※7月23日、原作が完結しましたね。武蔵野先生、9年間に及ぶ連載本当にお疲れ様でした。
【神畑side】
ガタン!
自販機で適当な飲み物を2つ手に取り戻る。2人の様子を見てみるが、右藤は軽く伸びをしている一方王城は近くにあるゲームの
「この感じ…懐かしいな」
飲み物を2人に渡す。2人は軽く礼を返した後何の躊躇いも見せずに封を開けた。
「泊まり?海外遠征の時はもっと汚い宿だったよ。
「というかメンバーの過半数がな」
「俺らの世代でもやらかしましたよ」
「やっぱりヒロの代も?」
王城も右藤も苦笑いを浮かべながら過去の惨状を語り合う。日本とは違う環境に慣れないからか、食事を終えた後腹を抱えてベッドに横たわる奴らが大勢いたのだ。俺も被害に遭った側の為正直あまり思い出したくないが、これもあと数年したら笑い話に変わるのだろうな。
選抜の時は予算がそう豊富じゃないこともあって、遠征先の宿泊環境は決して良いとは言えないものだった。ペットボトルの封がしっかりされているかにも注意を払わなければいけないという日本とは違いすぎる環境の違いに適応するだけでも精一杯だった。
改めて日本の衛生環境の良さを感じられた。あれはそれが分かっただけでも得がたい経験だった。
ま、それはそれとしてだ。
「まぁだからこそ有難く思えるな。こうして練習後ゆっくり話し合えるのは…」
「今日のミニゲームの結果だ」
部員に書かせていた今日のミニゲームのスコアシートを3つテーブルに放る。2人とも少し視線を奪われたことが見て取れた。
ここに集まった3人はただ過去の世界戦の思い出を語り合う為に集まった訳ではなかった。右藤だけが年下の為か元々の気性の為か俺と王城に謙ることが多いが、日本一を狙う3校の部長として、あくまで俺たち3人の立場は対等だ。
「練習メニューの参考にしよう」
「助かります。スコアラーも足りないんで」
「…面白い発見はあったかい?」
「………」 「そっすね」
「僕もだ」
それから俺たちは今日やったミニゲームについて情報を交換しあう。
まさか英峰が初戦から宵越率いる能京に
途中、王城が宵越のやった技が王城と叶が2人で作り上げた「バック」であることを自身からあっさり打ち明けたことについて少し驚いたが。
別にやり方まで丁寧に教えた訳ではなかった為、王城にとって教えても平気なラインだったのだろう。が、叶が出し渋った情報だというのに王城はあっさり白状したことに対し少しだけこの技に対するお互いの温度差があるように思えた。
「英峰としては大いに有益なミニゲームだった」
3人による情報交換が終わりに近づいてきた為俺がそう結ぼうとした所、隣の右藤が噛みついてきた。
「そりゃ神畑さん抜きでも3校の中でトップでしたからね!!勝った数!!」
「紅葉も2年生のチームでよくやったろう」
「ウチは佐倉さまさまっすよ」
「そうでもない。僕は素人の混ざった4人の守備なら…毎回
「サラッとすげー事言うよなぁ…」
そう本心のまま言うが、右藤はやれやれとでも言いたげに両手を頭の裏で組んで謙遜する。が、王城のカミングアウトには流石に平静ではいられなかったのか少し言葉に震えがあった。
「ま、佐倉が
「…未だに信じられんな…
佐倉は、去年の冬大会までカバディから1年半離れてたんだろ?」
「
「……」
気付けば口が勝手に開いていた。王城さながらの
「そうだ、天才ったらサッカーの不倒…
あの技なんなんっすか!!?バックでしたっけ?アレ止められるイメージ、まったく湧かないんスけど!!?」
「スゴイでしょ。僕と叶が考えた技だからね」
「さっきも言ってましたねそういえば!ってことは、正人さんと叶もデキるってことですか!!?うわぁ、やってらんねぇ!!」
「いや、僕等はできないよ。この技の練習中脚を壊しちゃってね。それ以来慶と叶の両親から使わないようにって言われれてるんだ」
