※ミ○シタの周年イベントの為に平日書けないこともあって遅れました。でも七夕である今日中になんとか上げたいという執念で書き上げました
※10000字越えました。読み辛かったらすいません
『正人さん慶さん!!今までありがとうございました。俺たちもすぐ後を追うんで!!』
『引退だぞ。死ぬみたいに言うなよヒロ』
『ヒロと
『……』
『……佐倉くん、高校で待ってるね』
『…はい。必ず。王城さんの力になれる攻撃手になって…会いに行きます』
『いいなー、4人とも同じ高校だなんて。ボクだけ仲間はずれじゃん』
『叶は英峰だっけか。1年のクセに進学先もう決めてるなんて生意気なヤツだな~』
『姫沢と同じ高校には僕も行きたいけど。井浦さんはともかく、僕らが英峰に受かるのはどう考えても無理だからね……』
『「5人で同じ高校に!」って約束した翌日に、泣きながら「爺ちゃんにダメって言われた~!」って言ってきた時は笑わせてもらったがな』
『まあまあ、3人ともそれぐらいに……』
『むー、もういいです!皆けちょんけちょんにしてやるんですから!!覚悟しておいてくださいね!!』
「仕事中にごめんなさい。実は合宿に持って行く荷物で少し手違いがあって……はい。申し訳ありませんが明日中に
電話を切る。こんなことで頼ってしまったことに情けなく思いながら皆の後を追う。
まさか、昨日のうちに
しかし、抱き枕が抱けなかったせいで昨夜は寝付きが悪かったわけでまだ本調子とは言えないんだけど。そのおかげで移動中マーくんの膝枕を堪能できたわけだからそこはプラスだと思うようにしておこうか。
お願いしたから明日以降は大丈夫だろうけど、今日の夜は大丈夫かな?まぁ、なるようになるか。
トボトボと1人施設を歩く。皆がどこに向かうかとかは特に聞いていないけれども、この施設の見取り図を見させてもらったから現在位置はバッチリだし、いつもの都会とは違って自然の中だからかいつも以上によく
…まぁ、今回はガヤガヤと人が集まっているらしい音が聞こえる方向から考察したんだけども。柔道場かな?とりあえずそこに向かおう。
「3校合同合宿って事か?」
「ん?聞いてなかったのか?」
「聞いてなかった」
「聞いてたとしても信じられなかったな…英峰が合同合宿をやる理由が見当たらない。部員数は問題ないだろう?」
内容までは聞き取れなかったけど、聞き覚えのある声が聞こえてきたのを確認したのも束の間、お行儀が悪いのが百も承知で廊下を走り抜ける。
え?ウソ!?慶さんたちから何も聞いてないんだけど。こんな嬉しいサプライズ用意してくれてたなんて!!
目標は前方100m。少し周りにマーくんを含んだ人だかりがあるけどそんなのは気にしない。以前は電車の中で我慢して出来なかったことを遂行する絶好の機会だ。
「いっく~~~~~~~~~ん!!!!!」
ボクの声によりモーセの海割れよろしく道が出来た。最初は全力を総動員していっくんの胸元に飛び込もうと思ったけど、少し速度を落として抱きつくだけに止めた。いっくんは突然のボクに対して少し面食らった様だったけど何事も無く受け止めてくれた。
「いっくん取材ぶり!!なんでここにいるの!!?」
「そうか、叶も知らないんだったな」
「もしかしていっくんたち英峰も合宿参加するの!!?慶さん!!知ってたんなら教えてくださいよー!!」
「俺らも知らなかったんだよ。文句ならヒロに言え」
いっくんは何やら訳知り顔でうんうんと頷いたと思ったら前の時と同じように頭を撫でてくれた。
えへへ~
取材の日振りの大きな手による安心感によってヒロちゃん先輩への少しの怒りもすぐに瓦解した。破顔していると周りの視線を感じたのでそちらを見てみると、事前に知っている昔なじみの4人と宵越くん以外の
うーん、ちょっとハシャぎすぎちゃったかな?
