ボクがキミを王にする   作:モーン21

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※お気に入り登録、感想等ありがとうございます

※前話を上げてから早2週間が経ちましたが、お盆の間は時間が空きすぎたせいで他サイト(Pi○iv)で『名探偵○ナン』や『ハイ○ュー!!』、『ヒ○アカ』等の2次創作小説を読みあさってたせいで更新が遅れてしまい、本当にすまない。

※オリキャラが新しく出てくる他、原作キャラだけれどもほぼ改変のキャラが出て来ます。ご了承ください。

※10,000字越えました。読み辛かったらすいません。


第33話 黒服

「あの子…どこの子だったかしら?」

 

「あぁ、姫沢さんの所の子よ」

 

「あぁ、最近結婚したあの病院の!でも、あんまり似てないわね」

 

「なんでも施設から養子にと引き取ったらしくてね。2人ともまだ若いんだから、そんなことするよりも自分達の子を作ればいいのに」

 

「あら、あなた知らないの?奥さんのこと」

 

「え?…あぁ、そういうこと。まだ若いのにかわいそうにねぇ…」

 

 

 

 

 

「ねぇ聞いた?姫沢さんの所の子どもさん!」

 

「えぇ、聞いたわよ。すごいわよね、まだこんなに小さいのに」

 

「理事長がごり押ししたとはいえ、あの年で免許を取ることができるなんてね!やっぱり天才っているのね。本当に信じられないわ」

 

「受け答えはしっかりしているし礼儀正しい。それに病院のお手伝いやこういう挨拶の場に出ても嫌な顔1つもしないだなんて、本当によく出来たお子さんよね。

それにご飯を作って待っていてくれるって聞くし!うちの旦那や息子達も見習ってほしいものよ」

 

「えぇ、ホント

 

 

 

姫沢先生達は良い()()()()をしたものね!

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 

 目が覚める。

 

 とはいってもまだ目は眠気によって開けられていないが周りから複数の呼吸音が聞こえてきたことに少しだけ動揺するが、そういえば昨日が合宿開始日だということを思い出した。

 

 あぁ、合宿ってことはランニングとか朝ご飯の準備とかしないでいいんだっけ?この時間にのんびりできることに少しだけ特した気分になる。

 とはいっても、そんなことが気にならないぐらい合宿で扱かれるんだろうけどね。中学のセンバツで既に経験済みだから今更驚かない。

 

 起き上がろうとするが何故かそれができない。ボクの両足に何か重りでも乗っかっているのかまったくビクともしなかった。おかしいな、この部屋にそういう物は置いてなかったはず。

 

「う~ん…」

 

 あれ?宵越くんの声が近くから聞こえてきた。ボクの布団は別に宵越くんの隣じゃなかったはずなのに、どういうこと?

 

 そういえば腕に抱いている枕が全然フワフワしていない。常用しているMogiboレベルとは言わないが、それなりにフワフワの枕を抱いて寝ていたはずなのに。場所によって柔らかかったり硬かったりする一方何故か少しだけ汗の匂いが漂う。たった1日でここまで汗かいちゃったの?ボク。

 

「ヨイゴシ起きろーッ!!!」

 

「わぁ!!?」

 

 突然の畦道くんの大声によって眠気半分だったボクの意識が覚醒する。途端目の中に映しだされたのは睡眠中の水澄先輩の脚によって首を絞められている宵越くんの姿だった。

 

……どういうこと?なんで目の前に宵越くんが?しかもどうして現在進行形で死にかけてるの?

 

「ヒメサワも起きたんなら手伝ってくれ!!」

 

 畦道に声をかけられたのを受けて動こうとするも両足の重りが原因で抜け出せない。一体なんなんだと目を向けてみると、ボクと宵越くんの両足に乗っかかっていた重りの正体が伊達先輩だと判明した。伊達先輩は水澄先輩同様未だ夢の中らしい。

 

 ウソでしょ…。能京(うち)の2年の先輩寝相悪すぎ…!!?

