アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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まだ、赤い。

「先生、来たよー。」

”こんにちは、アオホシ。ありがとうね。”

「ん、当番だからね。それで、何をすればいいの?」

 

 

 昨日、練習も終わって家に帰り、さぁ寝ようと思いベッドに潜ろうとすると、スマホがヴーとバイブ音を鳴らした。何だと思い画面を見ると、先生からのモモトークの通知が来ていた。

 

”明日、アオホシがシャーレの当番なの伝え忘れてた!”

”夜遅くになってごめんね、明日いけるかな?”

 

 とのこと。突如としてこのキヴォトスにやってきて、キヴォトスの”先生”として活動を始めた、ヘイローを持たない男性。連邦生徒会の会長が失踪し混乱渦巻く最中、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eを立ち上げ、全ての生徒を助けてきた。噂では廃校寸前にあった学校での事件を解決したりしたとか、イオリ先輩の足を舐めたとか。だとしたらヤバすぎるけど、大人がそんなことしちゃダメでしょ普通に。そういえばゲヘナのバレンタインパーティーにも出席していたような気がする。先生との交流は正直あまり無い。というか、タイミングがことごとくかみ合わなくて、ずっとすれ違ってしまっているというのが事実だった。悪い噂も良い噂も色々と絶えない先生と会ったことが無いのも自分としてももやもやしていた。なので、このモモトークが来たのは正直僥倖。今から寝るところだったため、若干働いていない頭で、OKと返信し昨日はそのまま寝てしまったのだった。

 そして今アタシはシャーレの当番として、先生の手伝いをしに来ていた。

 

「はい、これ先生の確認いるやつ。終わらせれるやつはアタシの方でも処理しとくから。」

”おぉ……作業がどんどん進んでいくっ…。ありがとう、ありがとう…。”

「ヒナちゃんの手伝いで慣れてきてるからね。ちゃっちゃと終わらせちゃうよ。」

 

 ヒナちゃんに負けず劣らずの書類の束を抱えながら、一緒に書類整理をしていく。ゲヘナ内の処理だけでも滅茶苦茶な量の束があったのに、全生徒との交流があるとなると、このくらいで済んでいると考える方がマシなのだろう…。

 

”ごめんね、手伝わせちゃって…。”

「いーのいーの。せっかく来て何にもしないで帰るよりかは良いでしょ。」

”ホントに助かるよ。ありがとう。”

「どーいたしまして。」

 

 もくもくと作業をし続けると、少しだけ目が疲れてくる。というか腰と肩もだいぶ疲れてきたな。目と目の間をマッサージをし、ソファから少し立ち上がって伸びをする。それを見た先生がせっかくだし休憩しようかとコーヒーを淹れてきてくれた。多分こういうところがヒナちゃんは好きになったんだろうなぁと、砂糖を大匙2杯入れてかき混ぜながら思った。

 

”ところで少し気になったんだけど、それってサックスかい?”

「おっ、サックスって分かるのは先生が初めてかも。そーだよ。アタシのテナーサックス。」

”吹くの?”

「うん、毎日朝と昼に練習してるよ。…珍しいって思ったでしょ。」

”まぁ、正直ね。音楽鑑賞が趣味だって子は何人か見てきたけど、演奏する側はヒナ以外に見てないかも。”

「ヒナちゃんのピアノも上手だったね。せっかくだし、アタシもヒナちゃんと一緒に吹きたいんだけど。中々難しくてね…。」

”どんな曲を吹くんだい?”

「そりゃもちろん、ジャズさ。アタシはね、このキヴォトスで一番のジャズプレイヤーになるためにこのサックスを吹いてるんだ。」

”!…それは、凄いね。”

「ふふん。といっても、バンドが組めなきゃジャズもできないけどね…。ピアノはヒナちゃんが欲しいけど、そんな暇無いってずっと断られ続けてるし、ドラムも叩ける人がゲヘナにいるのかどうか怪しいし…。でも何が何でもヒナちゃんは絶対欲しい。だって、あんなに最高のピアノを弾ける人をそのままにしておくなんてもったいないからね。」

”…そうだね。”

 

 先生が少し静かになってしまった。この量は今日中には終わらないかもと思ったので、作業を再開する。しばらく、筆を走らせ、紙をめくる音と、コーヒーを啜る音だけが室内に響き渡った。

 その空気に耐えかねたのか、先生が口を開いた。

 

”…ねぇ、アオホシ。”

「?どしたの、先生。」

”アオホシのサックス、良かったら聴かせてくれないかな。”

「!…ふふ、良いよ。次休憩取るときに聴かせてあげる。」

”…いや、今が良いな。今にしよう。居住区の方に防音室があるから、そこで吹いて欲しいな。”

「おぉ?そんなに聴きたいの?しょーがないなー、特別だよ?」

 

 サックスを持ち、先生と一緒に防音室へと向かう。なんか、仕事してた時と目つきがまるで違うけどどうしたんだろうか。先生もジャズ知ってるのかな……。

 

 

――――――

 

 昔を、思い出した。

 吹き付ける風が凍えるように寒い冬の日、親友と共に演奏をした夜を。

 アオホシがジャズプレイヤーになると言ったとき、親友と同じ眼をしていた。一つの目標のために、何だってやってやると語りかけてくるかのような、熱く、鋭い眼。

 アオホシの演奏が終わった後、今日はもう終わっていいと帰らせた。まだ仕事終わってないですけどと少しごねられたが、強引に帰らせた。あんな音を聴かされては、仕事に手がつくはずもない。