名残惜しいけど仕方ない。いっくんの傍から離れてマーくんの隣へ戻る。それから仕切り直すように軽く咳払いをした。
「話の途中に割り込んじゃってごめんなさい。では続きをどうぞ」
「いや、そんな急に落ち着かれてもスルーできないからね!!?」
「あんなに爛漫な姫沢君初めて見たからビックリした…」
「……」
「『仲が良いのは良いことです』だってか…うん、おらもそう思うべ伴」
宵越くんを除いた1年生の4人が各々の反応を見せる。人見があんなに大きな声を出すなんて成長したね。なんだか保護者視点で嬉しくなるよ、タメだけど。
反対にいつもニコニコしている畦道が少し浮かない顔なのが気になるけど。どうかしたのかな?
「あ~、懐かしいな。確か俺らと初めて会った時も部長に突撃していったっけか」
「微笑ましいな」
2年生の2人は懐かしむようにそう溢していた。今は毎日顔を合わせられるわけだけど、マーくん達とも全然会えなかったから嬉しさが天元突破しちゃって今以上に本気で突撃しちゃったんだよね。
受け止めきれなかったマーくんが体育館の床で頭を打っちゃって、慶さんからすっごい怒られたんだった。懐かしい。
でも話が進まないのはいただけない。ボクは軽くいっくんとの関係を皆に話してさっさと会話が元の路線に戻るようにした。
「それで神畑、なんでここに?」
「そう不思議な話じゃないさ。元々、自然を使った練習を合宿でやる予定だった」
英峰の練習の邪魔になるからと少し場所を移していっくんに聞くマーくん。セミの大合唱がウルサイけれど、ボクも気になっていたことだから集中して聞いている。
英峰は奏和や星海と同レベルの強豪だ。部員数も揃ってる訳だから、こんな大会前の大切な時期に自チームの情報を明かすようなマネをする理由が見当たらなかった。ボクらからしたら断わる理由なんてまったくないけれど、英峰側からのメリットが何なのかまったく分からない。
「合同合宿に混ぜてもらったのは、気になる選手がいたからだ」
「気になる選手?」
そう区切るといっくんは突然腕を伸ばしてサクラン先輩を指さした。もう、人を指さすなんて行儀が悪いよいっくん。
って思ったら同じ手でボクのことも指さして来た。
「創部1年で関東上位になった埼玉紅葉のエースと、去年の世界組1番を張っていた能京の
「佐倉と姫沢か…」
…………。
「とはいえ佐倉と叶は選抜の後輩だ。それなりに知ってはいる。1番の目的はキミ」
ボク達を指さした手とは反対の腕でその1人を指さした。
「『
この接戦には少なからず新人のキミが
「……!!…じゃあよ」
いっくんの目に止まっていたことが嬉しいのか宵越くんは驚いた後少しだけ口元を歪ませていた。だが、すぐにそれを戻して、
「今から実力試してみるか?試合で」
いっくん相手に挑戦状を叩き込んでいた。見ていて飽きないね宵越くんは。行動力があるのはもちろんだけど、物怖じしないっていうか。そんな所はただただ尊敬できる。
「今…いいのか?」
「えっ?」
「ちょ、ちょい待って下さいよ!試合は最終日!!ホラ、自己紹介もまだでしょ?」
宵越くんのそれにいっくんが反応したのを見て嬉しそうなマーくん。それを見てヒロちゃん先輩がスケジューリングを理由に止めようとするけれども、
「
「「これが自己紹介になる」」
じりじりとヒロちゃん先輩に寄って行ったいっくんとマーくんがヒロちゃん先輩へ詰め寄った。カバディが絡んだマーくんはともかく、いっくんも結構好戦的だということを久しぶりに実感した。
それからヒロちゃん先輩が紅葉抜きは困るということで、各校4人程のチームを作って4対4のミニゲームを短い時間で回していくことが決まった。
うん、どう考えても個人のデータを取りに来てるね。慶さんがチームを振り分けると言い出したけれど、多分ボクと同じ事を考えていると思う。
宵越くんは部長の弟子のサクラン先輩と世界組のいっくんと対戦できるということで楽しそうにしてるけれど、おそらくは…
「こりゃだいぶ極端に…」
能京Bチーム 能京Aチーム
関・伴 宵越・伊達
人見・王城 畦道・水澄
水澄先輩が呟いてるけどその気持ちは分かる。マーくんと宵越くんを分けるのは全員分かってただろうけど、それ以外の3人の実力差が顕著すぎる。
ま、伴たち3人の実力をカバーするためにマーくんがいるのは伴たちを含む全員が分かっているから、水澄先輩もそれ以上は言わないみたいだけれど。
「……え?あれ男?」
「全然男に見えねえ…。あっちの娘と同じくマネージャーだとばかり」
「……先輩達が言うそのマネージャーは俺らの代の『世界組1番』ですよ」
「は!!?ウッソだろ!!アイツも男かよ!!
