ボクがキミを王にする   作:モーン21

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第20話 勝利に向かって

【井浦side】

 

「お待たせ、ほら飲め」

 

「あ、うん。いつもありがとうね慶」

 

「インスタントぐらいで大げさだな。叶の所に行けばもっと上等なやつが飲めんだろ」

 

「それはそれ、これはこれだよ」

 

俺が流しから2人分のコーヒーを持って戻ると正人は俺のiPadで動画を見ていたようで、俺と会話をしながらも画面から顔を離すことは無かった。

何を見ているのか気になって覗いてみると案の定カバディの試合動画だった。それも星海対奏和。詳細を見るに去年の決勝リーグみてーだな。

画面では六弦を引きずりながら帰陣する不破の姿に観客から歓声が響き渡っている。

その姿はあのパワーバカな六弦の得意分野でも不破には敵わないことを示しているようで何回も見返した俺としては頭が痛いものだった。

 

が、先日の取材を経て正人たちから得た情報によって少し見方が変わった。

 

「去年の決勝リーグの時点で、不破は六弦とタメ張るパワーだったハズだ…

 

…間違いないのか?」

 

「うん。下半身の筋肉を削って上半身を仕上げてた。叶もそう言うんだから間違いないよ」

 

俺と違い、直接不破を見た正人がそう断言した。正人1人だけならまだしも、他人の身体能力を正確に見ることができる叶もそう言うのならほぼ確定だろう。

 

叶は取材後の部活休憩中に星海の3年生とおしゃべりできなかったことを嘆いていたが、それは不破が無愛想でストイックな性格だからだけではないだろう。上記のことができる叶に見られるだけならまだしも、長時間対面していたらそれ以上に情報が抜き取られるのだ。部長として避けられるなら避けたい所だろう。それだけ警戒されているというのに張本人はそれを知らないままただ頬を膨らませていたから、突っついてからかうことにした。

 

「半年で守備(アンティ)向きの体格にしたってのか?」

 

「簡単な事じゃないね。元々攻守盤石(こうしゅばんじゃく)の不破がそこまでするって事は…」

 

「圧倒的な攻撃手が入った…

 

叶とタメの、カバディ選抜時(中学時)叶からメイン攻撃手(レイダー)を奪ったっていう志場ってやつか」

 

「おそらく」

 

肉体改造は生半可なものじゃない。

当然だが攻撃手(レイダー)攻撃手(レイダー)向きの、守備(アンティ)守備(アンティ)向きの肉体というのは存在する。

先程正人が言ったように、ある程度完成している状態から更に上半身の筋肉を仕上げればそれだけパワーが増すものの速さ(スピード)は減少するだろう。もちろん先日の試合の六弦みたいにパワーレイドで得点は狙えるだろうが、肉体改造をすればそれだけ時間を食う。その時間を使って1秒でも長く経験を積むのはストイックな不破なら当然とでも言えるだろう。

 

あの不破が肉体改造を実行するほどの新人。叶から話は聞いていたものの、それほどとは思っていなかった俺は少し震えた。

 

でも、

 

「ま、ウチも新人は負けてねーと思うけど…」

 

「…うん。それは今日確信したよ」

 

 

 

 

 

「カバディ!」

 

中央に向けて突進する宵越。それは接触(ストラグル)間際になっても全く減速せずトップスピードのままだった。その進行方向先にいる人見も半ば顔を引きつらせながらしっかり集中している。

 

だが、集中している程度で止められるものではなかった。

 

人見へ向かっていたはずが気付けば人接触(ストラグル)を終えて真後ろへダッシュ。途中バランスを崩し片手をついた影響で、援護に入っていた畦道に倒されかかるが長い手足を伸ばすことで帰陣した。

 

「ああーっ!帰られた!!」

 

「…フン…」

 

「分かっていると思うけど今の失敗だからね宵越くん。()()()()バックを使うんだったら最後までバランス崩さずしっかりとね」

 

「完全に身長に頼ったね。ダメだよ。なるべく倒れないようにしないと。疲れちゃうし」

 

「…はい」

 