 

「ゴメン畦道、伊達先輩が重くてここから動けない!!」

 

「マジか!じゃあまずミスミ先輩の脚どかすから手伝ってくれ!!」

 

 畦道に言われて宵越くんの首を絞めていた水澄先輩の右足を持ち上げようとするも体勢が悪いこととボク自身が非力なこともあって、ろくに貢献できなかった。その後伊達先輩を畦道がどかして身動きが出来るようになった後すぐに宵越くんの容態を確認してみたけどちょっと気絶しただけのようで、気道を確保したらすぐに呼吸を再開していた。

 

 気絶していることに気付いた時は死ぬほど焦ったけれど、無事でよかったよ宵越くん。

 

 

 

 

 

「いやーごめんって!」

 

「てめぇら筋肉ダルマを()()がすのがどれだけ大変かわかってんのか!?死にかけたぞ!!」

 

「わりーわりー昨日ちょいと遅くまで英峰の人とアレしててさ」

 

全裸で汗だくになってな」

 

「風呂で話してただけだろが!!」

 

 顔を洗ったりコンタクトを入れたり等朝の準備を済ませた後、食堂に能京メンバー全員集合して話題に上がるのは当然早朝の珍道中のことだった。寝ぼけ眼な水澄先輩とどこか誇らしげな伊達先輩を相手にあやうく死にかけた宵越くんが大声で抗議する。宵越くんの右隣にいるボクは宵越くんを諫めるでもなく宵越くんに便乗するでもなくただその喧騒を眺めてどう対策を取ろうかと考えていた。

 

 1番手っ取り早いのは布団の位置を変えることだろうか。2年の2人の布団を宵越くんから離すのはマストとして2年の2人の位置取りも大事だろう。

 それに今回比較的大柄な宵越くんが被害者だったからこそギリギリで済んだかもだが、これがボクや人見、マーくんや慶さんみたいな非力組が対象だった場合これでは済まなかった可能性が高い。正直他人の寝相の悪さで命の危機を覚えるなんてことがあるなんて考えもしなかったよ。

 

畦道(あぜみち)と姫沢が起きてなかったら危なかった…」

 

「朝から元気ですね」

 

 そんな事を考えていると後ろから声が聞こえたので振り返ると英峰の3人がいた。

 

「ん…英峰のデカチビ…」

 

八代(やしろ)さん、若菜(わかな)さん、たっくん、おはようございます!」

 

「おはようございます」 「ふぁ…」 「いっすー」

 

 各々が自由に挨拶を交わす。若菜さんだけ眠そうに目を擦りながらあくびを出していたけど。そういえば能京(うち)の2年2人と風呂場で話してたのってこの3人だっけ?能京(うち)がすいません。でも両隣の2人が全然眠そうな様子を見せないのは流石3年生といったところかな?

 

「おはよう。どうかな一緒に朝ご飯。宵越くんの横が空い…」

 

 あ…

 

 ボクの右隣にいるマーくんがそう声をかけるもその言葉は途中で終わった。

 なんてことはないただの食事の誘い。普通なら何の問題もなかった。

 ただ、その対象が宵越くんだった場合は話が変わってくる。

 

 昨日のミニゲームで初戦こそたっくんたち英峰チームに勝てたものの、その後のミニゲームではバック()の性質上複数得点できないデメリットもあってかサクラン先輩やボクの相棒の薫を相手にしての点の取り合いで敗北を喫していた。

 

 宵越くんは負けた後その悔しさを忘れることはない。それは試合やミニゲーム、果てには何てこともないじゃんけんに対しても種類は問わなかった。過去のインタビュー記事に書いてあったからというのもあるけれど、ここ数ヶ月同じ部活で生活を共にしていることでそれを実際に体感することでそれは分かった。

 昨日のあの場で最初薫に対して怒鳴っていたのも得体の知れない強敵がボクと親しそうにしているのを見たからだろうし。

 

 だから、マーくんのこの誘いももしかしたら断わるかもしれないと思ったけれど。

 

 ガガ…

 

「ん」

 

 突如何も言わずに隣の椅子を引いた宵越くんは依然英峰の方を向いたままだ。どうやら若菜さんに声をかけているつもりらしい。

 

「ん?」

 

 当然、何のことか分からない若菜さんが自分のことかと聞き返す。

 が、対する宵越くんがそれに応えることはなく。

 

「ん!!!」

 

「『ん!!!』じゃねーよ喋れや!!!」

 

 大声でただ「ん」と繰り返す、故障したロボットみたいになっていた。

 

「俺、こんな感じのトトロで見た!!」

 

「座ってほしいならちゃんと言いなさい」

 

「宵越くんってツンデレだったんだね」

 

「ンフンッ!ガハッ…」

 

