アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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好敵手

「こんにちは!JASSです!」

 

 1曲目の演奏を終えた後アオホシがマイクを持ち、MCを進行する。客席の方を見れば、空席は数えるほど。

 クラブのある自治区内の住民はもちろん、学生もチラチラといるのが見える。スケバンやヘルメット団らしき子もいる。色んな年齢、職業の人達が私達の演奏を聴きに来てくれているのを、改めて実感した。

 

(そろそろ、ステップアップの時期だろうか……。)

 

 アオホシは常に成長し続け、同じソロが全くない。日ごとの色が存在し、それが客を魅了し続ける。客も3割ほどはアオホシの演奏を聴きに来ているはずだ。

 ヒナもバンドでの演奏は初心者だったはずなのに、ミスの回数は大きく減って私達の演奏に十分ついてこれている。ソロは未だ研究中といった感じだが、それでも十分に自分の形を保った演奏ができている。わずか数か月でこの上達具合なら、もう少し難しい曲でもできる気がする。そろそろ新曲の作成に移ってもいいだろう。

 

「それでは、2曲目に入りたいと思います。」

 

 ドラムスティックを構え、心を落ち着かせる。今日も成功させる。

 

 

 

「マジでかっこよかったです!!サインお願いします!!」

「ありがとうございます。」

 

 今日の演奏が終わり、アオホシ達にファンが集まる。キヴォトス一のジャズプレイヤーになるのも、そう遠くは無いのだろう……。

 

「先生。」

 

 声をかけられ、振り返る。アオホシと同じくらいの背丈で、スクールカーディガンを着た学生がそこにいた。

 

”やぁ、ツムギ。”

「あの夜に出会って以来ですね、お久しぶりです。最近人気のジャズバンドがいるとのことでやってきたのですが…まさか先生たちだったとは。」

 

 トリニティ謝肉祭と、謝肉祭前日の夜に出会って以来だ。ここにいるということは私達の演奏を聴いてくれていたのだろう。同業者として今回の演奏の感想を聞いた。

 

「ふーむ……。一言で言い表すのは難しいですね。「モーメント」…勢いがあるのは間違いないでしょう。個々の演奏としても、このバンドの人気の上がり具合としてもですね。少なくともワイルドハントでは既に噂にはなっているくらいです。」

 

 ふとツムギの横を見ると、同じ制服を着たジト目の子がいた。髪はポニーテールで、ツムギと比べると幾分か背が高い。私の頭からつま先をじろじろと見てから、アオホシとヒナに目線を移す。

 

”その、そちらの子は…?”

「友人です、同じワイルドハント所属の。ほら、挨拶をしましょう。」

「…菅原エリナ。よろしく、シャーレの先生。」

 

 気だるげに、それでいて目線は鋭いまま挨拶をされる。

 

「エリナもジャズを演奏するんです。まだバンドは決まってないようですが…。」

「一応明日の分のは決まってるわよ…それで続けるかは知らないけれど。それより先生、彼女たちにもこのチケット渡してもらえるかしら。」

 

 エリナから3枚のチケットを渡される。

 

「明日からワイルドハントで作品発表会があって、そこに私のバンドも発表するの。都合が合えば来てほしいのだけれど…。」

”もちろん構わないよ。でもどうして私達に?”

「単純に渡す相手がいなかったからツムギに都合の良い人を紹介してもらおうと思っただけよ…。あと、ツムギも言ったけどワイルドハントでもあなた達は既に噂になってるから、そのジャズバンドも一目見ておきたかっただけ。」

 

 今日はそれだけだと足早に去っていくエリナの背を見送る。明日は休日なので、ヒナも比較的暇なはず。アオホシたちの元に戻り、チケットを手渡すと行こうと即決した。

 今日の分のギャラを分け合い、ファミレスで夕食を取りながら明日の集合時間を決めて解散した。

 

 

 

 翌日。

 ワイルドハントへアオホシ達と一緒に向かう。芸術学院の作品発表会とだけあり、色んなものが展示されている。絵画や彫刻、大きなモニュメントのようなものまで展示されておりアオホシは思わず口が半開きになっていた。

