アタシはキヴォトス一のジャズプレイヤーになる。   作:えーすえいち

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ヘビメタ?ジャズ?

 先生がドラムセットを買い、アタシとバンドを組んでからはセッションをしまくっていた。といっても先生は全く暇じゃないので、先生が休憩を取れて疲れていないときを選んでいる。ただそういった日もかなり少ないので、バンドを組んだからと言って何かが変わったかと聞かれると「う~ん」とお茶を濁すような返ししかできないのが現状だ。

 でも、先生とのセッションは気づくことが多い。思わず熱が入っちゃってリズムが乱れることが多いっていうのをセッションしてて気づいた。先生のドラムは正確でプレイヤーを支えるドラムをしてる。あとよく向かい合ってセッションをしてるんだけど、叩いているときの先生は何だか凄い楽しそうに見える。目もつむっちゃって、ずーっと笑顔。だから見てるこっちも楽しくなる。

 

『先生ってさ、すっごい楽しそうに叩くよね。』

”そうかな?あんまり意識したこと無かったかも…。私から見ればアオホシの方が楽しそうだと思ったけどね。”

『…ねぇ、その先生と一緒にバンド組んでた人ってさ、何やってたの?』

”アオホシと一緒の、テナーサックスだったよ。”

『ふーーん…。その人は今も吹いてるのかな。』

”うん。吹いてるさ。きっと…いや、絶対に吹いてる。”

『随分と信頼してるんだね?』

”そりゃそうさ、3年くらい一緒に組んできたら、嫌でも分かるようになるもんだよ。”

 

 …?何で今アタシ、モヤッてなったんだろ…。

 

「あ、着いた…。」

 

 そう考えていると、今日の目的地に着いた。そう、今日は個人練習でなく、先生とのセッションでもなく、ずっと前からたまに行っていたジャズバーでのライブなのだ。

 「Jazz ENCORE」と書かれた扉を開くと、カランカランとベルが鳴る。オレンジ色の、決して暗いというほどでない照明がテーブルとカウンターを照らす。

 

「いらっしゃい…お。」

 

 カウンターでグラスを吹いていた機械頭の男性がこちらに顔を上げ、アタシに気づく。

 

「アオホシちゃん、いらっしゃい。」

「よろしくお願いします。リハ良いですか?」

「もちろんさ、今日も頼んだよ。」

 

 ゲヘナ学園最寄りの駅から3駅ほど乗り、駅から徒歩15分ほどにあるこの「Jazz ENCORE」は、ゲヘナ学園に近いのもあるのだが、この店の横にある細道がブラックマーケットへとつながる裏道的な道となっている。そのため、このバーで少し休憩をしてからブラックマーケットへと向かう人が多い。当然ブラックマーケットに向かう人なんてのは大抵ヤバい人しかいないわけで、たまーに騒動が起きたりするのだけれども、ゲヘナから近いジャズバーなんてのはここくらいしかない。

 ジャズは、時代の波に置いていかれている。とにかく若者向けで無く、今の流行りと真逆だと思われているところが大きいのだろう。CD屋だったり、音楽のサブスクでのランキングを見れば常に上位を独占しているのはポップ調の曲だったり、初音ミクといったボカロ曲が多い。そういえば先生、初音ミクと出会ったことがあるって言ってたけどどういうことなのだろう。仕事のやりすぎで幻覚でも見えてた時期でもあったのだろうか。

 とにかく、ジャズを聴く人は減ってしまっている。そしてこの前、先生と話していて思った。アタシはジャズで戦いたい。ジャズで、世界一になりたい。

 

”ねぇアオホシ。何でキミはジャズなの?”

『?』

”私はここに来る前から叩いていたという経験がある。でも、アオホシはつい最近からなんだよね。何で、わざわざジャズなの?”

『…ゲヘナに入る前、姉ちゃんと一緒にジャズを聴きに行ったことがあってね。その時に感じたんだ。こんなにカッコいい音楽が存在するのかって。こんなに、感情を全て乗せることができる音楽があるんだって。一流のジャズプレイヤー…サックスプレイヤーは、感情を、考えを全て音に乗せて出すことができる。それでアタシは、そんなプレイヤーになりたいから。だから、ジャズ。』

”…アオホシ、キミは…光より真っすぐなんだね。”

『?』

 

 既に練習に来ていた、今日合わせる予定のバンドの人達にも挨拶をする。

 

