヒフミがだいぶノリノリで会議を進行する。

 

「音楽祭の署名だけだったら別にゆっくりでもアタシは良かったんだけど…」

「そうも言ってられなくなりましたね。もうあとトリニティ謝肉祭も数週間後に迫っています。」

「そうは言っても、正義実現委員会のみんなはアオホシに賛同してくれてるわよ。それこそイチカ先輩とか…。」

「サクラコさんとも連絡を既に取り合っていますし…正義実現委員会とシスターフッドの方の賛同は得られていると考えてよさそうですね。」

「ということは大きな委員会や部活動でまだアオホシさんが出会っていないのは…」

「…救護騎士団あたりか。」

 

 すいすいと議論が進んでいく。アズサから出た救護騎士団というのが気になる。救護騎士…響きだけ聞くとかなりカッコいい。鎧をつけた戦医みたいな感じかな?羽が生えてて、腰に剣差してそう。

 

「救護騎士団ですか…あそこは…」

 

 終始笑顔だったハナコが少し困り顔になる。

 

「?なんかダメなの?」

「いえ、決して悪いことをしてるわけでも無いし、むしろ活動自体はしっかりしてるんですが…いかんせん暴走癖があるのがですね…。」

「暴走癖ってどんn…」

 

 ドッゴーーーーン!!!!

 

 窓の外から何かが爆発したような音が聞こえる。キヴォトスで銃撃戦やテロが日常茶飯事とはいえ、爆弾や戦車を用いたテロはそこまで無い。何が起きたと思い、窓に張り付いて外を見るとスケバン達が戦闘している様子が見えた。

 ただスケバンが戦いの主導権を握っている感じでは無い。というのも、スケバン達が何かから逃げているような戦い方をしているからだ。

 少し気になったのでその戦闘を見ていると突然、ズドンという野太い音とともに砂埃が舞う。砂埃が晴れていき、窓の外に見えたのは滅茶苦茶大きいヒビの入った地面と、その中央に立つ蝶のような青い翼を持つ1人の女性だった。逃げて行ったスケバンを爆発的な加速で追っていくその姿はまさに鬼が宿っていた。

 

「なんじゃありゃ。」

「あれがちょうど今話していた救護騎士団の方々ですね。」

「えっ!?」

「ちょうど話題に上がったところだ。ついていって話をした方が早いだろう。」

「それもそうですね。行きましょう、アオホシちゃん!」

 

 アズサとヒフミに腕を引っ張られ、一緒に店を出ていく。思ったよりこの2人お転婆なのかもしれない。

 

 先ほどできたクレーターのような場所へ行くと、そこには1人のスケバンが完全に伸びていた。

 

「こりゃ~…凄いな。」

 

 遠目で見ていると、どこかしらナースさんの白衣を思い出させるような制服を着た人達がそのスケバンを囲むように後ろからやってくる。

 

「救護開始!」

「救護開始ー!」

「救護完了!」

「救護完了ー!」

 

 手際良く止血をし、包帯を巻いて回復体位を取らせる。彼女らも救護騎士団らしい。そのスケバンの治療が終わると、先ほどの青い翼を持った女性のもとへと駆けて行った。

 

「あらゆる行動が素早い…。」

「近くの病院とかでボランティアしてるのをよく見ますから、それで慣れてるんだと思います。」

「ほ~…とにかく、追いかけますか。」

 

 

 

 救護騎士団について行くこと十数分。先頭を走っていた女性がようやく止まったらしく、やっと追いつくことができた。まるでマラソンをしているかのように走り続けていたので、さすがのアタシも脚がパンパンだ。後ろをついてきてた補習授業部のみんなは既にヘロヘロで、アズサとハナコは汗をかいているがその表情が崩れている様子はない。

 

「や、やっと追いつきました…アオホシちゃんたち速すぎます…。」

「流石に、私も疲れた…救護騎士団っていつもこんなことしてるの…?」

「ふぅ…久しぶりにしっかりした運動になった。」

「アオホシちゃんもかなり体力あるんですね?」

「アタシは日課でランニングしてるし…といってもこんなぶっ続けてじゃないけど…。」

 

 救護騎士団は息が上がってる様子もなく、スケバンたちの治療を終えて集まっている。なんなんだあの人達ホントに。

 

「本日の救護は済みました。それでは学園へ戻りましょう。」

「あの、ミネ団長。先ほどから団長に用があると思われる方が後ろからついてきていたのですが…。」

 

 団長と呼ばれていた女性がこちらにようやく気付いた。

 

「これは、申し訳ありません。救護は止まってはいけないものですので。」

「お久しぶりです、ミネさん。」

「ハナコさん、お久しぶりです。それで、用があるとのことですが。」

「はい。期限もそう長くないことですので、単刀直入にお話ししますね。」

 

 ハナコが率先してミネさんと話している。

 話が終わったようで、アタシの方へと歩いてくる。

 

「…帰りながら、話しましょうか。」

 

 

「先ほどハナコさんから聞きました。音楽祭と、謝肉祭への出場のための署名を集めていること。」

「はい。」

「私の立場として、特に反対する理由はありません。トリニティ謝肉祭にゲヘナ生が壇上へ上がることも、エデン条約が締結している今であれば何ら問題はないはずです。それを他の生徒の方々が許すかどうかはまた別の話になると思いますが…。」

