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「お、ここだ」
そうこうしているうちに取材会場に着いた。流石に建物の入り口でいっくんの肩車も終わったので、マーくんに持ってもらってたバックも回収している。いやぁ、ホント楽しかった。時にはこの小さい身体も役に立つってものだね。
そんな気楽な気持ちもワイワイとしたボク等の空気も会場に近づくにつれてどんどん引き締まっていくのを感じた。今も扉を目の前にして3年の3人は臨戦態勢に入ったかのような雰囲気だ。残りの2人もそれに引きつられたのか顔に冷や汗がつたっている。
ボクも少し緊張している。前もって覚悟を決めていたはずなのにこの始末とは、情けない。
1番になるんだろ?ならこんな空気だけで負けている場合じゃないだろうが。
そう両頬をペチペチと叩いて気を引き締める。
それから数秒置いた後六弦さんが重い扉を開く。そこには当初の予想通り、星海の怪物が数人静かに鎮座していた。
「久しぶりだね。
「……」
「よう
「お久しぶりです皆様方!!」
マーくんたち3年生とボクが挨拶する。いや、いっくんは無言だったけども。
中にいたのは星海高校の4人。昔から付き合いのある
で、残りの2人なんだけど…、
「……」
「六弦さん、彼はボクと
彼が六弦さんの問いに答えそうになかったからボクが紹介しようとするも、遮るように星海最後の3年生、マーくん世代の世界組1番を背負っていた
途端部屋の空気がひりつくのを感じる。ホント昔っからおっかないんだから
「…いるんだな…カバディにも…圧倒的な人間が。
…あいつが1番強い…」
…へぇ、分かるんだ宵越くん。流石、強者の勘ってやつかな?
「わかる?さすが腐っても元サッカー全国区」
「誰が腐っ…」
高谷さんに茶化されて噛みつこうとする宵越くんだけど、突然2人の間に現れて肩を組んできた男に遮られた。
「やぁやぁよく来てくれた!!
カバディ界へようこそスポーツエリート君」
「だ…だれ…?」
「お久しぶりです水堀さん」
「おう!来てくれて助かったよ叶!!」
「選抜組には紹介する必要はないと思うが改めて…大会の責任者
急なハナシで何人か来てないが、こんだけ揃ってりゃ上出来だな!!」
指示に従い席に着いた後前に立って簡単な自己紹介をする水堀さん。
水堀さんは陽気な人だ。最初に会った時の記憶はボクが小さすぎて覚えてないけれども、家に遊びに来たらほぼ確実にボクに絡んできてくれるから結構嬉しかったりする。
「今回の取材にあたって伝えておく事がある。大会に向けてスポーツ誌に取り上げてもらう訳だが…普通はこんな機会ありえん。
今回は
お礼を言っておくように!!」
「ありがとうー」
「いやーどういたしましてー」
宵越くんを挟んだ向かい側からのほほんとマーくんがお礼を言ってきたからボクも合わせて返事する。ボク等に挟まれた宵越くんが何やら言いたそうにしているがなんでだろうか?
「つまりな、まだまだカバディはナメられてるんだ。
お前らは
ビキッ
『はい!』
水堀さんが握ってたペンを握りつぶしながらボクらを脅すように呼びかけてきた。
あ~もったいない。確かに初対面の宵越くんとかをビビらせる効果はバッチリでてるけどさ。中学から慣れてるボクらは懐かしいぐらいだ。水堀さんが監督だったのマーくん世代と1つ上までだから、ボクらの最後の年は違う人だったけど。
「じゃさっそくインタビューお願いします-!