後ろで攻撃(レイド)の順番待ちをしていた叶と正人にダメだしされるも宵越は素直に返す。自分でも分かっているみたいだな。それでも()()()を使われのは心臓に悪いが。

 

あの時、叶は用事があるからと言ってそれまでほぼ毎日やっていた練習後の自主練を休んだ。もし、その日だけでも正人を休ませていたら。叶の用事に付き合っていたら。そう考えない日がなかったといえばウソになる。

 

あの技は正人が発案して叶が骨組みを組んだ技だ。2人して並んでカバディではないサッカーの動画を参考に練習している所を見るのはその時は笑えたが今では苦い思い出だ。

器用な叶がまず出来るようになって正人が後塵を拝する形だ。小学校の頃からよく見た光景だ。けれども、実力で言えばフィジカルと経験年数の練度の差で正人の方が上だから面白いと思う。逆に言えば、唯一技術で逆の形になっている()()()()()が気になるんだが。単純に練習年数の問題なのか。

 

…話がそれたな。

 

結論を言えば同じ日に別の場所で正人と叶は故障した。2人が考えた()()()が原因で。だから俺は2人にあの技は使わないようにと厳命した。まだあの時期だからこうして復帰できたが、万一にももう一度ケガしようものなら絶対に間に合わない。俺も同じ攻撃手(レイダー)だ。攻撃手(レイダー)の命とも言える技を禁止される歯がゆさはわかるが、心を鬼にしてそう伝えたんだ。

 

だから、奏和戦でそれを破った叶には後でこっぴどく叱った。あの後叶の身体に特に異常はなかった。そもそも練習で既に成功させていた叶だ。1回ぐらい無事に成功させるのは当然とも言える。

だが、練習の全力と練習試合の全力と本番公式戦の全力は全然違う。力の出方と身体への負担がまるで違う。叶はそれを分かっているはずなのに平然と破った。だから、練習中も俺たち先輩の目がない所では試合形式の練習禁止と新たに叶に命じた。

 

それから数日後の部活休憩中にあの技を宵越に教えると言われた日には目を丸くした。当然すぐ反対したが叶もすぐには引かない。そもそも自分とマーくんがケガをしたのは脚の耐久力が足りていないからだと。それに引き替え宵越くんはサッカーで培った健脚があること。更に宵越くんがその技を使う度に()()疲労度を確認するからと細かい条件を付けて俺に許可を取りにきた。

 

俺だって別に鬼じゃない。相談もなしにあの技を使うのでもなければ怒りもしない。それにあの技は故障を抜きに考えれば最強の攻撃技と言っても過言では無い。その技を宵越が使えるようになればチームの勝率も上がるだろう。文句も無かったから相談を受けたその場ですぐに了承した。

 

ただ何か引っかかる。叶が人の世話をするのはいつものことだが、攻撃手(レイダー)の命とも言える技を手取り足取り教える程だったかと。自分が使えないから使える人に託したと言われればそれまでだが、そもそも叶は攻撃手(レイダー)として活躍することに誇りを持っていたはずだ。叶に技の使用を禁止した俺が何か言える義理もないから、今も何の躊躇いもなく宵越に先程の反省点や修正点を伝えるその姿を俺はただ見るだけだった。

 

「宵越くんはボクと違ってリーチがあるんだからさ、バックする時もあんなに近づきすぎないでいいはずだよ。バックの練度を上げるのはもちろん、もっと自分の手が届く距離を把握しないとね」

 

「…タッチの練習はさんざんしているが、まぁお前の言う通りだな」

 

「叶の言う通り自分の距離を把握してギリギリを狙うのは大事だよ。自陣に帰りやすくて、敵も捕まえに来づらいからね」

 

……距離を把握か…

 

俺は話を続ける3人に離れた位置で未だに倒しきれなかったことに悔しがっている畦道を見やる。

 

…畦道はそれを高いレベルでやってんだよな、叶と同じかそれ以上に。

 

自分の身体の位置を把握する『体性感覚』…モノを使う時にも必要な感覚だが…

 

