※前話でオリジナル展開が続くと言ったな、あれはウソだ(前話上げてから展開を再構築していて遅くなりました。本当に申し訳ない。)。
※寄り道が多くなりましたが、ようやく合宿編開始です。
※6/24 23:10追記 英峰高校の紹介で「関東準優勝」等が抜けていたので補充
【宵越side】
7月――夏休み――
「うおおーッ!!見ろ!山だ!」
「埼玉にも山あるんすね!」
「お前らハシャぎ過ぎだろ!!遠足か!!」
恥も外聞もなくウワァァーと電車内で騒ぎ出すバカどもに思わずツッコむ。お前等高校生だろうが。もうすこしぐれーつつしみってもんを持ちやがれ。
「いいじゃんよ移動中くれー」
「ミーティングとかあんだろーが合宿だぞ!?」
「…つってもセンパイ達、合宿場所が埼玉って事ぐらいしか言わねーんだ。何か考えがあるんでしょーよ」
「なんで教えてくれねーんだよ、井浦」
「直前まで相手の情報がわからないなんて大会じゃザラだろ。
フン…
納得したわけじゃないが、これ以上詰め寄っても意味が無いのはこれまでの経験で把握済みだ。座席の後ろにいる井浦から前へ向き直る途中に部長の膝に倒れ込む
「……コイツ、電車は大丈夫って言ってなかったか?」
「いや、昨夜あんまり寝られなかったみたいでね。移動中だけでも寝かせてあげようと思って」
「遠足前のガキかよコイツ。俺には夜更かしすんなって言ってたくせに。
今のうちに
『うーん、この高校かなって心当たりならあるけれど…。慶さんとマーくんが皆に言わないってことは何か理由があるんでしょ。ボクから言えることは無いかな』
『チッ、役に立たねえな』
『……うーん、じゃあこれだけ言っておくよ。ボクが思う
『っ!?それって……』
『はいはい!明日も朝早いんだから早く部屋に戻って!!今日は夜更かししちゃダメだからね!!』
『おい!まだ聞きてーことが…押すんじゃねぇ!!』
昨夜気になる情報を言い残して部屋から追い出された俺は言われた通りにすぐ寝たっていうのに、なんで言った当人が夜更かししてやがんだと文句を並べたかった。
が、部長の膝を枕にすぅすぅと本当にガキみてぇに気持ちよく寝てる所を見ていると怒る気が失せてしまった。
それに眠っている姫沢の頭を幸せそうに撫でている部長だが、姫沢に対して過保護気味だということはカバディ部の中でも周知の事実だ。わざわざ眠れる獅子を起こすのもバカらしい。俺は今度こそ前へ向き直った。
「姫沢君が朝から調子悪そうだったからちょっと心配だったけど眠たかっただけなんだね。ホッとしたよ」
「ったく、寝不足だといつもよりも酔いやすくなるっつーのに。自己管理も出来ねーバカがよ」
「…………」
「あ?んだよ伴?……いや待て。大体分かったから何も言うんじゃねぇ」
「『ヒメサワの身体の心配をするなんて、やっぱりヨイゴシは優しい人ですね』だってよ」
「何も言うなって言ったよな!!?それになんでお前がここにいんだ畦道!!」
「ミスミ先輩たちとこれからトランプやるんだけどよ、ヨイゴシたちも一緒にやろうって誘いに来た!」
「俺はパス。勝手にやってろ」
「あ、僕やりたい!こういうの結構やりたかったんだ!」 「……」
「お、もらっていいのか?サンキューな」
人見と伴が畦道たちがいるテーブルへ移動しているのを横目に俺は電車外の風景を見ながら伴からもらった菓子を食らう。
