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『ヒメサワって50m走何秒なんだ?』
『6秒5だね。それがどうかしたの?』
『うーん、おらよりは速ぇけど…。なぁヨイゴシ、ヨイゴシはどんくらいだ?』
『あ?……そういえば何秒だったか?』
『5秒9だよ。スポーツ・テストじゃめったに聞かないってクラス中大盛り上がりだったっていうのに…。まったく宵越くんは…』
『いやお前そん時入院中だったろ。なんで知ってんだよ』
『宵越くんのことだもん。ファンとして知らない方がおかしいでしょ』
『…まぁ、井浦もいるし。そこ気にしても仕方ねぇか』
『はー、2人とも速ぇな!おらも負けてらんねぇ!!』
『なにか聞きたいことでもあったんじゃないの、畦道?』
『おぉ!そうだったそうだった!!ありがとなヒメサワ!!
いや、2人の
『は!!?ンな訳ねぇだろ!!俺の方が断然速ぇだろうが!!』
『あー、それね。カバディコートって大体縦5m横10mぐらいなんだけど。50mとか100mとか距離が長くなってくると
『へー、そうなんだな!!』
『ほーん』
『他の
「2、30cmの身長差を埋めるスピード。理解できても攻略は難しい」
はっや!!
あらかじめ
が、余裕は無い。いつも以上に足に力が入った為か未だ宵越くんは宙に浮いたまま着地もできずにいた。そうこうしているうちに、若菜さんは第2陣の
宵越くんの着地が先か、若菜さんの
「カバディ…」
が、カバディはあくまで
ワンフォーオール、オールフォーワン。
1人のピンチには全員が
若菜さんの視界ギリギリの位置に
『これ以上奥に進んだら掴む…!!だから下がれ!!』という警告を鳴らしながらのそれはコート外からのボクらでもわかった。
若菜さんの取る選択肢は大まかに分けて2つ。
1つは、
もう1つは、畦道の警告に従い下がって
どちらを選んでも一長一短。若菜さんの選んだ選択は前者だった。
が、その内容は少しだけ異なっており
宵越くんが着地する前に
どれだけ目で追えていようと、センサーで動きを追えていようと、『速さ』はそれらを灰燼に帰すことができる。
『速さ』というものはそれだけ尊く儚いものなんだ。
若菜さんの動きはまっすぐだ。ただただ愚直に
駆け引きをする時間すらをも惜しんで速さを追求したその
「カバディ!」
が、カバディという競技はあくまでも
ドッ
まっすぐ
「足ィ止めたぞ!!真!!!」
「おう!!!」
「え…
審判を務めていた英峰生もまさか初手から止められるとは思っていなかったのか、少し声を上ずらせながらそう宣告した。
「…まじか…!!」 「こんなに上手くいくとは…」
いや、先輩たちも驚いてどうするんですか。
たしかに、最近教えた
そこはブラフの意を込めて堂々としていてほしかった。
ま、相手に油断があったとはいえ英峰スタメンの
「この守備力は一体…」
他のコートの英峰生からもスタメンである若菜さんが倒されたことに驚きを隠せない一方で、隣のいっくんは
ふっ、反応を返してくれた先輩2人からいっくんへ顔を向ける。
「若菜さんの速さはかなりの脅威でした。ただ、相性が悪かったですね」
わき上がる歓喜の感情を内側で潰しながらなるべく無表情になるよう努めて言の葉を紡ぐ。
「
それを受けていっくんからの視線が強くなる。
…はい、その通りですよ。あの紅白戦が終わってからボクの
ボクが比較的多用するような、目線が不明瞭なマーくんのマネをした攻撃だけではない。さっき若菜さんがやったようなシャッフルレイドを交えた速攻はもちろん、小型
…ま、ボク自身せっかく得た技術がまだ使えるかという確認作業も兼ねていたんだけど。
「冷静さを欠きましたね悪いクセです」
「…すんません」
「まぁ…敵の守備も予想以上でした」
「いつも通り、こっちも守備で取り返そーぜ」
「…はい」
気付けばコート内で英峰のメンバーが軽い調子で若菜さんに声をかけていた。
軽く叱咤して反省を促した後、失敗を引きずらないように新たな目標を与える。八代さんとたっくんが当たり前のように若菜さんにとった声かけはかなりの効果があったようだ。元々失敗を引きずらない質なのかもだが、少し俯き気味だった若菜さんの顔が既に上がっている。
ま、ミニゲームだし万全の状態な方が
「あれ?宵越くんじゃなくて畦道が
ボクが英峰の方に気を取られていたからか、
「ん、彼は
「ですね。これまでの練習でも
何を考えているんでしょう?
