「うおお!お帰りなさい!!!おつとめお疲れ様でした!!!」
「服役かよ」
「……遅れてゴメんね相馬」
「おっと、おめは話に聞いてるぞ!おらは1年の畦道相馬!!!よろしくな!!」
「こちらこそよろしくね、畦道くん!!ボクは姫沢叶。呼び方は任せるよ」
「タメなんだから呼び捨てで良いべ、ヒメサワ!」
部屋に入って早々スキンヘッドで元気の良い彼、畦道から挨拶を受けたので返す。
あの後水澄先輩の部屋でパーティーをやるとのことでボクたち5人で向かうと、慶さんとボクと同じ1年生の畦道に出迎えられた。
畦道についてはマーくんから聞いている。マーくんがいつかの冬に山の中まで釣りしに行った時に知り合ったらしい。「
畦道がマーくんに突っ込んでいくのを見ていると、コソコソと宵越くんが慶さんに近づきなにやら聞いている。ここに来る途中ボクとマーくんにジロジロ視線向けていたのは気付いてたけどそのことかな?
まあ後で聞きに行けばいいか。
歓迎会が始まった。春休みからケガするまで練習には参加してたけど、こんな風に交流を深めたことはなかったから2年の伊達先輩とタメの畦道と話をすることにした。
話の途中でテーブルの料理がなくなってきたからとのことで畦道が水澄先輩の手伝いの為台所へ離席。
ボクも手伝おうと思ったけど今日の主役だから座っとけとのことだった。伊達先輩との筋肉談話も面白かったけど話のキリが良かったのもあって先輩とは別れて別の人と話そうと少し移動。
「やぁ宵越くん、良い食べっぷりだね」
「ああ、さっきはよくもやってくれたな
ボクは歓迎会が始まってからずっと無心で料理に手を付けまくる宵越くんの元へ向かった。
宵越くんはさっきの公園での寸劇ですっかりヘソを曲げてしまい、ボクが話しかけてもずっとこの調子だった。
「女男って…確かにさっきはふざけすぎたかなとも思うし呼び方も任せるとは言ったけど、流石に変えて欲しいかな」
「うるせー、言われたくなければ髪短くしろよ」
「え~、この髪型かわいくて気に入ってるからヤダ」
肩まで伸ばして軽くカールした金髪をくるくるとイジりながらそう返す。
ボクみたいな女装初心者の人にとってミディアムボブのアレンジのしやすさと失敗しづらさはとても助かってる。朝の時間が無いときはストレートにすればいいしね。
「それはそれとして、さっきも言ったけどよくそんな食べられるね。お腹痛くならない?」
「ふん、俺はまだ全然余裕だぞ」
手に持ってる骨付き肉をほおばりながら答える宵越くん。彼の前には平らげた後であろう皿がいくつも置かれていた。畦道が水澄先輩の手伝いに行った原因のおおよそは宵越くんだったみたいだね。
「流石だね、デカくなるわけだよ。いっぱい食べられるように訓練したの?」
「いや、何もしてねぇ。元からだ」
「…羨ましいな、ボクなんか少しでも食べ過ぎたら気持ち悪くなっちゃうから」
「…ふん」
宵越くんはボクの愚痴を聞いても何も言わずに料理に手をつける。
ボクから話しかけたんだから詮索してきてもなにも悪くないのに。
ボクに興味が無いからというのもあるだろうけど、それが心底ありがたかった。
内心宵越くんに感謝しながらボクは続ける。
「普段からそんなに食べてたら食費すごくない?自炊してるの?」
「自炊はしてねえ。母さんがメシ分の金は用意してやるってうるさくてな。もっぱらコンビニとかの弁当だ」
「へー、コンビニ弁当か。ボク食べたことないんだよね。あまり体に良くないって聞くけど美味しいの?」
「ウソだろ、食べたことねーのかよ?美味いぞ。ずっと同じのってなったら飽きが来るがな。
体についても問題ねーだろ、
宵越くんの食事事情について聞く。弁当を5、6個ってことは単純に5,6人前ぐらいいつも食べてるってことか。スゴいねほんと。
でも聞いた限りでも1個のコンビニ弁当でも添加物とか塩分の量がスゴいというのは知ってる。それが幾つもってなったらいくら宵越くんでも今は問題なくてもいつか体に影響が出てくるだろう。
うん、決めた。
「宵越くん、今日からボクがキミの分のご飯つくるよ。同じ部活のよしみってことで」
「……は?急に何言い出すんだ?」
ボクの宣言に宵越くんは何かいぶかしげだ。何か裏があるとでも思っているんだろうか。
心外だ。
それになにやら周りがうるさい。さっきの会話が聞こえていたのか台所からドタバタと音がしたと思えば水澄先輩がボクらの方へ飛び込んできた。
「姫沢!下手なことはよせ!!コイツの食べる量知らねえのか!?
