アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。 作:えーすえいち
[アオホシ、今時間あるかな?]13:40
[別件でね]
[連邦生徒会の皆さんがアオホシをお呼びだよ]13:40
[とりあえず怒られるとかじゃないから、シャーレに急いで来てくれる?]13:41
ということでシャーレに来たのだが。
”おっ、来たね。それじゃ行こうか。”
「待って待って、質問とかも無理なの?」
”モモトークでも言ったけど、怒られるとかそんなんじゃないから安心していいよ。”
「だからといって連邦生徒会に呼び出されるって相当だと思うんだけど…。」
先生に質問しようとするも、行った方が早いと言って全く教えてくれない。アタシが呼び出されるとなれば、十中八九演奏のことなんだろうけど……何かやらかした覚えも無いし…署名活動のことか?
”リンちゃん、連れて来たよ。”
「誰がリンちゃんですか。……あなたが、宮本アオホシさんですね。」
先生に案内された場所は連邦生徒会の本部。リンちゃんと先生が呼んだ女の人がボスなのだろうか、周りの人達がバタバタと忙しなく動いている。
「初めまして。連邦生徒会首席行政官の七神リンと申します。」
しゃなりと揺れる黒髪の美しさと、どこかしら威厳を感じさせるその姿に無意識に背筋が伸びてしまう。自分が緊張しているだけなのだろうか。
「単刀直入に言わせていただきます。どうか手を貸していただけますか。」
「えぇ!?い、いや話を聞かないとなんとも…。」
「もちろん説明させていただきます。晄輪大祭についてはご存じでしょう。キヴォトスに存在する学園全てが集まり、武器を置いて、学園を越えて協力し、競い合う。キヴォトスの平和維持にも古くから貢献してきた、非常に重要なイベントの1つです。」
リンさんがたんたんと説明を始める。
「……ただ想像以上と言いますか、むしろ想定内と言うべきか現在のキヴォトスは混乱しています。生徒会長がいなくなり全学園の睨み合いは非常に顕著に見られるようになりました。エデン条約の締結こそいたしましたが、生徒間ではほぼそれも形ばかりのもので仲の悪さは依然変わりません。
そこで、あなたが現れました。SNS上でしかあなたの活動は拝見できておりませんが、ゲヘナ、ミレニアム、トリニティを渡り非常に大きな音楽活動をしたことは嫌でも耳に入ります。…そして署名活動に関しても。」
鋭い視線がアタシを刺す。
「音楽祭の開催に関しての署名を集めていることを、誠に勝手ながら調べさせていただきました。」
「あぁ、はい。ただこれが何か…?」
「こちらに目を通していただければ、話は早いかと。」
リンさんに右上をホチキスで止めた紙の束を渡される。表紙には大きく、キヴォトス音楽祭(仮)についてと書かれていた。
「えっ。」
「今年からあるイベントを行政委員会の主導で新しく開催したいと思いました。晄輪大祭のように、全学園の垣根を越えて競い合う。ただ今回競い合っていただくのは運動能力ではなく、それぞれの表現力です。」
思考を盗聴されたみたいにアタシが思い描いていた音楽祭が全てまとめられている。どういうことだ。
「これは…いつから…?」
「いつから、と申しますと…生徒会長が残していった書類の中にこの原案、もとい提案書が残されていました。ですので、最終的な形にしたのは私達ですが発案者は現在失踪中の生徒会長ということになりますね。」
目的の欄に、平和維持のためのイベントと大きく書かれている。生徒会長も音楽が好きだったのだろうか。
「では改めて、宮本アオホシさん。手を貸していただけますか。」
断る理由が無い。
「いいでしょう!具体的にはアタシは何をすればいいんです?」
「もともとこの書類は後に開かれる学園会議で使い、賛同者を募る予定だったのです。ですがその前にアオホシさんが署名活動を行い、音楽祭の開催について賛同してくださる方達を集めてくださいました。ですのでこの段階は既に完了していると言って差し支えないはずです。後は……」
とんとん拍子で話が進んでいく。
アタシの夢が明らかに大きく1歩近づいていることを実感し、ワクワクが止まらない。
「アオホシさん…もといアオホシさん達には、特別顧問をお願いしたいのです。」
「特別顧問?」
”あれ?私も?”
「当然です。晄輪大祭では各種目に学園の代表を選出していただき、競争をしてもらっていました。今回の音楽祭では各学園から代表のグループを1つ選んでいただき、そのグループに1曲発表してもらいます。学園を代表し、音楽を創り発表するのです。ですので、生半可なものを出されても困るのです。」
生半可って……言葉はキツイが、意図は分かる。要は全体的に質を向上させたいのだろう。ただ私は音楽知識があるわけでは無いのだけれど…
「それで、顧問と。」
「そうです。音楽祭の開催は約2か月後を予定していますので、明後日から各学園を回っていただきたいと思っています。明日には学園会議を開き、今回の件を通知いたしますので。」
”私達の感覚で指導をしていって良いの?”