「怖っ、そんな諸刃の剣みたいな技なんすかアレ。確かに脚の負担半端なさそうですけど」
「……なるほど。だからこの場で情報を明かしたんだな。宵越みたいにサッカーで鍛えた健脚でもないと使えない技だから。俺たちに公開しても何ら問題にならないと」
「えっ!!?……う、うん!!その通りだよ神畑」
「……」
そこまで考えてなかったな
気まずさを隠しきれない王城は別の話題に切り替えたかったのか、何やら思い出したかのように隣の椅子に横に置いていた紙袋から、紙の資料を俺たちによこした。
「そ、そうだ!!出すタイミング逃しちゃったけど。これ叶から2人にって!!」
「ん、なんすかコレ。ってか、神畑さんの資料べらぼうに多いですね」
「あぁ、アレか。早いな、もう全部出来上がったのか」
右藤は皆目見当が付かないみたいだが俺は知っている。いや、俺が知っていた理由は前もって叶本人から聞いていたからだが。
「うん。これミニゲーム中に叶が
「あぁ!懐かしい!!俺らの代の選抜の時も書いてましたねそういや。
ってか、
「うん。暇だったからって、試合のデータを取る傍らある程度作ってたみたいだよ」
パラパラと資料をめくる。身長体重と身体能力のデータだけではなく、1人1人に応じた空き時間にできる簡単な筋トレやマッサージなどのメニューも載っていた。よくもまぁこの短時間で書き上げたものだなと感心する。
「しかし、いいのか?コレを俺たちに渡して。何かしらのメリットが能京にあるとは到底思えないが」
これがウソの情報であれば話は別だが、そうじゃないのは確認済みだ。
真意を聞き出そうと少し前のめりになりそうな身体を抑えていると、王城が少しの間を置いた後答えた。
「…叶から頭を下げられたんだ。口約束とは言え英峰に行かなかった不義理を働いたことに対して詫びがしたいって。紅葉はオマケらしいけど」
「ヒドっ!!……でもま、叶らしいっスね」
「…まったく、気にするなとさっき言ったばかりなんだがな」
苦笑いをしながらミニゲーム開始前の少し暗い表情の叶が思い出される。
気にしないでいいとあの時も今日も言ってきたはずなのに。礼を返さずにはいられないその生真面目さに少し愛らしさを覚えながら。
小学校の頃、カバディ教室に入会したタイミングが僅差だったからか、何故か叶から懐かれていたことを思い出す。なんでこんなに俺に構うのかと気になって肩車中の叶に聞いてみたことがあった。
『お父さんに似てるから!!』
正直ショックだった。俺はそんなに老け顔なのかと。持ち歩いているというお父さんの写真を見せてもらうとこれまたソックリだったから尚驚いた。お父さん程ではないが高身長なこともポイントが高いという。それを言われて少しだけ調子が戻る俺も中々現金なヤツだなと我ながら思った。
ひょんな接点から付き合いが始まった訳だが、それ以外の点では嫌う所が見当たらないほど良い奴だった。途中なにかと俺や王城をメインにほぼ全員の世話を焼きたがった時は少し肝を冷やしたが。風呂で俺の背中を洗おうとしなくていいんだ。誰から聞いたんだそんなこと。
高校に入学して交流も時々ロインで交わすぐらいに減ってしまったが、叶が世界組1番に選ばれたことに驚きはなかった。フィジカルでは多少劣るだろうが、カバディ経験者として技術は人一倍であることや、まとめ役として1つ下の右藤と肩を並べる程目が行き届くヤツだ。最後の世界戦でも本場のインド以外には全勝したと言うし、俺たちには出来なかったことを成し遂げた叶を、仲間として先輩として誇りだとも思っていた。
だからこそ、驚いた。
世界戦の後、学校に行かず家に引きこもっていることを聞いた時は。
家が隣の君嶋から聞いてすぐに家に向かおうとしたが、その君嶋から止められたのだ。
『直接顔を合わせたり連絡を取るのは今は止めておいた方が良いだろう』と。