時々ならまだしも毎日はお前の身がもたねえよ!!」
「大丈夫ですよ水澄先輩、ボクこうみえて小学生の頃から料理してますから。量については未知数ですけど、そこはまぁ、追々慣れていけばいいだけでしょうし」
「姫沢小学生の頃から料理してたのか~、おらも
気付けば畦道も台所から戻ってきてるし、離れた所でしゃべってたマーくんたちもこっちに混ざってきた。そんな注目する話題かな?慶さんに至っては笑いこらえきれてないし。
「ボクの両親医者なんです。お母さんが家を空けることも珍しくなかったから途中からご飯を作るのはボク担当になったんですよ」
なんなら洗濯もやってたな。カバディの練習時間を踏まえても一番家にいたのがボクだから家事も自然と覚えるようになったんだっけ。
「味については心配ないよ。僕と慶は何回か食べさせてもらったことあるし、美味しかった」
「ああ、部長の言う通りだ。教える人が教える人だったからな」
マーくんと慶さんが太鼓判を押す。時々カバディの練習後に泊まりに来てくれたんだよね2人とも
料理を教えてくれた
「昨日まで入院してて寮には何も食料残ってないから。宵越くん歓迎会終わったらちょっと付き合ってよ、荷物持ち」
「は?俺は良いと言ってn「ヒメサワ!それおら付き合うベ!!」畦道!?」
「荷物持ち付き合う代わりじゃないけども、ヒメサワのメシおらもいただいてもいいべか!?」
「うんいいよ。そうだ、先輩たちもどうですか?今日の歓迎会のお礼もしたいので」
ボクの提案に宵越くんが返事をする途中で畦道が割り込んでくる。1人前増えるぐらい何の問題も無い。どうせならとボクは先輩たちもどうかと誘ってみる。
「歓迎会のお礼とかは別にいいけど、姫沢の料理には興味あるな!付き合うぞ!」
「荷物持ちなら任せろ。良い筋トレにもなる」
「叶の料理を食べるのも久しぶりだね、慶も来るよね?」
「クク…、あぁ。よろしく叶」
先輩たちの賛成も得ることができた。これで6対1。宵越くんがいくら言ってもここから結論が覆ることはないだろう。
「ヨイゴシもいつもコンビニ弁当は体に悪いベ。ヨイゴシが自炊するならまだしも、せっかく作ってもらえるんだったら好意には甘えておいたほうがいいべよ?」
「うっせぇ!俺が気にしてんのはそこじゃねえ!!
この女男の目的が見えないのが気持ち悪いんだよ!!」
目的?言わなかったっけ?『同じ部活のよしみ』って
そう疑問に思ったが思い返す。宵越くんは『不倒』と呼ばれるまで注目されたプレイヤーだと。当然応援と称して色々なものをプレゼントされたことだろう。その時に人の悪意について誰かから教えられたのかもしれない。
それなら、ウソ偽りなく応えるのが礼儀かな。
「ボク、このカバディ部には勝って欲しいんだよね。入部して早々のぺーぺーが何言ってんだって話だけど」
「それに加えてボク、宵越くんのファンなんだ。だから勝ち上がるためにもキミには協力してほしいし、一ファンとしてキミが活躍している所を見てみたいんだ」
「だから、お節介かもしれないけれどさっきの提案をしたんだ。
…納得してくれたかな、宵越くん?」
ニコリと笑みを浮かべて彼を見やる。さあどう答えてくれるかな?