そう嘯きながら畦道が自分から
畦道に伝えてもよかったけど、ただでさえ初心者でやることが多い身である畦道に
それはそれとしてだ。
「それにしても、英峰の守備は徹底してますねぇ。ボクもやっていますけど、キツさはボク以上でしょアレ?」
「ミニゲームの今はできて当然だ。試合の体力が残り少ない時にも反復で出来るように皆には仕込んでいるからな」
反対の英峰の守備を見てのボクの呟きにいっくんが返してきた。その顔はどこか誇らしげだ。なんでそうなのかはもうわかりきっているから、改めて試合の方へ集中する。
190cm程度の身長を誇る八代さんとたっくんを含む英峰の4人が畦道よりも低くなるように腰を落とすその様は異様だった。触られる面積を減らすことはカバディにおいては常識とも言えるがここまで徹底しているからこその『守備の英峰』と呼ばれる所以なんだろうなと思う。
が、
畦道は慌てること無く手を若菜さんの方へ振ることで追い払う。これも『センサー』がある所以だ。360度全方位を警戒することができる『センサー』は
畦道の狙いは依然八代さんのようだ。当然若菜さんが視界から外れる為先程のような回り込みの的だが、若菜さんの体重は推定53kg。畦道のパワーなら若菜さん1人程度なら引きずってでも帰れる可能性が高い。それを踏まえての八代さん狙いなんだろうね。
結構考えてるなぁ。
そうこうしている内に間合いに入った。タッチを試みる畦道だったが目標の八代さんは逃げる素振りも見せずに簡単に
「「おお!!」」
「よし!デカイのも触っ…」
歓喜の声を上げる宵越くん達と反対にボクは簡単にタッチできたことに違和感を感じた。その違和感は苦悶の表情を浮かべて後ろを振り返る畦道と
「っし!!!」
いつの間にか回り込んできていた若菜さんのスライディングにより両足を捉えられた畦道は逃げる暇も無くその場に崩れ落ちた。皮肉にも八代さんに右腕を掴まれていたおかげで着地の際そんなダメージを受けた様子は見られないのは幸いだった。
「能京攻撃失敗!英峰1点獲得!」
畦道の攻撃失敗によって英峰にも1点入った。
が、宵越くん達はそれよりも別の事が気になったようで
「ま…待て…なんだ!?今なんで掴まった…!!?」
若菜さんにケガがないか尋ねられている畦道を捕まえて、何が起きたかについて詳細を聞き出そうとする。畦道も何が何やら分からない様子だったが、真剣に宵越くんに分かったことを伝える。
タッチした手をタッチと同時に掴む。
……成程なぁ。躱すことばかり考えてきたけれど、
「いっくん、今八代さんがやったのって…」
「叶。いくらお前でもそう簡単に
さっきの技について尋ねようとするも、いっくんはボクに目線すら向けないままつれない反応しかしてくれない。まあだめもとだからいいけどさ。逆に教えてきたら大丈夫かと不安になるってものだ。
「イジワル」
「拗ねても無駄だ。第一、叶が俺の立場でも同じように返すだろう?」
「それはそうだけど…「止まるな宵越ィ!!」…あらら」
いっくんとじゃれあっているうちに英峰の
集中が途切れかけていた宵越くん目がけて突っ込む若菜さん。宵越くんに注意を促しながら牽制の為に近づく
「英峰攻撃成功!タッチ1点獲得!!」
「いや~、速いってやっぱりいいものだねいっくん」
「速いだけじゃない。先程の攻撃失敗を引きずることなく冷静に速攻をしかけ、無事成功を収めた。口で言えば容易いことだがそれが出来るのは並大抵のことじゃない」
「べた褒めじゃん。英峰は褒めて伸ばす方針なの?」
「そういうわけではないが、後輩の活躍だ。誰でも嬉しく思うものだろう?」
「いや、それは否定しないけどさ」
1対2
点差こそ1点のみだけど、この点差は数字以上に重いものだ。多分宵越くんの集中が途切れかけていたのは英峰の守備の壁が想定以上に高かったからだろう。八代さんの詳細不明の技術の上に俊足の支援ができる若菜さん。4人守備は
さらに若菜さんの
どう攻めるのが正解か分からないまま、刻一刻とタイムリミットが迫る中死地に追いやられようとしている。
なんて
キミはそんなヤワじゃないでしょ
