アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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赤き冬の行進曲

「シャーレ当番宮本アオホシ入りま~す。」

”……お、来たねアオホシ。”

 

 ジッとスマホに向けられていた先生の顔がアタシの方を向く。

 

「どしたの、熱心にスマホ見ちゃって。」

”トリニティとアビドスの子たちから連絡が来てね…あとRABBIT小隊からも今来たね。”

「モテモテだぁ。肝心の内容は?」

”トリニティからは出演者が既に決定したって内容で、アビドスとRABBIT小隊からは出演ができないって内容だね。”

「え。」

 

 想定していなかったと言えば嘘になるが、起きてほしくなかったことが起きてしまった。

 

”しょうがないかもね。アビドスもRABBIT小隊のみんなも、音楽祭に集中できるような環境下じゃないのは確かだし。”

「そう、だけど…」

”…悔しい?”

「悔しい、のかな。出来ることなら、学園の全員が出てほしかったのはそうだけど……」

”まだ初回だからね、全てが上手くいくとは限らないさ…。今年やって、できなかったことを反省点にして次やるときに活かせばいい。それはアオホシがヒナにも言ったことでしょ?”

「…うん、そうだね。」

”それじゃ、この仕事終わったら新曲の練習しよっか。”

 

 

 

 

 翌日。

 先生からの特別顧問の時間だとのモモトークが入る。シャーレで先生と合流し、今回の目的地へ出向くことにしたのだが。

 

「ねぇ、先生。アタシたち今どこに向かってんの?みるみる窓の外が銀世界になっていくんだけど。」 

 

 電車に揺られながら目的地に着くのを待っているとトンネルに入り、その抜けた先は一面に雪が積もっていた。そろそろ暑くなっていく時期のはずなのに、未だに雪が残っている。

 

”そういや言ってなかったね。今日はレッドウィンター連邦学園に向かってるよ。”

「レッドウィンター…道理で…」

 

 レッドウィンター連邦学園。このキヴォトスの北端にある学園で、学園領土としてはこのキヴォトスの中で最大面積を誇る。だが、一年中雪が積もっている影響なのか領土の端の方は住宅などが全く見られない。事実トンネルを抜けても森や川が多く見られる。あと熊飛び出し注意の標識もたまにある。熊かぁ……確か1人だと銃あってもギリ負けなんだっけ……。

 学園の最寄り駅に着き、電車から降りた途端寒風が足元を通り過ぎていく。

 

「さぁむっ!!!」

”いつ来ても寒いねここは……”

 

 キヴォトスの北端に位置するだけある寒さが肌を突き刺す。寒いという割には口ぶりが余裕そうな先生の方を見ると、いつものスーツに少し厚めのコートと、手にはカイロまで持っていた。

 

「…先生ずるくない?アタシはここに来るの聞かされてなかったんだからね?」

”大丈夫だよ、ちゃんとアオホシの分のカイロもあるから。”

「カイロ1枚でカバーしきれんでしょ!!!」

 

 無いよりはマシなので、先生が渡してくれたカイロをひったくるように取り温まるのを待つ。暖を少しでも取るために、先生にピッタリくっついていきながらレッドウィンター連邦学園へと向かうことにした。

 

 

「でかっ……」

 

 正門から見える景色だけで、レッドウィンターの領土が圧倒的に大きいのが分かる。正門から最も近い場所にあるのが市場というだけで、ゲヘナやトリニティとは全く違うのを実感した。

 

「止まれ!外部の者か?」

 

 警備員…もはや門番にすら見える風貌の、レッドウィンターの制服を着た学生に止められ先生が名札を見せシャーレの者であることを伝えると、難なく通行することができた。先生の後を着いていき、校内へ入る。

 

「おぉ~~……広いね。」

”いつ来ても広いね。他の学園も負けてないとはいえ、レッドウィンターは格別だ。”

「全体、進めーーーーっ!!!」

 

 突如大きな声が広場の方から聞こえ、何事かと振り向くと白い軍服のような制服を着た学生たちが、等間隔で全く足並みを乱すことなく行進していた。集団行動というやつだろうか。

 

「全体、止まれーーっ!!!」

 

 どれほど遠くにいても聞こえてきそうなほどの声で指示が出される。団体に解散の指示が出されぞろぞろと校舎の方へと学生たちが戻っていき、先ほど大きな声で指示を出していた金髪の学生と紫がかったピンク髪の背の高い女性、そして白いひげのようなものを付けた小さな学生が広場に残っていた……。ひげ?何かを見間違えたかと思い目を擦ってもう一度見てみるが、どう見ても白いひげがついている。なんだあれ。

 流石に視線に気づいたのか3人組がこちらに振り向き近づいてきた。

 

「おぉ~カムラッド!来ていたのか!」

「先生、よくいらっしゃった!」

「お疲れ様です、先生。ところでそちらの方は…?」

”こんにちはチェリノ、トモエ、マリナ。出来れば中で話がしたいんだけどいいかな?”