宵越くんはボクの顔を見てビクリと身震いしたと思ったらプイッと顔をそむけた。
おい、その反応はなんだ。いくらなんでも失礼じゃないか。
「いやぁ、姫沢の笑顔やばいな。可愛くて女にしか見えねえ」
「水澄も練習初日は女だと勘違いしかけていたものな。部長が前日に説明していたはずなのに」
「おい真!今その話はいいだろ!」
2年の先輩たちがなにやら言っているが聞こえない。聞こえても面倒そうだから無視しとこう。
「ふんっ!!」
宵越くんがまったく答えてくれない。結局ボクの提案は受けてくれるのかな?
「ねえ、宵越くn「大丈夫だヒメサワ!ヨイゴシも良いってよ!!」…へえ」
「畦道ぃ!勝手に答えてんじゃねぇ!!」
「今のヨイゴシの考えてることなんて、おらでも分かるべ。
自分のファンだって言った人に真正面から力になりたいなんて言われて照れてんだろ?」
そう畦道に言われた宵越くんは図星を突かれたようで口をパカパカと開くもののその口から声が出ることはなかった。
「ふふっ、あの宵越くんが驚いた所だけでなくて照れてる所も見れるなんてね!
今日は良い日だ」
「うるせぇ!いい気になるなよ女男ぉ!!俺は断じて照れてないからな!!」
「ククッ、嘘はよくないぞ宵越」
「お前は黙ってろ井浦!!」
何に対して怒っているのか分からないけど、宵越くんの怒りを静めるためにそれなりの時間がかかった。
ちなみに、今日の夜ご飯はボクの部屋まで大量の食料を皆に運んでもらったので大変助かった。ボク1人分だけでも寮まで持って帰ることを考えたら憂鬱だったからね。
お礼もかねて好物のカレーを振る舞ったけど全員のお気に召したようだった。
一番懸念していた宵越くんも心底納得がいかない顔をしながらもお代わりを求めにきた時には勝負してたわけでもないけど勝ったって思ったね。
あれから宵越くん以外の皆でトランプをやろうという流れになった。
水澄先輩から「井浦サン抜きで」と言われてる。面白いね。
マーくんが輪に入らない宵越くんを呼ぶものの宵越くんこれを拒否。
水澄先輩が言うに極度の負けず嫌いらしい。運が絡んだ勝負は勝つまで続けるそうだ。
あ、マーくんが一緒だねって言ってる。
でも、マーくんの場合負けず嫌いなのは「カバディ」限定で他はそうでもないから宵越くんとは微妙に違うよね。
好意的に考えたら宵越くんは「勝ちに貪欲」なんだろうけど、どうしても「子どもっぽい」って印象になる。
アスリート的には宵越くんの方が普通なのかな?今度師匠に聞いてみよう。
で、実力だけの勝負ならってことで畦道が提案したのは腕相撲。
自らの力をマーくんに知って欲しいとのことだった。
慶さんから
ん?それまで我関せずだった宵越くんが畦道をテーブルから押しやってマーくんに勝負を挑んでる。
宵越くんの視線はここに来るまでボクらをジロジロ見ていた疑いの目だ。
なるほどね、マーくんも宵越くんの意図には気付いたみたいだ。
どうやらどうしても弱そうに見えるマーくんがどうして部長になってるのかってことだろうね。ボクの方も似たようなものかな?
でもさ、マーくん。「部長らしい所みせとかないと」ってかっこよくキメてるけど、今からやるの腕相撲なんだよね。
あ、マーくん吹っ飛ばされた。
結果を予測できてたボクと慶さん以外の3人が慌ててマーくんの介助に向かう伊達先輩が「部長は退院明けだぞ宵越!!」って怒ってるけど。万全の状態でも結果は変わらないと思うよ。
「ククっ、面白いほど飛んだな」
「止めてあげてくださいよ慶さん、結果分かってたでしょ?」
「叶も分かってたろ?」
目の前の寸劇にご満悦な慶さんに苦言を呈すると慶さんににべもなく返される。
ま、分かってたけどさ。マーくんがあんなこと言い出したら止めるに止められないって。
え?分かってるなら慶さんに言わなくてもいいだろって?
