ボクがキミを王にする   作:モーン21

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※GWですね。休める予定なので更新がんばりたいです

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第17話 カックイイ男に

【水澄side】

 

俺が物心ついてから父親はいない。お袋が1人俺がガキの頃から面倒を見てきてくれた。

今でいうシングルマザーってやつか?だからといって何か不都合があった訳ではない。

時折周りのヤツから大変じゃないかと声をかけられることもあるが、俺にとってそれが普通なんだから何が大変なのかは分からない。

 

まぁ(高校)はいないが、俺が片親なことをバカにしてきたやつが何人かいた。そんな奴らは例外なく全員ノしてきたんだが。

別に俺がやったことが正しい事だとは思っていないし、ヤツらの言ってきたことにムカついた訳でもない。ただナメられたことが気に入らなかっただけだ。

 

 

 

 

 

 

「初めまして!4月から能京カバディ部に入る姫沢(ひめさわ)(かなえ)です!」

 

アイツを見て思ったのはこんな女みてーなやつが本当にカバディをやってこれたのかってことだ。部長以上にスポーツに向いていない体格。身体だけ一丁前の俺とは正反対だ。

 

「水澄先輩どうですか?先輩のお口にあえばいいんですけど…」

 

寿司といえばスーパーの惣菜の俺から見て、明らかに高そうなお店に連れて行かれても緊張でまったく味分からなかったし。

後から思い返してあれは金持ちアピールだったのではと訝しんだが、部長たちが言うに昔から善意でやるということを聞いて拳を下ろすことにした。

 

「ボクこうみえて小学生の頃から料理してますから…途中からご飯を作るのはボク担当になったんですよ」

 

以外な所で共通点があったことに気付いて驚いたこともあるが。

 

「同情や贔屓ではない、()()()()()を取ること。…それが、ボクが今もカバディを続ける理由です」

 

高谷と話している所を立ち聞きして知ったアイツの目標。そのあまりの高さに奏和と引き分けたことに安堵していた俺がとても情けなく思えた。

 

俺はあれだけナメられることを嫌っていたのに、無意識に外見だけで()()()()()()()()()。その事実を痛感させられた。

 

 

 

 

 

「じゃあ京平チーム、攻めるよ」

 

『よろしくお願いします!!』

 

隣の畦道に負けねぇぐらいに声を張る。初っ端から真のチームが部長をあと少しの所まで追い詰めたのには驚いた。

周りを活かそうとした宵越のプレー。そしてもう1つ。慎重な真がなりふり構わず人見ちゃんごと部長を倒しに行ったこと。

いつも組んでいた真とチームが別れたことを機に、どっちが先に部長を倒すかでアイツとケンカ中の俺は、真が成長したことが嬉しいと同時にやってやるぞと奮起した。

俺も負けねぇようにしないと。

 

部長のタッチを躱しながらチラッとアイツを見る。先程まで地団駄を踏むぐらい感情を出していたのがウソみたいに無表情だ。

こいつもさっきの守備(アンティ)でさらっとスゲェことしてやがったし。なんだよアイツ、(チェーン)禁止されてやり辛そうだと思ってたら、組んでいないヤツと完璧な連携やりやがって。とんでもないヤツだ。

 

こんなヤツを俺は最初ナメていたことに、俺自身情けなく感じる。

 

 

 

 

 

1年前の4月、暴れることから卒業してハッピーに過ごすつもりが、1個上の先輩からどこで撮ったのか俺の中学時代の動画(ケンカ)をエサに勧誘(きょうはく)されてカバディ部に入った。

 

カバディどころかスポーツマンとかダセーと思ってたが、脳みそがヒリつく一瞬の駆け引きを連続して行うそれは、スリルを求める俺の性分に合っていた。

1個上の先輩が2人と…たまに助っ人が何人か来る部活。

パワーは俺が一番。誰にも負けないとその時は思っていた。

 

だけど、初めての大会でバケモンみたいなトコと当たって、それがどれだけ世間知らずかってことと、カバディって競技はどれだけ強い攻撃手がいても、味方(しゅび)がダメだと追いつけないようになっているということを学んだ。

 

(パワー)が部1番だった俺も完全にカモ…何度もコートの外に出た。

そうしたら、部長が何度も戻してくれた。必死に点をとって。

 

何度も何度も…

 

コートの外と中を、何度も。

 

点を取られる為に戻るみたいだった…

 

 

 

いっそ、いない方がマシなんじゃ…って思った。

 

 

 