 

 先生の提案により、ようやく寒風に晒されずにすみそうだ。校舎へと入ると、廊下や壁にりっぱな白ひげを蓄えた非常に男らしい人が銅像や絵画として飾られている。制服や白ひげの特徴からしてチェリノさんの親族らしき人なのだろうか?にしても随分かっこいい…ドラマの俳優とかにいそうな顔つきだし都市の長っぽさというか、荘厳さが出ている。

 

「この絵の人かっこいいですね。」

「ふふん、そうだろうそうだろう!このカッコよさが分かるとはお前も話が分かるやつのようだな!私の将来の姿はこうでなくては!」

 

 …え、将来?思わず目の前で歩くチェリノさんと絵画を交互に見比べてしまった。すると隣を歩いているトモエさんから何か問題でもありましたかと言わんばかりのオーラを感じ、何も言わないことにした。

 

 

 

 カチャリとそれぞれの机の前にカップとソーサーが置かれ、良い香りの湯気が漂う。

 

「では改めて自己紹介といこうか。この私がレッドウィンター連邦学園の生徒会長であり、環境美化部部長兼、書記長兼、清掃部部長兼……えーと……」

「運動部代表兼、風紀委員長兼、給食部部長です会長」

「運動部代表兼、風紀委員長兼、給食部部長の連河チェリノだ!肩書から分かる通り凄いことはほぼ任されているからな、こうして出会えたことを光栄に思うと良い!」

「秘書室長をしています佐城トモエと申します。」

「保安委員会委員長の池倉マリナだ。よろしく頼む。」

「ゲヘナ学園1年生、音楽祭の特別顧問をしています宮本アオホシです。」

 

 どっかりと椅子に腰かけ、ひげの先をすりすりといじる。何度見ても肖像画の絵とは大違いで、可愛らしい姿だ。

 

「で、カムラッドとお前は何をしにきたのだ?イワン・クパーラの件では世話になったからな!このチェリノ様は受けた恩を忘れることは無いぞ!」

”さっきアオホシからも言ってくれたけどね。今回は音楽祭の特別顧問としてやってきたんだ。”

「なるほど!音楽祭か!……音楽祭って何だっけ…」

「以前サンクトゥムタワーで行われた緊急会議で伝達されたものです。晄輪大祭と似た形で行われる音楽祭で、全学園から代表者を出演させてほしいとありました。」

「あぁそれか!うむ当然分かっていたとも!それで、カムラッド達は全学園を回っているということか。」

「それで、指導を必要としているところにはアタシたちから直接音楽指導をしていこうということなんですが……出演者に候補とかはあったりするんですか?」

 

 レッドウィンターへと向かう途中の先生の話によると、チェリノさんの機嫌を損ねた者たちが皆粛清を受けているらしく、かなり独裁的な内政が行われているとのこと。前にレッドウィンターに訪れた時も目の前で複数人が粛清されていたらしい。そうなると、自由な活動はチェリノさんの機嫌を損ねないものしか残らないし、基本隠れながらやらなければならないだろう。音楽活動とかも、検閲の対象になるだろうし軽音楽部などがあるようにも見えなかった。

 

「ふふふ……候補はある!ただ最近はその活動に制限をかけていたからな。前ほどの実力があるかは分からないが…保安委員会に音楽隊があるのだ!」

「3か月ほど前に会長の昼寝を騒音で妨げたため粛清対象となり、活動時間を朝の4時から9時までに制限しましたね。ついでに旧校舎の清掃も粛清内容に後に追加されています。」

 

 うーん音楽隊があったことを喜べばいいのか既に粛清されていたことを悲しむべきなのか。

 

「音楽祭には保安委員会の音楽隊を出そう。ただこのレッドウィンター連邦学園生徒会長として、一度行った粛清内容を変えるというのはこの私の権威に関わることなのだ。活動可能な時間帯は変えられないということは留意しておいてくれ。」