「そうですね。先生がいればその塩梅も調整してくれるはずですので。」
先生とリンさんの信頼関係が透けて見える。というかがっつり見える。
諸々の打ち合わせを終えて、生徒会室を退出する。どっと疲れたような感覚で思わず長い溜息がこぼれた。
「特別顧問かぁ……リンさんはジャスのみんなで行ってほしいのかな?だとしたらヒナちゃんがかなりタイミング難しいと思うけど…」
”う~ん、もともと私に頼もうとしてたことみたいだし、一番必要なのは私なんじゃない?”
「……忙しいね。」
”はは、もともと無い時間がもっと無くなっていくよ……。”
ただでさえ普段から生徒の問題を解決して、アタシたちとバンドを組んでから練習とクラブでの演奏とで既にカツカツな感じだったのに、加えて全学園の音楽指導…。
”まぁ先生だからね、このくらい忙しいのも普通だよ。”
「……できることあったら言ってくれて良いからね?」
”お、じゃあ今日の手伝いでもしてもらおうかな。”
ちょっとだけでも負担が減ってくれればいいんだけど…。
――――――
『先日サンクトゥムタワーにセミナー、万魔殿、ティーパーティー、玄龍門、陰陽部、レッドウィンター事務局など、各学園の代表が招集され緊急会議が開かれた。会議終了後、連邦生徒会首席行政官の七神リンによる記者会見が行われた。
「先ほど緊急学園会議を開き、今後開催予定の行事そして追加予定の行事についての話し合いを行いました。そして各学園の合意を得た為、新たな行事を開催したいと思います。」
行政委員会主導で新たに開催される、第2の晄輪大祭。その名も、晄輪音楽祭。学園の文化の交流、実力の競争の目的を持つそれを晄輪大祭と交互に開催し、キヴォトス全体の平和維持を計画しているとのこと。』
ニュースアプリを閉じ、ギシリと背もたれに身を預ける。先日の緊急会議に仕方なく参加し伝えられたのは、ニュースの通り晄輪音楽祭についてと、晄輪音楽祭に向けて、特別顧問に各学園を回って指導してもらうといった内容。
アオホシの行動はゲヘナのトップである私の耳には嫌でも入ってくる。トリニティ謝肉祭で演奏をしたことも、それからずっと先生と空崎ヒナと行動を共にしあらゆる場所で演奏をしていることも。
「……今日は風紀委員会にちょっかいはかけないんですか?」
「ム…イロハか。ちょっかいとは失礼だな、私は風紀委員会に仕事を与えてやっているんだ。むしろ感謝されたっていいはずだ。」
今までカタブツだった風紀委員長があの有様だ。公務をほっぽって……はいないが、それでも前より精力的に活動するようになっている。
イブキと共にあの音を聴いた日から、ずっとおかしくなっている気がする。風紀委員会を構っている余裕が無くなったような。順位づけるのなら、最優先がイブキ、次にキヴォトス征服、その次に……音楽。
何故だ!?この私が、あのただの音楽狂人にこんなにまで心が乱されたというのか!?
「ありえん……この私が…ありえん…」
(今日はいつにもまして百面相ですね……面白いしこのまま放っておきましょうかね。)
コンコン、とドアがノックされる。
「客人か…入れ。」
ドアが開けられそこに立っていたのは、件のアオホシと先生だった。
”マコト、久しぶり。”
「マコト先輩お疲れ様で~す。イロハ先輩も、お疲れ様です。」
「はいお疲れ様です。イブキなら今は遊びに行ってますが。」
”いや、今日は別件。ちゃんと話すことがあるから来たよ。”
「……イロハ、茶でも出してやれ。しっかり腰を据えて話そうじゃないか…。」
「はい、お茶です。」
「ム、紅茶じゃないのか?」
「切らしてるの忘れてました。また明日買ってきますんで。」
今部屋にいる4人分のお茶がそれぞれの前に置かれる。
「それで、話とはなんだ。」
”うん、昨日の会議に出席はしてたんだったら大体検討はつくと思うけど……”
「…晄輪音楽祭の開催と、それに向けての特別顧問の派遣……。待て、まさか…」
「はいそーです。アタシたちが特別顧問になりました。」
「何だとぉっ!?」
思っているより大きい声が出てしまった。
「ど、どしたんすか。」
「あ、あぁ…いや…特別顧問、そうか。てっきり私としてはゲヘナを代表してお前たちがでるものだとばかり思っていたからな。ただ特別顧問になってもお前たちはゲヘナ代表として出れるだろう?」
「いや、先生が学園代表のメンバーとして出るのは無理らしいのでアタシたちも学園代表にはならないっすね。」
「は……?」
”だから、それについても話に来たってこと。”
予定が狂ってしまった。ゲヘナ学園の代表としてアオホシたちを出場させれば優勝は簡単だと思っていたのに…いや、考えれば当たり前か…。
”それで私達の提案としてなんだけど……万魔殿の皆で出場してみない?”
