アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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お手伝いだよ

 昨日手伝ってあげると約束したので、風紀委員会本部へと足を運ぶ。お昼の練習は風紀委員会の仕事が終わった後にすることにしよう。

 

「ヒナちゃーん!お手伝いに来たよー!」

「げ。」

 

 アコ先輩にあからさまに嫌な顔をされる。いいもん、イオリ先輩とチナツ先輩いるから。別にアタシもアコ先輩のこと嫌いなわけでは無いんだけどね…。

 

「はぁ、何をしに来たんですアオホシ?また演奏許可の書類に関してですか?」

「あれ、ヒナちゃんから聞いてない?終わったらちゃんと休むって約束で今日1日風紀委員の仕事手伝うって。」

「え。委員長…本気ですか?」

「アオが言った通りよ。分かったら仕事に戻って、アコ。」

 

 ヒナちゃんが一番奥の机で書類作業をしながら、アコ先輩に戻るよう命令する。やっぱこういうところ見てると委員長なんだなぁって実感するな。

 

「委員長の判断なら、何も言いませんが…。足を引っ張らないでくださいよ、アオホシ。」

「はいはい。そんで、アタシは何したらいいのヒナちゃん。」

「この束をやってちょうだい。終わったらまだ次のやつあるから…」

「はいほーい。ちゃっちゃと終わらせますよー。」

 

 ヒナちゃんのデスクに置かれた、アタシの身長の半分ほど積まれた書類の束を2束ほど持っていき、もくもくと作業をする。ヒナちゃんのサインと確認がいる書類だけ別で分けて、確認済みのハンコを押していく。半分ほどが万魔殿のいちゃもんみたいな内容だったが。マコト先輩、暇なんだろうか。

 黙って作業をしているので若干眠くなりながらも持ってきた分は全てしっかり終わらせた。こんなに長時間机に座って作業をすることも珍しいので、肩と首がバキバキに凝ってしまった。もしかしてヒナちゃんも肩ヤバいんじゃないのかこれ…。

 

「ほい、終わったよー。こっちがヒナちゃんのサインいるやつね。」

「ありがとうアオ…。あとは休んでもらって良いかr

 

「委員長!86-2区域で爆発があったとの報告が!!」

 

…はぁ…。」

 

 思わずヒナちゃんからクソデカため息が漏れる。温泉開発部か美食研究会かどっちだ…。

 

「それで、詳細は?」

「ハイ!犯行グループは温泉開発部と推定!現在イオリ隊長率いる3個小隊が確保に向かっており、現在も逃走中です!」

「…。」

 

 ヒナちゃんがアタシの方をチラリと見る。練習もあるからあんまり長居はしたくないんだけど、約束しちゃったしな…しょうがないか…。

 

「アオ、頼まれてくれるかしら。」

「は~い。それじゃサックス置いていくから、ちゃんと見といてね。触るのは良いけど落としたり傷つけたら許さないからね~!」

 

 さすがに運転はできないので、モブちゃんに車を出してもらって一緒にイオリ先輩と合流しに行く。さて、久しぶりに運動しますか。ジャズマンは喧嘩は絶対に負けないからね。

 

 

 

「ハーーーハッハッハッ!!!逃げろ逃げろーっ!!」

「待てーーーーっ!!!今日という今日は逃がさないぞ温泉開発部!いっつもいっつもどこもかしこも爆破させやがって!あとそのブルドーザー速すぎるだろ!ブルドーザーの出す速度じゃないぞー!!」

「アハハッ!めっちゃ追っかけてきてるよ部長!」

「フフン!ヒナ委員長が来なければ風紀委員会などは取るに足らないさ!」

「部長!それおそらくフラグです!」

「フラグがなんだ!私は温泉開発部!そして我々は温泉開発部!温泉を掘る為ならばどこへとでも行くのだろう!?温泉があれば我々がいる!温泉が無くとも我々がいる!温泉はすなわち私達なのだよ!!ハーーーーーハッハッハッハッ!!!!

「すごいねー。温泉が良いのは分かるけど、でも周りに迷惑かけちゃダメだよね。」

「ハッハッハッハッ!そう水臭いことを言うな!……ん?」

 

 カスミさんがアタシの方を見る。軽く手を振ってから運転している部員の頭をショットガンで撃つ。ヘルメットしてるから大丈夫でしょ、多分。運転手が気絶してしまい、ブルドーザーがふらふらと蛇行してから横にぶっ倒れる。

 

「どわーーー!?何だー!?」

 

 後ろからついてきていた温泉開発部の車両のタイヤを撃ちぬいてパンクさせる。横になったブルドーザーに衝突したり、狙いがずれていくらか爆発させてしまった。橋の上だったのもあって、何台かは橋の下に落ちて行ってしまったが、まぁ、多分大丈夫なはず。

 

「な、なんだ…?もしかしてもうヒナ委員長が来たのか…?」

「やっほ、カスミさんだっけ?それじゃ、ハイ確保。」

 

 ブルドーザーに乗っていた人たちを持ってきた縄でぐるぐる巻きにする。…なんか、皆でっかいな…何とは言わんけど…。ちょっとムカついたので赤髪の子の胸をどさくさに紛れて少し触る。すごっふわふわだ…。アタシにもこれがあったらな…。

 

「…何してんのアオ。」

「……何も?」

「いやめっちゃ胸触ってたじゃん、何やってんのさ。」

 

 どうやらバレてたらしい。お手伝いに来てるからご褒美として許してくれないかな。とりあえず捕獲はちゃんとしたからあとはイオリ先輩たちに任せることにしよう。素早くゲヘナ学園の方へと戻ることにした。

 

 

 