「うるせー座れ!!チ…若菜!!」

 

 水澄先輩、伊達先輩、ボクからからかわれた上、慶さん含むほぼ全員から大笑いされた宵越くんは今度こそちゃんと口を使って若菜さんたちに席を勧めた。

 

 でも意外だな。席を勧めた方法こそからかわれたけれど、あの宵越くんが人に席を勧めるようなことなんて少なくともここ数ヶ月では1度も無かったはず。一体どういう心境の変化なんだろうか。

 

「なんか怖いな」

 

「別に何もねーよ。ただ少し聞きたい事があっただけだ」

 

「…成る程ね。俺もお前には聞きたいことがあったんだ」

 

 なるほどね。英峰・紅葉をただ敵だと見据えるんじゃなくて、自分が成長する為の()()として認識したって訳ね。

 

 そりゃこの合宿の目的を考えればそうするのが正解なんだけど、ミニゲームでバックこそ成功したもののそれ以上にやられた割りには全然腐っていない所は流石宵越くんだと再認識する。悩む時間は無駄だって判断したのかな。

 

 スポーツに対する考え方はさすが一流だ。ボクも宵越くんを見習って上を目指していかないと。

 

「そういえばヒメサワ、お前なんで今日の朝ヨイゴシと同じ布団で寝てたんだ?」

 

「ブーーーッッッ!!!!」

 

「うわぁぁぁぁ!!?」

 

「っちょ、若菜さん大丈夫ですか!!?今布巾もらってきます!!」

 

「姫沢ァ!逃げるんじゃねぇ!!どういうことか説明しろぉ!!」

 

 切り替えようとしたのも束の間、畦道が誤解を招く言い方をしたおかげでまた一騒動が起こってしまった。さっきボクの名前が出てこなかったから油断していたけれどこればっかりはボクが悪いからなと反省しながら、とりあえずまずは若菜さんの救助が先だと布巾を取りに行く間に弁明の内容を考えることにした。

 

 

 

 

 

 それからは怒濤の展開の連続だった。

 

 若菜さんの味噌汁まみれな身体を拭き終わった後、周りの人達にボクが宵越くんの布団にお邪魔していたおそらくの理由を説明しているといつの間にか練習開始の時間が迫っていた為慌てて残っていたご飯をかきこんだ。

 

 朝7時、紅葉からの練習法の提案としてヒロちゃん先輩が上げた合宿所外周8km×3周のメニューは勾配(こうばい)がある他足場も悪いこともあって、毎朝ジョギングしている平らな町中の道路と比べても明らかに走りづらくキツいものだった。

 

 しかも明日からは罰ゲーム付きで各校競争にするという注意書きを加えることで、単調になりがちなランニングメニューで全員のやる気を落とさないようにすることを忘れないのは流石と言ったところ。

 畦道は山道を走り慣れているからか、競争だということで逆にやる気を出しているけれど。そういえば昨日も紅葉のメンバーと一緒に何の苦も無く合宿所までの階段を登っていたなと回想した。

 

 ボクは毎朝のジョギングの甲斐あってかなんとかこなすことができたけど、ボクと並走していた薫は走りきった直後その場に倒れ込むほど疲弊していた。ランニング開始前『一緒に寝たのか、俺以外のやつと…』とボクをからかってきた余裕はまったく無くなったみたいだね。ボクにおんぶするよう頼んできたけど、体格で劣るボクにそんなことが出来るはずがないからたたき起こして自らの脚で歩くよう促した。

 

 それで今は、

 

「…外周でアップは十分だな。では、英峰で行っている守備の練習をやってみよう。みんな裸足になってくれ」

 

 今度は英峰が提案した練習を行うとのことで、先日ミニゲームを行った柔道場に全員が集合した。

 

「もしかして、昨日ボク等がここに来るまでやっていたメニュー?」

 

 隣にいる薫に小声で聞いてみると、薫は嫌そうな顔を浮かべながら首を縦に振った。薫が練習嫌いなのは昔からだから正直参考にはならないけれど。

 

「裸足でやる理由は大きく2つある」

 

 皆の前に立ったいっくんが裸足で練習を行うメリットを説明し始めた。

 

「まず1つ。『脚で地面を踏む』感覚を身に着けるため」

 

「そして2つ。間違った場所に重心があればすぐそれに気付ける」

 

