アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。 作:えーすえいち
ピロリン
「ん?通知来てる…」
「アオホシ!委員長の手伝いをしている時はスマホの電源は切っておきなさい!」
「はーいアコお母さん。」
「誰がお母さんですか!」
なんの通知だろうとチラリとスマホを見ると、モモトークの通知が入っているのが分かった。先生だろうか…、昨日無理やり帰らされたし、あの後シャーレの近くで練習してたらなんかヴァルキューレの制服着た人が前に来てたから思わず逃げちゃったけど…。だってなんかヤバいことしちゃったのかなって思ったし、怒られてもめんどいから逃げる方が得かなって思っちゃったんだもん。
「アオホシ!スマホを見てる暇があるのなら早くその束終わらせなさい!」
「ごめんなさいママ。」
「だからママでも無いって言ってるでしょう!」
「はい、これ渡された分終わったよー。ちょっと休憩もらうね。」
アコ先輩から逃げるように執務室を出て、スマホを確認する。予想通り先生からのモモトークだった。
[アオホシ、昨日は無理やり帰らせちゃってごめんね。今日暇あったらもっかい来てくれるかな?]
とのこと。この後はいつも通り特に何にもないし、当番だったのに仕事もあまり終わらせずに帰ってしまったのでちょうどいい。
[おっけーです。ちょうど風紀委員会の手伝い終わったので、そっち行きますね。]
[ありがとう。]
ヒナちゃんに「先生に呼び出されたから行ってくるねー」というと、少しムスッとした顔で「…そう、分かった。いってらっしゃい。」と送り出された。ヒナちゃん、先生にまぁまぁお熱だし、嫉妬してるんだろうか。安心しろ、アタシは別に何とも思ってないから。
シャーレの前に着くと、ミレニアムの校章が入ったベルトをつけているツーサイドアップにした青髪の生徒が見えた。確か…ユウカさんだっけな。あちら側もアタシに気づいたようで、話しかけてきた。
「あら、あなたも先生に用事?」
「ハイ、先生に呼び出されまして…。あの、ユウカさんで合ってますよね。」
「あっ自己紹介がまだだったわね。えぇ、ミレニアムサイエンススクール2年のセミナー会計担当の早瀬ユウカよ。よろしく。」
「どうも、ゲヘナ学園1年帰宅部の宮本アオホシです。」
丁寧に挨拶をされ、手を差し出されたのでこちらも挨拶を返し握手に応じる。
「…何というか、失礼かもしれないけれどゲヘナ生っぽく見えないわね。いや、校章を見れば分かることではあるのだけれど…。」
「んふふ、ヒナちゃんにもよく言われますね。ゲヘナ生なのか疑わしく感じるって前言われました。」
「ヒ、ヒナちゃん…?随分と風紀委員長と仲が良いのね…。」
「そういえばユウカ先輩も先生に用事ですか?」
「えぇ。今日は私がシャーレの当番だから来たのだけれど…わざわざあなたを呼び出す用事って何かしらね。」
先生が働いているであろう、シャーレと書かれた看板が壁に吊り下げられた部室の目の前までユウカ先輩と一緒に行くと、中から何かを叩くような音が聞こえてくる。…え、この音って…。
「?何この音…、先生?入りますよ?」
ユウカ先輩がドアを開けて入ると、そこにはドラムセットを叩いている先生の姿があった。ヘッドホンをしながらかなり集中しているようで、アタシたちが入ってきたことにも気づいていないようだ。
「…ドラム、じゃん…。」
「…せ…」
「何で…」
「せ~~~~ん~~~~せ~~~~い~~~!?!?!?!?」
ドラムを叩いている姿に驚いていると、ユウカ先輩が先生の元へとずんずんと歩き、ヘッドホンを無理やり外した。
”あ、あれ!?ユウカ来てたの!?”
「来ましたよさっき!それよりも!!何ですかこれは!?!?」
”あ、あ~え~とその違うくて…いや違うくないんだけど…”
先生がしどろもどろになりながらユウカ先輩と話す。もしかして、何も言わずに買ったんだろうか…。いや、ていうか何で先生がドラム叩いてるの、そもそも叩けたの!?
”あ、アオホシ。来てくれてありがとう。”
「えぁ、あ、うん。いや、ええと…」
「先生!?まだ話は終わっていませんが!?こんなのに使うお金なんてどこにあるんですか!?」
”だ、大丈夫私のポケットマネーで払ったから…。”
「余計ダメでしょう!!!私忘れてませんからね、1日をコッペパン3本のみで過ごしたの!!!それなのにドラムなんか買うお金あるわけ無いでしょう!」
そんな限界食生活してた時あったの!?なおさら何でこれ買ったんだ…
”ご、ごめんユウカ!何も言わずに買ったのは謝るから!!”
