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「…六弦さんと高谷さんのステータスはこんな感じですね。後の3人は特に問題ないと思いますけど、もしヤバそうな人がいれば伝えます」
「…ああ」
「それにしても、さっきの高谷さんには驚きましたね。一気に
「…ああ」
「…ボクって可愛いですよね?」
「…ああ」
「……」
『今日から選抜の練習に加わる――…』
『
『今中学一年生でカバディは春から始めたそうだ。とりあえず二軍でもんでやってくれ』
『ごっついガタイやなー』 『よろしくー!!』
『……』
六弦と初めて会った時もそうだったな…
カバディの経験は俺の方が長かった。ただ体の大きい人間が気紛れに始めた…そう思っていた。
事実、カバディの知識はないに等しかった。
『…む?』
『どうした?』
『いや、あれ…
『…ならねーよ。
『む…では攻撃失敗の判定は…?』
『「自陣に帰るのが不可能」と審判が判断した時だ』
『本来「STRUGGLE」ってのは「もがく」って意味だからな。捕まってもキャントが続いてたり…手をついても自陣へ帰ろうともがき進んでたら攻撃は終わりじゃない』
『心が折れるまで「倒れてない」のか。いいな、それ』
『まぁ、結局ほとんどたてまえだけどな』
『人間、足を
『そういうものか?』
『あ?初心者でも練習してりゃ、そのくらいわかるだろ』
六弦がルールを深く知らない事には理由があった。
理由は簡単。六弦は今まで、相手を捕まえて終わり、もがく事すらさせなかったからだ。
攻撃でも同様。コートに手をついた事がなかった。
ルールを深く学ばなかった訳ではなく、強さ故に知る機会がなかったんだ。
六弦が二軍の練習に参加したのは、その日が最後だった。
『やっぱ格が違うな一軍は…』
『身体作るしかねーか…』
『今から追いつけねーだろ』
俺と同じ二軍メンバーが愚痴をこぼす。二軍ではよく上がる話題だ。上がるクセに結局有力な案が出てきたことは一度もないが。
『じゃあ、どうすりゃいいんだよ…
俺はどうすればいい?俺に何ができる…?
「…慶さんって、六弦さん嫌いなんですか?」
あ?
思考の海にいつの間にか沈んでいたようだ。試合前だというのに何をしているんだ俺は。いや、それよりも目の前にいる
「…何でそんなこと聞く」
「だって慶さん奏和との練習試合が決まってから時々落ち込んでましたし。さっきの挨拶の後もそうでしたよね?
中学の頃のこと思い返したら慶さんと六弦さんが絡んでる所見てないなって思ったらもしかしたらって」
…くそ、隠し事は上手いと自負していたんだがな。長い付き合いになる正人と叶にはバレてしまうのかもしれない。これで水澄たちにもバレてたら腹切りものだな。
「嫌いじゃない、ただムカついているだけだ。六弦にも、俺にもな」
「…奇遇ですね、ボクも六弦さんにムカついてます。仲間ですね」
内心を吐露すると叶は表情を緩めることで2人の間の空気も同じように緩んだ。まったく、
「六弦さんは
六弦の長所を指を折りながら並べていく叶。ってか、さっき同じ事聞いていたな。
長所をあらかた言い尽くした叶は間を置いた後に、
「…でもまぁ、自分の興味がある相手以外無関心なのは…変わっていないみたいですね」
六弦の欠点を述べる。叶は少し言い辛そうだ。まぁそうか。俺はともかく叶は覚えられていたからな。
姫沢叶とは俺がカバディ教室に参加した時からの付き合いだ。正人と同じく小さい頃からずっとカバディをやっている。なにかと正人のマネっこをしたがるヤツだった。その頃からチビで非力だったが、物覚えが早くとにかく器用なヤツって感じだ。
それだけじゃなく他人の身体を見ることで身体能力が分かるとのこと。それをカバディに落とし込んで自身が活躍するのと同時に周りへのフォローも欠かさない。
フィジカル以外欠点が見当たらない
「いいじゃないですか、慶さんが警戒されていないなら触りたい放題倒したい放題ですよ。
それに何かしら
あ?
「だって、ボクの知る慶さんは…」
負けっぱなしで終わる人じゃないですから。
残り52秒奏和1点リード。
互いに、背水。
ボーナスポイントすら致命的な能京は、前に出て戦わなければならない。
対して奏和、仮に攻撃が失敗すれば同点…しかも守備が2人しか残らず、逆転される可能性が高い。
「
逆に
どちらが有利かっていったら択を押しつけられる奏和だろうね」
「お、おい…!それって大丈夫なのか!!?」
軽く状況を整理していると隣の畦道が不安そうに尋ねてきた。長いことベンチにいることもあって不安そうだ。
「大丈夫だよ、マーくんたちを信じて」
能京、奏和、どちらも安全策はない。そして奏和にとって最後の攻撃が…始まった。
「カバディ…」
六弦さんが能京コートに入ると同時に体育館全体を緊張感が走る。それは重圧として選手だけでなく観客にものしかかっていた。
その重圧をヒシヒシと感じながらも慣れたように六弦さんは歩を進める。
「カバディ!!」
六弦さんがタッチを狙ったのは…マーくんだった。
そのタッチを危なげなく避ける。さっきの攻撃を宵越くんに任せたこともあってかまだ脚は残ってるみたいだね。
六弦さんはそれでもマーくんを狙い続ける。途中キャントが乱れることはあれどその
宵越くんの
こうしている間にも時間は進む。
「焦るな!!残り1秒だろうと俺らが攻撃を始めれば攻撃が終わるまで試合は続く!!