「カバディの守備は、位置によって『押し倒す』のではなく、『引き倒す』力が必要になってくる。この練習では一瞬で地面を(つか)む下半身を作る」

 

 いっくんの話を聞く傍ら頭の中でうんうんと頷く。たしかに、いつも無意識にやっていることをいざ意識して変えようとしてもあまり上手くいかない。こればっかりは数を重ねるしかないから。

 

「3人グループを組んで行い、攻撃役は近くに来たらすぐ足を(つか)み引く。他の守備役はすぐさま後ろに回る。これを繰り返す」

 

「型を覚える為だ。倒さなくてもいい」

 

「そんだけすか…」

 

 いっくんと八代さん、たっくんの3人が実演しながら皆へ説明する。畦道が驚いたのか思わず声に出して反応しているが、英峰以外のほぼ皆もそう思ったのかどこか物足りないような顔をしているのが見えた。

 

「ああ、これだけだ。しかしこれだけで…自分がどれほど雑に着地していたかがわかる」

 

 

 

 

 

「…また!!?」

 

(つか)んだ時に足が滑りましたね。次は着地地点をしっかり定めていきましょう」

 

「…バレちゃった…?」

 

「本当に面倒。(つか)めてはいるんだからそれでOKにすればいいのに」

 

「ダメ。動作が1つ増えているんだよ?(つか)んで引くまでがワンアクションじゃなきゃ無駄が多いってことなんだから。

 っていうか、こういう説明はメニュー提供側(英峰)の薫がするべきじゃないの?」

 

「説明するの面倒。こういうのは叶に丸投げするに限る」

 

「まったく…」

 

「…2人とも学校が違うのに仲良いね…」

 

「まあ、ボク等2人は小学校途中からずっと一緒でしたし、カバディ選抜の時も一緒でしたからね」

 

「ヒロさんのおかげで叶以外の他のメンバーとも話さなければいけないことになってしまった。ホント世話焼きスタイルが板に付く人」

 

「…そっか、2人ともヒロと佐倉の後輩だもんね…」

 

 3人組を組むに当たって薫と組むのは絶対(マスト)だった。残り1人を能京(うち)か英峰の誰にしようかと考えていると、1人オロオロしている紅葉の人がいたので声をかけた。前髪が長くて目が見えないけれど昨日のミニゲームでヒロちゃん先輩とサクラン先輩と一緒のチームにいた所は見ていたのでそこから話を膨らませて一緒に練習をすることにした。名前は花井(はない)(はる)さん。ヒロちゃん先輩たちと同じ1つ上の先輩だった。

 

「…それにしても、練習提供側(英峰)来家(らいけ)君はともかく、なんで能京の姫沢君がバッチリ出来てるの…?」

 

「…ハッ!?まさか、英峰の練習メニューを何かしらの方法で傍受していたのでは!?」

 

「物騒なこと言わないで薫。ただこの練習に近い事ずっとやっていた人が能京(うち)にいただけのことですよ」

 

 花井さんの疑問と薫の言いがかりにしっかりと返事をした後にその人の方を向く。その人(畦道)は特攻役として丁度攻撃役のヒロちゃん先輩の足を(つか)むことに接地も含めて完璧にこなしてみせた所だった。丁度ヒロちゃん先輩がそんな畦道を褒めちぎり、援護役の八代さんも一緒に褒めている様子。

 

 攻撃役が八代さんに変わって、畦道は先程と同様に特攻(チャージ)に行く。カバディをやり始めてからずっとそれだけは重点的にやってきたからか中々様になっていた。

 が、突如足を掴んだのと同時に八代さんがバッと地面を蹴った。まさかの動きに対応できなかった畦道はせっかく掴んだ足を離してしまう結果になった。

 

「…八代さん時々本気で逃げたりするから嫌。練習気分、掴むだけで満足する部員が出るからって。俺もよくダメだしされる」

 

「練習中に気を抜いている薫が10割悪い」

 

「…英峰の守備の考え方本当にすごいんだね…それと姫沢くんも…」

 

「いやいや、英峰はともかく、ボクは全然そんなレベルじゃないですよ、花井さん」

 

 畦道たちの方を見ているといつの間にか薫と花井さんもいつの間にかそちらを見ていたようで会話を始めた。まぁ、さっきまで動きっぱなしだったしちょっとした休憩ということにしよう。

 

