アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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美食、現る

「う~ん今日も最高…。」

 

 今日の給食は鯖の味噌煮、わかめの酢の物、そしてお吸い物。鯖ってなんでこんなに美味しいんだろうな…。脂がのりにのっていて噛むたびにじゅんわりとした旨味が口の中に広がっていく。味噌のタレをたっぷり絡めてからご飯に3回ほどバウンドさせて、食べる。そしてすかさずそのご飯の味噌ダレがついたところをガッと箸で掴み、口の中がパンパンになるかと思うほどご飯を詰める。口の中と喉が濃い味噌味によって水分を欲してきたところを、お吸い物をズズッと啜ることで水分と出汁の旨味をプラス…。そして箸休めとして酢の物をちょいちょいとつまみ…。こんなの、もうたまらないでしょ。

 そしてそんな至福の昼食を妨げるかのようにキャーーッと悲鳴があがった。なんだと思い声のした方を見ると、美食研究会が入ってきたらしい。また何か問題を起こしに来たのだろうか…。それよりも、今は昼食の方が大事なので食事の方に集中する。

 そうして無視して食事をしていると、アタシの向かいと隣にトレーを置く音が聞こえ、思わず顔を上げると美食研究会の面々がアタシの周りを埋めていた。な、なんでアタシ囲まれてんだ…?

 

「ごきげんよう、アオホシさん。先日は大活躍でしたね。」

「アオホシさんこんにちは。」

「アオホシちゃんこんにちは~!」

「こんにちは、アオホシ。」

 

 アタシの隣をジュンコとイズミに座られ、向かいにハルナとアカリが座る。今度は一体何をしに来たんだ…。またどこかで爆発でもする気か?

 

「そう警戒しないでください。今日はただ給食を食べに来ただけですから。」

「今日はって…。毎日そうあってほしいんだけれど。」

「ふふ、それは難しい話ですね。私達はただ美食を追求しているだけです。そしてその上で私達が許せない食事を出す飲食店に罰を与えているだけですので。」

「うんうん!前爆破したところは海老天の衣をすっごい分厚くして特大海老天ってウソついてたからね!普通に許しちゃいけないから!」

「う、う~んまぁそれは許せないのは許せないけど…。その、爆破以外に方法は無いんですかっていうね…。」

「私達がしているのは食を冒涜する悪への制裁と同じですので。」

 

 ダメだこりゃ。全く聞く耳をもっちゃいない。これでお嬢様だっていうんだからびっくりしてしまう。いや、所作の端々にお嬢様を感じさせるところはあるのはあるんだけれど、にしても発想がバイオレンスなんだよなぁ…。

 

「ところで、アオホシさんはまだそれを吹き続けていらっしゃるのですね。」

「ん?あぁうん…もしかして何かするつもりじゃないでしょうね……アタシのサックスに手を出すとなったら話は違うよ。」

「いえ、そうではなくて…」

「へ~?これがサックス?」

 

 イズミがソースのついた手袋のまま楽器ケースに触ろうとする。流石にそれは許さないぞオイ。楽器ケースへと伸びていた腕を拳で目一杯殴りつける。痛みでひるんだ手首を左手で持ち、ねじりあげる。

 

「いっ!?痛い痛い痛い痛い!!!許して!!!」

「それは流石にイズミが悪いよ…。」

「ごめんなさいアオホシさん。それ以上すると折れてしまうので離してあげてください。」

 

 パッと掴んでいた手を放し、食事を再開する。腕をねじられた本人は腕を擦りながらアタシの向かい側へと避難する。その手でアタシのサックスに触ろうとしたアンタが悪い…。

 

「それで、何の用なの?そろそろ食べ終わるし、今日も練習があるんだけど。」

「勝手に触ろうとして申し訳ありません。ただアオホシさんの演奏を久しぶりに間近で聴きたくなったのです。ただそれだけですので…。」

 

 裏は特に無さそうだ。今日はエリカ先輩たちもどこか行っているのか見てないし、暇なのはあるが…。こいつ等と一緒にいて何か良くない噂が流れないかが若干心配ではある。

 

「驚いたね。あんた達が音楽に興味あるなんて知らなかったけど。」

「いえ、まぁ、少し久しぶりに音楽をしっかり聴くのも良いのではないかと思いまして…。」

「え~でもハルナが久しぶりに聴きたくなったって言ったんじゃん!」

「ちょっ、イ、イズミさん!それは…!」

 

 ……ふふっ、なんだ。ホントにアタシのサックス聴きたいだけか…。

 

「オッケー、良いよ、吹いたげる。でも吹いてあげる代わりに吹いてる最中は問題起こしたり、邪魔だけはしないでよ。」

「え、えぇ。それはもちろんです。」

「何?またアオホシのサックス聴けるの?」

「あら、良いですね。久しぶりに音楽を聴きながらご飯を食べるのも悪くないかもです。」

 

 席を立って、鞄と楽器ケースを持ちトレーをカウンターに返しに行く。

 

「それじゃアタシはもう食べ終わったし、先に行っとく。中央運動場で練習してるから。」

「はい。練習頑張ってくださいね。」

 

 正直黒館ハルナという人物を分かりかねている。そも美食研究会が、美食のために手段を選ばないテロリスト集団という認識であって、風紀委員会づてによく聞く集団だ。そしてハルナという人物と1対1で直接話し合ったことは、檻を挟んでなら数回ある程度。それにあの人にアタシのサックスを聴かせたことあったっけな……。まぁ、いつも同じところでやってるから通りすがりに聴いたとかそんなものだろう。

