アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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職人では無くて、マイスターだ

「アオホシ発見です!!」

「アリスッ!再開が嬉しいのはアタシもだけど突進するのはやめぐはぁぁ!!」

 

 みぞおちに勢いよくアリスの頭がめり込む。

 音楽祭開催に向けて特別顧問となり各学園を回っているわけだが、ちょうどミレニアムへと向かう道中で偶然ゲーム開発部に出会った。

 

”久しぶりみんな。”

「先生久しぶり!」

「お久しぶりです先生。」

「お、お久しぶりです…!」

 

 話を聞いたところ、みんなはゲーム制作が行き詰ったところで気分転換として外に来ていたらしい。そして偶然にもアタシたちと出会ったわけだ。

 

「それで、先生たちはミレニアムに何しに来たの?」

”ニュースアプリとかにはもう掲載されてると思うけど、音楽祭についてだね。セミナーと話しに来たんだ。”

「学園の代表者を集めて発表するって話ですよね。他の学園も気になるけど、うちの学園は確かに誰が出るんだろ…」

「ミドリたちが出たっていいんだよ?」

「えぇっ!?う~~ん…」

「アリスは出てみたいです!」

「で、でも…全学園集まるんだよね…?もし私達が出ることになったら、大勢の人が私達を見るってこと…?」

 

 ユズが顔を青白くさせながら言う。そりゃ発表だから、見ないわけ無いけれど。その旨をユズにそのまま伝えると、きゅぅと言いながら倒れてしまった。

 セミナーに向かうついでに、ミレニアムへ一緒に帰ることにした。ミレニアムタワーを昇り、ゲーム開発部の部室へ向かおうとすると、ドアの前に人影が見えた。

 

「……あっ!ようやく帰ってきたわねモモイ!」

「げっ、ユウカ!?何でここに!?」

「あんたがいつまでたっても部活動予算案の書類出さないからでしょうが!あんたが出さないだけで全部の作業が一旦滞るんだから、ほら早く持ってきて!」

 

 は~いと頬を膨らませながらモモイたちが部室へ戻っていく。

 

「はぁ……こんにちは先生、アオホシちゃん。」

”こんにちはユウカ。この後セミナーに向かうところだからちょうど良かったよ。”

「音楽祭についてですよね。モモイから貰った後すぐ行くので、部屋で待っていてもらえますか?」

 

 ユウカ先輩の言われた通りセミナーの部屋に行く。適当にソファに座りながら待っているとユウカ先輩がノア先輩と一緒に帰ってきた。

 

「お久しぶりです、アオホシちゃん。」

 

 ノア先輩がさっとお茶を淹れてアタシたちの前に並べる。

 ミレニアムでライブをしたことがもはや昔のように感じるくらいに懐かしい。あとでヒマリさんたちにも挨拶をしに行こうかな。

 

 

 

「なるほど…分かりました、こちらの方でも参加者を募っておきます。」

”ユウカたちがやったって良いんだけどね。”

「興味はありますが…それ以上に他の仕事もありますし、何より先生たちの演奏を見てるのでハードルが高いですよ…。」

「あれ?アタシたちが悪い?」

「私も同意見ですね。ハードルが高いのもありますが、聴いている方が楽しいかなと今はまだ思います。」

 

 やはり本当の初心者が始めるのは流石に難易度が高いか……いや、多分これが普通で放課後スイーツ部やマコト先輩たちが変なんだろう。きっとそうだ。

 

「そういえばアオホシちゃん、この後お時間あるかしら?」

「今日は特に無いのでいくらでも行けますよ。何かありました?」

「ウタハが、アオホシが来たらすぐに連絡してくれって言ってて……もしよければエンジニア部の方に顔を出してあげてくれないかしら。」

 

 せっかくなので先生も連れて一緒に行くことにした。エンジニア部の工房から、カンカンカンと金属を打つような音が聞こえてくる。何か作っているのだろうか。

 アタシたちが来てもずっと打ち続けており、それもかなり大きな音なので来客がいることにも気づいていないようだ。

 

「ふぅ……ん?おぉ!先生に、アオホシも!」

 

 数分間待ってようやく手が止まり、アタシたちに気づいたらしい。

 

”久しぶり、ウタハ。”

「いやすまないね、思った以上に熱が入っていたようだ……で、何か用かな?」

「ユウカ先輩からウタハ先輩がアタシを呼んでたって聞いたから来たんですけど…」

「ん?言っ…………たな。うん、確かに言っていた。あぁそうだ、サックスを見せてくれないか頼もうとしていたんだった。」

 

 見せることくらいは構わないので、楽器ケースから取り出してウタハ先輩に渡す。何枚か写真を撮り、中の構造を知りたいというので分解して見せる。

 