君嶋の助言もあって、結局俺が叶と直接顔を合わせられたのは叶が本調子に戻った時だった。君嶋と一緒に訪ねて応接間で待たされた訳だが、軽い調子で『学校ズル休みしちゃいました~』と言う叶からは体調を崩していたことが信じられないほどだった。
その時だったな。それまでの軽い調子から一転、まるで謝罪でもするかのように『英峰じゃなくてマーくんのいる能京に入学する』と言われたのは。
正直俺はそこまでショックではなかった。比べるものではないが、叶はお父さん似の俺よりも王城によく懐いていた。選抜にいた時も王城と井浦、右藤と佐倉と叶はよく行動を共にしていたが、1人だけ進学先が能京ではなく英峰に決められていることにギャン泣きしている所を目撃していたからというのも一因だろう。
隣の君嶋を見やるも君嶋は落ち着いた顔を崩さないままだった。きっと事前に話は通っていたんだろう。理由を述べようとした叶を俺は制して『大丈夫だ。
姫沢家から撤収した後数日間はロインから定期的に『ごめんなさい』と謝罪文が届いた。その都度、『気にしなくていい』『能京との試合が楽しみだ』『英峰と能京で一緒に不破をぶっ潰そう』と返しているとその謝罪文もいつの間にか届かなくなっていた。
取材の時も今日合宿で会った時も叶は元気そうだった。まぁ、どちらも叶にとってニガテな乗り物に乗車中と降車後であったからか元気100%という訳ではなかったが。とにかく、新天地でも上手くいっているのは我が身のように嬉しかった。
引きこもっている姿こそ見ていないが、乗り物によるノックダウンの姿は何度も見てきたからか叶に対して少し過保護ぎみなのは自分でも感じているが。
どうやら叶は夏大会が終わって俺や王城が引退した後に英峰へ転学するらしい。時期的に次の冬大会こそ出場は叶わないが、それでも十分だ。手元の資料からしても、叶がいるチームがどれだけ能力の底上げが出来るのかは明らかだ。俺の代で日本一を目指すのはもちろんだが、その後の代で日本一を目指していく上で叶の実力と才能、献身力は『兵器』が少ない英峰にとって喉から手が出る程欲しいものだ。
後の代については1つ下の若菜や叶たちに任せた。彼らがいれば俺がいなくなった後でも英峰の意志を繋げていけるだろうと確信している。
ま、未来のことはおいておくとして。
「叶は相変わらず良い奴ですけど、
右藤の心配も分からなくもないが、それは叶を舐めすぎだ。
「それについては大丈夫だろう。……というよりも、この資料も言うならば
英峰に
この資料はその為のものでもあるのだろう。決して英峰に言い訳をさせないための証拠。叶が英峰に来なかったからだと言わせない為のもの。
叶が良い奴なのはその通りだ。だがそれだけではない。
叶は自分の実力について相手と比べて変に下に置くこともしない。あくまで客観的に冷静に。自身と相手の差において感情を排して見積もることができる
不義理を働いたことに対しての詫びは終わりました。だから本戦での勝負は本気で行きます。
上等だ。
心の内側から沸々と燃えたぎるものを感じる。今日のミニゲームではお互い出ることこそ叶わなかったが、俺の減量も予定通り行けば最終日にはクリアできる算段だ。叶も当然試合に出てくるだろう。
本戦よりも先にこの合宿での練習試合で能京と、叶と当たれることがとても嬉しい。
生意気な弟分にお灸を据えるのも先輩としての役割だからな。仕方ない。
「……合宿最終日の練習試合が楽しみだ」
「あぁ……、これ叶大丈夫っすかねぇ正人さん」
「僕も楽しみだよ。佐倉君への今日のリベンジもしないとだからね」
「あぁ……、同類だったこの人たち……」
※能京BチームVS紅葉は原作通りの為カット!仕方ないね。
※誤字修正の報告、本当にありがとうございます。なるべく間違いがないようにしたいですが、もし見つけた際は報告の程よろしくお願いします(他力本願)。
※31話でキリが良いので段落を付けてみました。読みやすくなっていれば幸いです。
※のらさん、☆8評価ありがとうございます!!