――――トリニティ総合学園。
学園都市キヴォトスの三大学園に数えられるマンモス校の1つであり、壮大で歴史ある大聖堂や貴重な聖書も保管している古書館、大規模な音楽堂といった巨大施設を有し、校舎は宮殿の様な佇まいが特徴の学園である。
同じく三大学園に数えられるマンモス校のゲヘナ学園とは犬猿の仲である事は有名な話で、自由気ままな校風のゲヘナに対し、トリニティはお嬢様学校のような優雅な校風でお互い相対するような違いがあり、これが犬猿の仲の原因ではないか、と先生は勝手に推測している。
美しい外観に、多種多様な生徒が通う規模の大きい学園。
――――だが、
恐らく、一番損害を被ったであろう学園だろう。
半壊していつ崩れるかも分からない大聖堂に、被害こそ少ないが屋内の文書が火災により多く損失した古書館。
その他の施設も同じく酷い有様だった。
この損害は一体何が理由なのか。
答えは見せしめである。
無名の司祭によるキヴォトスへの侵攻が始まった当初、当たり前ではあるがキヴォトスに住んでいる皆が猛反発した。
これを問題視した無名の司祭達は、エデン条約時に使用したオーバーテクノロジーウェポンと言われる巡航ミサイルをトリニティに向けて大量発射した。
トリニティのキヴォトス最高峰と謳われた砲撃術を以てしてでも防ぎ切れず、トリニティは一瞬にして火の海となった。
死傷者過去最悪を叩き出したこの事件は直ぐにキヴォトス中に報道され、同時にその異常なまでの威力に、皆を震撼させたのだ。
こうしてトリニティを見せしめとして、無名の司祭らはキヴォトスの士気を奪ったのだった。
――――そして、今に至る。
当たり前ではあるが、歩けば疲れる。
それも長い距離になるととんでもない疲労感に襲われる。
これは周知の事実だろう。
先生は、大量の汗を搔きながらトリニティ総合学園へ歩いて向かっていた。
今の季節は夏真っ只中、そして現在時刻1時。ほぼ暑さのピークの時間である。
そして無限に続くかと思えるアスファルトの道路にうっすらと陽炎が見える程の猛暑が、先生を襲っていた。
「...アロナ、残り何kmだっけ。」
「34kmです。」
フルマラソンよりはマシか...
先生は汗を手で拭いながら、シッテムの箱に映し出される地図を見る。
シラトリ区から他の学校に比べて比較的近いとは言っても、その距離は伊達ではない。
公共交通機関があったとしてもそれなりには時間がかかる程の距離で、それを徒歩で向かうとなると...もうとんでもなく途方も無い旅なのだ。
早くもこの旅が嫌になってきた。
...いや、かといってここで旅を辞めることはしないのだが。
――――数時間後。
「...着いたね。」
長時間の徒歩の末、なんとか日中にトリニティ学園前へ辿り着くことが出来た。
途中で野宿も最悪あり得るだろうと考えていた為、これはかなり良いペースなのではないか。
「とはいっても...これは。」
目の前に写るのは悲惨な光景。
見当はついていたが案の定、学園は酷い有様だった。
初めてトリニティを訪れた時に出迎えてくれた入り口である大きな門は、もうその姿を微塵も残していない。
所々に銃痕が残っているのが、更に痛々しさを先生に与えた。
「――それで先生、トリニティの何処へ行く予定なんですか?」
「予定...特にないんだよね。」
アロナの言葉に苦笑いを浮かべる先生。
そう、何も考えていなかった。
特にトリニティに探し物があるわけでもないし、失くした物があるわけでもない。
明確な目的は先生には無かった。
「でも、何か”見つけないといけない物”があるような気がしてね。取り合えず全部見て回るつもりだよ。」
「...なんか先生らしいですね。」
「それは誉め言葉として受け取っていいのかな?」
もちろん、最期にトリニティを見て記憶に残したい。という理由もある。
大部分は損傷してしまっているトリニティだが、それでも生徒達である彼女達と過ごした学園であることに変わりはないのだ。
だがそれ以上に。
”見つけないといけない物”。
曖昧で抽象的な物だが、そういう物があるように先生は本能的に思ったのだ。