畦道からのトランプの誘いを断わったのは柄じゃねぇからだということもあるが、昨夜姫沢から唯一もらえた情報が無視できないものでもあったからだ。
そう自分に喝を入れる一方俺の中で燻り続けるのは姫沢が
認めたくねーが、アイツのカバディの実力は俺よりも上だ。それなのに驕らないばかりか、俺たちに技術を惜しみなく与えるし指導もするその姿は
そんなアイツが初めて零した本音。それを聞いた俺は……
とても腹が立った。
「到着―!!!」
「あち~!!」 「何もないですね…」
駅の構内から外に出ると今が夏であることをアピールでもしているかのようだった。太陽がカンカンと照りつけてくる以外にもセミが大合唱を繰り広げている。東京ではあまりない閑散としている光景に人見が呟くのを横目に俺の目は隣にいる今にも干からびそうなヤツを捉えた。
「あっつい…帽子用意しておいて、正解だったね…」
結局電車が目的地に着くまで
こいつは今白の袖口広めのシャツにクリーム色のサルエルパンツを合わせて麦わら帽子を被っている。正直、元々が男だと知らなければ女だと見間違えてたかもしれねー。それぐらいこいつの格好は様になっていた。
「……宵越くん?どうかしたの?」
「…ハ!!?な、なんでもねーよ!!」
気付けば俺がアイツを見ていることに気付かれたらしく姫沢が俺に聞いてきた。いつもなら俺がこんな反応をすると面白そうに絡んでくる所だろうが、そこはヤツもまだ本調子じゃないからか、「そっか…」と言ってすぐに興味を無くしたのは不幸中の幸いだな。
「ククッ…」
バッ…!!
笑い声が聞こえてきた方向へ慌てて向くと、そこには面白そうに俺らを見ている井浦とその井浦の隣で慌ててカバンを漁りながらどこかへ走り去る部長の姿があった。
……見られてたのか!?
先程のを追求されたらたまらないと井浦を睨むと井浦は分かってるからとでも言わんばかりに手を振るだけだった。
…こいつに弱みを握られるのは今に始まったことじゃねぇが、嫌な予感しかしねぇんだよな。
「今迎えに来てくれてるってよ」
「そ、そうか!」
どうやら本当に見て見ぬ振りをしてくれるようだった。ありがてぇ。が、井浦が俺に気にくわないことがあったら遠慮無く動くということは過去で既に知っている。
しかし、そのことをうだうだと悩んでいても仕方ない。俺は目下の合宿に当たって気になっていることを井浦に直談判することにした。
「なぁそろそろ教えてくれてもいいんじゃねーか。俺はカバディのチームなんざ知らねーが…一緒に合宿やる高校が、強えーのかどうかぐらい知っておきてぇ」
「…ま、もう別にいいか。『
…聞かねー学校だな…
と聞いた当人のクセにあまり響かなかった俺の代わりに響いた
「
「な…なんだ強いのか?」
「強えーよ!たしか去年の冬大会、関東ベスト8!」
思わぬ所から反応があったことに少しビビりながら聞き返すと水澄は知ってて当然と言わんばかりの剣幕で教えてきた。隣の伊達も腕組みしながら何度も頷いている所も珍しい。それほどの相手だったのか?だがよ…
「関東ベスト8…でも奏和のが上じゃねーか」
「いや、埼玉紅葉はそれだけじゃないんだ。
去年カバディ部が創部されたばかりで最上級生が2年…。冬にベスト8を取った時のメンバーは全員が1年だった」
「な…!?」
「同じ学年だったしな。対戦はしてないが、強烈に覚えている」
「あ!?もしかして…」