うるさい、それとこれとは話が別だ。
畦道くんに負けた宵越くんの視線を感じたので振り返ると今度はボクに対して勝負を挑んでるようだった。
隣の慶さんのニヤニヤ顔が本当に腹立つ。また吹っ飛ぶ所でも見たいんですか?
「パスパス、マーくんみたいに吹っ飛ばされたくないよ。
ボクの力はマーくんぐらいだからね。付け加えるなら慶さんとも同じかな?」
ボクの発言を受けて宵越くんの顔はさらに沈む。
「…おい。面倒だから単刀直入に聞くが…」
宵越くんが顔を上げたと思うとすぐ問いかけてきた。
「なんでお前が部長なんだ?明らかに弱いしカバディ向いてねーだろ。そこの女男も聞いてた話と全然ちげーし」
本当に遠慮無くぶっ込んできたね。水澄先輩が慌てて宵越くんを制しようとするのを止めてマーくんが答える。
「…そうだね。僕の身体はカバディ向きじゃない」
その言葉にボクはビクッと震える。ここ数年何度も考えたことだったからかな。
やっぱりマーくんもボクと同じ事考えてたんだね。悲しいと思う反面ちょっと嬉しい。
憧れの存在と同じ悩みを持つなんてファン冥利につきるよね。
「でも僕が『部長』なのは…」
「僕が一番…強いから…」
うん、それはそう。ボクと2年生以上は身にしみて理解している。
「何…?」
「…慶…その…ちょっと体育館使えない?」
「えッ…」
「どうせ止めても聞かねーんだろ」
宵越くんはまだ訝しんでいる。これ以上は何か言うよりも直接体感してもらう方が早いだろうとのことでマーくんが慶さんに提案。慶さんはマーくんの無茶ぶりに慣れているのか涼しい顔だ。
マーくんは部長ではあるけど、部活運営の為の雑事とか手続き、部活の助っ人頼みとかは慶さんがほとんどやっているっていうのは話で聞いていた通りみたいだね
向き不向きがあるから言わないけど、ここだけ見ると慶さんの方が部長みたいだよね。
水澄先輩が今から運動をするとのことで驚いていたがスルーしてボクたち全員で体育館へ向かう。
懐かしいね、約2ヶ月ぶりの体育館だ。入院していたから早いところ感覚を取り戻さないと。
そう思いながらボクは気になっていたことを確認することにする。
「ねえねえ宵越くん宵越くん!さっき言ってた『ボクの聞いてた話』ってなんの事?」
「だぁっ!!ウロチョロすんな!」
ただ話しかけても無視するかなって思って周りをピョンピョン跳ねていると注意されちゃった。でも反応してくれたからモーマンタイ。
「で、で!なんの事!?」
「あー、お前が
いやいや、なにイラついてるんだボク。能京では
「うん、これでもマーくんほどじゃないけど経験者だからね。パワーならともかく
小学生の頃からマーくんと一緒に日本一になることを目標にしてきたんだ。
そのために
このチームで勝つ。
そのために磨いてきた力だ。
「1回だけな!ケガは絶対避けろよ!」
「うん。」
「腕相撲の次はカバディかよ。なおさら負ける気しねーぞ」
宵越くんは心底不思議そうだ。非力なマーくんに負けるなんて一抹も思ってないんだろう。
「慶に聞いてるよ。足速いって」
足を震わせながらマーくんが歩を進める。
「同じ
…もう一人は少し事情が違うけど、今までなかったもん」
マーくんは確かに非力だ。
でも、ボクがマーくんを最強と思っている根拠はそこではない。
「早く勝負したくて焦ってたんだ」
マーくんの身体からドス黒いオーラが現われる。
「早く勝負しよう?ね、早く」
「…僕が攻撃でいいかな…」
「早く…やろう」
カバディへと捧げる愛の力。
狂気ともいえる彼の異常さに彼らは付いてこれるだろうか。
原作主人公の食生活(コンビニ弁当・弁当屋の弁当)がヒドかったのでオリ主を介入させました
男子高校生の寮生活なんてそんなもんな気はするけども。
特にこれの影響で宵越が成長するわけではないです。