 

「わぁー…すご。」

”美術館に来たみたいだね…。”

「ここがワイルドハント……なんだか、匂いもちょっと塗料っぽい匂いがするというか、今まで見たことのないところね…。」

 

 とりあえず、開催時間になるまで他の展示物などを見て回っていくことにした。

 

 音楽発表のブースの方へ向かいチケットを確認してもらうとパンフレットを渡され、ホールへ案内される。ホールもかなりの大きさで、本物のアーティストを招いて発表することもあるらしい。席は自由なため、真ん中の方の席を取って座った。

 発表が始まる。クラシックやJ-POP、流行りものだったり授業で習ったことを活かしたのだろう音楽が次々に流れてくる。やがてエリナのバンドの出番がやってきた。

 キーボード、テナー、トランペット、ベース、ドラムの5人組で、エリナはテナー。演奏がスタートし、緊張は全くしていなさそうで特にこれといったミスも無く進んでいく。エリナが一歩前に立ち、ソロが始まる。

 テーマの時と比べて音の圧が数段増す。音圧だけでなく、スピードも、フレーズの手数も何もかもが増えていく。肺活量は尋常じゃない。正直今まで聴いてきたサックスプレイヤーの中では飛びぬけて上手で、迫力がある。

 ……エリナは私達を誘ったのは都合が良いからと言っていた。ただなんとなく…本当になんとなく、私達を見るその目には絶対に負けないという意思が感じられる気がしていた。隣をチラリと見ると、アオホシが真剣な表情でエリナのソロを聴いていた。テナー同士として、彼女は何を思っているのだろうか…。

 

 

 全ての発表が終わった後ホール前でエリナと待ち合わせ、食事をしながら話をすることにした。

 

「それで、どうだったかしら。」

 

 学食のきつねうどんを啜りながらエリナが聞いてきた。

 

「凄かったよ!パワーというか圧があって、聴いてて凄い圧倒されたし!」

「それは良かったわ。私としても今日組んだメンバーはとてもやりやすかった。今後も彼女たちと演奏していくことになるかもしれないわね。」

「エリナは今何年?」

「高等部1年。」

 

 アオホシとエリナが楽しそうに会話をする。やはりテナー同士として盛り上がるところもあるのだろう。

 

”エリナ、気分を害したら悪いんだけど…今日の発表、何で私達を呼んでくれたんだい?”

「……ツムギの前だったから、昨日はああ言った。ホントは、あなた達に私の音を聴いてもらわなきゃ議論ができないからよ。」

「議論って、何かしら。」

「JASSは、このままだと伸び悩むかもしれないっていう議論よ。」

 

 箸を置き、冷たい麦茶をグイと流し込む。エリナから飛び出した突拍子もない議題は、私達を困惑させた。

 

”伸び悩む?”

「えぇ。まだ可能性の話かもしれないけれど、一応ね。」

「それは、どうして?」

「昨日のあなた達の演奏を聴いていて感じたの。同じジャズプレイヤーとして、同じテナーとしてあなたに言いたいことがある。あなたの演奏は身勝手よ。」

 

 それはアオホシただ1人に向けてのメッセージだった。アオホシのせいでJASSが伸び悩むかもしれないという、忠告だった。

 

「み、身勝手?」

「そうよ。昨日のソロで、あなたは一度でも客席の反応を見たかしら。」

「……見てなかったかもね。でもそれはプレーに集中してるだけだよ。それにお客さんは圧倒されてた。」

「あれは圧倒であっても、悪い圧倒よ。客席の誰もがあなたの音についていけなくて、何が起きているのかすら分からなくさせるソロ。これを身勝手と言って何か間違いがある?」

「それがアタシのスタイルだから、それを変える気は無いよ。それに、アタシの演奏を聴いてお客さんが喜んでいなかったとはアタシは思ってない。」

 

 エリナが嘆息し、頭を抱えて続ける。

 