 

――――――

 給食の鯖の味噌煮定食をしっかりと味わい、アオホシさんがおっしゃっていた中央運動場へと向かうと、だんだんと聴こえてくる音が大きくなっていきました。そこには、まるで見えない誰かと戦闘をしているかのように、一心不乱にテナーサックスを吹き続けているアオホシさんが居ました。私達と食堂で別れた後、すぐにここに来てずっと吹き続けているのでしょうか。最初出会った時に来ていた黒のブレザーが傍に置いてある鞄の上に無造作に置かれています。

 話したことは風紀委員会本部の特別牢を挟んででしか喋ったことはありませんでしたが、アオホシさんの音は朝も、昼も欠かさず聴いています。聴いていると言っても嫌でも聴こえてくるようなものですが。自分で言う事ではありませんが、私はこれでも御令嬢のようなものです。食事以外の事については正直、どうでもいいと思っておりますが、音楽についての造詣が無いわけではございません。

 その上で、アオホシさんの音は決して上手というわけではございません。上手だと分かる音というものは、音楽について分かる人にしか分からない音である、と私は思っております。なので、アオホシさんの音は”上手”では無く、”圧倒させる”音であると言えるでしょう。その楽器を演奏したことが無い人も経験がある人も、足を止めて聴いてしまう音。上手に音を出すことは、やり方が存在しますので幼児でもできないことはありません。ただ、自らの全てを乗せた音はその者にしか出せません。そしてアオホシさん、あなたは毎回の練習でその音を出しています。それは決して誰にもできることではありません……。

 

「わ~音すっごい大きい~!」

「やっぱり遠くから聴くのとでは違うわねー…。」

「スマホで聴くのともまた違いますからね。この音が普通なんだと勘違いしてしまいそうです。」

「えぇ、アオホシさんの音はまさに唯一無二の音と言えるでしょう…。だからこそ、彼女はもっと色んな場所で吹くべきだと思うのです。」

 

 そう、アオホシさん。貴女はもっと、知られるべきなのです。貴女ほどの人がここに留まっているのは、もったいない…。そう感じてしまいます。

 

――――――

 

「……ぶはぁっ!ハァッ…ハァー…」

 

 フレーズを間違えずに吹くのは簡単だ。いや簡単というか、気を付ければできないことは無い。練習を一旦止めると、後ろから拍手の音が聞こえてきた。あぁ、そういや練習聴かれてるんだった。

 

「いつ聴いても、やはり素晴らしいですわね。」

「ありがと。でもまだ、何というかまだあと一歩足らない感じがしちゃって…。」

「十分凄いとは思いますが、それでもまだ足らないのですか?」

「随分と褒めてくれるじゃん。でもまぁそうね、何というか、まだあともう一歩上に上がれる気がして…。」

「その、何でそんなに頑張れるの?私は音楽とか分からないけど…それでも分からなくてもこんなに凄いって思えるくらい吹けてるのって、凄いことなんじゃないの?」

 

 ジュンコちゃんにそう聞かれて、ふと思った。確かに、自分がここまで頑張るのは……。

 

「……う~ん上手く言えないんだけどさ…。音楽分からないっていうけど、ゲヘナ生徒だったらアタシのサックスの音は聴こえてるじゃん。だから、アタシのサックスはもう既にちょっとだけ分かってるはずでしょ。でも、ミレニアムやトリニティに行ったら、アタシの音を知ってる人は少ない。そういった人達が聴いても、ジャズって凄いんだなっていうことを分かってもらえるジャズを、私はしたいんだ。」

 

 あとは、このサックスを買ってくれた姉ちゃんのためにも、アタシの夢を途中で終えたくないっていうのもある。姉ちゃんのバイトの給料の何か月分がこのサックスに使われたのかを、姉ちゃんは教えてくれない。ただどんなにアタシが馬鹿でも、楽器が決して安いものではないことは分かる。自分の夢のためっていうのもあるけど、それと同じくらい家族のためにアタシはジャズをしたい。そう答えると、ハルナはニコリと微笑み、アタシに背を向けた。

 

「行きましょう皆さん。邪魔をしてはなりません。それではアオホシさん、練習頑張ってくださいませ。」

 

 そう言い残し、少し速足でどこかへ行くのを、ジュンコちゃんたちが追いかけて行った。急に聴かせてほしいと言ってちょっと聴いたらどっか行ってって、猫かな。まぁ良いや、引き続き練習することにしよう。

 

 

 

【……はぁ。宮本アオホシについて、ですか…。えぇ、苦手ですね。毎日毎日よくもまぁ飽きもせずに所構わず吹き散らかして…最初に学内で吹いていいか聞きに来た時には何を言っているんだとも思いましたね。そもそもゲヘナ生で楽器を弾ける人というのが珍しいことではあります。何せ創造より公共物の破壊が多いので……。いえ、ヒナ委員長のピアノは何よりも素晴らしかったですけど。

サックスについての感想ですか。……これを言うのは少し癪ですが、上手ではあると思います。ヒナ委員長のピアノには劣りますが、彼女のサックスは委員長のピアノと違った、感動というか……とにかく何かを与えてくれます。ただ音量についてはもっと何とかならないかとは思いますね。朝からあの音量を聴かされるのは耳が痛くなりますので。…その割にはやめさせないよね、ですか。まぁ、特別問題を起こしているわけでもありませんので。】

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