 

 さらに時間制限までかけられてしまった。朝の4時から9時の間しか音楽指導ができないのか。

 

「せっかくだ。マリナ、カムラッド達を音楽隊のところまで案内してやってくれ。」

「はい、会長。」

 

 マリナさんと一緒に執務室を出て音楽隊のもとへと向かうことにした。同じ保安委員会として道中でマリナさんに話を聞いてみたが、保安委員会の中でも腑抜けの集まる場所とされていたらしく、そこに行く者はいわゆる保安委員会の中でも落ちこぼれのような扱いを受けているらしい。

 

「ただ彼女らも別に会長に逆らったり、革命を企てていたりするというわけでは無いからな……特別大きい問題を起こしたことは無いんだ。粛清に関してはタイミングが悪かったとしか言えないな……よし、着いたぞ。ここが音楽隊に与えている拠点だ。」

 

 旧校舎の清掃を任すついでに旧校舎に部屋を持ったらしく、練習もここで行っているとのこと。ところどころ隙間風が入ってきたりと、練習をするには少し心もとなくも感じるがほこりが貯まっていたりするというわけでは無く管理は行き届いている印象を受ける。

 

「入るぞ!シャーレの先生たちがおいでだ!」

 

 ノックをしてから勢いよくドアを開けると、そこには7人余りの学生が座ったり漫画を読んだりと自由きままに過ごしているのが見えた。

 

「んん…あれ?マリナ委員長じゃないっすか。お疲れ様で~す。」

 

 だらりとクッションに寝転びながら気だるげに話す。先ほど広場で見た他の保安委員会とは確かに全然違う。

 

「貴様ら、まただらけて…旧校舎の清掃は終わったのか!?」

「終わってるからだらけてんすよ委員長、そうカリカリしないで~。」

「ならもっと他に保安委員会としてやるべきことがあるだろう!戦闘訓練を自分たちからしようとは思わないのか!」

「え~だって練習時間は4時から9時までなんですし、戦闘はウチらからっきしですし~。良いじゃないすか、ちゃんとやるべきことはやってんすから……ん?その後ろの方達は?」

 

 ようやくアタシたちに気づいたようで、寝転んだ姿勢からちゃんとクッションに座る体勢に戻る。チェリノさんの紹介で音楽隊に会いに来たことを伝え、音楽祭での出演についての説明をした。

 

「は~なるほど。それでウチらを、ですか。」

”学園の代表を選出して、全学園が発表をするんだ。それで、チェリノからの紹介もあるしよかったらどうかと思って…。”

「いーっすね。ただ会長から聞いてはいると思いますけど、ウチらの練習時間めっちゃ制限されちゃってるんすよ。」

”そこがネックだよねぇ……”

「なんで、明日の朝ウチらの練習聴きに来てください。指導するかしないかはあなた達に任せますんで。出演に関してはOKです。ウチらはどこだろうと演奏するだけなんで。お前らもそれでいーよな?」

 

 りょうかーいと口々に後ろでゲームをしたり漫画を読んでいた人たちが返事をする。

 

「あなたがリーダーなんですか?」

「ん…そっすね、一応音楽隊の隊長はウチです。他がめんどくさがってやりたがらないだけですけど。それじゃ、明日の朝4時から9時の間いつでもいいんで来てください。ウチらは変わらず練習してますんで。」

 

 とりあえずその日は先生と一緒に帰ることにした。明日の4時に間に合うようにするためにシャーレの仮眠室を貸してもらうついでに、一緒に練習をしてから出発の時間を待った。

 

 

 

 朝4時。日はまだ昇っておらず、毎日6時半まで寝ているアタシは目がちょっとしか開かない。眉間に皺を寄せ、電車に揺られながらレッドウィンターへ先生と一緒に向かう。途中眠すぎて頭がガクガクしていた。

 

「……着いたぁーっ……」

”眠い?”

