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「「……」」
試合が終わったというのに歓声1つも上がらない。それもそうか。
「…くそ…」 「同点かよ…」
途中から六弦さんの狙いに気付いていた奏和メンバーも策通りに進んだことは分かっているがそれでも勝ちきれなかったことに不満そうだ。流石強豪校、メンバーの意識も高いね。
「間に合わなかった…だが…」 「あぁ、あの奏和相手に引き分けか…」
水澄先輩と伊達先輩が息を吐きながらそう呟く。
限りなく勝利に近い引き分け。2人が浮かれるのも仕方ないと言える。
「…か言え…」
だけど、1人それだけでは納得しない男がいた。
「50秒あったんだぞ!!キャントがそこまで続くハズが…」
宵越くんが審判に詰め寄る。引き分けに妥協しない彼はいつまでも上を向いている。今も何故タイムアップになっているのか分からないからこうして叫んでいるのだろう。
「やめよう
宵越くんの肩を掴んで抑えようとするのはマーくんだ。高谷さんは1分半できるって話だもんね。実際今日も出来ていたし、高谷さんを見習ってキャントの時間を伸ばす練習を他メンバーがしていてもおかしくはない。
「僕たちのミスだ。焦らなかった事が…原因だ」
「
宵越くんを掴む肩に力が入るマーくんと冷静にその時の状況を振り返って反省点を示す慶さん。2人の言葉を聞いて興奮を鎮める宵越くん。逆に今の3人のコメントで引き分けに半ば満足していた残り2人が居心地悪そうにしている。
「どんな強者も時間には勝てん。
「奏和の
倒れていた六弦さんが立ち上がりながらそう言い立ち去る。学ぶのは
「こっからだったんだ…
震えながらそう言う宵越くん。負けた訳でもないのに彼はどこまでも悔しそうだ。
死ぬほど負けず嫌い。そういう人がとても希有な存在だというのをボクはよく知っている。
「…いつだ…」
「え?」
「大会はいつだ?」
…ははっ
周りの人たちも宵越くんの切り替えに少し面を食らっているようだ。1人高谷さんがそんな宵越くんを見て笑っている。
怒りや
スポーツはそれの繰り返し。頂点に立つまでそれは続く。
本当に狂ってるね、宵越くんは。だからこそボクは宵越くんのファンなんだけど。
ボクもこの試合での反省点は多くある。大会までになんとか直していかないとね。
「大会は8月だ」
宵越くんに大会の日付を伝える慶さん。
「8月…3か月後か…」
「僕たち三年はそれが最後の大会だ」
「引き分けじゃダメだ、勝たないと。這い上がろう」
マーくんがそう言って締める。
「30対30!!引き分け!!礼!!」
「「ありがとうございました!!!」」
片付けを済ませて帰るボクたちを見送る奏和の方々。体育館に入るときも思ったけど本当に人多いなぁ。ボクたちの5、6倍は軽くいるよね。これだけカバディをやってくれる人がいるって単純に嬉しい。
六弦さんが慶さんに手を差し伸べながら名前を聞いてる。六弦さんの欠点は変わっていない。ただ慶さんに最後やられたから慶さんを強敵と認めただけ。それまで侮っていたことも隠そうともしない。本当に裏表ない人だね、慶さんとは正反対だ。
慶さんもまんざらではなさそうだ。六弦さんに意地悪してるけど横のマーくんに
「…フン…敵と馴れ合いやがって…」
そんな3年を見て宵越くんが愚痴る。宵越くんはやらないのかな?カバディと違ってサッカーの大会とかそういう機会いっぱいあったと思うんだけど。親交の証としてユニフォーム交換とかさ。まぁ確かに宵越くんが負かした敵に話しかけるイメージが湧かないや。
負けた敵?もっとないない。
そう1人結論を出していると高谷さんがそんな宵越くんに絡みに行ってる。アイサツをしようと宵越くんの手を狙い続ける高谷さん。何故か宵越くんはそれを躱し続ける。
握手そんなに嫌いなの?