「そのメンバーの内、2人は選抜…俺たちの後輩」
「今日はそのツテでね」
「蛇足ですけど、2人はボクの先輩でもありますね」
伊達からの情報に隣の畦道と一緒に驚きを隠せないでいるとそこの自販機で手に入れた飲み物を姫沢に与えた部長たちが追加で種明かしをしてきた。3人とも種類が違うが笑顔を浮かべている。部長はただその後輩とやらと会えるのが楽しみなんだろうが、
と、思ったら俺たち全員分もあったようで部長が全員に配り歩いていた。ホントカバディが絡まないとのほほんとしてるよな、ウチの部長は。
「選抜が2人…どうりで…つえー訳だ」
「どんな奴らなんだ?」
「あんな奴らだ」
井浦が指さす方を向くとそこにはさっきまでいなかった2人がいた。
アイツらが話に上がった2人なんだなと頭で理解するよりも先に、
「ようこそ!能京高校のみなさん!埼玉紅葉です!よろしく!お願いします!!」
姿勢正しく頭を下げる2人が挨拶を述べる方が早かった。
「能京高校です!こちらこそよろしくお願いします!!」
「「しゃす!!」」
部長の号令に合わせてとりあえず頭を下げる。が、俺の頭にあるのは先程の伊達から聞いた情報だった。
「あいつらが1年で関東上位に行った…」
「おお…ん?」
俺が思わず呟いた1人言に隣の水澄が反応しているが、何やら気になることがあったようだ。頭を上げると先程の2人の内黒髪の方が何やら腹を押さえて肩を震わせている。と隣の赤髪キノコヘアーがそれを窘めているが、それでも止まらないようで、
「だ…だって…聞いたか佐倉…正人さんと慶さんが俺たちに敬語を…!!」
「ふふ…」
「他校なんだから当然だろが!」
「いやぁお久しぶりっす!叶もいるって聞いてますけど、どちらに?」
「バカにしてるでしょヒロちゃん先輩!!いくらボクがあの時からあんまり成長してないからって!!」
「もう…ごめんね姫沢。ヒロには僕の方から言っておくから」
「おいおい、お前は俺の味方じゃねぇのかよ佐倉!」
……
「強豪にしちゃずいぶんゆるい奴らだな…」
5人で楽しげに談笑し続けるのを見て俺はそう呟いた。
「初めまして!部長やってます
「うっす2年水澄です!」 「伊達真司です」
「なんか思ったよりゴツくねーのな」
「ウチの2年のガタイが結構すごいんだよ」
「慶さんよく見つけてきましたよね。どうやったかはわざわざ聞きませんけど」
俺たちを迎えに来た2人は
へぇ。ウチの2年はそれなりに腕が立つ方だったんだな。たしかに
もう片方は…
「あいつ…
「そこそこね…」
俺がもう1人の方を見ながら言うと井浦が笑みを浮かべている。
んだよ……
「ちゃんと挨拶してこいよ。お前にとって、面白い相手になるぞ」
「面白い相手?」
井浦から言われた『面白い相手』というのがどういった意味を孕んでいるのか分からなかったがとりあえず佐倉の方を見てみると、何やら部長相手に頭を下げていた。
……この短時間で、何度頭を下げてんだ?あいつ…。
「…はい…すみません…」
「いいって!事情が事情だったし…他の攻撃手もしっかり育ててる」
「攻撃手…姫沢と…彼ですか?」
「うん」
ん?
2人の会話は聞き取れなかったがただボーッと眺めていると、2人が会話の途中で何故か俺の方を向いたと思ったら突如佐倉が俺の方に…!?
グッ
んん!?
なんだ?なんで俺は佐倉に手を握られてんだ?別に挨拶とかまだしてねーよな?