「それは、分かってるつもりです。」

「そうですか。……試すつもりなどでは全くないのですが、1つお願いしたいことがあるのです。」

 

 トリニティ学園に着き、部室会館の方へと入っていく。

 

「『救護が必要な場所に救護を』…これをモットーとし、私達救護騎士団は日々救護に励んでいます。」

「さっきも、凄かったですしね。」

「はい。あらゆる人が救護を必要としています。……ですが、私達の救護は未だ不十分であると言えるでしょう。」

 

 救護騎士団の部室へと入っていくと、いくつかのベッドが並べられている。保健室の役割も果たしているのだろうか、救急箱や包帯の予備などが棚に置かれていた。

 

「救護騎士団に新しく入った者の練習になると思い、先日ある病院のボランティアへ行きました。多くの患者がおり、怪我や病気に苛まれておりました。」

「まぁ、病院ですしね。」

「そしてその多くの患者は自分の病気、怪我に心を弱らせておりました。」

 

 ごとりと抱えていたシールドを置く。

 

「私達は救護騎士団。救護が必要な場所に救護を届けなければなりません。今までも精神面のケアは非常に重要な課題でした。ですので、あなたに頼みたいことがあります。」

「…それは?」

「謝肉祭まではまだ数週間の期限があります。3日。明日から3日間、私達と共に行動をしていただけますか。あなたにはそのサックスを使って、患者へのケアをお願いしたいのです。」

「え。」

 

 ミネさんがアタシの正面に3本指を立てて突きつけてくる。

 

「そして人手は多ければ多いほど良い…後ろのあなた方にもぜひ手伝ってほしいと考えています。」

「えぇっ!?」

 

 ヒフミがかなり驚く。コハルやアズサ、ハナコはふむ、と各々のスケジュールをチェックしている。

 

「これは強制ではありません。あくまで手伝いですので。ですが、救護騎士団は日々救護に励んでいます。もし私達の署名を集めるのならば、共に行動をした方がより早く集まると思いますが。」

「……ほぼ答え1つしか用意されてないじゃないですか。別にいいですけど、アタシ治療の経験とか何にもないですよ?」

「ご心配なく。必要な場合はセリナやハナエが教えますので。先ほども申し上げた通り、あなたには精神面のケアをお願いしたいのです。応急処置などをさせることは無いと思います。」

 

 バインダーを持って、棚を開けて備品の数を数えている。別にケアをすること自体は問題はないけれど、何でわざわざアタシにそれを頼んだのだろうか。

 

「他の救護騎士団の人がこういうのやったりはしてないんですか?」

 

 楽器ケースをぽんぽんと叩き、ミネさんに聞く。精神面のケアが課題だと知っているのならちゃんとそれの対策もしているはずだろう。

 

「幾度か試しました。パフォーマンスを使った患者へのケア……マジックなどのパフォーマンスや笑顔にさせる方法を習得しようと試しましたが、何度練習してもお手本通りに出来なくて…。」

「あー…」

「セリナやハナエも練習していましたが、やはり難しいようで。患者を安心させることには長けていますが、楽しませることは全く別の技量が求められます。生憎私達にそれは持ち合わせていないようでした。」

 

 少し顔を俯かせながらそう言った。アタシもトランプマジックとか1回試そうかと思ったけどムズすぎてできなかったし、そんな感じだろうか。

 

「あなたには音楽療法士に近いことをしていただきたいのです。」

「なるほど、よく分かりました。とにかく吹けばいいんですよね?それくらいだったいくらでもしますよ。」

「ありがとうございます。それで、後ろの方々はどうなさいますか?」

「私は良いわよ。応急処置くらいなら私も知識はあるし…。」

「私もだ。きっと助けにはなれると思う。」

「人工呼吸ならお任せください♡」

「わ、私もお力になれるかは分かりませんが…一人だけ行かないわけにはいきません!私も手伝いますよ!」

 

 補習授業部もついてくるようだ。ミネさんが微笑み、がっしりと握手をする。リンゴくらいなら握りつぶせそうだと感じさせるほどの重さを感じた。握手をするだけで力の差が分かるほどの筋力を感じる…。

 

「ありがとうございます。それでは明日からよろしくお願いいたします。救護騎士団の活動は朝の8時半からです。集合は8時ですので、遅れないようにお願いいたします。」

 

 早っ。アタシ別にトリニティ近いわけじゃないんだけど…。

 

 

 

【む、アオホシについてか?彼女はモモフレンズの中ではピンキーパカが好きらしい。それ以外で?うーん……彼女は、おそらくかなり強い。サオリほどかは流石に分からないが、それでもかなり強いと思っている。彼女自身はそれを隠しているから、あまり言わなかったけれど。

演奏についてか?……凄い、という言葉では足らないかもしれないな。力強い…もまた、合ってるのだけれど違う気もする。自由自在なのは間違いない。同じ楽器から出ている音のはずなのに、聴くたびに印象が変わっている気がするな。また明日には別の音が聴けるのかもしれないと思うと、毎日聴いていたいと感じる。だから、凄い人だ。】

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。