2人とも試合終わった後だっていうのによく動けるなー。ボクの
「キミはオレに勝ちたい?」
「当然だろが!!」
「オレに勝ったらどうする?多分、また新しい敵が現われて、それを倒しての繰り返し…。1番になってもそれは変わらねー。追うか追われるかが違うだけ…キミはそれでいいの?」
「そんなモンは1番になった時考える…!!」
高谷さんは中学時代水泳で1番だったんだっけ。勝つのが当たり前になってつまらないから水泳は辞めたって記事には書いてあったけど、実際の所どうなんだろ?宵越くんに問いかけるその表情は先程まであったからかいはなくなっているように感じる。
そして答えを聞いた高谷さんは「そっか」と軽くほほえんだように見えた。
「じゃあ全力で追っておいで。オレにも追っかける人はいるし。オレに触れんのがこれで最後にならねーように♪」
握手の勝負は高谷さんに軍配が上がった。嬉しそうに腕をぶんぶん振り回す高谷さんとは対照的にすっごく嫌そうな宵越くん。
「守備で掴む気ねーのかよ!!」
「ヤボな事言うね
「『素人くん』じゃねー、
「口ではなんとでも言えるからねぇ。『たっつん』」
「たッ…やめろガキくせー!!」
「いいじゃんよ~」
「イケメン…イケメン対談!!」
「しかも、能京の人達が噂してたけど、あの人
宵越くんが「素人くん」呼びされなくなったことに勝手に嬉しくなる。六弦さんが慶さんを認めたように、高谷さんも宵越くんを認めたんだなって。なんか高谷さん親衛隊の方たちがボソボソ言ってるけどよく聞こえないや。
ボクも奏和に入学した
「あぁいたいた1番くん。試合じゃよくもやってくれたね~」
「それはコッチの台詞です高谷さん。六弦さんは倒せましたけど、高谷さんには勝ち逃げされちゃいましたから」
「勝ち逃げかぁ?オレとしちゃあ
「
「ジャイアニズムじゃん。似合わないよキミには」
高谷さんとおしゃべりする。試合中も思ったけど話しやすいな高谷さん。こっちの軽口にも返してくれるし、ちょうど同じ1つ上の先輩を思い出すくらいだ。
「それにしてもキミさぁ、よく分からないんだよね。試合中はずっとつまんなそうにしてたのに、最後の追撃の時はすっごい笑顔だったし。どっちがキミの素なのかな?」
「つまらなくはないですよ。試合中は無表情に努めてるんです。表情1つで情報抜かれたら大変ですから」
「えぇ!!?いいじゃんずっと笑顔で!そっちの方がいいって、せっかく可愛いんだから!!」
「無表情解いたからって、ずっと笑顔って訳じゃないですからね?」
笑みを溢しながら返す。今話しているこの時もいわば情報戦だ。こちらの情報は渡さず敵の情報を得るのがベスト。そんな上手くいく訳がないから適当に話しても良いことをペラペラしゃべってるだけだけど。
「それならよかったよ。もしキミが『義務』でやってたり『他人の為』にカバディやってるなら止めなきゃと思ってたから。先輩としてね?オレ結構優しいから」
「自分で自分を優しいって言う人は信用しちゃダメって母さんが言ってました」
「ひどっ!?けっこう善意で言ってたのに!!?」
「ウソですよ。…ありがとうございます」
ボクが
「そうだ、キミにも聞いておこうかな。キミは中学の時1番になってた訳だけど、今もカバディをやる理由ってなにかな?同じ
「…マーくんたちと約束したからですよ。
理由の1つを高谷さんに伝えるも高谷さんはそれだけでは納得しなかった。
「うーん、それも立派な夢だけどさ。キミの場合それだけじゃないでしょ?何の根拠もない勘だけどさ、オレのこれってけっこう当たるんだよね」
正直、話さなくてもよかった。別に強制されてる訳でもなし、強引に言いきれば高谷さんもそれ以上追求してくることもないだろう。
でも高谷さんなら、ボクなんかとは違う
「……ボクは確かに1番でしたけど、高谷さんとは違ってテッペンじゃなかったですよ」
世界戦が終わった後知った事実。知らなかった方が良かったと思うボクと知って良かったと思うボク。今振り返ってもどっちの比率が高いのかは分からない。ただ今でも確実にそうだと言えるのは、