佐倉の突然の挙動に理解しきれないでいると、佐倉の方からやっと声をかけてきた。
「他校の自分がこんな事を言うのは変な話ですが…王城さんの力になれるよう頑張って下さいね…!!」
「ん…!?お…おう…?」
「よろしくお願いします」
そう言ってまた頭を下げる佐倉。俺より1つ上だったよな?誰彼構わずこんな頭を下げまくって大丈夫だろうかとこっちが気にするよりも先に、
「それから、姫沢も王城さんの力になってあげてね。
……約束破っちゃってゴメン」
「……モーマンタイ、まっかせといて!!」
俺の隣で無邪気にグーサインを出す姫沢と目を合わせた後去って行く佐倉。
「なんだ…?やけに部長の事気にしてんな…。お前は何か知ってるみてぇだが」
「クク…」 「知ってるけど、聞くなら本人から聞いてよ。ボクから言うのは無粋ってヤツだから」
「みなさーん!合宿所移動しますよー!」
姫沢に尋ねてみるがはぐらかされた。それから右藤の指示に従って30分かかる階段を登るも右藤と佐倉、畦道以外の面子はともかく俺も少し息を切らしかける事態になったのは情けねぇと思ったが。
「ん?姫沢どこ行った?」
「あ、姫沢君なら先生に運んでもらった荷物で不備があったからってことで実家に連絡してから合流するそうです」
「へぇ、ヒメサワが忘れ物なんて。らしくないべ」
合宿所に着いて施設の説明を受けた後、前もって到着していた
右藤から聞いたこの施設が充実しているという情報と井浦から聞いた
選抜の連中には大人の指導者がちゃんといたこと。しかし、その状況であっても攻撃手の
要は姫沢と同じだ。同じ指導者を持つ兄弟弟子とでも言うべきか。だからさっきの挨拶で俺と姫沢に対してあぁ言っていたのか。それに姫沢が言うには昨夜言っていた高谷相当のエースは佐倉だという。ようやく腑に落ちた訳だが、正直どうでもよかった。俺はそんなことよりも早く佐倉と勝負したい欲に抗えずにいた。
ただ全盛期から落ちていた体力を戻すだけかもと思っていたこの合宿だったが、良い意味で緊張感を持って臨むことができそうで俺は勇み立って早く勝負したくてたまらなかった。
右藤が施設の紹介の為に下駄箱へ移動したが、そこで井浦が何やら興味を惹かれたようで。
「なんだこのでかい靴…」
そこにあったのは下駄箱に入りきれなくて窮屈そうに押し込まれているシューズだった。
「紅葉にもでけーヤツいるんだな。俺よりデカイぞ」
「え?」 「あ!!」
俺の感想に紅葉の2人が各々驚いたようだ。んだよ、同じ
だが、それは俺の勘違いだったようで。
「どうした?」
「慶さんに伝えてませんでした?」
「なんの事だ?ヒロとは合宿の連絡以外体育祭の話しかしてねーぞ」
「ああっ!それで盛り上がって忘れてた!!
実は、もう1校参加したいって…」
右藤が慌てたように頭をかきながら俺達に告げたそれは、対戦経験が少ない俺たち弱小校にとって寝耳に水ながらとにかくありがたいことだった。
ある1点だけを除いて。
気付けば俺たちは全員施設の廊下を駆けていた。
「そいつら今どこだ!」
「今日は柔道場で練習するって言ってました!」
「慶…これは予想外だね…」
「参加の理由はわからねーがありがたい!!」
部長と井浦は驚きを隠せないでいるが、それでも嬉しそうにしているのは顔を見るだけで分かった。
「あの…進学校として有名なトコだよね?」
「もしかしてヒメサワがこの間言ってた学校か?」
「俺は1度だけ会った!」
「
「そりゃもう」
「
思い出すのはあのクラス会の翌日の練習前に姫沢がカバディ部全員に告げた隠し事だ。もともと明かすつもりはなかったようだが、あの日委員長から『カバディ部の皆にもこのことは早めに伝えた方が良いと思う。クラスの皆には折を見て私が話すから』と助言を受けたから話したようだったが。
「おや、着いたか。
柔道場にいたのは取材の日で電車の垂れ幕に余裕で頭が付くほどの長身である
『ボク、夏の大会が終わってある程度したら英峰高校に転校する予定なんだ』
7月・合同合宿初日
参加校・能京高校
関東ベスト8・埼玉紅葉高校
関東準優勝・
4泊5日の『3校』合同合宿が、始まろうとしていた。