大会が終わって、点を取られない為には守備を、力のある人間を俺は欲した。

だから4月からほぼ半年、いつも教室の隅でグラウンドを眺める故障が原因で引退した元野球部伊達真司をカバディ部へ誘った。

やりたい事が決まってねーんだったらって。

 

しかし、あいつはガタイが良いだけでノロく、しかも応用のきかない不器用型…

俺の思う『ダセー男』そのものだった。

だから、あいつと組むより1人で動いた方がマシだと判断した。

 

その判断もまた失敗だった。俺は同じ過ちを犯した。

 

2度目の大会…カモが増えただけだった。

 

その試合の後、ヒデー事言っちまった。

 

「やめたくなった?」

 

「……少し」 「ふーん」

 

「ここで辞めたら野球と一緒じゃん」

 

「俺が野球を辞めたのは…「ケガしたってやろうと思えば他のポジションできたっしょ」」

 

元々ソリが合わない同士、更に敗け試合でイラついていたせいもあった。

 

「簡単に言うなよ。ヘラヘラした男が。昔から打ち込んでいたものが一つでもあるのか?」

 

「…あ…?ねーよ。それが?」

 

「だから軽々しく言えるんだ。離せ半端者」

 

「……いや、あったわ。昔から打ち込んでた事」

 

肩を掴まれた腹いせに胸ぐらを掴む。それを払いのけられた時点で俺の堪忍袋は破裂した。

 

ケンカ(これ)

 

「そんな(やから)のような気はしていた」

 

ヤツのこめかみ目がけての右ストレート、躊躇いはなかった。ダセーヤツは日和るかと思ったが反撃に来たのは驚いた。ノロマなヤツとはケンカの場数が違う。

 

だが、ここで俺はようやくヤツの俺以上のパワーを体感した。

 

そこからは殴ったら殴り返し、蹴られたら蹴り返し。

 

決着は思わぬ形で幕を下ろした。

 

「カバディに闘志は大事だけど…殴るのは反則」

 

眼前にいたムカつくヤツの顔から一変、青空が視界に広がったのを確認してようやく、俺はヤツではない第三者に倒されたことが分かった。

 

(くや)しいのみんな一緒だから…ね、2人共。

そこまで()やんでくれて…苛立(いらだ)ってくれて…僕はうれしいよ」

 

俺とヤツを同時に倒した第三者は俺と比べたら細すぎる腕を持つ部長だった。

どんなトリックで倒されたのか当時はちんぷんかんぷんだったが、今思えばあれがカウンターだったんだろうな。

 

あれからちゃんとヤツと協力するようになった。

繋ぎたくない(チェーン)をお互いギチギチに固くなりながらなんとか練習し始めたり、俺の趣味であるギターをヤツに貸したりしていろいろ遊んだりしてるうちに、気付けば俺はヤツをあだ名で呼ぶ程の普通のダチになった。

 

 

 

 

 

春休み、真との守備の連携が大分マシになってきた頃姫沢がやってきた。

前々から話には聞いていたけれども、ぱっと見女としか思えなかった。小さいガタイに可愛らしい外見。人形みてーだなって思った。格闘技にカウントされることもあるカバディという競技に部長以上に似合わなかった。

 

それからカバディ経験者だということと部長と同じく世界組であることを知った。()()()()ということで試しに俺等の身体能力をペラペラ言ったかと思えば数ヶ月後にもらった結果とほぼ同じだということが発覚して度肝を抜かされたっけな。

 

それから部長と一緒に脚を痛めて入院したり、大型ルーキー(畦道・宵越)が入部してきて2人が復帰してきてすぐに奏和との練習試合等、これまでに無いほどミッチリとした日々を過ごした。

 

その練習試合で活躍したと言えるのは部長や宵越、姫沢だろう。

それに比べて俺はこれまでの大会でカモ扱いされたことを払拭しようと守備(アンティ)を死ぬ気でやったが、結局守備で倒せたのは最後の最後の1回だけ。それ以外は前までと同様コートの外と中を往復するだけだった。

守備(アンティ)時に部長を触らせなかったことだけが唯一胸を張れる所なのが辛い。

 

その守備(アンティ)も最後の1回を除けば1番輝いていたと言えるのは姫沢だろう。

後半からの出場だったが、俺以上に真との完璧な連携を披露してあの高谷をあと少しの所で倒す所まで追い込んだ。

経験値が俺以上にあるのは百も承知だ。だがそれでも、高校からカバディを初めて1番胸を張れると思っていた守備(アンティ)を年下のやつに上回られるのは姫沢が初めてだった。