「身勝手で、自己満足的すぎる。客は楽しくて面白いジャズを聴きに来ている。どんなお笑いも分かりやすくて面白く無きゃ新規の客はつかない。あなたのソロは新規を突き放すソロよ。」

「アタシは見に来てくれたお客さんを一人も突き放したことはない。」

「今日の観客の反応を見たかしら。私には拍手と笑顔があり、あなたには難しい顔をしていたのよ。」

「エリナはお客さんの顔ばかり見てプレーしてるの?」

 

 バチバチとエリナとアオホシの間に火花が散る。だんだんと声も大きくなりはじめ、周りの人達の注目も集め始めていた。

 

”…アオホシ、エリナ。ここは食堂だから、少し声を落とそうか。”

「先生はどう思ってるの?」

「えぇ、シャーレの先生。ぜひとも客観的な意見をお願い。」

”……私が思うにね、エリナのプレーは、素晴らしい作品だ。テクニックが豊富なのに、音が太く強く、大きい。いわば底が見えないんだ。だから常に余力を持ってプレーしているように見える。”

 

 事実先ほどの演奏も、余裕綽々といった感じで吹いているように見えていた。

 

”一方、アオホシはというと…とにかく凄いことは分かる作品を作り上げる。自分の限界を常に出し続ける…底まで全てを見せつけるプレーだ。”

「はぁ、分かりづらいわね。」

「そうだよ先生。アタシとエリナ、結局どっちが上なの?」

”……エリナは華があるプレー。余力があるから、次にどんなプレーをしてくれるのかの期待ができる。アオホシは常に全力なプレー。これといったスタイルにはまらないから、次にどんなプレーをするのかの予測ができない。”

「はぁ、それじゃあ明日の学食のメニューのことも考えられないわね。」

「アタシはそんな先のことを考えて吹かない。今この瞬間、その瞬間のフルが出せるかを考えてる。結果同じメニューだったとしても構わない。」

 

 アオホシの眼光は鋭く、エリナの顔を刺す。

 

「失敗が怖いの?」

「チッ……はぁ。これから先、色んな場所で評価がつくことになるでしょう。その時が楽しみね。」

「菅原エリナ、覚えた。あんたにだけは、絶対に負けないから。」

 

 

 食事を終えて解散し、シャーレへと戻る。久々の休みだったことと、遠出で疲れたのかヒナは帰りの電車で寝てしまっていた。

 突如として現れた私達の…アオホシのライバル、菅原エリナ。彼女と出会うことでアオホシにどんな変化がもたらされるのか…。そしてもしアオホシとエリナが共に吹くことになれば、いったいどんな演奏になるのだろうか、私は想像せずにはいられなかった。

 

 

【エリナについてですか?ふーむ……言っていいのかは分かりませんが、彼女の第一印象は少し気難しい方、という感じでしたね。基本仏頂面で、休み時間もイヤホンを着けて音楽を聴いていてという感じでしたし…交流は基本しない方でした。初めて話したのは、彼女の発表会のバンドメンバーの補欠として参加したときですね。その時に初めて話しましたし、初めて彼女の演奏を聴きました。そこから、彼女と友達になりましたね。普段の彼女から出たとは思えないほどに分厚い音、途切れることの無い音運び、全てが私達を圧倒させました。あの人がこんな音を出すのかというギャップが大きかったから、より驚いたのかもしれませんが…今でも彼女の演奏はワイルドハントの中では一番だと思っていますよ。

…え?アオホシさんと比べたら?……随分と意地の悪い質問ですね……。……むむむ…本当に決め難い…求めるものがお互いに違いますから、どちらが上というのも無い気がしますが。……ダメです、私には決めかねます。それ以上その質問はしないでください…。】




UA数が30,000を超えてました!やったー!お気に入り、評価、感想も誠にありがとうございます!
3.5周年思っている以上に大盤振る舞いですね……石も無ければ時間も足らないのですが…というかメインストーリーもまだ最終章読み切っていないので早くしないとダメなんですけどね!
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