 引き出しの中に入れていたスティックを取り出し、撫でる。もう握らないと決めたはずのスティック。ボロボロになって、新品の綺麗だった頃の姿なんて見る影も無い。故郷が嫌で、勉強してせっかく都会の大学に行ったのに、いまひとつ燃えるモノが無かったあの時。お前は俺の下宿に上がり込んできて、バイトしながら、ずっと吹いてたよな。あの時のお前に俺は魅せられて、やったことも無いくせに、ドラムセット衝動的に買ってさ、練習してしまくって、でもお前らには追い付けなくて。それでも、あの時の事はずっと、ずっと今でも覚えてる。

 なぁ、親友。俺またドラムを叩くよ。今先生をやってるんだけどさ、生徒がさ、お前みたいにすっげー音を出すんだ。綺麗で勢いがあって、強くて。でも、まだ赤いんだ。先生として、そして、お前と叩いてきた俺のケジメみたいなもんだ。

 まずは、ドラムセットを買おう。あのときの再現みたいになるけど、そうしたい。ユウカに怒られるかもだけど、今回ばかりはどうか見逃してくれないだろうか…。

 

――――――

 まだ仕事が残ってるはずだったのだけれど、先生に半ば無理やり帰らされた。何かダメだったのだろうか。想定していたよりも早めに当番が終わってしまったので、ゲヘナに戻るにしてもちょっとめんどうだし…いいか、ここで練習しちゃえ。

――――――

 

「うぇ~~めんどくさ…今の時代に監視カメラじゃなくて見回りで治安維持するっていう発想が古いよねぇ~。」

「フブキ!これもこの生活安全局から転科するためです!それに、見回りをしていたら犯罪者が見つかるかもしれないでしょう!?それを本官たちがカッコよく、鮮やかに制圧できれば…私も…!」

「毎日元気だねぇキリノは。ドーナツ屋爆破したこととかもう忘れちゃってそうだね。」

「あ、あれは…その……。ん?何か聞こえてきませんか?」

「ん~?何かってなに、もしかしてまた運悪く犯罪者でも暴れてるのかな?」

「いえ、その何というか、楽器のような…あちらの方から聞こえてきます!行きましょうフブキ!」

「別に犯罪じゃないんだったらなんもしなくていいんじゃ~…ってもう行っちゃってる…。」

 

「一体何が起きて…うわっ!?すごい人だかり…!?でも確かにこの人だかりの奥からは聞こえてますね…。」

「うわ~こりゃすごいね。ちょっとした騒動レベルじゃん。」

「少し通りますよ!ハイちょっとごめんなさい!通ります!」

「えぇ~行くの~?」

「ぷはっ…抜けた…。って…!?」

(な、なにこの音…!?一番前に来てるから当たり前なのでしょうけれど、にしても、音の圧が…!)

 

 周りを見渡しても皆が目を輝かせている。演奏者の正面に立っている子どもはずっと目の前で拍手をしている。

 

(ストリートミュージシャン?でもどこにもお金を入れる入れ物は無いし…。というかやるにしても許可証がいるはずでは…。)

 

 そう考えていると、演奏者の子がこちらを向き、本官を上から下まで見ると、何かに気づいたかのように吹いていた楽器を急いで仕舞い、どこかへと走っていきました。

 

「あっちょっま、待ちなさーい!」

「あれ?キリノ~?何があったの?」

「何もしていないのに、本官を見た途端楽器をしまって逃げ始めたんです!」

「キリノに怯えちゃったのかもね~。それより追いかけなくていいの?もう見えないけど。」

「あっ!?くぅぅ、転科への一歩となるかと思ったのに…。」

「でも演奏してただけで特に悪いことはしてなかったんじゃないの?」

「そ、それは…」

「それにほら、聴いてた人達も皆笑顔だよ?(これ以上動くの面倒だし)別に良いんじゃない?」

「むぅ…そうなんでしょうか…。いや、それでも許可を取らずに演奏をしたことには変わりないです!次に会ったときは許しませんよー!」

 

 

【アオホシについて?う~ん…凄い子だなぁっていう感想しか出てこないかなぁ…。あ、あとご飯食べるときいつも幸せそう。これは私でも知ってるわ。

凄い子についての詳細、ねぇ…。その、美食研究会に入ってるとさ、まぁよく風紀委員長に追われるのよね。でもたまに風紀委員長じゃなくてアオホシが追ってくるときがあって、最初アオホシに追われたときはなんだ、風紀委員長じゃないならまだマシかな程度に思ってたの。だってゲヘナに居て一番怖いのって風紀委員長だから。でも違ったわね。確かに一番怖いのは風紀委員長だけど、二番目に怖いのはアオホシよ。え?前も温泉開発部を鎮圧してた?うんまぁ、アオホシならできるでしょうね…。だって私達の一斉射撃を受けながらずんずん歩いてきたのよ!?4人の射撃避けるとかならまだしも、受けながらこっちに向かってくるなんて誰だって怖くなるでしょ!】




先生は、由井(仙台編の大のサックスの師匠)と玉田を混ぜた感じの立ち位置です。
サックス:宮本アオホシ ドラム:先生 と決まりましたのでもう後ピアノですね。
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