「こんにちは。今日テナーサックスをさせていただきます宮本アオホシです。」

「おー若いね!ま、あんまり気負わずにリラックスしてやってくれたらいいよ!」

 

 ドラムとエレキベースとピアノで、仲間内でバンドをやろうという話になったのだろう。随分と仲が良いようだ。

 

「じゃ、リハやりますか。順番覚えてるよね?」

「はい、送ってくれた楽譜も全部覚えてます。」

「おっけーじゃあ最初ピアノからで。」

 

 

 

 リハが終了し、舞台袖から顔を出し、今日の客入りを確認する。ふーむかなりの椅子が埋まっているな。といっても客の半数ほどは常連っぽい感じ。今日も全てを、音に出す。目をつむり、集中する。出番の時間だ。吹こう。

 

――――――

 

 「あ…雨…。」

 

 せっかくの休日で、少しいつもの場所とは違うCDショップでも入って、CD漁りでもしようと思っていた矢先に雨が降ってきた。ツいてないな…。折り畳み傘は持ってるけど、あんまり長いこと外に居たい感じでもないし、もうかなり時間帯的にも遅くはなってきてる。帰ろうかと体を駅の方に向け、歩き出そうとすると、どこからか音が聴こえてきた。

 

(…外で演奏してる感じじゃない、部屋から漏れてる…?)

 

 音の出所を探るため、少し周りをうろうろとすると、どんどんと音が大きくなってきてる。

 

「…ここだ…。」

 

 「Jazz ENCORE」…。ジャズは、あんまり聴いたことが無い。といっても普段聴くのもヘビメタみたいな、ハードな曲が多いし。こういった先入観は良くないものなのは私が一番分かってはいるのだけれども、ジャズと聴くと何というか、大人が聴く静かな曲のイメージがある。それこそバーだったり、暗めの照明で照らされた店内に流れているピアノとベースみたいな…。

 でも、少なくともこの扉の向こうから漏れてきている音は、そういった静かなものでは無いような感じがした。…たまには、いつもと違う曲を聴くのも、悪くないかもね…。そう思い扉を開く。

 どうやら奥で演奏している人たちの音が外に漏れていたらしい。よく見たら正面にいるの、ゲヘナの制服着てる…。ゲヘナ生がこういうところに居るのは何となく珍しいような気がする。

 

「いらっしゃい。ミュージックチャージ5000円です。」

 

 受付でチャージを払い、とりあえず辺りを見回すとあまり席は空いていないようだ。それほど人気なのだろう。とりあえず立ち見ができるところがあったので、ジュースを注文してからそこに行き、肘をつく。

 うん、やっぱり一番前で吹いてる子、ゲヘナ生だ。しっかりとした青色に輝くヘイローが、頭の揺れに追従する。なんだか、凄い必死に吹いている割に音は随分と抑えてるような…。でもやっぱり当たり前だけどヘビメタみたいな激しさは無い。でも、何となく強いような…。ピアノの音がどれよりも前に出てるし、かなり勢いよく弾いてる。ピアノのソロパートなのだろう。かなり勢いを上げて、なんだか終わりそうな雰囲気だ。目で合図してる……あ、ゲヘナ生が前に1歩出た…今度はあの子のソロなのだろう…。

 

 瞬間、音が私の顔を、身体を撃った。少し離れかけていた興味が、一気に引き戻される感覚。あれって確か、サックス…。あの楽器って、あんなに強い音が出せるんだ…。さっきまでの演奏は、ホントに抑えていたんだ。ピアノのソロがサックスの音で負けてしまわないように、支えるだけの演奏。さっきまでサポートに回っていたのに一気に前線へと躍り出た。

 

「…凄…。」

 

――――――

(す、すげぇ!!リハの時ですら何だコイツと思ってしまうような滅茶苦茶なソロだったのに、本番になったらもっと音が上がってきてる!ピアノもベースも俺も初心者なんかじゃない、むしろやり続けて6年ほどのベテランと言って差し支えないくらいにジャズをしてきた!その俺が、俺たちが!ついていくことしかできない!!!)

(この子とは初対面のはずなのに、こんなにヤバいソロができるのに!俺たちが合わせたんじゃない!!俺たちに合わせてくれてたんじゃねぇか!!!クソ、指が痛くなってきた…!)

(おいおいおいピアノの俺が主役のはずだろ!!リハですら凄かったのに、まだ伸びんのか!?上等だよ、ついていってやるよ!!!)

 

(あぁ…。)

((((楽しい))))

 

(やっぱり、ソロやデュオで吹くより、バンドで舞台で演奏するのが、一番楽しいや…。ソロもあとちょっと…全部、出し切る!!)

