アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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ロックを届けてみせよう

「これで、認めてくれますか?」

「……えぇ、認めましょう。トリニティ謝肉祭にあなたが出演することをティーパーティーは認めます。ただし、出演する以上完璧な見世物をお願いしますね?」

「もちろん!」

 

 

 

「っていうのが、先日ありました。」

”また凄いことを…”

 

 シャーレ地下の防音室。今日の練習のために、ヒナちゃんが来るまでにセットと少しレッスンをしてもらおうと昨日あったことを話した。

 トリニティ生徒の過半数の署名が集まり、その署名用紙を提出した。正式にアタシがトリニティ謝肉祭に出場する権利を貰ったため、それに向けての練習でもある。

 

「それで、ゲストとして出るんで別に審査対象でも何でもないんですけど…やるからには全力でやりたいんで。」

”それはそうだね。”

「そろそろFIRST SOUNDもしっかり合わせられるくらいにはなってきてるし、ここから磨いていきたいですね。」

”うん……うん?あれ?アオホシが出るんだよね?ソロ出演じゃないの?”

「え?アタシはバンドで出たいんですけど…。」

”え?”

「え?」

 

 ポカンと先生と見つめ合う。どうやら先生はアタシだけがトリニティ謝肉祭に出ると思っていたらしい。別にアタシ1人だけでも悪くはないと思うけど、どうせならデカイ舞台なんだしバンドでしっかり吹きたいと思っていたんだが…。

 

”いやまぁ私は良いんだけど…いいのかな、生徒主催だからあんま出しゃばりたくないけど。”

「ゲスト出演みたいな感じだから大丈夫でしょ!」

「こんにちは、先生、アオホシ。」

 

 ヒナちゃんがやっとシャーレにやってきた。ヒナちゃんにも同じ話をすると、ジト目で睨まれる。

 

「…あなた、私の役職覚えてる?」

「風紀委員長。」

「私がいなかったらゲヘナがどうなるかも分かってる?」

「その点は安心して!アタシもちゃーんと考えてんだから!」

「不安になるわね…。」

「ちゃんとアコ先輩たちにも伝えとくから!ちゃんと信頼できる筋だし!それよか練習練習!」

「…大丈夫かしら…。」

 

 

 

”……ストップ。ヒナ、今のソロもっと上げれる?”

「あ…ご、ごめんなs……」

「謝るのナーシ!でも途中までいい感じだったからその感じ続けてほしいかも!」

「う、うん。」

「それじゃあもっかい最初から!ワン、トゥー……」

 

”アオホシ!まだいける!”

「ハァッ…分かってら゛ー!」

(もう何十分演奏し続けてるっけ…)

 

「もっとソロの時間長くしてよせんせー。」

”私のソロより、アオホシとヒナのソロの方が優先度高いよ。”

「わ、私のソロ削ってもいいけど…」

「”それはダメ!!”」

(…こういうところは息ピッタリね…。)

 

”そういやアオホシ、これみたいなピアノトリニティにあるか聞いてる?”

「あ゛、まだ聞いてないや。舞台でやるから一応あるとは思ってるんだけど…。」

”無かった時のために一応キーボードでも練習しておこうか…。ヒナ、次キーボードでお願い。”

「分かったわ。」

 

「……ごめん、ストップ。今の、もう一度やり直していいかしら。」

「おっけー。じゃあ先生から。」

”ワン、トゥー……”

 

”やばい、久しぶりに手首が……”

「ありゃ、一旦今日はこれまでかな。」

”いや、まだ……”

「そうね、とりあえず休憩にしましょう。先生、湿布はある?放置するとマズイから…。」

 

 ヒナちゃんと先生が湿布を貼りに防音室を出ていく。ペットボトルの蓋を開けながら時計を見ると、既に3時間が経過していた。休憩を挟みながらではあったがヒナちゃんもかなり疲労困憊だろう。キーボードでの練習を聴いていて感じたが、ピアノとかなり雰囲気が変わってしまう。あれはあれで良いんだけど、想像してた重さというか…なんというか…