「同情や贔屓ではない、
ちょっとマジな顔になっちゃったけど高谷さんは変わらない。でも決して茶化さずにボクの告白を受け入れてくれたことは分かった。
「…そっか、じゃあ1番く…。じゃないな。キミの名前ってなんだっけ?」
「
「じゃあ『かっちゃん』、キミの夢が叶うことを祈っとくよ。もちろんオレも
「もちろんです。まだ
「何あの女…我らが煉クンと楽しくおしゃべりなんかして…」
「落ち着いて!あの子可愛いけど男だから!男の娘だから!!」
「ウソ!?本当!!?え、ちっちゃ!?可愛すぎない!!?」
「そういえばコレも能京の人達からなんだけど、さっきの白髪の人が毎日訪ねてる男ってあの子だって噂よ!!」
「ウソ!もしそれが本当なら、まさかの三角関係!!?」
高谷さんの手を拒否せず握る。またもやボクらを見てなにやら騒がしいけどイマイチ聞こえない。まあいいや、もうどうにでもなれだ。
「守備力不足だ。お互いにこの試合守備での点をほとんどとれてない」
「後半は多少マシだったが、異常な攻撃戦で回避と
うへぇ…頭が揺れるぅ…。窓の外をいくら見てもおさまる気がしないぃ~。
「叶大丈夫?辛くなったら僕によりかかってもいいからね?」
ありがとうマーくん…
「上に行くには高谷並みの
「誰が悪いでもなくチーム全体の力が欠けている。コンビネーションや守備位置、フォーメーションから見直そう!!勝つために!!」
「「「おう!!」」」
「皆うるさい!もうちょっと静かに!!」
「「す、すいません…」」
「いや、お前の声も大きかったぞ今のは」
うへ…大声が直に頭に…
「あ、宵越くん上がった?こっちがあらかた片付いたらマッサージするからちょっと待ってて」
またおんぶされたまま寮まで送ってもらったこともあって体調も少し回復した。バスや車は本当に嫌いだ。なんで皆あんな鉄の棺桶に乗っても無事でいられるんだろうね。本当に分からない。
夜ご飯も済ませたから明日の朝ご飯の準備をしていたけど宵越くんが風呂から上がったからちょっと中断。数日前から宵越くんのマッサージもするようになったから最近はボクの部屋の風呂に入ってもらってる。
最初宵越くんにやろうとした時は疑わしげだったけど、好評でそれ以来ほぼ毎日やっている。効果が良いからとボクの風呂に入るよう言うと最初固辞されたけど、わざわざ2人宵越くんの部屋まで行くのも面倒なこと、宵越くんの風呂入った後にボクの部屋まで来る場合も湯冷めすることを伝えたら諦めて入るようになった。
このマッサージ技術も料理と同じく師匠から教えてもらったものだけど、その師匠も父ちゃんから聞いたって教えてくれた。めぐりめぐるってこういうことを言うんだね。
キリが良いところで終わらせて宵越くんの所へ行こうと思ったら何故か宵越くんがジャージを羽織って外へ向かおうとしてる!!?
「ちょっと!宵越くん!!?」
「ちょっと走ってくる!!」
慌てた様子で宵越くんが部屋から出て行く。いきなりどうしたんだろうか。せっかく風呂に入って汗を流したのに
宵越くんの突然の挙動に心配なボクもガス栓を締めたりジャージの上を引っかけたり等モソモソと準備を終わらせて追いかける。もう見当たらないや。宵越くんっていつもどこ走ってるんだろ。とりあえず河川敷まで行こうかなって軽く急いでいると、
「う~む…勧誘のタイミング逃したな…」
「あの試合の直後じゃ言い出しづらいですもんね…」
あそこにいるのは…!!
「こんばんは、サッカー部の皆さん!!宵越くん見ませんでした?」
「む?君は…!!?何て格好をしているんだ!!?」
今日の試合に(何故か)応援に来てくれていたサッカー部の方々に挨拶をする傍らで宵越くんを見ていないか聞いてみると顧問の先生からビックリされる。
ん、格好?
ボクの今の格好を見てみる。上からオーバーサイズのジャージ上にハーフパンツ、以上。あ、ジャージが大きすぎてハーフパンツ履いてないように見えたかな?
