アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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才能?

「ということで、ヒナちゃんを1日借りていきます。」

「嫌です。」

 

 鋭い眼光で睨まれながら拒否された。

 

「あなたが何と言おうと絶対に嫌です。拒否します。」

「アコ、これはもう私達の間で決まっていたことだから。」

「例えヒナ委員長のお言葉であったとしても嫌です!!だってトリニティに行くんでしょう!?あの手羽先学園に!!」

 

 教室にアコ先輩の絶叫に近い抗議が響く。もうトリニティ謝肉祭までにもう1週間を切っており、ヒナちゃんを借りていくことを風紀委員のみんなに伝えにきたのだがアコ先輩がそれを全く許してくれない。

 

「流石に私達としても委員長を連れて行かれるのは…」

「ただでさえ手が回ってないんだ、委員長がいてくれてギリギリになってるし…。」

「もちろんその点に関してはちゃんと代役の方を呼んでますよ?」

「代役?」

「こちらの方です!」

 

 ドアを開けるとそこにはアタシが事前に呼んで待機してもらっていた便利屋68のみなさんがいた。

 

「「「…は?」」」

「はぁ!?!?!」

 

 アコ先輩がバキバキにキレだす。なんならヒナちゃんまでもが本気かという目でアタシを見てきている。

 

「便利屋のみなさんに風紀委員長がいない間の治安維持活動を担当してもらおうと思ってます。」

「ふっざけないでください!!!あなた便利屋が私達の中でどういう扱いなのか分かってるはずでしょう!?」

「アオホシ、流石にこれは…」

「だから言ったじゃないアオホシ!!こうなるって分かってたでしょ!!」

 

 その場にいる全員に詰められる。

 

「だーいじょうぶですって。あくまで便利屋のみなさんにメインでやってもらうのは治安維持活動、暴徒鎮圧の部分ですから。書類仕事とかはちょっと溜まっちゃうかもですけど、アタシの方から万魔殿の人達に頼んどきましたし。」

「そういうことじゃなくて…っていうか、あなたが万魔殿に言ったところでそんな権限無いでしょう!」

「イブキさんを引き合いに出して、謝肉祭の日にちょっかいかけたらもうゲヘナでの演奏しないんでって言ったら快く了承してくれました。」

「アオ…それは…」

 

 アタシは使えるものは何でも使うぞ!スケバン時代からずっとそうだし!全てはヒナちゃんと先生とで成功させるためなんだから。もちろん破ったからって別に演奏しなくなることは無いけど、一応ね。

 

「私達は報酬がしっかり支払われるのならその分ちゃんと仕事はするわよ。」

「ほら、アル社長もこういってるよアコ先輩。」

「ぐ、ぬぬ……それでもっ、そいつらは犯罪者です!風紀委員が犯罪者の手を借りるなんて、できるわけが無いでしょう!」

「別に風紀委員が借りてるんじゃなくて、アタシが勝手に頼んでるだけだからそこは気にしなくていいんだけど…」

 

 アコ先輩が非常に頑固だ。別に気にすることなんかなんにもないんだけどなぁホントに。便利屋さんたちも別に風紀委員長がいないからなんかするって言っても、多分やらない…というか結果的にできない気がするし。

 

「はぁ…あのさ。」

 

 ずっと黙っていたカヨコさんが口を開く。

 

「さっき社長も言ったけど、あくまで私達はアオホシに頼まれた仕事をこなすだけ。風紀委員長がいない間の治安維持をね。私達の手を借りることよりも、そもそも風紀委員長がいないだけで風紀が守れなくなる方が問題じゃない?」

 

 おお、いつになく饒舌…。

 

「それはあなたたちがいつも問題を起こしてるからでしょう!」

「その私達があなたたちの管理下で動いてあげるってこと。風紀委員側にはデメリットなんて無いと思うけど。プライドを取るか、風紀を取るかさっさと決めなよ。」

「ぐ、うぅ…。」

 

 アコ先輩が完全に言い負かされている。いいぞ!もっと言ってくれ!

 

「はぁ…まさか便利屋とはね…。でも実力は実際あるし、私がいない間の穴埋めには十分かもしれないわ。」

「い、委員長…」

「アコ、彼女の言う通りではあるわ。ただ懸念点をあげるとしたら、あなた達が本当に指示通りに動いて従ってくれるのかって話だけど。」

「それはアタシがちゃんと釘さしてるよ。」

「どんな?」

「指示に従ってくれなかったら追加報酬ナシ。」

「追加報酬の内容は?」

「紫関ラーメンの半額チケット6枚。」

「安くない?ってか何でそんな持ってるんだ。」

 

 あそこのラーメン美味しくて…あとケモノ耳の店員さんがいてその人がかわいくて…。

 

「…それが効果があるのかは分からないけれど…アオホシがそうやって信じてるのなら私も信じる。」

「ヒナちゃ~ん!」

「ただ、これで上手くいかなかったりしたらアオホシの責任になるけれど。」

「だーいじょうぶだよ!ちゃんとやってくれるって!」

「…本当に大丈夫かしら…」

 

 アコ先輩はヒナちゃんのその言葉を聞いてすごい渋い顔をしながら了承してくれた。これでようやく練習に専念できる。もうあと1週間を切って本番までホントに数日。

 

――――――

 

 アオホシとの練習の後。残った仕事に取り掛かろうと、冷蔵庫にあるエナドリを取り出し飲もうとするが肝心のエナドリが見つからない。

 