――――――

「ゼェ…ゼェ…はぁ、えーみなさん、本日は…聴きに来てくれてありがとうございます。ご存じの方もございましょうが、本日は私達のバンドのサックスが急遽休みになってしまい、飛び入りで参加をしてもらっています。紹介します、テナーサックスの宮本アオホシさんです!」

 

「宮本、アオホシ…。」

 

 あれだけ凄い演奏をしてるなら、もっと知られてるはず…。そう思ってスマホで調べてみるが、全くヒットしない。今日ここで飛び入り参加することくらいしかない。あの演奏で活動を全くしてないなんてこと、あるの…?

 

”や、カヨコ。”

「誰っ…て、先生?」

 

 スマホを見ていると、いつの間にか先生が私の後ろに立っていた。

 

「先生もこういうところ来るんだね。なんか意外。」

”それは私のセリフかもね。てっきりCDショップにいると思っていたのだけれど、ジャズに興味あったんだ?”

「…たまには違うタイプの曲を聴くのも良いかなって思っただけ…。」

”1曲目は終わっちゃったのかな、どうだった?”

「……良かったよ。」

”!…ふふ、それは良かった。”

「それよりも、先生こそ何でここに?」

”いや、前にアオホシとユウカがシャーレに来てくれた時、かなりの量の仕事を手伝ってくれてね。そのおかげで少しだけ暇ができたんだ。それで、アオホシの演奏なら誰かが注目していてもおかしくないだろうと思って検索をしたら、ここのことが出てきたんだ。”

「ふーん、ていうか先生もジャズに興味あるんだね。」

”うん、まぁそうだね。”

 

 そう喋っていると、次の曲が始まったようだ。うん、やっぱり強い。エレキギターや、ボーカルが居たとしても全く負けないような音。ジャズを聴いていて気持ちいいなんてこと、あるんだな…。

――――――

「ふぅっ…いやーアオホシさんホントに良かったよ!!もし次会う事があったらまた頼んでも良いかな?」

「はい、ぜひ。今日は本当にありがとうございました。それでは。」

 

 今日の分のギャラを受け取り、スタッフ用の扉から外に出る。するとそこには先生と「BORN.TO.KILL」と書かれたパーカーを着た目つきの鋭い女の人が話していた。確かあれってなんか、ブラックポイズンだったか、ヘビメタだっけ…。突っ立っていると、先生がアタシに気づいたようで手を振ってくれた。

 

”アオホシ、お疲れ様。”

「先生来てたんだ。それと、そっちの方は…?」

「…鬼方カヨコです。アオホシさん。」

 

 ギッと鋭い眼光で睨まれる。な、なんか悪いことでもしたのかな!?

 

「な、なんでしょう?」

「…演奏、凄かった。普段ジャズは聴かないんだけど…それでも、凄かった、と思う。」

 

 少し顔を赤くしながらカヨコさんはそう言ってくれた。あぁ、その言葉だけでアタシはジャズを続ける理由になる。カヨコさんの手を取り、ギュッと握る。

 

「カヨコさん、今日聴きに来てくれて、ジャズを聴いてくれてホントにありがとう!!」

 

 ぶんぶんと手を振り、カヨコさんに感謝を伝える。こういう人を増やすためにも、アタシはジャズを続けたい…続けなきゃいけない。改めてそう決意した。

 

「あの、手、痛い…。」

「あっごっごめんね!あの、カヨコさんジャズ初めてなんだよね。普段どんな曲聴いてるの?」

「普段…普段は、ヘビメタみたいなハードな曲が多いかな…。」

「あっやっぱり!そのパーカーも確か、ヘビメタのやつだよね!」

「!!…知ってるの?ブラック・デス・ポイズン。」

「そんなにガッツリ知ってる訳じゃ無いですけど、でも何回か聴いたことあるよ!」

「先生、この子良い子だね。」

”カヨコ、良い子のハードルが低すぎない?”