「……うん、ありがとう。OKだ。普通だね。」

「そりゃ普通ですよ。」

「凄く普通の、サックスだ。アオホシの凄さを改めて強く感じたね。」

”そういえば、さっきは何を作ってたの?何かを打ってるような音がずっとしてたけど。”

「あぁ、えーとあれかな。ドラムのシンバルさ。」

 

 UFOのような形のした金属の円盤を指さす。

 

「ミレニアムでアオホシがライブをして以来、音楽系の発明に火がついてね。前に音量マキシマムくんは作っただろう?そこから発展して自分たちで楽器を作れないか試してみてるんだ。ちなみにヒビキはギター、コトリがサックスを作ろうとしている。」

”それはまた凄いことをしてるね…”

「こうして作ったからこそ分かるが、圧倒的に鋳造の方が楽だよ。鋳造という金属を溶かし型に入れて作る方法と、鍛造というシンバルの形を作った後叩いて金属の厚みを変えて音に深みを出す作業があるんだ。ただ数回叩くだけじゃ当たり前だが音が変わるはずも無い。何時間叩いてたかな…ようやく終わったところだよ。おかげで腰が痛くて痛くてしょうがない……あの全知の車椅子を今だけで良いから貸してほしいね。」

 

 デコボコにへこんでいるシンバルをさらりと撫でる。

 

「それで完成なんですか?」

「いやまだあと数工程残ってるね。……良かったら見ていかないかい?作業中の話し相手になるついでにさ。」

 

 一応危ないからとゴーグルを渡されたのでそれを付けて、少し遠目に置かれた椅子に座りなおす。

 

「今から、研磨の作業に入る。とりあえずまず、全体を磨く。平にするって言ったらいいのかな。」

”シンバルを作ったのは今日が初めて?”

「そうだね。」

「実際作ってみてどうでした?」

「うーん……圧倒的に面倒くさかったね。道理でマシーンでやるのが普通になっていってるわけだし、作る人もだんだん減っていってるわけだよ。」

 

 目線をシンバルに向けたまま、少しの会話が続く。

 

「衝動で動いてここまで来てしまっているんだ、引くに引けなくなってしまった……っと、よし。全体を磨き上げるのはここまで。次は表面に溝を作っていく。この溝の出来具合で音質が変わる…らしい。」

 

 先ほどまでの作業に比べてより集中する作業だからか、いくつか口数も減っていく。

 作業場に金属を削る音が音程を変えて響く。汗を垂らしながら、シンバルと真剣に向き合うウタハ先輩が今はなによりかっこよく見えた。

 

「よし……よし。溝はできた。そして最後に、表面をしっかり削ぎ落していく。どれだけ大事そうに見えても、削る。」

 

 何十分、何時間削っていたのだろう。日が傾き始め、だんだんとオレンジ色が作業場にも差し込んでくる頃。ようやく完成したようで機械の回転を止め、シンバルを取り外す。

 

「ふぅー…。一応、これで完成だ。出来がどうなれば成功なのかは知らないけれど…先生、叩いてみてくれるかな?」

”ウタハが最初に叩かなくていいの?”

「さっきも言っただろう、私は作るだけで音楽を知ってるわけじゃないんだ。」

”…じゃあ、遠慮なく。”

 

 スタンドにシンバルをセットし、スティックを持つ。

 手首の許す限りのスナップで

 スティックを振り下ろす。

 

 ただ木製のスティックと加工された金属の板がぶつかっただけなのに、明らかな強さを感じさせる音が作業場にこだまし音がずっと耳の中に残る。

 

「それで…どうかな?出来の方は。」

”……うん、最高だ。”

「なら良かった。それは先生に譲ろう。」

”えっ!?”

 

 シンバルに釘付けだった先生が思わず顔を上げる。

 

「同じものが作れるかは分からないからね、私の手元に置いていても腐るばかりだ。それならドラムを使う先生が持っていた方が何倍も良いだろう?」

”い、いやでもこれを無料で貰うのは……。”

「ならそれを使った演奏が報酬ということでお願いするよ。」

”えぇ…でも、それは…”

「私はマイスター。発明にお金は必要だが、お金のために発明をするのではない。私達は常にロマンを追い求めているのだ。そしてこのドラムを作るのも、自分が作ったドラムが演奏に使われたらどんな嬉しいだろうと考え、作り始めただけなのさ。だから、むしろ貰ってくれ。」

”……そこまで言うのなら、分かった。ありがたく使わせてもらうよ。”

「もう日も暮れてきてるな…続きは明日に回そう。残ってくれてありがとう先生、アオホシ。」

 

 作業場の掃除をして、一緒に帰ることにした。




MOMENTUM2巻好評発売中!
ちなみに3巻に玉田が出るのは既に予告されています、ガチで楽しみです
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