「当たり前です!!はぁ、全くもう…」
プリプリと怒った顔をしながら給湯室の方へと向かって行くユウカ先輩。お金の管理ってユウカ先輩がしてるの?え?先生って大人なんだよね?何で自分でせずにユウカ先輩がしてるの?あ、お茶淹れて戻ってきた…。何この夫婦みたいなやり取り、何を見せられてるんだ。
「はい、アオホシちゃん。」
「ぅえ?」
「お茶、ここに置いておくからね。それで先生、とりあえずドラムは置いておいて、今日の当番の仕事は何ですか?」
”あぁ、ええと…。これミレニアムに提出する書類なんだけど、ユウカに渡しておけば良いかな?確認して不備無かったら終わった後に渡しておいてくれる?”
「あぁ、これですね。分かりました。それと、先月の領収書も渡してください。あとで家計簿に写しておきますので。」
”はーい…。”
やっぱ夫婦なのかな…。生徒が先生のお金管理してるってどういうことなの…。
”アオホシも、来てくれて悪いんだけど良かったら手伝ってくれるかな。人手は多いほど良いから。”
「先生が溜め込まなかったら別に良いんですけどね…。」
「…まぁ、良いですよ。この後特に何もないので。」
別に当番ではないのに、ユウカ先輩と一緒に先生の業務の手伝いをした。昨日やれなかった分もあったし、取り返せたかな。途中で何回か、先生が休憩を申し出てたけどユウカ先輩にことごとく却下されてたな…。
「ふぅ、やっと終わったわね…。」
”手伝ってくれてありがとうユウカ、アオホシ。はい、コーヒー。”
「あ、あざます。」
こういう一仕事終えた後のコーヒーだったりがなんか、大人になった感じがして何となく好きだ。ズズッと啜る。あっつ、もうちょっと冷ますか…。
「それで、先生は何でドラムなんか急に買ったんですか?また何かアニメでも見て影響されたとか言うんじゃないでしょうね…。」
”う~ん当たらずとも遠からずって感じかなぁ…。まぁ、アオホシのおかげかな。またドラムを始める理由ができたし。”
「…アタシ?」
”うん。誰にも話してないっていうか、話すことでもないと思ってるんだけど先生になる前は実はドラム叩いててね。”
「えっ!?先生ってドラム叩いたことあるの!?」
”それもアオホシと一緒で、ジャズバンド組んでたんだよね。そこでドラムを叩いてた。”
衝撃の事実に驚くしかない。ドラム経験者でしかもジャズバンドも組んでたなんて…。
”先生がいたところではね、そこで演奏して認められたら世界のジャズプレイヤーと名乗っても良いほど有名なところがあったんだ。そこを目指してまず地元で名を揚げて、そして世界へと行った。”
「せ、世界って…。」
”そう、文字通り世界。演奏をする人なら誰も知らない人なんていないんじゃないのかってくらいのね。”
「そんなに凄いところまで…。」
”そして、私は…いや、私たちは世界のジャズプレイヤーにはなれなかった。”
「それは、何で…」
”純粋に能力が足らなかったのさ。他の人の演奏を聴いてからそこで演奏して、そう思った。”
昔を語る先生はどこか遠くを見つめていた。昔を懐かしむというか、何となく悲しそうな気がした。
「…ねぇ、先生。」
”何かな、アオホシ?”
「アタシと、組んで。」
”…ふふ、まだ音も聴いてないのに?”
「うん、今でも後でも音は聴く。でもきっと結論は変わらないと思うから。」
”嬉しい話だね。良いよ、聴かせてあげる。防音室に行こうか。ユウカ、これ持っていくの手伝ってくれるかな?”
「え?あ、わ、分かりました…。」
ユウカ先輩と一緒に先生のドラムを聴いた。
必死だった。
叩いているときのあの顔は、まぎれもなく、何かに必死だった。叩き方を思い出すのに必死とか、そういうのじゃなくて。
正確にリズムを取りながらなのに、どこか激しさを感じさせて、ソロパートなんかはもう爆発しそうなくらい。
”ハァッ…ハァッ……。フゥーーー…どう、かな?”
「…ふふ、もっかいできる?」
”ハハハ…やってあげるよ、何度でもね。”
「ドラム、お願いね。」
見つけた、ドラム。アタシの音をもっと高めてくれる、最高のドラムを。
【第一印象は、ホントにゲヘナ生なの、と思いました。シャーレの当番をしに行ったときに偶然会って。それで、仕事を終わった後に先生のドラムを一緒に聴きましたよね。え?あの時の感想ですか?詳しくは無いのですが、上手だとは思いました。それよりも、勝手にドラムセットを私への連絡をせずに買ったことをどうしようかって考えてましたね。”悪かった”って…結局あれから案の定コッペパン生活だったって聞いて呆れましたよ。言ってくれれば、私も手伝ったのに…。それで、先生のドラムが終わった後にアオホシちゃんのサックスも聴きましたよね。
…先生のドラムは、上手だなって思ったんです。先生のドラムも、アオホシちゃんのサックスもどっちも初めて聴くのに。だから、アオホシちゃんも上手だって言おうと思ったんですけど…今思い出すと、凄いの方が正解な感じがしますね…。】