 日がほぼ隠れ、左半分が隠れた月が真南に上がってきている。上弦だったか下弦だったかもう忘れてしまったな…。右から左に満ちていくんだっけ…。ヒナちゃんのデスクに積まれていた書類の束が最初に比べたら圧倒的に減っている。

 

「ふぅ…。アオ、手伝ってくれてありがとう。もうそろそろ遅いし、今日は帰ってくれて良いわ。」

「はいは~い。ヒナちゃんもちゃんと休むんだよね?」

「私はまだ仕事が…」

「あれれ~約束と違うな~?アタシが手伝ったらヒナちゃん休んでくれるんじゃなかったっけ~?」

「…はぁ。しょうがない…。分かった、今日はもうおしまいするから。」

 

 ヒナちゃんが最後に書類を2枚ほど終わらせてから立ち上がり、帰る支度をし始めた。

 

「あ、あの~、ヒナちゃん。」

「ん…なに?」

「今日最後にこれだけ練習していきたいんだけど…。」

「あぁ…。そういえば昼はやらずに来てくれてたんだったわね。分かったわ。音楽室のカギあげるから…。」

「やった~ありがとう!あ、ヒナちゃんも聴いていきなよ。もう時間も遅いしそこまで長くは練習しないしさ。」

「…そうね、そうさせてもらおうかしら。久しぶりに、聴かせてちょうだい。」

 

 夜の学校を懐中電灯を頼りに2人で歩く。曲がり角や教室の扉が少し気になって、何となくヒナちゃんの後ろを歩く。

 

「…ふふ、もしかして怖いの?」

「い、いやぁ?別に怖くなんかないけどぉ?」

 

 クスクスとヒナちゃんに笑われながら音楽室へとたどり着いた。鍵を差し込んでドアを開き、蛍光灯の灯りをつける。壁の方に鞄と楽器ケースを下ろし、練習の準備をする。譜面台が後ろにあるのでそれを持ってきて、鞄にいれてあるノートを開き台に乗せる。昨日できてなかったところがいくつかあるから、それらを重点的に練習することにしよう…。

 

――――――――――

 

 テナーサックスの音が音楽室中に響く。もう夜だというのに遠慮せずに、まるで胸にマシンガンを撃たれているかのように音の弾丸が体を震わせる。ずっと前に聴いたときよりも明らかに音が強くなっている気がする。いつもは外で吹いているのが聴こえてくるから、より強くなっているように感じる。壁に音が反射して全部聴こえてくるだけなのだろうけれど。でも、決してうるさい音じゃない。アオのサックスの音は大きいけれど決して騒音ではなく、1つ1つの音に意思を感じる。まるで生きているかのような力強さを、アオのサックスからは感じる。

 ぶはぁっと汗だくになりながら、フレーズを繰り返す。

 そう、あなたは常にサックスに全力。たまにあなたがあまりにも問題を起こしてなさすぎて、本当にゲヘナ生徒なのか疑わしくなる時があるけど、ジャズや自分のサックスのことになると誰よりも意志が固くなるよね。あの時、パーティーでピアノを弾いてからあなたはずっと私をジャズに誘うけど、私はあなたみたいに全力で弾けない。

 

 …アオが、ジャズを諦めることはあるのだろうか。サックスを諦めることは、あるのだろうか。

 

 …いや、そんなときは一生来ないのだろう。

 だってこんなにも、アオの音は強いんだから。決して誰にも負けない、強い音を持ってるアオは、例えどんな困難が来ても、それを乗り越えていくのでしょうね。

 

――――――――――

 結局1時間ほどぶっ続けて練習をしてしまったのでヘトヘトになってしまった。姉ちゃんには連絡してるから大丈夫だけど、ヒナちゃんに申し訳ないことをしてしまったな。休ませるとか言っときながら練習に付き合わせちゃったし…。それにさっきから一言も喋らないし…もしかしてちょっと怒ってる?

 

「アオ。」

「ひゃいっ!」

「? 私こっちだから…」

「あっ、あぁ、うんそっか。」

 

 思わず変な声を出してしまったが、ここでお別れのようだ。

 

「それじゃあ、また明日。」

「…うん、また明日ね。」

 

 手を振ってそれぞれの帰路につく。なんとなく、表情が柔らかくなっている気がした。

 

 

 

【アオホシさんですか。彼女の曲は全部欠かさずに聴いてますよ!毎日朝と昼に音が聴こえてたんで時報の代わりみたいにしてましたね。イオリ隊長はそれ言ってちょっと怒られてましたけど。

あぁ、はい。確かに、アオホシさんと一緒に温泉開発部を捕まえに行きましたね。あの時は確か、ちょうどアオホシさんが風紀委員長の手伝いで風紀委員会に来ていた時に、いつものことなのですが温泉開発部が道路を爆発させたんですよね。それで、わたしは風紀委員長に報告をしに行った後、風紀委員長がアオホシさんを連れていけって言いまして。それで一緒に風紀委員会用の車に乗って、もちろんわたしが運転していきました。それで、イオリ隊長が既に温泉開発部を追っていまして、その後続車両に追いついたんです。それで挟み撃ちにして捕まえる予定だったんですけど、アオホシさんにはそれを伝え忘れていたんですよね。それで、イオリ隊長の車を追う形で運転していたら、突然アオホシさんがシートベルト外して助手席側のドアを開けたと思ったら、車の上によじ登ったんですよ。何をするつもりだと思ったら、そしたらアオホシさんがショットガンを構えて八艘飛びっていうんですか。車の上をぴょんぴょーんって飛び移っていったんですよね。それで、開発部のブルドーザーの運転手を無力化して、無事捕獲に成功しました。あの時の事は、今でも忘れてないですね。】

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