「なんでそいつは出ねーんだよ!どっか調子悪いのか!?」
「知りませんよそんな事まで…」
なんだかザワザワと英峰の方が賑わってるなって思ったらボクと人見についてみたいだった。それと面倒くさそうに先輩に対応する知り合いの声も聞こえてきた。もう、可愛い男の子なんてネットを探せばそれなりにいるだろうに。っていうか、見た感じだと可愛くなりそう人が1人いたんだけどな英峰にも。
「井浦と姫沢は出ねーのか?さすがに部長いても他が新入部員じゃキツいんじゃ…」
と別の事を考えていると宵越くんがボク等に話しかけてきた。うん、チーム分けについて少し疑問があるみたいだけど、
「このミニゲーム…勝敗は二の次だ。いかに相手のデータを得るか…どこまで学べるかが勝負だと思ってる。その点において、姫沢は俺以上に使えるからな」
うん、ボクがメンバーから外れることは最初から分かってた。慶さんもボクと同じ考えだということが分かって嬉しくなるぐらいだ。今日初めて会う人達はともかく、昔なじみのヒロちゃん先輩やサクラン先輩も最後に会ったのは
「もちろん手抜きすりゃ有力なデータは得られない。勝つつもりでいけよ」
「「当然!!」」
慶さんがミニゲームに出る皆に檄を飛ばす。宵越くんがいっくんの目に止まっているからといってもボクたち能京は3校の中で1番格下だ。情報を取られるのはイタいのは事実だけど立場上舐めたマネはできない。まあ、いざ試合になったらそんなことまで頭を回す人は誰もいないと思うけど。
「…よう神畑。最初は俺らとやろうぜ」
「もう、宵越くん。威勢が良いのは良いことだけどさ、『さん』ぐらいは付けようよ。いっくんに失礼だよ?」
「お前も付けてねーだろうが」
「ボクはいいんだよ。ボクといっくんの仲だもん」
早速宵越くんがターゲットのいっくんに試合の申し込みをする。いっくんはミニゲームが始まる直前だというのに先程から黒の長袖長ズボンのジャージを脱がないままでいる。この情報から鑑みていっくんの返事は大体想像できたけど、宵越くんの口調がアレだったから軽く注意しておく。
別に宵越くんに悪気がないのは分かっているけどさ、知り合いの年上にタメ口で話しかける所を見てしまうとどうしてもハラハラしてしまう。いっくんはノリがいいし優しいから怒ることはないだろうけど。
「別に構わない。これが同校の先輩後輩ならまだしも、他校の年下にまで
で、ミニゲームについてだが。すまないが俺は出ない」
「出ない!!?」
宵越くんが予想外だと言わんばかりに反応する。いや、1人だけ格好が違うことから気付こうよ宵越くん。これもカバディの競技について宵越くんがボクらみたいに詳しくないからなのかな。いっくんが出ない理由には当たりがついているけど黙っておこう。
「じ…自分だけ情報隠そうってか!?」
「正確には出られないんだ。恥ずかしながら減量が済んでいなくてね。この状態で他校とやるのは危険だと判断した」
いっくんの言うことは正しい。そもそも203cmもあるいっくんが身長にまったく見合わない80kgなんていう体重制限をいつもクリアしていることの方がおかしいからね。なんで危険だと判断したのかについては、柔道やボクシングが体重別にカテゴライズされていることからわざわざ説明する必要もないだろう。
「げ…減量…いいのか井浦…関だって体重オーバーだぞ」
「仕方ない。初日から英峰とやれるだけ御の字だ」
「まぁ、関については大丈夫でしょ。タックルのフォームは整ってるから、よっぽど受け身が取れない場合じゃ無い限り相手にケガさせないだろうし」
宵越くんが納得いかないと言わんばかりに近くの慶さんに確認をとる。ま、体重制限っていう正当な理由がある以上下手に他校に文句言えないし。関については…、うん。これまでの
自分の頭の中でヨシ!と現場猫のポーズを決めていると慶さんが真剣な顔で続けてきたので、ボクも頭の中の現場猫を追いやった。