あ!世界…元選抜の1軍!前の方に出てこーい!!」
先程の言葉の重さを感じさせない陽気な口調で取材陣に声をかける水堀さん。ボクも1軍だけどどうしたものかと震えていると、水堀さんに目で合図を出されたのでボクも前の方へと躍り出た。
「…久しぶり…」
「うん、久しぶり。もー、名前ぐらい呼んでよね
「…ちゃん付けは止めてって前も言ったよね…」
「ありゃ、まだ許されてなかったか。
「…ホントは嫌だけど色々と面倒くさいからもう諦めてる…。
…それに、一応先輩だから…」
「あら可愛そう。フワちゃんに相談すればいいのに」
「…不破さんにこんなことで迷惑かけたくないから…。
それと、その呼び方も止めて。前々から思ってたけど、不破さんを馬鹿にしてるの?」
「いやぁ、全然。…ってか志場がそう思うんなら、ボクが冴木さんをギンちゃんって呼ぶのもアウトなんじゃないの?」
「……あの人はどうでもいいから…」
「わぁ辛辣。嫌われてるねぇギンちゃん」
隣の
ギンちゃんが大きなくしゃみをしてフワちゃんにすっごい睨まれてるのをチラッと盗み見てほくそ笑む。
志場と会ったのはボクが中学2年生の春の頃。志場が春にカバディ選抜の2軍に入ってすぐに1軍に上がってきた為であった。前期を含めて1軍に長く居た2年生がボクだったのもあって、何かと教えたり練習でもセットになることが多かった。
始めに思ったのは無口なのにそれを周りに気にさせない天才だ。まったくしゃべらないクセになんだかんだ意思疎通はしっかり取ってくれるしそれを嫌味に感じさせない。
人とコミュニケーションを拒絶してるのとは違ってなんだか怖がっている感じ。それが皆分かったのかほとんどの人は志場には話しかけなかった。
でも、一部の人はそうではなかった。突如現れた天才に嫉妬した1つ上の先輩が練習後複数人で絡んでいる所を見かけちゃってどうしよってなった。
助ける義理は無かったんだけど、フワちゃんから「志場を頼む」って連絡は来てたし。とりあえず絡んでる所をビデオに撮った後志場と合流して先輩方を帰らせた。
翌日その先輩方に慶さんをマネて
ボクと2人でいる時は志場から話し始めることはなくボクの方から話しかけるんだけど、それも反応が返ってくるのは稀だ。
でもフワちゃんを慕っているからか、ボクが出すフワちゃんの話題には必ずと言っていいほど食いついてきた。小学校の頃から無愛想でストイックな性格だってことを伝えたらなんでか志場も嬉しそうにしていた。こういう反応を口では出さなくても態度で示してくれるから志場と話すのも全然苦労しないし、楽しいとも思った。
「…それにしても、姫沢のお父さんまだ寄付続けてたんだね。」
って思っていたら志場の方からボクに話題を振ってきたから驚いた。
「…へぇ。志場の方から話しかけてくれたこと、志場がボクのお父さんが以前から寄付していたことを知っていたこと、どっちにも驚いたよ
志場も高校に入って成長してるんだね~」
「…………」
「はいはい、ちゃんと答えるから。
カバディ選抜は中学で抜けたわけだけど、まだ寄付し続けるとは言ってたよ。
具体的にいつまでするとは聞いてないんだけどね」
自慢じゃないけど、ボクの父さんは結構な有名人だ。
ボクの父さんは小さい頃から姫沢家直系の母さんの許嫁として育てられて、予定通り母さんの入り婿として結婚した。当時理事長だったボクの…祖父から病院の経営を学びながら医療の道を邁進する一方、父さんは投資にも手を伸ばしていた。
元々父さんの家もまた土地を持つ名家だったのもあってか、父さんは高校の頃から投資に取り組んでいた。数多の経験と類い希なる先読みのセンスもあってか、父さんは経営者や医者だけではなく投資家としても花開いていた。