宵越くん
ボクのアイコンタクトがちゃんと効いたみたいだけど、なぜか宵越くんは少しだけ身震いしていた。だけど、その甲斐あってそれまであった焦燥はもう鳴りを潜めたようだ。
いつもの宵越くんらしい不敵な態度を出しながら、いつものルーティーンである右足をブンっと振り回した後攻撃に入って行った。
「まったく、選手ではない者の声かけがルール上禁止されているとはいえだ。
「殺気って…。宵越くんが
いやいやいっくん、殺気だなんて大げさな。ちょっと解釈違いが起こりかけたことは否定しないけれど。ちょっと目で会話しただけじゃん。
「まぁいい。その宵越は落ち着いているみたいだが、
「策なんていくらでもありますよ。ただま、期待して損はしないとだけ伝えときます」
その会話を最後にボクらは黙り込む。宵越くんの狙いは
でも、
宵越くんは狙いを若菜さんに捉えてはいるものの、間合いを十分に保ったまま時折目線を対角へ向けて様子を見ている。それを数度繰り返したかと思うと、後ろに下がって距離を十分に取った。
どうやら、覚悟は決めたみたいだね。
「いってらっしゃい、宵越くん」
「……何だったんだ、宵越のあの技は」
「聞かれても答えませんからね。
「フッ、言い返されてしまったな」
あの後、宵越くんは若菜さんと援護に回り込んできていた八代さんとたっくんからも
コートの英峰メンバーだけではなく、隣のいっくんも驚きのあまり目をまん丸にしているのを見てドヤ顔になりそうになったが、流石にはしたないと自制した。
その後逆に追い詰められた英峰は
「ご…5対3、能京勝利!!」
まさか負けるとは思っていなかったのか、気持ち審判の英峰生の声が震えているように感じた。
ちなみに英峰の3点目は宵越くんがバックで戻る際に接地に失敗してキレイにすっ転んで攻撃失敗したからだね。
まったく、しまらないんだから。
「まさか勝つとは…」
「おい宵越!!お前すげぇじゃねーか!!」
「痛ぇんだよ、このバカ力が!!」
「ハッ!そう褒めるなって!!」
「褒めてねぇよ!!?」
コートの中では水澄先輩が大活躍した宵越くんの背をバンバンと叩いて、これでもかと褒めている最中だった。なお、叩かれている宵越くんは憤慨しているみたいだけれど、気持ちは伝わっているのか少し顔が緩んでいるのがここからでも分かった。
「あの宵越の技は叶が仕込んだのか?」
「!!……。ノーコメントです」
言い当てられた動揺を抑えながら返す。だけど内心、いっくんが言い当ててくれた喜びで踊り出しそうだった。
マーくんが発案してボクが骨組みを組んで宵越くんが活用する。宵越くんだけではなくマーくんとボクも褒められるべきモノだからね。この中の1人だけでも欠けていたらこの技は完成していなかったんだ!!
……いや、もしかしたら
そう喜びから一転スンッと冷め切っているといっくんがボクの顔をのぞき込んできていた。
……なんですか、見たところで情報は明かしませんからね!
そうキッと睨み返すといっくんはようやくボクから目を離してくれた。
ホッと一息を入れる。
「急に見つめてきてどうしたんですか?」
「いやなに、能京の
「……その『能京の
「ん?
「…………ハァ」
あのバカ……。皆に言って回るなんて
「さぁラスト守備だ」
心の中で薫に文句を言っていると部長の声が聞こえてきた。まだ試合やってたんだね。せっかくだしいっくんと一緒に見に行ってみるか。
そう思っていっくんに声をかけて移動する。こっちの試合みたいにロースコアの試合じゃないとは思っていたけど、予想以上にお互いバカスカ点を取り合ってハイスコアの試合になっていることに少しだけドン引きしたのは内緒だ。
※始めの50m走のタイムは独自設定です。宵越なら100m10秒代で走ってくれそう(偏見)
※宵越が事前にバックを覚えていたためミニゲームに勝利することができました。経験値が入ります。なお、おかげで次の英峰戦の難易度が上がります。やってられませんね。
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