「神畑以外にも学ぶ事はある。カバディは個人競技じゃない。
俺たちが1度も倒せなかった奏和の
うん、慶さんの言う通りだ。
いっくんは世界組3年生組の中でも特に攻撃守備どっちも優秀だけど、いっくんの守備=英峰の守備ということは決してない。英峰が守備に優れたチームだということは有名だ。そう呼ばれる所以もカバディの大会が始まってからずっと滞ることなく繋がってきた英峰の組織だった守備技術によるものだということは、途中まで英峰に行く予定だったボクが1番知っている。
「………あのへんか…?特に強そうな感じがする」
慶さんの言葉によってターゲットがいっくんから英峰の群れに変わった宵越くんが見つめる先には、いっくんとほぼ同身長の2人を含む英峰メンバーがいた。あちらも宵越くんが見ていることに気付いたのかなにやら雑談している。時折ボクの方を見て何やら話しているみたいだけれど、後で問い詰めてやろうかな。
「じゃあ僕ら始めるから!」
「いきなり正人さんとすかぁ~!」
「お前らも頼んだぞ。叶もな」
「うす!!」 「はーい」
マーくんのいるBチームは早速ヒロちゃん先輩がいるチームとみたいだ。何やらヒロちゃん先輩は早速マーくんと対戦することに困っているように振る舞っているけれど、4人のステータスだけの情報だと良い勝負……いや、サクラン先輩もいることから考えたら紅葉の方が優勢かな。
ま、Bチームの方は慶さん担当だから後で共用させてもらおう。慶さんに言われた通りボクは宵越くんのいるAチームの方をちゃんと見ておかないとね。
「『不倒』宵越君ですね。英峰高校カバディ部、副部長の八代と申します。よろしければ是非対戦を」
「ども~」
マーくんたちと別れてすぐに
……はぁ。
「僭越ながら肩書きが無い若輩者ではございますが挨拶を。能京高校カバディ部、姫沢と申します。対戦の申し込み快くお受けさせていただきます」
とりあえず挨拶をされたのであれば返すのが礼儀だ。このままだと八代さんと
「ハハハッ!八代の挨拶は大体のヤツが面食らうっていうのにバカ正直に返しやがって。相変わらずマジメだな!お前は」
「マジメで結構。挨拶をされたのなら返すのが礼儀です。
それはともかく、仮にも仲間が礼儀正しく挨拶をしてるっていうのに、
「柄じゃねーんだよそういうのは。八代が硬い分俺が緩くなることでバランスとってんの。姫沢家のお坊ちゃんはそんなことも分かんないのかねぇ?」
「……君嶋くんふざけすぎです。姫沢君もこの辺りで引いて頂けると助かります」
もう1人との会話を楽しんでいると八代さんからストップの声がかかる。うん、久しぶりだったからちょっと羽目を外し過ぎちゃった。今日こんなこと多いな。ちょっと気をつけないと。
「えーと、ヒメサワの知り合いってことは…あなたも世界組っすか?」
少々警戒しながら畦道が声を上げる。たしかに、これまでのボクの知り合いが全員世界組だったからそう思っても仕方ないかもだけど。
「いや、ただの
「どもども~、いつも叶がお世話になってます~」
ボクの紹介を受けて
「…全員スタメンか?」
これまで黙っていた宵越くんがようやく声を上げた。
「ええ、こちらは4人共英峰のスターティングメンバーです」
「…3人しかいねーじゃねーか」
「いやいやヨイゴシ!ちゃんといんべ?」
「あ…あ?」
八代さんの発言に何故引っかかりを覚えたのかは分からないけど、畦道の指摘を受けて宵越くんがやっと見つけたかのように4人目を見つけて心底驚いたかのように汗をかき始めた。
「待て…視界のスミにチラチラ入ってたが…この小学生みてーなチビが…!?」
「しょ…小学生だとォ…!?」
宵越くんの暴言に4人目がキレたのが分かった。うん、小学生はヒドいよね。ボク自身にいつも言われていることを他人が言われているのを見てすごい親近感を覚えたのはここだけの秘密。
《b》「おれは英峰高校2年!!