 

「アオホシ、今日は終わりですって。」

「あら、おっけー。怪我しちゃったら本末転倒だもんね。先生は?」

「医務室で念のため休んでる。救護騎士団の人がどこからともなく現れて、凄い早く処置してくれたけれど…。」

「あー…。」

 

 多分、セリナさんだろう。あの人の応急処置とか治療はホントに迅速だ。あと怪我人のところに行くのもめっちゃ速い。まぁあのミネ団長の救護マラソンに付き合わされていたら嫌でも脚は速くなるか…。

 

「あと先生から伝言。明日がオープニングセレモニー選考会だから遅れないように、だって。」

「おっけー。それじゃ、片づけますか。」

 

 ヒナちゃんと防音室の片づけ、掃除をして今日は終了。オープニングセレモニーは確か昼頃からだったはずだし、先生が遅れないかだけだな。

 

 

 

 

 そして当日。

 トリニティスクエアが会場らしく、アタシが来た時にはスピーカーやマイク、機材諸々が既に設置されていた。

 

「お~~…。」

 

 人も既にかなり集まっており、皆楽しみにしている様子だ。シスターフッドの人とかも何人かいる。シスターだからこういうイベントには来ないのかと勝手に思ってたが、それ以前に生徒なんだし別におかしくは無いか。

 

”かなり良い感じだね。”

「ありゃ、先生来てたの?」

”スイーツ部の様子を見にね。今から行くけど、一緒に行く?”

「行こう!ま、カズサは別に緊張とかはして無さそうだけどね。」

”はは、どうかな。”

 

 先生がスイーツ部に紹介したというスタジオに向かいドアを開けると、音が聴こえてくる。ギリギリまで練習しているのだろうか。

 

”や、頑張ってるね。”

「ん……って、先生か。おはよ。って、アオホシも?」

「おはようございます!あ、隣の方は…!」

「んなっ、来ないでって毎回言ってんでしょ!何で毎日毎日来てんのよ!しかも本番前なんだから集中したいし!!」

「ヨシミ、今更恥ずかしがったところでだろう。どうせもっと多くの人に見られるんだし。それで先生、隣の者は?」

「宮本アオホシです!今日の演奏楽しみにしてるんで!!」

 

 ペコリと一礼すると、全員が気恥ずかしそうに顔を逸らしている。

 

「…今更だけどほんとに私達バンドで演奏するんだね…。」

「おやカズサ、キャスパリーグともあろうキミが戦う前から怯えているのかい?」

「ナツ?何度言ったら分かんのかなぁ……!?」

「落ち着けカズサ!今は無駄な体力を消耗している場合じゃないぞ!」

「うっさい!!イラつかせたアンタが悪い!」

 

 カズサがナツさんを追っかけてボコボコにする。スケバンのときとほぼ同じ攻撃の仕方で。カズサも、自分をさらけ出せるような仲間ができたのだと実感した。

 拳をカズサの前に突き出す。

 

「カズサ、頑張ってね。」

「言われなくても。」

 

 カズサがトンと小突き返してくれた。

 

”よし、そろそろ向かった方が良いかもね。私達ももう先に行っておくから、遅れないようにだけ注意して。”

「うん、ありがと。」

「安心して聴くといい、カズサの旧友よ。私達がキミにロックを届けることを約束しよう。」

 

 

 

 

 もうすぐ、始まる。

 さっき見た時よりも明らかに人が増えている。

 司会者がマイクを持ち、企画の説明をして進行していく。

 

「それでは最初は、放課後スイーツ部による発表です。よろしくお願いします。」

 

 カズサたちが位置につく。ベースとギターとキーボードとドラム。マイクもあるから、ボーカルもあるのか。

 

 ギターからの入り。ベース、ドラムが遅れて入ってキーボードも参加。カルテットでスタート…………?ん?いや待って。

 

「先生、スイーツ部って楽器触ったこと無かったんだよね?」

”うん。”

「触り始めたのは?」

”1週間前くらいじゃなかったっけな?”