「いや、電車である程度寝れたし……うし、行こっか。」

 

 隊長さんが言っていた旧校舎へと向かうと、楽器の音が聴こえてきた。本校舎とはだいぶ距離があるためギリギリ音は届かないだろうけれど、それでもかなりの音が旧校舎からは漏れていた。チェリノさんの昼寝を妨げたというのもある意味納得がいったというか、常にこの音量で練習をしているのかと思った。レッドウィンターの雪が、彼女たちの音を吸収し静かに降り注いでいた。

 旧校舎へ入り、音の出所の部屋へと進んでいく。だんだんと音圧が大きくなっていき、太鼓の音が心臓を響かせて貫いていく。満を持して扉を開くと、トランペットたちの音が勢いよく部屋の中を反響していた。

 

”……なるほど、ブラスバンドだね。”

「ブラスバンド?」

”ラッパ隊とも言われるやつだね。金管楽器と打楽器で構成されている音楽隊で、金管楽器の種類が多いのが特徴のバンドだ。”

 

 奥から順番にコルネット、チューバ、ホルン、トロンボーン、ユーフォニアムとあって、後ろにスネアやバス、ティンパニが並んでいる。他にも種類はあるらしいがここからだと分かりづらい。

 ただ特筆すべきはそれではなく、この数々の金管楽器たちが織り成す音色の違いだ。人数がある分音の厚さが変わるのは当然といえば当然なのだが、低音から高音への移動が滑らかな感じが聴いていて気持ちいい。

 

「……ストップ。バスずれてんぞどうなってんだ。あとトロンボーンもうちょい早くしろ。もっかい最初からな。」

「「「「はい!!」」」

 

 隊長さんの雰囲気が昨日見た感じとは全く違う。リーダーの雰囲気をしっかりと感じさせ、全員の統率が取れている。チェリノ会長に従う保安委員会の音楽隊として全く名に恥じない演奏だと思う。

 練習に一区切りつくまで一旦部屋の中で待つことにした。何度も何度も演奏を繰り返し、ようやくみんなが椅子から立ち上がったところで、隊長さんと話をする。

 

「ん、おぉ先生と…アオホシさんだっけ。よく来てくれたね。」

”練習は一旦休憩かい?”

「いや、この後は外で行進とかの練習やって、あとは筋トレかな。動きながら吹くのは体力いるから。そんで筋トレ終わったら自主練9時までやって終了。」

「……ぶっ続けでやるってことですか?」

「そりゃそうすよ。元々は朝と昼と放課後に休憩挟みながら練習あったけど、それが5時間まで短縮されてんだから休む暇無いね。」

”随分とハードなんだね。”

「ハード…なんすかねぇ。みんなついてこれてるし…」

”普通は4時から9時の間、ぶっ続けで演奏と筋トレはできないよ。私もアオホシも多分無理だと思う。それだけ君たちはこの音楽隊に本気ってことなんだね。”

「本気……そうっすね。本気なのは間違いないっす。いつでもウチらは、このレッドウィンターで最高の音楽隊と思ってますから。」

 

 

 

 行進の練習と筋トレを見学してから、またシャーレへと戻った。日がようやく昇り始めても、彼女たちは9時ピッタリまでずっと練習をしていた。彼女たちの音楽祭での演奏がより一層楽しみになった朝だった。

 

【ウチらはレッドウィンターにおいて最高の音楽隊です。それは今でも同じっす。ただ、音楽祭の優勝、というか…誰が勝ちとか、形式的には無かったとしてもあの場において最高だったのは……間違いなくアオホシさんたちだったと思うっすよ。そりゃゲヘナの発表も凄くなるわけだって感じでしたしね。アオホシさんがいて、音楽に無関心になることは多分…無理だったんじゃないんすかねぇ。流石の万魔殿の方達も。

というかそうだ。最初に会ったときの頃思い出しましたけど、結局先生たちウチらのこと指導しなかったっすね。教えること何にもないやって言って。実際そうだったからって……ウチら正直やっと先生とかしっかりした人に教えてもらえる~って思ってたのにいざ練習風景見せたら「君たちはもう十分だ!」みたいな腕組んで言いそうなこと言われてちょっと困惑したんすからね!?あそこで私達が指導を加えたら雑音になっちゃうって…まぁ結果的に成功したっちゃしましたし…良かったといえば良かったんすかねぇ…。チェリノ会長からも粛清内容ちょっと緩くなりましたし、その点に関しては非常に感謝してます。マジ感謝っす。】




ゼンレスゾーンゼロのせいで投稿遅れました!
バンドとかでもマーチングバンドとかブラスバンドとか結構あるのを今回の話で調べて初めて知りました。youtubeとかにも結構上がってたので見てみたら凄いかっこいい…。こういうのを見ると自分も楽器できたらなぁと感じますね
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