今は六弦に点をやらない事だけ考えろ!!」
慶さんが指示の為に3人の方を向く。
「カバディ…」
ハッとする慶さん。明らかに隙だらけだ。ボクやマーくんが
六弦さんはそんな慶さんには目もくれずにマーくんを狙い続ける。試合前にも慶さんと話してたけど、本当に関心が無いんだね。慶さんが怖い顔をして六弦さんをにらみつけるも意に介していない。
でも、それなら好都合。隣の畦道は終始不安そうにしているがボクは安心している。懸念していることは1つだけあるが、それに対しても今のボクにできることではない。ボクはただコートの5人を信じ今の
【六弦side】
まさか高谷が追い出されることになるとはな。王城を狙い続けながらそう思う。それも1度やられて警戒していた王城や姫沢ではなく初心者にやられるとは驚きだ。試合前にも言っていたが良い後輩がいるものだな。
「カバディ!!」
これまで何度もタッチを狙い隙を
反対側から牽制が来ていることを知覚してその場から飛び退く。
「
こいつら、
冬の大会では助っ人だらけのワンマンチームという印象だったが…育てたな王城…!!
心の中で
「僕じゃないよ六弦…
?
王城じゃないなら誰だ?姫沢か?いや、姫沢がいくら有能でもつい先程まで入院していた身ならば時間がなさすぎる。いや、今はそんなことを考えている場合ではない!!
自身の体内時計より攻撃が30秒越えていることを確認する。そろそろ息がキツくなってきたな。高谷がいなければ
だがそれでも、そろそろ時間切れだ。
能京の守備の様子を見て、どの択を選べばいいのかは分かった。
俺は先程まで以上に王城へ向けて踏み込んでタッチへ向かう。左手によるそれは未だ継続中だ。それを見て3番・4番が先程までの牽制ではなく俺に突っ込んできた。
「カバディ…」
その2人を俺は
完全に後ろを向いて帰陣の為に走る。王城をアウトにできなかった事は無念!!しかし、この2点を取れば…
王城が攻めてきても犠牲を払い、押し返す事ができる点差!!
試合は勝利で終わる!!あの2人では俺に追いつく事はできん!!
「追いつけるよ。
途端左右どちら側からも衝撃。王城と6番か!!?
なッ…なぜ
3番・4番が守備に来るのは想定出来ていた。だが
攻撃に出るのは
まずい…倒れ…
2人のタックルにより倒れる寸前、俺の前には心配そうに見てくる高谷を始めとした仲間たちがいた
「カバディ…」
歯を食いしばり覚悟を決める。
予期しないことがあったからどうした。
ここで粘らず…何が部長だ!!
2人を引きずりながら懸命に前へ。幸い2人なら許容範囲だ。しかも王城は軽めの選手。
自分の
「ぐおお…ダメだ…!!やっぱ…
「
【井浦side】
ずっと、何年も考えていた。
スポーツから離れるのも1つの手だ。競争原理から離れてしまえば悩む事もない。
じゃあどうしても…諦めきれなかったらどうする?
天才も凡人と同等…いや、それ以上の汗を流している。
どうすれば追いつける…?
辿り着いた方法は、敵の思考を分析し
武器は身体ではなく、頭脳。実力差を埋めるのは…
作戦だ!!
『なんだ、やっぱりあるんですね
『ふん…その時はお前も作戦通り動いてもらうからな』
『なんですか、それ。まるでボクが勝手に動く考え無しみたいに言うじゃないですか』
『そうだろうが』
『心外ですね。…あ、そういえば慶さん』
『あ?』
『ボクって可愛いですよね?』
『…ふざけたこと抜かす暇があるなら置いていくぞ』
『あぁ!待ってくださいよ慶さん!!』
俺のタックルによって足を踏み外して倒れる。そのおかげで後ろの水澄・伊達も間に合う。
審判が笛を鳴らそうとするのが見て取れた。
「とどめだ…」
そう言う水澄を止めたのは審判の笛でも六弦でもなく
倒れた反動で上がった宵越の足が、偶然守備2人のキャッチを遅らせた。
瞬間――…
「カバディ…!!」
俺たち3人に捕まった六弦が立ち上がり、かろうじて進んだのは、半歩にも満たないわずか10数センチ。
「あきらめ悪りーぜ!!」
ようやくキャッチできた水澄たちが六弦を抑えに飛びかかる。水澄たちが抑えに来るまでにかかったラグはたった数秒。結果的に六弦が倒される未来は変わらなかった。
だがこの
「倒しちゃだめだ!!」
六弦の左腕が伸びる。
大丈夫だ、
胴に回していた手を離し、六弦の伸ばされた左腕を代わりに掴む。片手じゃ止まりそうになかったから両手に切り替える。
「作戦、仲間、両手…俺の全てとお前の腕1本…割りに合わねーよな」
残酷だぜ。結局実力の差を痛感されられた。
…それでも
カバディが
【姫沢side】
「井浦ァ!!」 「慶!!」 「井浦サン!!」
六弦さんが止まった。能京5人全員での守備という奇策のおかげだ。最後六弦さんの粘りを慶さんが止めたことを称えるマーくんたちが口々に慶さんの名前を呼ぶ。これで六弦さんも慶さんの存在を無視できなくなるだろうね。
「と…止めた…」
六弦さんの
「攻撃…」 「行くぞ…」
マーくんと宵越くんが同時に攻撃へ動く。まだ同点。勝つためにはあと1点が必要だ。
六弦さんも高谷さんもコート外で守備もたった2人。どちらが攻撃に出ても得点するのは容易だろう。
だからこそ、残念だ。
ビーッ
「奏和、攻撃失敗!!能京、1点獲得!!同時に…タイムアップ!!試合終了です!!」
30対30
試合はどちらにとっても嬉しくない、