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7月7日、土曜日
能京高校はユルい学校だからか授業が組まれているのは平日の5日間のみ。土曜日である今日はいつものボクであれば朝から部活に励んでいるのだが、今日は前もってマーくんたちに休みの連絡を入れて電車で東京から脱出した。
電車から降りて目的地であるボクの自宅まで歩みを進める。ボクの家は駅から歩ける距離にある。前に住んでいたマンションから引っ越しする時に『駅近』を条件に入れてくれた父さんたちには感謝しかない。
傘を差しながら歩いていると着信が入る。母さんからだ。
要件は父さんも母さんもやっぱり今日は病院を休めないということだった。
そして今日こちらに来れそうかと聞かれたから、終わり間際にお邪魔するということも伝えた。
ごめんと続ける母さんを電話越しに制して、お仕事がんばってと伝えて電話を切る。
…………
別に問題ない。うん大丈夫、問題ない。
元々今日の用事はボク1人でもやれることなんだから。
父さんたちがいないのはちょっと残念だけど。
ボクは誰もいない我が家へ1人帰路を進めた。
【宵越side】
カバディの前準備はサッカーと比べたら使う道具が少ねえからかすぐ終わる。
得点板を準備して、マットを敷いて、コートにテープを貼り直す。以上。
その準備の容易さと人数が少ない部活だということもあってか、前までは学年問わず適当に早く来た奴らがその準備を行うことになっていた。
だが、先月伴たち3人が新たに入ってきたことで1年生が6人に増えた。ある程度勝手が分ってきた段階で土曜日の朝からの練習の前準備は1年生でやるようになった。誰が言い出したかはわからねーが。
だからといって、毎回6人が集まるのも非効率だということで適当に2人組を3組作ってそれをローテで回すということになった。元々今日の担当は俺ではなかったのだが…
「…………」
「姫沢君から連絡は来てたけど、代わりって宵越君だったんだね。早速準備始めよっか!」
部活を休む姫沢の代わりに準備を押しつけられた俺はイラついていた。なんで俺なんだよ。畦道とか伴に頼んどけよそこは。
そんな俺を余所に人見が倉庫に向かう。人見1人じゃマットも運べねぇだろうからと息を吐いて俺も後を追う。コイツも大分
マットの両端を2人でえっちらおっちら運ぶ。これを敷いたら後はテープを貼るだけ。
本当にカバディは準備が楽でいいな。と1人考えていると、
「ねぇ宵越君、…姫沢君から今日休む理由とかって聞いてる?」
「あ?身内の法事だって聞いたぞ」
「そ…そうなんだ…じゃあやっぱり…」
人見が準備がてら話しかけてきたから応える。俺が応えると人見は何やらブツブツ呟いているがそれ以降人見が聞いてくることはなかった。
その後他の奴らも集まって練習が始まった。姫沢がいない以外いつも通りの練習だった。
あいつがいないから7人での守備練習で
……フンッ!
「そういえば部長、姫沢はなんで今日休みなんすか?」
頭の中でうんうんと唸っていると着替え途中の水澄が呑気に部長に話しかけていた。
「…身内の法事だって聞いてるよ」
「あれ?てっきり病院のイベントの手伝いだと思ってたんですけど、違うんですか?」
部長が声の調子を落とした声で返すが、思っていた答えと違ったのか関が疑問符を浮かべた。
「関、イベントってなんだ?」
「伊達先輩も知らないんですか?今日七夕でしょ?姫沢君の親が経営している『姫沢総合病院』は数年前から7月7日に入院中の子どもとか孤児院の子どもたちを対象に行事を開いているみたいなんですよ。
去年の開催を特集した記事で炊き出しのお手伝いをしてる金髪の中3の子がインタビューされてたのを思い出して。あれって姫沢君ですよね?」
「……そういえば、そんな事もしたって叶から聞いた気がするな」
関の疑問に答えたのは井浦だった。だが、奴にしては珍しく歯切れが悪かった。だが、そんなことよりも俺の頭に残ったのは今日が七夕だということだ。
七夕。1年に1日だけ彦星と織姫が再会するおめでたい日。
笹の葉に願いを込めた短冊を吊すことで星に願うこのイベントが俺はどうも嫌いだった。
願いも目標も自分1人の力で叶えるものだろうが。そんなことで神頼みなんざする、そんな弱腰な姿勢の季節のイベントが俺にはどうも合わなかった。
『あはは…、宵越くんの考えは立派だけどさ。そんな存在ごと否定するようなこと、七夕に生まれたボクに言われても困っちゃうよ』
そういえば前にそんなことを姫沢に言ったら困った顔で言われたのを思い出した。奴が妙に『7』を推しているから理由を訊いてみれば、自身が七夕生まれだからと答える姫沢の様子が脳裏によぎる。
『確かに『ダイエット成功する!』とか『お金欲しい!』とかの願いはアレだけどさ。自分1人じゃ到底達成できないような願いを持っている人も中にはいるんだと思うよ』
『ダメ元な願いだけどもしかしたら…、到底実現不可能な願いだけど願うだけでも…。
そんな弱い人がお星様に願いを叶えてもらえるようお願いする。
それ自体が救いになることもあるんだよ』
以前訊いた時そう答えた弱々しい姫沢の姿に、何故かむしゃくしゃに腹立たしくなった俺は、
「フンっ!わざわざご苦労なことだな。
本心じゃなかった。
関の言うことが本当で病院の手伝いの為に姫沢が部活を休む為に嘘を吐いたのかもしれないと思ったら、口から出てしまった罵倒の言葉。
もし医療関係者が家族に居る姫沢がここにいたら絶対に出てこなかっただろうその言葉は終ぞ最後まで述べられることはなかった。
ガッ!!