「ブラック・デス・ポイズンのことを知ってる人に悪い人はいないよ、きっと。」

 

 やはりヘビメタ好きだったらしい。ブラック・デス・ポイズンだったか…また後で聴いておこうかな、あれ音圧がデカすぎて最初の数十秒しか聴けなかったし…。

 

「というか、ゲヘナ生がこんなところで、しかもサックス吹いてるなんてね…。全く知らなかった。」

「んまぁ、フェスとかに出てるわけじゃないですしね…。毎日吹いてるゲヘナ学園の中だったら知ってる人も多いと思いますけど。」

 

 実際もっと知られなきゃキヴォトス一になるのは難しい…。といってもENCOREみたいなジャズバーがたくさん他にある訳じゃ無いしなぁ…。

 

「…先生がいるから要らないかもしれないけど…、ハイ、これ。」

 

 そう悩んでいると、カヨコさんが電話番号と住所を書いたメモを渡してくれた。

 

「もし困ったら、ここに電話するか直接来て。」

”!…珍しいねカヨコがそういったことするなんて。”

「良い音楽はもっと知られるべきと思っただけ。とにかく、報酬さえしっかり渡せるなら私達、便利屋68はしっかり成功させる…。それじゃ、頑張ってねアオホシ。」

 

 いつまにか呼び捨てにされていることに気づき、少し嬉しくなる。このキヴォトスに音楽で話の合う人は貴重なので、とても嬉しい。あ、モモトーク交換しなきゃ!!

 帰ろうとしているカヨコさんを呼び止めて、モモトークを交換する。友達の欄に人が増えるのはいつでも嬉しい。

 

”良かったねアオホシ。”

「先生、来てくれるなら言ってくれればよかったのに。」

”急に暇ができたからね。調べたらアオホシの名前が出てきて、せっかくだから来たんだよ。”

「で、どうだった?」

”…正直に?”

「当たり前じゃん。」

”う~ん…。やはりアオホシが輝くのはソロだとは思う。でも今日はソロで少し飛ばし過ぎてたんだじゃないかな。ピアノもベースもドラムも、キミについていこうと必死でそれ以外の事に集中ができない。もちろん実力の差だってあるから、合わせることが必ずしも重要ではないけどね。でも、寄り添うプレーができてこそのバンドだと、私は思うな。”

「寄り添うプレー…うん、分かってるんだけどねー。」

”納得いかない?”

「いや、凄い納得はいくんだけど。その、さっきの人達もそうだったんだけど、何で全力を最初から出さないんだろうなって思って…。ジャズが好きだからバンドを組んで、舞台にまで立ってる。ならなおさら全力を出すべきなんじゃないのかなって思って…。」

 

 あの人達の演奏が嫌いとかそういう訳では無い。むしろ上手だし、好きな方だ。それぞれの音が良くて、ずっとこの仲間たちで演奏してきたのだろうと感じさせる完璧な音の渡し方とサポートだった。だけど、どこか余力を残して終わろうとするのが何故なのか分からなかった。何度も立ったことのある舞台なのかもしれない。これ以上の舞台にだって立ったことがあるのかもしれない。でも、だから全力を出さない理由にはどうにもならないはずなのに。

 

”アオホシは常に全力だもんね。練習でも、今日みたいな舞台でも。”

「うん、その方が楽しいし。」

”でもアオホシに引っ張られた他の人達は、とても楽しそうだったよ。”

「そう?なら、良かったかな…。」

 

 そういや、カヨコさんからもらったメモ、どうしよう…。便利屋68…便利屋っていうからにはなんでも相談に乗ってくれるのかな。今度、行ってみようか…。

 

 

【アオホシさんがね、初めてここに来たときは失礼かもですけど、来た店を間違えたんじゃないかって思いました。一応うちのジャズバーはキヴォトスで唯一成功してるジャズバーだと自負しているんですよ。ブラックマーケットが近くにあるし、ゲヘナ学園も近いので治安はまぁまぁ悪いんですけれどもね。ただ他のジャズバーは正直聞いたことは無かったもので。なのでまぁ、楽器を持ち始めて、才能があると勘違いしただけの学生だと思っていたんですよ。正直ね。

えぇ、全然違いましたね。彼女の演奏を聴いてからは、他のバンドでトランペットやサックスの欠員が出た時は必ず彼女を呼ぶようにしてました。一応バンドを組まなきゃしっかり舞台に参加させることはできないのでね。早く彼女のバンドとしての演奏を聴きたいという気持ちがずっとありましたね。なので彼女が、バンドメンバーを連れてきて、演奏をしてくれた時には…もう泣きましたよ。感動で。

…え?最高のジャズバーだと?彼女が? ……ふふ、ははは。あぁそう言ってもらえて、良かった。えぇ、今やっと、このジャズバーを開き続けて良かったと、心から思いましたよ…。】




ミュージックチャージ料の調整、通貨の単位の修正を行いました。(2024/03/23 21:20)
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