「それにしても聞いたよ、神畑さんに八代さんの技について聞こうとしたって。断わられたって聞いて笑った」

 

「誰から聞いたのそれ。…別に技の詳細まで聞き出そうとした訳じゃないのに。いっくんってせっかちだよね」

 

「…いっくんってどなた…?」

 

「あ、すいません花井さん。英峰部長の神畑さんのことです。名前が(いつき)だから『いっくん』」

 

「叶のネーミングセンスは小学生レベル。もうちょっとヒネり1つぐらい入れるべき」

 

「小学1年生の時につけたあだ名なんだから、センスについてはとやかく言わないでよ」

 

 唐突に薫からセンスについてディスられたんだけど。ヒドくないかな?ま、今それはどうでもいいか。

 今は別の練習中だけどせっかく話題に出たことだし、ちょっとやってみよう。

 

「花井さん、どこでもいいんで攻撃(レイド)役としてボクから接触(ストラグル)を取って下さい。本気で来てくれたら助かります」

 

「…え?うん分かった…」

 

 花井さんは突然のボクの頼みに疑問符を浮かべるものの一息入れた後ボクめがけて突撃してくる。狙いは…

 

「左脇腹」

 

「…え?」

 

「そぉい」

 

 花井さんが左脇腹にタッチしてきた後()()()()に左手でタッチしてきた手首を掴む。援護役らしい薫が花井さんの後ろに回りながら肩にポンと両手を置く。

 一応、守備(アンティ)成功かな。

 

「…!この技はミニゲームで八代さんがやっていた…!?」

 

「ん、出来るってことは分かってたけど、ここまで()()()と本家と遜色(そんしょく)ない」

 

「…来家君…?」

 

 薫の言う通り。ボクが今やったのは花井さんがどこに触りに来るのかを()()後すぐに掴んだだけ。いっくんから詳細を聞き出せなかったから分からないけど、八代さんは何かしらの方法で触られる箇所を限定した上で掴んだり弾いたりしているのだろう。

 だからボクの今やったのも八代さんの技も似て非なるものなんだ。

 

「とはいえほぼマネできたのも事実。約束通り後で八代さんに技を聞きに行く時は付き合うけれど、俺八代さんちょっと苦手」

 

「先輩に何てこと言うの薫」

 

「八代さん何を考えているのかよく分からないから怖い。年下相手でも敬語を崩さないからなおさら」

 

「…分かる。誰が相手でも敬語を崩さない人は強キャラ適正高い…」

 

「花井さん…?」

 

 

 

 

 

「そういえば花井さん体格良いですよね。カバディ以前に何かスポーツやられてたんですか?」

 

「…いや、カバディを始めるまで何もやってないよ。ここまで成長できたのはカバディ部の練習のおかげ…」

 

「にわかには信じられない。何か特別な練習でもやっていたのでは?」

 

「…特別なことは何もやっていないと思うけど…せいぜいヒロがおかしな人脈を駆使したメニューを出してきたぐらいかな…?」

 

「おかしな人脈…?」

 

 それからしばらくメニューをこなし続けた後の休憩時間に3人で話をしていると、ヒロちゃん先輩とサクラン先輩の話をした影響かボク等相手に人見知りが徐々に解消していった花井さんから面白い話が聞けた。

 

「…うん。トレ室の空きが無いからって知り合いから廃タイヤを譲られただけじゃなくて、別の知り合いにセメントを入れてもらったり。どこで知り合ったのか問い詰めたいぐらいだったよ…」

 

「たしかにヒロちゃん先輩のそこらへん本当に謎ですよね、分かります」

 

「……それぐらいのレベルの知り合いなら簡単に用意できる」

 

「…えっ、そうなの?すごいね来家君…」

 

()()()なら」

 

「…あ、姫沢君なんだね…」 

 

「…否定はしないけど」

 

 ヒロちゃん先輩の高校生とは思えない交流関係の幅広さに感嘆していると、隣の薫から口を挟まれる。薫が言っているのは黒服の人達のことかな?ま、職業柄幅広い業種に携わっているから言えばすぐに用意してくれるとは思うけれど。

 花井さんに軽く黒服のことを説明した後に、頭を横に振りながら続ける。

 

「でも、さすがに恐れ多くて頼めないですよ。ヒロちゃん先輩の場合は『ヒロちゃん先輩の知り合い』なんでしょうけど、ボクの場合は『お父さんの仕事柄の知り合い』なんですから」