飲み物を片手にしていた俺の胸ぐらを掴んで今にも殴りかかりそうになる部長。
その余りの気迫に手に持っていたボトルを落としてしまい、床にたたき付けられた後中身が漏れ出てくる。
俺はそんな床の惨状よりも、目の前の部長の激変ぶりに目を見張った。
いつもカバディ以外のことはのほほんとしている、カバディ以外で怒ることなんてまずないだろうと思っていた部長のマジな怒りを浮かべる顔に俺は思わず怖じ気づいた。
「…………!!」
「正人!!」
伴が何やら呟いて俺の所に来るよりも先に井浦の大声が旧体育館に響き渡る。その後井浦が肩を掴むことで部長もようやく止まった。
「す…すまん…」
「いや…僕の方こそごめん…」
何故部長がここまで怒ったのかは分らないが謝る。部長の方からも謝られるが正直生きた心地がしなかった。
「ど…どうしたんスか?部長…」
突然の空気の激変に威圧されたのは畦道だけではなかった。
その空気を変えたのは、唯一威圧されていない部長でも井浦でもなく人見だった。
「あの…部長と井浦さんに姫沢君についてお聞きしたいことがあるんですけど…いいですか?」
「…なんだい?」
部長がそう返すのを聞いて人見はカバンをごそごそといじり始める。そうして取り出したのはなにやら昔の新聞記事だった。
「僕も姫沢総合病院で七夕のイベントをやっているのは知ってたんですけど、これとは別に七夕になると毎年病院入り口前に献花がされているのを聞いたんです。
どうしてだろって前気になって調べてみたんですけど…」
人見が取り出したその新聞記事は今から16年前の、俺が生まれた年の物だった。
『母体搬送中の思わぬ事故!?救急車乗車の妊婦含む5名全員死亡』
『原因は大型トラックの居眠り逆走運転!?飲酒の疑いもあり』
人見が出した物は交通事故の記事だった。救急搬送中の救急車と大型トラックの接触事故。丁度病院を目の前にしての所での思わぬ事故とその被害の凄惨さに俺は何も言葉が出てこなかった。
「僕が言いたいのはこの事故の被害者を示す顔写真なんですけど…、
この亡くなった妊婦の方、姫沢君にそっくりなんです。
これについて、お2人は何かご存じですか?」
記事の中には死亡者の上にモノクロの顔写真が写し出されていた。救急医療者3人と旦那であろう1人を除いた残り1人。外国人だからだろうか、カタカナで書かれた文字の上にあるその写真は色こそわからないものの、顔のパーツだけを見たら9割9分俺たちのよく知る姫沢叶とそっくりだった。
2人は言葉が出ないのか数秒黙りこくっていたが、その沈黙も長く続かなかった。
「人見、この事を叶には?」
「さ、流石に本人に直接なんて訊けないですよ!!
今日だって、話題に出なかったら訊くつもりなんてなかったんですから!!」
片手を顔の前でブンブンと横に振りながら慌てて答えるのを聞いて、2人は大きく息を吐いている。3年生2人の思い空気に俺らは思わず当てられていた。
だがその空気をフッとかき消すように、部長が軽く笑みを浮かべて俺たちに言う。
「結論から言うとね、僕と慶はこの事故について
皆についても、今日の法事の休みの連絡を受けた時に『もし聞かれたら知ってることは全部話してもいい』って叶から許可をもらってる。
いい機会だから皆にも話すよ。決していい話じゃないから、ちょっと覚悟してもらわないとだけど…」
ここで一区切りを置いて俺たちの顔を見回す部長。俺は正直そこまで興味はねぇんだが、ここまで来て聞かない選択もないだろうと覚悟を決めることにした。
俺以外の奴らも同じだったみたいで、それぞれ口を一文字に結んで聞く姿勢を取る。
そんな俺たちの覚悟を見届けた部長が頷いて、口を開いた。
「人見の言う通りだよ。この人は叶のお母さん。そして隣の写真がお父さん。
叶が生まれた16年前の今日、叶の両親は交通事故で亡くなってしまったんだ」
【姫沢side】
久しぶりに我が家の扉を開けた。久しぶりといっても、3月頭までは普通に過ごしていたからそんなに経っていないけれども。と1人ツッコミを入れる。
久しぶりの我が家は何処も変わった様子は見られない。父さんたちもここ最近は忙しいって言ってたから、ホコリが溜まってないのはボクが家を離れた後お父さんの家の人とかに定期的にお掃除を頼んでいるのかもしれないなと1人納得する。
カバンを適当なところに置いて、洋室がメインの洋館には不釣り合いの畳が敷き詰められた玄関すぐ横の和室へ向かう。わざわざボクらの為に家のデザインも無視して用意してもらったことに頭が上がらない思いだ。
和室の中央端の所に鎮座している、仏壇の前で正座する。この仏壇と対面するのも家を出た3月頭以来だ。それまでは毎日のように顔を合わせていたから全く変わった様子もないのになんだか久しい気持ちになる。
仏壇の2つの写真を見やる。
向かって左が黒髪を無造作に暴れさせながら耳元でカットしている良く言えば若々しい、悪く言えば童顔の赤眼を隠すほどニコッとしている男性の写真。
向かって右がまるで欧米の人形のように美しい
久しぶりに対面した2人を目に焼き付けながらボクは口にする。
「ただいま。