きっと、先生がまだ生きている理由。そしてここへ来るべき理由のようなものが。
「まあ、取り合えず歩いて考えよう。」
「建物等が崩れる危険性もありますので、十分に注意してくださいね?」
「――うん、でも危ない時はよろしく頼むよ。」
そして先生は崩れた門を潜り、トリニティ学園内部へと歩みを進めたのだった。
――――大聖堂のステンドグラスが、足元を照らす。
このような大聖堂に使われるステンドガラスは聖書の教えを人々に伝道するために作られているそうだ。
昔は学校に行けず大聖堂や教会に集う多くの教徒のほとんどが文字を読めなかった為、聖書の内容を絵として映し出す事により、聖書の教えを子孫に伝えていったという。
キヴォトスにそのような歴史があるのかは不明だが、その歴史を知ることにより、照らす光がより一層神聖なものに感じた。
...所々割れてしまっている為、少々不自然な光になってしまってはいるが。
この大聖堂は、トリニティ総合学園の部活の1つである「シスターフッド」が本部として使われていた場所である。
彼女たちの活動は生徒達の懺悔を聞く等のカウンセリング、啓発活動など。なんともシスターらしい慈善活動が中心であり、宗教的な活動が多くいかにも大聖堂にふさわしいような部活だった。
とはいってもシスターフッドの勢力は事実上のトリニティの生徒会である「ティーパーティー」の管轄下にない一定の武力や強い発言力、独自の指揮系統や情報網を有しており、シスターフッドはトリニティの中でも大きな力を有した派閥の1つであると言われている。
「さて、見ていこうか。」
先生は大聖堂の中央通路を歩く。
大聖堂の内部は、壊滅的だった。
大聖堂の屋根が崩れ落ちている為、その残骸が内部をほぼ埋め尽くしており崩れ落ちた屋根からは青い空と太陽光が見える。
また支柱も何本か折れてしまっており、建物自体が崩れる危険性は低いとは思うが、全体的な内装は私が訪れていた時の原型が残っていない程までになっていた。
シスター達が作業をしていた机が至る所に倒れており、恐らく机へ乗っていたであろう請求書等の書類が床を埋め尽くしている。
この光景を見るだけで、心が痛めつけられる。
だが、これが現実だ。
目を逸らしてはならない。これは彼女たちの生きていた証ともいえるのだ。
先生は床に落ちている書類を出来るだけ踏まないようにして、奥へと歩く。
「...先生。無理はしないでくださいね。」
「――はは...大丈夫だよ。」
アロナの言葉に慌てて暗みがかった顔を直す先生。
変な心配をアロナにかけるわけにはいかない。
そんなことを考えていると、床に表札のようなものが落ちているのを発見した。
「...歌住サクラコ。」
シスターフッドのリーダー「歌住サクラコ」
真面目で聡明な性格、ではあるが大のスイーツ好きで自分の真面目な雰囲気のせいか怖いイメージが付いているのを良く気にしていたりと、意外とおちゃめな側面がある。
とても面倒見が良くて、それでいて何処か抜けている放っておけない生徒だった。
そうか、もう彼女もいないのか。
途端胸が苦しくなる。
弱いな。先生は苦い表情をしながら小さく呟く。
彼女の表札を見るだけで、こうも感情が渦巻いてしまうのだ。
あれだけ長い間悲しんで、悔やんだ後だというのに。
胸の苦しさを感じながら、先生は表札が落ちている前の方を見る。
そこには比較的他の机より大きな机が置いてあった。
...恐らく、彼女の机だろうか。
先生はその机の前へ歩く。
「...これは、手紙?」
机の上には、小さな手紙が忘れられたかのように置かれていた。
”みなさんへ。”
ラムジェットって何だろうと思って調べてみたんですが、
なんかよく分かりませんでしたね。
まあ取り合えずやっべー奴って事だけ分かりました()
こうして先生を苦しめていると、なんか情緒不安定な先生になってきたような感じがちょっとしてきたんですよね。いやそれも味が出ていいとは思うんですが(?)
んー、もう少し常識人として書きたいので反省すべきところなのかな...
ま、いっか☆