 

負けられねえと思った。ガタイで俺が姫沢に勝っているのは分かっている。

だからなんだ。それでただ今みてーにカモにされるなら最初俺が真に思ったことと同じだ。

姫沢に負けない為にもカバディについてもっと知ろうと思った。

 

その矢先だった。

フォーメーション発表を機に、気付けばいつも組んでいた真とではなく、あの姫沢と(チェーン)を組むようになった。

 

「水澄先輩は…、ボクに誘導されるのってどう思ってます?」

 

「ん?あぁあれか。確かにすごいのは分かるんだが、俺の好み的に自分のタイミングで動きてーんだよなー。

でも、練習の時はどんどんやってくれよ!」

 

姫沢と(チェーン)を組んだ時の安心感はすごい。部長が相手の時でもいつも以上に動きが目で追えるような気がするぐらいだ。

でも、姫沢が真にやっているような誘導はどうも俺には合わなかった。姫沢の方が経験でも技術でも上回ってるんだから大人しく聞いていればいいのは分かっている。でもなぜかどうしても折り合いを付けることができなかった。俺自身のワガママでチームに迷惑がかかると思って申し訳なく思い謝ったが、姫沢は慣れた様子だった。

 

カバディ選抜(中学)の時も合うヤツと合わないヤツがいたから俺は悪くないという。その為話し合った結果練習の時はともかく、試合の時は俺の動きに姫沢が合わせる形で俺と姫沢の守備のやり方は決まった。

 

姫沢のカバディ歴は聞けば部長に次ぐレベルで井浦サンよりも長いという。

大会までの数ヶ月でその経験と技術を全て吸収できるとまでは思わないが、それでも姫沢の守備(アンティ)の動きを間近で見る事ができる最近の練習はとても身になっている気がする。

 

「水澄先輩、最近腕の筋トレ増やしました?先週と比べても筋肉量が増えてます」

 

「マジか!六弦サンに負けてらんねぇと思ってよ。ちょっと回数増やしてみたんだよ。

どうだ?六弦サンまであとどれくらいだ?」

 

「なるほど、そういうことだったんですね。

筋肉量という意味でしたらそんなに六弦さんと差は少しなので近いうちに追いつくとは思います。

でも、あの六弦さんの守備(アンティ)の強さはパワーだけじゃなくて()()()()()()()こともありますから。正直に言いますと、今から大会までに六弦さんに並ぶのはまず無理です」

 

「おぉ…、結構バッサリいくのな…」

 

「すいません、どうしてもカバディに関することでウソはつきたくないので。

けど近づいてるのも事実です。やり過ぎの場合は声かけるので今の調子でがんばってください!なんか偉そうですいません」

 

目がいいのは入部早々のアレから分かっていたが、人体についてやケガにも詳しいのはこの間畦道が手当てされるまで知らなかったな。

両親が医者ということは聞いていたが、それがイコール金持ちということで俺の中では完結していたからかね。

 

姫沢自身も医者の息子ってことならそりゃ詳しくもなるよな。トレーナーもどきのことを言われると同時に今もオーバーワークにならないように注意された。

姫沢自身入院したことを反省しているようで、ケガについては部の中でも特に気をつけているようだ。奏和との試合の後畦道が連日のように居残り練をしていた事についても何やら物申しそうにしていたからそれは本当だろう。

 

代わりに筋トレは身長を伸ばしたいこともあってあまり取り組んでいなかったようで、真と一緒に姫沢に教えることがあった時はセンパイ面ができて楽しかったな。

 

 

 

 

 

部長を相手にしてのチーム戦。それまで(チェーン)を組んでいた真とは別チームで姫沢とはチームこそ同じだが(チェーン)を禁止されている。

冬の大会の後はずっと(チェーン)の連携練習をしていたから昔に戻ったみてーだ。

 

部長が俺の隣の畦道を狙ってくる。部長の視界から俺が外れたのを見て俺も動く…

 

クソ!まただ!!また部長に俺が来ることを読まれちまってる。

 

井浦サンから言われたっけ。俺の守備の欠点は駆け引きをする力が低いことだって。

俺は「今から(つか)みに行くぞ」と無意識に合図(シグナル)を攻撃手へ送っているらしい。

 

「水澄先輩のそれは十分長所ですよ。その合図(シグナル)も攻撃手にプレッシャーを与えるという意味ではスタミナを削る威嚇として使えますし、威嚇(いかく)し続ける事で本命のキャッチを紛らわすこともできるでしょうから」