 

 それにあくまで黒服の雇用先はお父さんの実家の獅子王グループだ。婿養子として姫沢家に入ったお父さんでも正直ギリギリなのに、その養子のボクが黒服を頼るというのは姫沢家に対しても外聞が悪いというものだ。だから、緊急の場合を除いてあまり頼らないように自制している。

 

「…驚いた。姫沢君ならそんなことを気にしないで人に絡んだり頼み事できる人だと勝手に思っていたから…」

 

「ん、叶は実は小心者。せっかくそれができる力があるのに使わないなんて宝の持ち腐れ」

 

「薫も人のこと言えないでしょ。キミも両親のツテを頼ればそれぐらいできるクセに」

 

「やだよ面倒くさい」

 

「出たよ面倒くさい」

 

「…2人とも本当に仲良いね…」

 

 この後もちょろちょろ雑談を挟みながらも練習をこなしていく。途中薫がへばって動かなくなったけど強めに叩いたらまた再起動したから安心した。

ちなみに、ボクが薫をポコポコ叩いている間に畦道は八代さんとの会話を契機に『1人でも戦える技術』を得るために無我夢中になったのが。この時のボクは知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

「叶坊ちゃん、お待たせしました」

 

「辻さんありがとうございます。態々こちらまで運んで頂いて、感謝の言葉もありません」

 

「いえいえ。我ら黒服、叶坊ちゃんが望むのであればどこへも付いていく所存でありますから」

 

「……そんな危ない所まで来て頂かなくても大丈夫ですから。お気持ちだけ有り難くいただきますね」

 

 柔道場での練習が終わって疲労を覚えながら食堂に向かっていると、合宿場の入り口にこの真夏の暑い中黒スーツをビシッとキメている辻さんを見かけたので慌てて駆け寄る。   

昨日の電話では『出来るだけ早く届くようにします』と言っていたから、速達ではなく直接持参してくるかもと思っていたけれども、それでも夕方頃になると思っていたからこんなに早く着くとは思わなかった。

 

 小さい頃は時々実家の家事を任されていたみたいで、時々顔を合わせるだけの関係だったんだけど()()()から何故かボクに対してそれまで以上に構うようになり、『困った事があればいつでも連絡してください』と連絡先をもらったのもその1つ。

 

「実は上から有給を取るようにと言われていましてね。その時丁度叶坊ちゃんから忘れ物の連絡がありまして。どうせなら数日リフレッシュをしようと思いまして、同僚数人を引き連れてここまで来た次第です」

 

「そうだったんですか。いつも忙しいとお聞きします。せっかくのお休みですからご自愛なさってくださいね」

 

 宅配ではなく直接届けに来た理由を述べながら辻さんがニッコリと笑う。ボクも口調に気をつけながら丁寧になるように返事をする。周囲の人達からの視線を感じながらしばし辻さんと談笑をしていると、

 

「えぇ、なので叶坊ちゃん達の合宿のサポートをさせてもらおうかと。無論顧問の先生方の許可は既に取っておりますので」

 

「……ハイ!!?」

 

 辻さんの口から思いも寄らぬ事を言われ思わず声を張り上げてしまった。周りの人たちがいきなり大声を出したボクに驚いたのか、食堂へと向かう足を止める人が出てくる始末だった。

 

「な、なんで…いや。そもそも、部外者が混ざっちゃダメなんじゃ…」

 

「実は私たち英峰高校のOBでして、英峰高校顧問の池上先生とは旧知の仲なのです。電話の際、部員の人数に対して顧問の先生(監督者)の数が少ないと前々から愚痴を言われたのを先日思い出しまして。叶坊ちゃんの保護者として帯同を許された次第となりました」

 

 ボクなんかの反論は屁でも無いのか余裕綽々に回答する辻さん。その口元の口角が少し上がっていることからして、急な出来事に慌てるボクを面白がっているのは見え見えだった。

 

「で、でもせっかくのお休みですのに、私達の活動を見るだけだなんて正直もったいないというか、もっと別のことで楽しまれた方が…」

 

「叶坊ちゃんはまだ学生ですから分からないかもしれませんが。普段色んな人を相手に仕事をしているとですね、叶坊ちゃんたちのような礼儀正しい若人達と触れあうことで疲れた心が回復することもあるんですよ…」

 