父さんはその個人資金を元手に大稼ぎするのが目的ではないみたいで、多種多様の法人や協会に寄付している。カバディ協会に寄付しているのもその一環らしい。
父さん自身大学の頃カバディをやっていたらしく、大学卒業を機にパッタリ止めたものの、
寄付自体はボクがカバディをやり始めた小学1年生の頃からやり続けていると話には聞いた。その時はボクがカバディを辞めるまで続けるとは言ってくれたけれど、こればっかりはボクが話すことではないからね。
水堀さんがさっき半分言ったけど今回ボクが呼ばれたのも父さんを立てるためだ。10年近く東京の大手病院理事長の血縁関係者がカバディ協会へ個人で寄付を続けている父さんに対しての父さんへの恩返しと言えばいいだろうか。
カバディ協会以外への寄付も毎年欠かさずしている父さんの世間のイメージを良くする。
少し汚いかもだけど、別にいつもやっている挨拶周りと趣向が少しだけ違うだけだからボクは全然気にしていない。
むしろ、こうしていっくんやフワちゃん、志場といった面々と大会前に顔を合わせることが出来たから感謝しているくらいだ。
「お待たせしました!これからインタビューを始めさせてもらいます!!」
ようやくインタビューが始まるみたいだ。よっぽどのことをしない限り大丈夫だと思うけど、とりあえず隣の志場には先に謝っておこうか。彼からしたら今からのボクは気持ち悪いだろうから。さて、
【宵越side】
俺と高谷以外の8人が前へ移動してインタビューを受けているのを座って待っていると、わざわざ高谷が席を移動してまで絡みに来やがったからうげってなったし実際言った。
俺はこいつが嫌いだ。何かと俺をおちょくってくるのもそうだが、試合中女共から応援されているのも気に食わぬ。別に羨ましい訳ではないがな。
高谷が絡んでくるのを受け流しながら部長や姫沢のインタビューを見る。部長も六弦も緊張してた割にはスムーズに答えられてんな。高谷が「『別の事』に夢中だから」ってほざいてたがなんの事だ?聞きてえけど、こいつに聞いた後が面倒だから聞かないでおこう。
姫沢は緊張していないという言葉の通り笑顔を浮かべながら自然に受け答えをしていた。何度か隣の
高谷が席を外したのを機に座るのに飽きた俺も窓際へ移動して今日得た各校の情報を頭の中で整理していると、軽いオヤジという印象の水堀のオッサンが声をかけてきた。
高谷からの情報だが、このオッサンは昔インドのプロリーグに行ってた程の実力者らしい。
先程の迫力がすごかったからもう疑わねぇが、普通にしてると全然それを感じねぇな。
最初に世界組のインタビューを優先してすまないという事だが別に俺は気にしていない。その事を伝えると間髪入れずに時間潰しに質問いいかな?と来やがった。
これが大人の話術ってやつかと感心していると、「なぜカバディをやってるんだい?」といういかにも今日の場面で1番聞かれそうなことを言われた。
そういえば、特に緊張してなかったから考えてなかったなと少し逡巡した後に「負けっぱなしの相手がいて…そいつに勝ちてーから」とこの間の奏和戦や部長、姫沢を頭に浮かべながら答えると、「最初に勝ってりゃやってないって事かな?」というオッサンの返事に俺はすぐ返すことができなかった。
「正直、この質問の答えは人それぞれだからな。良いも悪いもない。
しかし『強さ』が測れる」
「こんなんで強さが?」
俺のさっきの返答が不正解ではないと言われるものの、この言い方を見るにさっきの俺のは弱かったのだろう。半ばバカにされたことに苛立ちながらオッサンに聞く。
「そうだ。例えばあの白坊主の
親の代から兄弟までカバディ日本代表のサラブレット。高校じゃ未だ負けナシ。どう答えると思う?」
「知らねーよ。今日初めて会ったんだ」
「そりゃそうだ。ただ、強い奴を見分けるのに答えの内容は関係ない。
問題は『速さ』だ」
あ?