 

姫沢からの言葉だが、結局倒せなかったら同じだろうと()()()()()()思った。

 

駆け引きをする力が弱いからかどうしても部長相手だと勝負にもならない。一瞬の油断から接触(ストラグル)を取られそのまま帰陣される。

この練習を始めてから同じ攻撃を何度も見てきた。だが、未だにそれに反応することすらできないでいる。ダッセーな俺。

 

「よし次…」

 

『うす!!』

 

俺のチームの番が終わって次は真のチームだ。どっちのチームにも入っている3人が急いでコートを移動している。

真のチームの3人はそれぞれ野球、サッカー、相撲とスポーツ歴が長いからか、俺と違って駆け引き、段取りを組んで動けるらしい。

 

「セオリーを知っているっていうのは便利ですけど、カバディの攻撃手(レイダー)はそれを逆に利用してきますからね。

機械が予想外の事態に弱いのと同じです。伊達先輩の場合は自分で選択肢を狭めないようにしないとですね」

 

一度下がった部長に対して先程からかけたプレッシャーを弱めると、それを待ってたかのように部長が突っ込んできた。難なく宵越から接触(ストラグル)を取るとそのまま関や真からもタッチを奪おうとする。

 

真みたいに冷静なだけでもダメ。

 

俺みたいに勇猛さがあるだけでもダメ。

 

野生と知性の両立こそが、カバディの理想…!と言うのは井浦サン。

 

その時1番理想に近いのは宵越か姫沢だって言っていたが…、

 

「よし、次…」

 

足首を掴んできた宵越をカウンターで事も無く潰す部長。

その2人よりもさらに上だとでも言わんばかりの圧巻のプレー。

 

俺たちは部長のレベルまで近づけているだろうか…。

 

 

 

 

 

開始から15分…

 

伊達チーム 22失点

 

水澄チーム 23失点

 

今日の開始早々真のところが良いところまで行ったがそれまでだった。それ以降は先日までと同じ。掴むこともままならないまま、ただ失点だけが重なっていくだけだった。

 

「人見―、1回抜けてー」

 

「う…うん」

 

人見のコート上を移動する動きが緩慢になるのを見逃さなかった姫沢が間髪を入れずに声をかけて人見をコート外に出させていた。

そう言う姫沢もキツそうに息を吐いている。姫沢のアレも体力を使うって聞いたし、結構ギリギリなのかもしれねーな。

 

「よし…じゃあ京平チーム…」

 

「休みを挟みながらとはいえ…」

 

「なんでだ…?部長に疲れが見えねー…」

 

数10秒の休憩を挟んで俺等への攻撃(レイド)が始まる。今が丁度休憩の真と宵越がそれぞれぼやいているが、()()()()()()()()

 

「どうだ?畦道…?」

 

「効いてるっすよ。あのカオ。間違いなく。

 

おらたちずっと威嚇してますから。疲れてますよ」

 

「……!」

 

「…へぇ、畦道も分かるんだ。妙に動きが先日の話し合いから変わってないなと思ったらそんなこと狙ってたんですね先輩…」

 

「まぁな、らしくなく作戦立てさせてもらったよ」

 

水澄             井浦

    畦道     姫沢

        伴

 

当初の予定通り畦道に部長の疲労具合を見てもらう。姫沢が畦道のそれとうちのチームの作戦に感心しているが部長を疲れさせるのはまだ第一段階。問題はここからだ。

 

でも、やっぱ俺には全然わかんねぇや。

顔に出さねーんだ。昔から…当たり前みたいな顔で敵を追い出して…

何度も救ってくれた。

 

「カバディ…」

 

 

 

楽な訳がないっすよね。

 

 

 

守備が弱いから必死だったんすよね?

 

俺を狙うタッチを避けて腰を落とす。

いつでも特攻(タックル)にいけるように。少しでも俺の動きで部長のスタミナを削れるように。

 

 

 

 

よし、今だ!!