普通の人間は箪笥(たんす)の角に小指ぶつけるくらい末端の感覚は曖昧(あいまい)だ。自分の外側なんて尚更(なおさら)

 

しかし畦道は、動いてる人間や近くの人間にまで感覚を張り巡らされるほどの…

 

異常なセンサーをもってる。

 

才能で叶、畦道に負けてるなんて宵越には言いづらいけど…と1人内心ぼやいているとある程度指導が終わったのか、宵越が畦道に声をかけていた。

 

「畦道、俺が人見(ひとみ)にバックしようとしたのすぐわかったろ」

 

「え?うん」

 

…なんか誤解を生みそうなことが聞こえたが無視するか。

 

「お前に読まれなくなりゃそれが武器になる気がする。それかまた別の技を…、

後で自主練付き合え」

 

そう伝える宵越に焦りは感じられなかった。あくまで自身の向上のため。無駄に失敗を嘆かないその姿勢は誰よりもアスリート然としていた。

 

「俺らもやーる!!」 「あ…僕たちも!」

 

「それもう普通の練習と変わんねーだろが!」

 

そんな宵越に感化されたのか、他のメンバーも士気を上げている。良い傾向だ。叶が言っていたが、常に上を見続けている宵越の良い面だなこればかりは。

 

「無理してたら止めるからね」

 

正人が軽く宵越に念を押している。隣で叶もうんうんと音が発生しそうな勢いで激しく頷いていた。

 

「ああ、軽くだよ。オーバーワークなんざ()()()()()()()()()バカのやる事だからな」

 

「バ…」

 

「ホラ、攻撃出ろよバカ」

 

正人たちを見て顔をニヤリとしながらそう返す宵越。それに苦笑いで答える叶だったが隣の正人はまさかの後輩の返しに震えて言葉も出ないようだった。

確か叶が2人のケガの原因については話したって聞いてはいたが、ホントたくましいよアイツは。その調子で2人にバカバカ言ってやってくれ。

 

「っしゃ来い!!」

 

攻撃手(レイダー)3人を除いた俺たち7人が声を上げる。さっきの宵越のこともあってか本当に士気が高い。もしかしたら宵越の負けず嫌いもあの取材で星海の不破に影響を受けたのかもしれねーな。

 

…さてごちゃごちゃ考えるのは止めだ。まずはあのバカの攻撃(レイド)を止めねーと。

 

 

 

 

 

先程までの動画からは一転して画面に映し出されるのはサッカーの試合動画。それに映し出されたのは過去の宵越だった。

 

「今でも充分すさまじいのに精神的に腐ってたせいか…空白期間(ブランク)以上に身体が(にぶ)ってたみてーだな。

 

ある程度(さかのぼ)ったデータの方が動きがいい」

 

「叶も前から言っていたけど、こうして実際に見るとその通りって感じだね」

 

中学の頃チームと衝突した宵越は色々あってサッカーを止めた。その辞めた理由こそ本人に直接聞いてねぇがおおよその見当は付いてる。チームと衝突する前とした後の宵越の動きを見比べてみればその違いは俺みたいな素人目でもわかるぐらいだ。

 

ふと隣をチラッと見たが正人も苦い顔をしていた。俺たちも他人事とは言えないからな。今でこそ人数こそ揃ってはいるが、去年まで助っ人を募るぐらい人数不足だったんだ。こういう問題は前まで当たり前のように直面していた。間違っても部内で同じようなトラブルが起こることはないようにしねーと。

 

ま、それはそれとしてだ。

今考えなきゃいけない1番の問題は、

 

「大会まで約1か月か…」

 

「うん。…やっぱり…

 

相馬と宵越君がどこまで伸びるかがカギになる」

 

「おいおい、お前の1番大好きな叶とか他のやつらはカギになりえねーのか?」

 

「…意地の悪いことを聞くね。慶も分かってるクセに」

 

正人をからかったが俺も同意見だ。このチーム内で1番勝率に響くほどの伸びしろがあるのはあの2人だ。他のメンバーも成長こそするだろうが、2人と比べたらどうしても見劣りしてしまう。