内容はどうでもいい?そんなの質問として成り立ってねぇだろーが。
俺の疑惑の目を背中で受けながらオッサンはインタビュー中の奴らの元に駆け寄っていく。
「…そうだな…仁と正人、それから叶と志場クン!俺から質問だ」
片手を挙げながら割り込む形で4人に問いかける。インタビュー中だったにもかかわらず全員の視線がオッサンに集中した。
「どうしてカバディをやってる?」
「愛しているからです」
「使命。それだけです」
「…約束を叶える為ですね!」
「…使命を果たす為…」
そ…即答…。
「答えは人それぞれだが強者は共に、即答できる程の『信念』がある」
確かに、こうして聞いてみると有無を言わさないものを感じる。部長と不破ってやつからは特にそれがあった。
それに、3年の2人と比べて姫沢と志場は1拍こそ遅れたものの俺と比べたら断然速かった。同じ1年生なのに、この段階で既に負けてしまっている俺自身が情けなかった。
「…即答など…
勝利した者が強い。それが全てです」
オッサンから褒められてるのにも目をくれず、ただそれが当然だとでも言うように立ち上がった不破がそう言った。
『キミはオレに勝ちたい?』
『当然だろが!!』
『オレに勝ったらどうする?多分、また新しい敵が現われて、それを倒しての繰り返し…。1番になってもそれは変わらねー。追うか追われるかが違うだけ…キミはそれでいいの?』
『そんなモンは1番になった時考える…!!』
いつぞやの高谷との問答を思い出した。認めたくねぇが、高谷の言う通り俺はまだ1番になったことがねぇ。だから1番のヤツが1番になった後にどう思っているのか少し気になっていた。
競技を転向した高谷はともかく、うちの
だが、こうして
全力を尽くし、勝ちにこだわる。
俺がスポーツをやる上で変わらなかったこれは1番のヤツも同じだった。
ありがてぇ
気付けば俺は不破に感謝していた。
ここに呼ばれて良かった。今日集めたどんな情報と比べてもこの理由を得られたことの方が俺の中で重要なことなんだと理解できた。
インタビューが終わったのか、不破を先頭に全員座席へと戻っていく。
気付けば俺は不破に近づいていた。何を言えば良いのか頭の中でなんとなく分かっていた。
「…俺は
あんたを追い出せば、俺は強いと言えるか?」
刹那
部屋の空気が一変した。
「不可能だ。その腕では」
――…!!
俺が言い終わるのと同時に
いつだ!?いつの間に俺は掴まれた!!?全然分からなかった――
バッ
俺の後ろで大きい音がしたのでチラッと後ろを見ると、さっきまで不破の後ろにいたはずの残りの星海の3人を止めるために他のインタビュー組とオッサンが協力していた。
音がするまで、まったく気付かなかった…。
「よせ早乙女」
「大人げねぇぞぉ」
「チッ…!!せっかくの暴れる機会を…」
3人の内1番のガタイを持つ早乙女を2人がかりで止める六弦とオッサン。
「オイオイ、俺は止めようとしたんだぜ?」
「信用ならんな冴木」
胡散臭ぇ冴木を止めたのはデカ眼鏡の神畑。
「……」
「ゴメンねぇ志場。宵越くんには後でボクから言っておくからさ」
1番良く分からねぇ志場を手首を捉える形で止める部長と腕を組むことで止めた姫沢。
ヤツは部長となにやら目で会話していたようだったが、姫沢に言われたことでおさめたようだ。
「時間を使った。練習メニューを変更する。行くぞ」
そう言って部屋から退出する星海の4人。
……
気付けば他のメンバーに後ろを取られていたこと。
…本気でタッチに行っても…今の感じは試合でも確実に捕まっていたことは誰から見ても明白だった。
「えー、少しトラブルがあったようですが…取材再開させて頂きます…」
世界組のインタビューが終わったからか次のインタビューは俺と高谷だ。
高谷もいつの間に戻っていたのか、俺の隣にいたのを確認して少しだけビビったのは秘密だ。
「それでは競技転向組のお二方、最初の質問です」
これだ。これこそが、俺がカバディをやる理由だ。
「なぜカバディ…『
※オリ主は最初会った時に不破も冴木もそれぞれ名前+ちゃん付けしていたけれど、「ジンちゃん」と「ギンちゃん」で紛らわしかったので「フワちゃん」に変わったみたいです。