「え゛!?」

”1週間ほぼ休み無しで練習してたからね…上手くもなると思うよ。”

 

 1週間休み無しで初心者からこんなに上達できるものなのか…。

 …もうちょっと練習時間増やそうかな……。

 

 カズサのボーカルが始まる。スケバンだったときは戦いの最中だったしあんまり気にしてもいなかったが、今になって思ったのだがやはり声が良い。綺麗な声だ。…というか弾きながら歌ってる…ホントに上達のスピードがえげつないっていうか、凄いなホントに。

 サビ前、ドラムとキーボードで盛り上げて…あぁ、良いな。透明感が出てるっていうか…曲の感じが何となく青空っぽい。空と透明感を感じさせる。あ、叩くみたいに弦弾いてる、あれ何だっけ…タッピングだっけな。イチカさんも練習してたような。

 聴いていてひたすらにカッコよかった。曲のカッコよさはもちろん、みんなの前で弾くスイーツ部のみんなが何より輝いて見えた。

 自分がサックスを始めた理由は、これだったんだ。あの時たった2段の階段を上がった先のステージで演奏する人たちが一番カッコよかった。輝いて、美しくて、カッコよくて。

 

「ありがとうございました。放課後スイーツ部の演奏でした。」

 

”うん、とても良かった。本人たちも満足そうだし、良かった。”

 

 先生が拍手をしながらそう言う。

 

”……アオホシ、これ終わったら一緒に練習しようか。”

「当たり前。」

 

 先生の手がドラムを叩いている。何も持たない手が、タムとハイハット、スネアを交差している。かくいうアタシもさっきからうずうずしている。早く練習したい。

 

――――――

 

 いつも通りに万魔殿のタヌキたちから押し付けられた仕事をこなし続ける。最近になって何となく量が減っている気がしなくもないけれど。

 スマホがポケットの中で振動する。モモトーク?確認すると、先生とアオホシも入っているグループチャットに通知があった。

 

[15時頃から練習予定!]

[ヒナちゃんいけそう?]

 

 アオホシは確か先生と一緒に選考会?に行ったはず。…何かにあてられた感じだろう。先生も多分同じだ。ペンを置いて返信する。

 

[今日は無理そう。明日の同じ時間ならいける。]

 

 数秒もしないうちに既読がつき、返信が返ってきた。

 

[おっけー。なら明日の15時ね。]

 

「委員長、そろそろ今週の定例会を始めましょう。」

「…分かった。さっさと終わらせよう。」

 

 終わったら、あそこのピアノを使って昨日の続きをしよう。先生たちに置いていかれるのだけは嫌だし。

 

 

 

【アオホシ。まさにあの時は青い星だったね。

青色巨星…ブルージャイアントというものを最近知ったんだ。星が光って見えるのはその星が燃えているからで、青は最も高温らしいね。余りの高温で、赤を通り越して青く燃える星。非常に儚く、情熱的で、ロックだと言えるだろう。

オープニングセレモニー選考会にも来てくれて、選考会が終わった後結果もまだ出ていないのに凄かったと感想を言いに来てくれた。あの日、彼女に私達は青く見えていたんだろうか。彼女の心をもっと燃え上がらせる体験をしてあげられたんだろうかと少し思ってしまうよ。

直近で言えば音楽祭の演奏なのだろうけれど、やはり印象的なのはトリニティ謝肉祭かな。先生がやけに詳しいのが既に伏線ではあったのだろうけれど、先生のドラムにももちろん驚いたよ。しかもゲヘナの風紀委員長とバンドを組んでいるとまで来た。

そしてそれらを差し置いての、アオホシ…彼女のサックスだ。ロックじゃない、ジャズだった。ジャズそのものだった。私達全てを震え上がらせ、黙らせ、圧倒で感動させるジャズ。最も良かった…最高だった。誰が何と言おうとね。

え?その恰好はって?ふふん、知らないのかな先生。白シャツはジャズマンの証なのだよ。】

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