へぇ…、この人が…。
いっくんやたっくんから後輩で面白いヤツがスタメンになったっていうのは聞いていたけど、たしかにこうして
だけど宵越くんは違ったらしく、
「なに…!?」
「どうだ驚いたか!」
「2年つったらコレだぞ…!?」
「お前…!!」
宵越くんがガタイの良い
でも、たしかに前もって知っていないとボクも驚いていただろうからあんまり宵越くんに強く言えない。
「一年だろ不倒ォ!!先輩をナメやがって…」
「まぁこれは仕方ないですよ」
「こういうガキいるよな。スーパーとかに」
「子供扱いしないで下さい!!」
子供っぽくジタバタと腕を振って抗議の意を示す若菜さんを止めるのは八代さん。たっくんともう1人はそんな若菜さんをからかっている。これが英峰のいつもの光景なのかな。うん、苦労してるんだね若菜さん。
先輩達に抗議するその声にも敬語が離れないのを見るに根がマジメなのかな。今のうちにちょっと仲良くなっておきたい。
「でもすげぇべ。おらと背変わらんねぇのに…関東2位のチームでスタメンなったんだもんなぁ」
「ホントかどうかわかんねーだろ」
宵越くんはまだ認めていないようだった。
「これは本当ですよ。自慢のような言い方になりますが…英峰は進学校でして」
発言した途端八代さんから有無を言わせぬオーラが出てくる。宵越くんを含むボク等はただ耳を傾けることしかできなかった。
「学力の関係で世界組出身の人間があまり来ません。
『兵器』の少ない状態でどう戦うか。そういう課題を与えられてきた学校です」
昔、マーくんたち4人を英峰に誘ったんだけど無理だって断わられたことがあったのを思い出した。
「それでもある程度高い位置に属する事ができるのは、それぞれが持つ武器を理解し…適材適所を磨き続けたからです。
キミや我々のように一目見ただけでわかる『
いや…、一目
「見た目ではわからなくとも、若菜くんの
八代さんに肩を回されて困惑した様子の若菜さんだったけど、すぐさま切り替えて宵越くんを一睨み。宵越くんも理解しきれなかったのか「…はぁ?」と驚くのみ。ボクは八代さんの言わんとしていることが分かったから1人うんうんと頷くことにした。
「…とにかく始めましょう。アップが終わったらビブスをお貸しします」
そう八代さんが言ったのを皮切りに英峰と別れる。最後若菜さんが宵越くんにあっかんべーしてきたけど、すぐさま「やめなさい」と八代さんとたっくんに窘められながら連行されて行ってしまった。
「やっぱ、ただのガキにしか見えねー…」
あれだけ分かりやすくアピールされたというのに宵越くんはまだ理解しきれていないみたいだった。忠告してもよかったけど、こういうのは口で聞かせるよりも実感した方が良いだろうと考えてボクは何も言わないでおいた。
「あのワカナさんって人…もしかしてヒメサワみたいな感じか?」
「ノーコメントで。慶さんじゃないけど、試合前に相手の情報が無いことは無い訳じゃないからね。せっかくのミニゲームなんだから未知の相手との試合を楽しんで来なよ」
畦道が宵越くんとは対照的にボクに情報を聞いてきたけどあえて答えないことにした。畦道には悪いけど、多分そっちの方が皆にとって良い結果になるだろうと思ったから。
答えをはぐらかされるとは思っていなかったらしい畦道は少しビックリしているみたいだけど、軽く畦道の背を叩いて頑張るようにと檄を飛ばすことにした。
「叶がこっちの試合ということは井浦は王城の方か」
「あ……いっくん…」
アップが終わって各コートでミニゲームが始まろうとした所でいっくんに声をかけられた。