 

「チーム内では十分争った。別の刺激が欲しい所だけど…

 

試合…ウチとじゃ組んでくれるトコないよね…大会前だし」

 

だが、あくまでも今の段階では伸びしろ止まりだ。正人の言う通りずっと同じ面子で練習をしても前までと同じようにしか成長しない。今のままじゃせっかくの伸びしろの大きさも宝の持ち腐れだ。

 

だからこそ、今回のあいつらからの連絡は渡りに船だった。

 

「アテはあるぞ。試合とは違うが…」

 

「え?うそ!」

 

「ホラ選抜の後輩…あいつら夏休み合同合宿やりたがってただろ?」

 

「そっか!!あそこも部員が少ないって困ってたっけ!」

 

俺の言葉に正人がさっきまでの憂鬱な顔がウソのように喜色をあらわにする。あいつらとは中学卒業以来会う機会もなかったから良い機会だ。俺たちの成長にも繋がるし一石二鳥だ。

 

「じゃ、早速あいつらに連絡とっとく。顧問にも。

 

来週の体育祭終わったらすぐ夏休みだからな」

 

「うん」

 

とりあえず連絡の為に一度席を立つ。あいつらとはちょっと色々あって距離が空いていたがそれも今回ので解消できるだろう。

叶も色々世話になっていただろうし、他のメンバーにとっても色々タメになるやつらだ。せいぜい良い経験値にさせてもらうことにしよう。

 

 

 

 

 

【星海side】

 

「フン、腰抜け野郎が。そんなことでサッカーを辞めるなんてな」

 

「いやいや、ちゃんと話聞いてた幹也(みきや)?これから全盛期の時に戻るかもだから警戒するようにって話なんだけど」

 

「それでもだ。せっかく持っているヤツがぐだぐだ言って積まなかっただけの話だろ。

そんな話を聞いてもただ腹が立つだけだ。警戒するならお前がやっとけ」

 

「まったく…仁、お前は?」

 

「…一応覚えておく。が、だからといって変わりない。もし戦うことがあれば勝利するだけだ」

 

「相変わらず話し甲斐のねー奴らだねぇ。

 

そうだ、おい志場ちゃん!取材の時叶と話してたろ?何か変わってる所なかったか?」

 

「冴木さんに報告することは特に何もありませんよ」

 

「おいおい、あんなに楽しそうに話してて何もないってことはないだろーよ!

せめて調子がよさそうとかそれぐらいはわかんだろ?」

 

「…姫沢はあの時からずっと変わりませんよ。

 

ずっと嘘吐きのままです。冴木さんみたいに」

 

「おいおい!叶はともかく俺は違うだろ!俺ほど嘘と無縁のやつはいないだろ?」

 

「……」 「…ハッ」 「……」

 

「せめて何か言って!」

 

 

 

 

 

【井浦side】

 

「正人、連絡終わったぞ…どうした?」

 

「あ、慶。慶がいない間に連絡が2件来てさ」

 

「ん?『旧体育館の使用権について』の緊急部長会議か…、面倒そうな感じがするがまあいい。

 

もう1件はなんだ?」

 

「叶から電話があって。明後日練習を休むって」

 

「へぇ叶からか、珍しいな。…いや、そういえばもうそんな時期だったな

 

そういえばこのことについて、あいつ宵越たちに話してんのか?」

 

「いや、話してないみたい。そのことについても叶から連絡があって。『もし聞かれたら知ってることは全部話してもいい』って」

 

「ま、それもそうか。進んで話すようなことでもねーからな」

 

「…ねぇ、慶」

 

「なんだ?」

 

「僕らに何かできることって…「何もねーだろ、これは叶の問題だ」…慶」

 

「そう睨むなよ。こればっかりはどうしようもねぇんだから。

 

もし、叶から相談されたらその時に応えてやればいいんだよ。わかったか、マーくん?」

 

「…わかったよ。でも、慶からそんな呼び方されるとはね。思わず鳥肌がたったよ」

 

「クック、そりゃご苦労なこった」

 

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