「「…はぁ!?」」
先ほどまで無関係だとでも言わんばかりに無言だったイロハも流石に声を荒げる。
「ちょ、ちょっと待て先生。私はやらんz」
「あーーそういえばー!」
誘いを断ろうとした途端アオホシがわざとらしく声を出す。
「トリニティに放課後スイーツ部っていう部活がありましてー。前のトリニティ謝肉祭のオープニングライブにバンド組んで出演してたんですよねー。」
「…それがどうした。」
「いやーその人達初心者でー、わずか2週間でライブ完成させたんですよねー。」
「だからそれがどうした!私達には関係ないだろう!」
「えぇ?いや別にー。トリニティの普通の部活動をしてる人達で、楽器も触ったこと無かった人たちが2週間でできたことをわざわざゲヘナ学園のトップともあろう方が辞退しようとしてるのかなーって思いまして。」
「……は?」
一般人ができたこともできないだと?この私達万魔殿が?舐められたものだな……
「いやー万魔殿っつっても大したことないっすねー。一般人が2週間でできたこともやろうとしないんすからねぇ先生?」
”う、うーん…まぁ…うん…いや…うん。”
「…マコト先輩、乗らないでください。安い挑発ですよ。」
瞼がピクピクしてきた。こいつ、同じゲヘナ生でしかも風紀委員会ともだいぶ関わっているくせに万魔殿を軽視していないか?
(……ダメそうだなこりゃ。)
「イブキさんだったら多分やりたいって言うと思うけどなぁー。」
「イブキ…そうだイブキだ!イブキがやりたいかどうかに決まる!」
「ただいまーー!」
「イブキとサツキただいま戻りました~…ってあら?」
「あーー!先生とアオホシだぁ!」
ナイスタイミングだイブキ!よく帰ってきた!!
「今マコト先輩と話してましてね、今度キヴォトス全体で音楽祭が開催されるんですよ。」
「ほんと!?じゃあアオホシも出るの!?」
「アタシたちはどうなるか分かんないですけど、ゲヘナ学園の代表として万魔殿で出演してみないかっていう提案を今マコト先輩にしてたところです。イブキさんはどうです?やってみたいですか?」
「やりたーーい!!」
「ぐわぁぁ!!!!」
イブキーーーーー!!!
”じゃあゲヘナ学園の代表は万魔殿ってことでいいね。”
「頑張れマコトせんぱーい。」
「イブキのためだ!イブキのために仕方なくだ!!」
「それじゃあ、明日から諸々決めて練習に入ってもらいます。アタシたちはあくまで特別顧問ってだけだから、どういう発表をするのかの口出しはできないし、できるのも練習の手伝いとか指導くらいだから、頑張ってください。」
こんな…こんなはずでは……。
「……マコト先輩。」
「……なんだ。」
アオホシがコソコソと耳打ちしてきた。なんだ、また馬鹿にする気か。
「音楽祭は全学園が参加するんです。文字通り全学園。」
「知っている。それがどうした。」
「まだ分かんないすか。ここで先輩たちが頑張って、全学園の前で良いところを見せればめちゃめちゃ人気者になれるかもしんないんですよ。」
「…そんなことは分かっている。だがそれは私自らがやるよりだな…」
「そこで活躍したらイブキさんもマコト先輩のこともっと好きになるかもしんないでしょ。」
「!!!」
「というか学園のみんながやっぱゲヘナすげーって見直すかもしんないですよねー。」
「……キキキッ!その通りだな。最初からそう言えば良かったものを、アオホシ貴様も策士なやつだ…狙いはそれだったというわけか!いいだろう、キヴォトス征服計画のために必要なものだと思えばこの程度のこと、へでも無いわ!」
(ホントにちょろいなこの人。)
待っていろ晄輪音楽祭…この私が!この万魔殿が必ず頂点を取ってみせるぞ!!
「イロハ先輩案外嫌って言わないんですね?」
「こうなりそうな予感はしてましたし、イブキがやりたいって言ってるんですからやらないとダメでしょう。」
”これで良かったのかなぁ……。”
一昨日からタワーレコードとBLUE GIANTのコラボが始まっております
もちろん昨日行ってきました、缶バッチとアクスタとCDを買ってきました
大満足です
今回マコトをだいぶギャグ要員みたいに書いたんですけれどこれで良いのかななんて思ってたりしてます