「あ、大丈夫ですよ。ちゃんとはいてますから!」
「あぁぁ!!わざわざ見せなくていい!!」
何故か顧問以外の部員も目線をボクからそらしながら言う。見えるようにわざわざたくし上げたのに失礼な人たちだ。
ま、それはいいとして。
「実はさっき宵越くんが『走りに行く』って言って部屋から飛び出しちゃって、ボクも慌てて追いかけたんですけど、見失っちゃいまして。皆さん見てないですか?」
「あぁそういうことか…。ん?一緒の部屋にいたのか?」
「?…はい。そんなにおかしいことですか?」
「い、いや!そんなことはないぞ!!あの噂は本当だったのか?いや、男同士集まるのは別におかしくは…」
「ゴメンな。俺たちも見てないんだ。ついさっき部屋から出て行ったなら見ていてもおかしくはないんだけど…」
「いや、ご丁寧にありがとうございます!」
途中顧問の先生が小声でボソボソ何か言っていたがなんだったんだろうか?まあ見てないって言うならなんでもいいか。
「あぁ…姫沢だったか?ちょっと聞きたいことがあるんだけど…今いいか?」
「まぁ…はい。大丈夫ですよ?」
「ありがとな。えっと…最近宵越が姫沢の部屋に毎日行ってるって聞いたんだけど本当か?」
「なんでそんなこと聞くのか分からないですけど…。はい本当ですよ。宵越くんのご飯事情が悲惨すぎたので、同じ部活のよしみでご飯を一緒に食べてるんです」
部員の人に聞かれたので正直に答える。クラスの子にも聞かれたなそういえば。どこから話が広まったんだか。以前話した乃子さんにも特に広めないように言ってなかったから別にいいけど、宵越くんって本当に人気者だねぇ。
「宵越にたかられたりとか…そういう訳じゃないんだよな?」
「はい。ボクからお願いしたぐらいですよ。宵越くんの1ファンとして毎日コンビニ弁当は少しいただけなかったので」
なんだ心配してくれてたのか。ってか、宵越くん
「…うむ、姫沢…と言ったか?」
「はい、どうかされましたか先生?」
方法を考えているとそれまで黙っていた先生が口を開いた。
「宵越は…カバディやっていけそうなのか?」
「はい。うちのエース候補ですよ。ま、当分の間抜かされるつもりはないですけどね」
ボクの返しを受けて「そうか」と軽く笑みを浮かべる先生。
サッカー部が宵越くんを欲しがっているのはボクも聞いている。だから先生的にはカバディはお邪魔なはずなのに、こうして嬉しそうな所を見せてくれるなんて。試合の応援にも来てくれていたし、良い人だね本当に。
「あ~あ、これじゃ今回も望み薄ですかね先生」
「まぁ、そうだな。ま、本人から直接言われない限りはまだ諦め…」
「馬鹿が!!まだ寒いってのにこんなトコ入れやがって!!」
「ごめんって!!おらも入ったからおあいこだべ!!」
「俺が無理矢理入れなきゃ入んなかったろ!!」
あ、宵越くんいた。隣に畦道もいるや。
2人とも上半身裸でずぶ濡れだ。川にダイブでもしたのかな?元気だねぇ2人とも。
安堵しているボクとは正反対に何故か慌て始めるサッカー部の方々。ギャーギャー喚きながらこの場から去ろうとする。慌ててお礼を言った後で2人の元へと駆け寄る。
「探したよ宵越くん、こんな所で何してるのさ」
「なんだ、お前も来たのかよ」
「ん、ヒメサワ?どうかしたべ?」
2人に聞いて見るもどっちも答えてくれない。それから数分置いてやっと事情は聞けたけど、なにしてるのさ。その場にいなくてよかったよホント。生臭い川にダイブなんてボクやりたくないよ。
「ま、いいや。そういえば畦道、メール送ったんだけど見てくれた?」
ケータイで自撮りツーショットを決める畦道に聞く。すっごい笑顔だな畦道。そんなに楽しいの川ダイブ。わっかんないや。
「あ、すまんヒメサワ見てなかった!え~と、らんちばいきんぐ?」
「明日1日オフだよね、宵越くんと3人で行かない?お金の心配はしないでいいから」
サッカー部の人達優しいですよね。最初はサッカー部へ引き込むのが目的だったのに最後はカバディ部をただただ応援してくれるという。本当に良い人たちです