 

『あっ』 『わぶっ!!』

 

部長が後ろへ下がって広がった視界から現われたのは突撃してくる畦道・伴(なかま)

危ねぇ、これでケガでもしてたら笑えねえ冗談すぎる。

 

「すみません、来るのはわかってたんすけど…」

 

「いや、十分意表つけたぞ。すげーよ。その能力」

 

部長が宵越たち1年生6人に交流も兼ねて遊びに行かせたその日にミーティングも兼ねて2人には俺の部屋まで来てもらった。

その時は畦道にあんな能力があるなんて想像すらしていなかったっけか。

 

「へぇ、今日1年で遊びに行ってたんだ。初めてだと難しいだろ?ボウリング」

 

「そうっすね…でも結構すぐ慣れたっすよ!真ん中投げればいいだけだったんで!」

 

「その真ん中狙うのが難しいだろ…」

 

「へ?ちゃんと自分の身体がどう動いているかわかれば簡単じゃないですか?」

 

ボウリング初心者であるはずなのに初回からストライクを取るだけでは終わらずに、良いスコアを出せたコツを事も無げにあり得ない方法で告げる畦道に、似たような感覚を覚えたやつが同じ1年で()()いたなと思い出す。

 

「自分の頭からつま先まで、どこがどの位置にあるかしっかり()()するんです!

最近人混みにいる機会増えたからっすかね?近い場所だったら…

他の人の身体でもどこにあるか大体把握できますよ!」

 

「人の身体の位置って、姫沢みたいなこと言い出したな…」

 

 

 

部長の伴を狙うタッチ。前までなら叶っていただろうその接触(ストラグル)も畦道に腕を掴まれ誘導されることで躱す。

 

『「これは触られる距離」とハッキリ理解している』というのは畦道の証言だがすごい才能だ。姫沢や宵越もそうだが、1年にスゴイやつが集まりすぎじゃないかと嬉しい半面恐ろしく思えるな。

 

「カバディ…」

 

「下がった…!?」 「キャント切れか…!?」

 

「まだストラグル入ってねーよな?」

 

「無得点で帰るのは初めてだな…」

 

 

 

ピタ…

 

 

 

そのまま帰陣するかと思われた部長が真と宵越の言葉によってかは分からないが部長は帰るのを辞めた。

 

無得点で帰る訳にはいかない。

 

これまで部長が積み上げてきたプライドや実績に部長自身が退路を塞がれたようにも俺には見えた。

 

「カバディ…」

 

「……大変っすね、部長も」

 

 

「ミスミ先輩!!来ます!!」

 

 

部長の両腕による連続タッチをなんとか躱す。

部長のこれまでの攻撃時間(キャント)を考えても1度帰陣するラインは既に越えている。さらに今日の作戦として開始からずっと部長へ威嚇を繰り返してスタミナを削ってきたんだ。無理をしているのは明らかだった。

 

連続タッチを躱した後今度は俺の方から部長を掴もうとするがサッと避けられる。

十分だ。目的通り時間は稼げた。

 

部長が先程まで畦道たちがいた左を見やっているがそこには誰もいねぇ。

俺が囮になって畦道・伴(2人)(チェーン)組ませて後ろまで回させたからな。

これで部長を前後で挟むことに成功した。

 

 

ドッ!

 

 

勢いよくマットを踏み抜く。狙うは部長の右足。それは威嚇も兼ねての動きだ。

部長の脅威はカウンターだ。闇雲に突っ込んでもパワー関係無く潰されるのはわかりきっている。

 

 

 

だから

 

 

 

ピタ…

 

 

 

カウンターを俺にかけようと身構えていた部長を間近で見つめる。

いつぞや姫沢が真と連携して高谷にやった急停止(キャンセル)。部長相手にやるのは初めてだが、ハマれば使えるなこの技。

 

「むやみにキャッチに行かない」そう教えてくれたのはセンパイっすよ。

 

そんな俺の動きに連動して畦道がついに部長の右足首を掴む。

今日の開始早々に人見と姫沢がそれぞれ部長を掴んだが、15分もたってようやく第2陣が生まれた。

 

「カバディ…!!」

 

部長が畦道にカウンターを使った!これを待っていたんだ!!

 

カウンターの後わずかに身体が浮く隙。存在には前から気付いていた。

だが存在に気付いてもそこにつけ込むことがこれまでは出来なかった。

 

だが、この至近距離、手を伸ばせば届く距離なら。

 

 

 

いっそ…いない方がマシなんじゃって…

 

 

 

情けない守備ですみませんでした。

 

 

 

これからは…

 

 

 

あなたを倒せるこの力で…借りを返します!!!

 

 

 

ようやく入ったタックル。人見や姫沢とは違い部長相手なら俺1人でも十分御せるパワーを持っている。

勝った!これで俺たちの勝ちだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カバディ…」

 

!!