いっくんもこっちに来たということは先程の宣言通り宵越くんのデータを取りに来たのかな?考えることはお互い一緒だね。
「英峰にお前の気になる選手がいるのか?」
「気にならない選手なんていないよ。
それよりも……
「いっくん、ごめんなさい。英峰に行くって約束反故にしちゃって」
「……それは、去年嫌になるほど聞いたな。気にしないでいいとも言ったはずだが?」
「いや、サクラン先輩がマーくんに何度も頭を下げてる所を見てたらどうしても気になっちゃって」
自分でもかなり卑怯なマネをしている自覚はある。自分の感情のはけ口のタメに優しいいっくんを利用しているんだから。こんなことを言われたいっくんがボク相手に怒ったりすることなんて絶対ないって分かった上でやっているんだから。
「お前は元々王城と同じチームでプレイしたがっていただろう?英峰に行くことは訊いていたが、正直こうなるかもしれないとは少なからず思っていたからな」
「ひどいな、いっくんから見てボクってそんなワガママな子だって思われてたの?」
「その逆だ。お前はもっとワガママを言うべきだった。周りのためにもお前のためにもな」
そう言ってボクの頭を優しく撫でつけてくれる。ボクのことを気遣って力加減をしてくれるのはとても嬉しいんだけど、今のボクはそれが歯がゆかった。
ボクが悪い事をしたんだから優しくしないでほしかった。去年も何度も言われたことだけれど、ワガママなんて悪い事なのにそれを推奨されるなんて今になっても理解することができなかったから。何度聞いてもいっくんは答えを教えてくれないし。自分で考えろっていうことだけは分かるんだけどさ。
「先行、英峰!!」
「お、始まったか」
審判が号令をかけたのを切っ掛けにボクといっくんはそれぞれ切り替えた。ボクはそれまでの後ろ向きな感情を引っ込めて手元のノートに情報を集めようとしたし、いっくんもボクの頭の上にあった手をどけた。
「カバディ…」
「しゃあ!気合い入れてくぞ!!」
「「おう!!!」」
水澄先輩の檄に他のメンバーも応える。それよりもボクは若菜さんの攻撃法に目を奪われた。
「へぇ、『シャフルレイド』ですか」
「ああ。フェイントをかけつつタッチを狙う。
叶もよくやっていただろう?と声をかけられたので当然と答える。軽量の
宵越くんたちも若菜さんがどういったプレーヤーなのか分かったからか警戒の色を薄めることなく集中し続ける。うん、悪くない。
「若菜がどういったプレーヤーなのかは叶も
「まあ、いっくんの言いたい事は分かりますよ」
「どれだけデータを取られても俺の身長が縮まないように…若菜の攻撃範囲も縮まない」
人間の手が届く範囲というものは当然人によって変わってくる。
バスケなどではウィングスパンというのはよく聞く単語だ。その場から動かないまま手が届く範囲というのは当然長い方がスポーツにおいては有利だ。バスケにおいてもカバディにおいても。
手が届く範囲というものは大体身長の大きさに比例する。だから当然宵越くんと若菜さんのそれも宵越くんが優位だというのは変わらない。だが、だからといって若菜さんが負けると決まってるわけではない。
今、宵越くんの間合いに若菜さんが一瞬で詰めた所からもそれは証明されるだろう。
「単純に…スピードが違うんだ。2、30cmの身長差を埋める程な」
はい、というわけで前の話までで何回か出ていた『たっくん』とは英峰№3の君嶋拓でした。
あの試合をオリ主を交えて書いてみたいと思ったのがこの作品を書き始めた理由の1つです。そこまで書き続けたいですね。