 そうぼやく辻さんをよく見てみれば、目元にはクマが少し出ているし、頬も少しだけこけているようだった。他の黒服の人達もお仕事大変なんだなと少し哀れみの目を向けそうになったのを慌てて止める。

 いや、だからこそこんな所じゃなくて山でキャンプしたり海水浴に行ったりするべきだと思うんだけど。そう伝えても辻さんは首を縦に振ることはなかった。

 

「叶坊ちゃん。学生生活の思い出は長い社会人生活の糧になりえる物です。未来を見据えて行動するのは立派なことですが、今だけでも他のしがらみは考えずに前へ進むことをお勧めします」

 

 では。と軽く手を振ったかと思うと、後方から来た辻さんの同僚の方々と合流して軽く挨拶をした後自分達の部屋へと戻っていった。

 

 途端、肩に入っていた力を抜いて大きく息を吐く。いつの間にか緊張していたみたいだ。腕をブンブン振って弛緩しているとまたもや後方から声をかけられた。

 

「ククッ、いくらお前でも黒服の人達を相手にするのは苦手みてぇだな」

 

「慶さん…」

 

 振り向くと慶さんが笑いながら近づいてくる。そこで、ボクは先日から気になっていることを聞いてみた。

 

「ボクの抱き枕、()()()忘れさせたりしていませんよね?」

 

「さぁ、何のことやら」

 

 そう返しながらもニヤケ顔は止まらない。

 まったく、確かにボク等はサポートしてくれる大人が増えて満足、顧問の先生達は負担が減って満足、黒服達もリフレッシュ?できて満足するとしたら誰も損していないわけだけども。何やら嵌められたみたいで負けた気分になる。

 

「お前は色々考えすぎなんだよ。そういうのは俺たち3年に任せて、お前はただ合宿で成長することだけ考えていればいいんだ」

 

「……善処します」

 

 昼ご飯を挟んでの午後の練習では能京(ウチ)から提案した練習法として超高性能攻撃マシーン練習(先日の紅白戦)を提案して3校ともマーくんに蹂躙される始末だった。

 その後、1日の練習が終わって各自ダウンを行う段階になって、辻さんたち黒服の人達の紹介を終えた後希望者にマッサージを行うことを伝えられた。

 

 最初は及び腰だった皆もボクや各校の部長が率先して受けに行ったこともあってほとんどの(宵越くん、薫以外の)人がマッサージを受けたようで一安心。これで合宿の疲れが明日に残ることもないだろう。父ちゃん仕込みのマッサージだから腕は確かだ。

 

 色々と考えることはまだまだたくさんあるけれども、今だけはボクもただ純粋に自身の成長の為にステップアップするようがんばろうと、宵越くんと薫のマッサージをしながらそう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――オマケ――

 

「ボクのネーミングセンスについてとやかく言うけどさ、薫も大概じゃない?何?ボクの2つ名が『能京の支援者(バッファー)』って」

 

「叶と(チェーン)を組むと動きが良くなることは確か。その働きはまさにパーティーのステを上げるバフ役の役割そのもの」

 

「ゲームの事を言われても分からないよ。ボクがゲームやらないの、知ってるでしょ?」

 

「ん、叶もゲームをやるべき。人生の半分は損している」

 

「…うん、今回は僕も来家君と同じ意見かな…?姫沢君はどうしてゲームやらないの?」

 

「……薫の方がプレイング上手いから。自分でやるよりも薫がやっているのを膝の上で見るのが好きだから…」

 

「……」 「…おぉ…」

 

「何ですか、言いたいことがあるならハッキリ言ってくださいよ…」

 

「叶の貴重なデレだ。『能京の支援者(バッファー)』改め、『能京のお姫様(プリンセス)』だ」

 

「…うん、今のはスゴかった。思わずトキメキかけたよ…」

 

「……ま、お姫様(プリンセス)の方が可愛いからいいか……」

 

「顔が赤いよ叶。照れた?」

 

「ウルサイ!!」

 




※3人組を組むに当たって、第172話ちょい足しより『趣味が漫画』の紅葉№4の花井春を独自解釈マシマシで登場させました。この後人見知りながらも薫と意気投合した模様。

※オリキャラの黒服(辻さん他)についてはあまり本編には絡まない予定なので覚えないで大丈夫です。

※鰐中尉さん、Alan=Smiteeさん、☆9評価ありがとうございます!!
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