 

思わぬキャントに顔を上げると未だ部長は不敵な笑みを浮かべたまま。

まだ勝負はついていないと言わんばかり。諦める様子はまったく見られなかった。

 

 

 

!!!

 

 

 

その時になってようやく気付いた。

俺のタックルが強すぎたせいか敵陣がこんな近くに…

 

 

届くか…!?

 

 

「くっ!?」

 

部長は練習の時もこれまで俺等相手には倒れることはまずなかった。だから、俺は部長の倒れてからの強さを知らなかった。

 

守備(アンティ)のタックルの勢いを帰陣に利用する強かさ、倒れても機能する脚の回転数、両腕でマットをかきわけ這ってでも進む技術。

 

そのどれもが見たこともないものだった。

 

届かせねぇ!!

 

ここで帰られたら部長に助けられてるダセー俺のままだ!!

 

俺は…部長の力になれる強い男に!!

 

 

カックイイ男になるんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシッ

 

 

 

 

 

中央線にまで伸ばされた部長の右腕はギリギリの所で届いていただろう。()()()()()()()()()()()()()。俺の両腕は部長の胴に回ったままで、部長の右腕にはどうあがいても手が届かなかった。

 

だが、このコートにいるのは俺と部長だけではない。俺のタックルに貢献した畦道や伴以外にも()()()()()()()()()()

 

唯一部長が着用している右腕のリストバンドを掴む姫沢の細い手。その手による抵抗を受けて部長の右腕は中央線の上にまで伸びることは出来たものの、その右腕が地面につくことはなかった。

 

 

 

 

 

「京平、叶」

 

 

 

身体を反転してごろんと仰向けになる部長から呼ばれる。呼ばれたもう1人もなんだと横になったまま部長の顔を覗き見ていた。

 

「…ナイス守備(アンティ)だった。まだ、倒されるつもりはなかったんだけどね。

 

……悔しいや」

 

褒められた…?部長に…?

 

目の前の光景が本当のことだと認識しきれない。

 

部長に認められること、カックイイ男になることは俺の目標だ。

だがいざ目標を達成してそこにあったのは、現実を処理しきれずにボーっとするバカな俺だった。

 

「…ケンカは俺の負けだな」

 

…真…

 

そうか…俺は勝ったのか…

真とのケンカにも、ずっと助けてくれていた部長にも…。

 

 

 

 

 

 

「っしゃああああぁぁぁッ!!!」

 

 

 

 

 

旧体育館に俺の声が響き渡る。俺の元に畦道と伴が来てお互いにさっきのプレーを讃え合う。部長が疲労していることとキャントがいつもより長かったことが部長を倒せた要因であるのは分かっている。それでも今は、今だけは、この心の思うままに叫びたい気分だ。

 

「ナイス守備(アンティ)でした!水澄先輩!!」

 

「おう!姫沢もナイスフォロー!!助かったぜ!!」

 

2人に遅れて姫沢もやって来た。ニッコリ笑顔を浮かべてハイタッチの構えだったため思いっきり叩き込んでやった。姫沢は勢いを殺しきれずにフラフラしているのが面白くて笑う。センパイとしてだいぶ大人げないことをしたなと後で思い返したが、この時は部長を倒せたことが嬉しすぎてそこまで頭が回らなかった。

 

「くそ…次だ!次で俺たちも部長を止めるぞ!!」

 

「あ、この練習はもう終わりにしよう」

 

「えっ!?」

 

梯子を外された宵越が間抜けな声を上げる。

あれ、倒されたら終わりとか言われてたっけか?

 

「僕の攻撃には重さがない。僕に慣れ過ぎても違う(タイプ)の攻撃手に苦戦する事になる。

次のステップだ」

 

そういう訳ではなかったらしい。だけど、確かに部長の言う通りかもしれねー。

他のチームとの試合経験はこの間の奏和戦を入れても数少ないが、部長と同じスタイルの攻撃手は見たことが無い。…姫沢が1番近いか?

 

「群れにいてこそ個性は目立つ。今回見えた個性に応じてそれぞれに合った技術を授ける」

 

それぞれに合った…技術…!!

そういえば特に教えられたことはなかったな。部長のカウンターだったり宵越のロールキックは攻撃の技術だけども、守備にも同じような技術があんのか?

 

これまで知りもしなかった未知のことに先程の高揚感も合わせて自分の内のやる気が漲ってくるのを感じる。

 

「8月の大会…全国制覇に向けて…自分の『1番』を手に入れてくれ」

 

 

 

『おう!!!!』

 

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