”…切らしてたか…。”

 

 しょうがないのでエンジェルズ24で買おうとも思ったが、ただ本当になんとなく、今日は違う場所で買いたくなった。

 シャーレの外に出ると日は既に沈んでおり、月明りが進む道を照らしてくれている。

 

”…思ってたより、冷えてるな…。”

 

 季節的にはもう夜もそろそろ暖かくなってきてもおかしくないはずなのに、未だに涼しい。

 ざり、ざりと近くではないコンビニを求めて歩いていく途中、大きな河川敷を見つけた。ベンチがいくつか置かれていて、晴れの日に散歩するのにちょうど良さそうな場所だ。

 

 最近、アオホシの腕がメキメキと上がっている。目に見えて分かる成長速度だ。正直、私とバンドを組む前から上手ではあった。まだざらざらの原石ではあったが、磨けば宝石であることが分かるような。それがバンドを組み明確な目標に向けて吹き続けることでより上手になっている。それはソロに表れている。

 彼女は、音と自分が繋がるソロをたまに吹く。かつて私も目指した境地、無意識のソロとでも言おうか…とにかく自分が考えるよりも先に手が動いているような、考え全てを思いついたそばから音として出力している。

 

”彼女にできて、私にはできなかった……できない。”

 

 何故なのだろう。単純な経験で言えば私の方が明らかに上で、知識もある。なら、腕か。

 

”…才能…”

「おや。随分と項垂れていますね。」

 

 突然の自分以外の声に肩が跳ねる。

 

”あ、ツムギ。”

「こんばんは先生、良い天気ですね。月がたくさん光を渡してくれています。」

 

 椎名ツムギ、ワイルドハント芸術学院所属で、放課後スイーツ部のバンドにも手を貸してくれた生徒。普段はどことなくつかめないような雰囲気を醸し出しているが、実はデスメタルのバンドを組んでいる。

 

「少し気になる単語が聞こえてきましたので…。何か悩み事でも?」

”いや……うん。悩みと言えば、悩みかな。”

 

 ドラムをやっていることは初めて出会った時からバレているので、バンドメンバーの事を少しぼかしながら話す。そして、生徒ができて自分ができていないことも。

 

「ふむ…。」

”まぁ才能なのかななんてね。”

「……」

 

 事実十数年叩いて未だにたどり着けない場所に、アオホシは既にいる。これを才能の差と言わずして、何と言っていいのか。

 

「……才能が無かったんだ、自惚れてたんだ、私は井の中の蛙だった、調子に乗っていた……そう言ってやめていった人を何人も見たことがあります。」

 

 ツムギがいつもよりも鋭い顔つきで話す。どこか、怒っているようだ。

 

「その人達が残した作品は、どれも素敵でした。自分が技術に埋もれることなく、しっかりと前に出ている。出来ることなら、この人の作品をもっと見たい。そう思わせる作品ばかりでした。」

 

 芸術学院。普通の学園と違って、その道を目指す生徒たちが集まる学院。周りとの差に圧倒されてしまい、辞めていく人は確かに多いだろう。

 

「才能という言葉は苦手です。それは自らを縛り付ける呪言となり、成長を止める免罪符となります。」

”…私は自らを縛り付けてる、と?”

「そうでしょう。今この河川敷で話をしていることが、何よりの証拠になるはずです。」

 

 厳しくしてくれている。バッグを握っている手に、力が入っている。

 

「先生は、才能が無かったと諦める生徒を目の前にしてそれを肯定するでしょうか?」

”……しない、するわけがないね。”

「では、おっしゃっていたその方は、今何をしていると思いますか?」

”……今も吹いてるんじゃないかな。それこそ、こういう河川敷で。”

「答えは、既に出ていますね。」

”はは…厳しいね。”

 

 練習あるのみってことか…。ただ、前にバンドを組んでいた時よりかは明らかに練習時間は少ない。仕事をすっぽかして練習するわけにもいかないし……削れる時間から削ろうか。

 

”ありがとうツムギ。少し色々見直してみるよ。”

「…いえ、私こそ熱くなってしまい、失礼なことを言ってしまいました。」

”ふふ、でもそれで助かってるからね。謝ること無いよ。”

 

 まずは、スマホゲームの時間から減らしてみるか…。

 

 

 

【初めて出会った時は先生をマスコットと呼んでしまいましたが…立派な主演男優と言って差し支えないでしょうね。本人としてはそれはあまり喜ばしいことでは無いのかもしれませんが、脇役があんなパフォーマンスをするはずがありませんので。

音楽祭でも、負けるつもりはありませんでした。ただ、先生のバンドは…それぞれを支えながら、自我を出していた。バンドだけじゃない、グループの理想形です。何より、あのテナーサックス。主役も主役、どの役よりも明らかに輝く王子でした。強すぎる光は他に影を落とすと言いますが…あれは影すら作らせない眩しさを持っています。

あの音楽祭以降インスピレーションが止まりません。ついこの間2曲ほど新曲を作ってしまいました。といっても思っている以上に影響を受けていたのか、私達らしくなかったのでどちらも没にしましたがね。】




投稿めちゃ遅れてすいませんでした!もうそろそろトリニティ謝肉祭のこと書かなあかんですね
あとツムギの情報が全くないのでなんか解釈違い起きてたらそれはすいませんでした
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