【関side】
「食材無駄にしてんじゃねーぞコラ」
「だから手助けはいらねぇって言っただろうが宵越!!」
「お前が足ケガしてるっつーから手伝ってやろうとしたんだよ!!」
合同合宿2日目の夜、練習を終えた僕含む3校のカバディ部は
僕と人見はじゃがいもやレンコン等の野菜を焼くための皮むき等の下準備を任されたので、手を動かしながら軽く雑談する。
「…はぁ…みんな元気だな…僕は立ってるのもキツイのに…」
人見の向く先にはさっき野菜を落として台無しにした宵越君と若菜さんを叱る副部長がいた。転んだ2人のシャツに、落としたトマトなのか赤い模様がちらほら見える為、一見事件でも起こったのかと勘違いしてしまいそうなぐらいだった。
あんなにキツイ練習を1日中こなしたにもかかわらずお互い食ってかからんばかりにギャーギャー騒いでいた2人は顕著だけど、他のメンバーも特に苦も無く食事の準備を進めている。だからか、同じタイミングで入った僕等3人の内ただ1人今のカバディ部が初めてのスポーツだと言う人見は特にそう思うのかもしれない。
「でも楽しいよね。日常じゃ見られない特技が見られたりするし…」
小さい頃からこういうアウトドア系統の趣味は好きだから部活の一環とはいえ疑似キャンプが出来てテンションが上がっている自分がいるのに気付く。キャンプはお金がかかることもあって今まで敬遠していたけれど、こういう時に人と違うことが出来る人を見るのは中々面白いから僕も視線が色んな所に向いてしまう。
途端、ザワッとした方を見ると説教を終えた副部長が紅葉の部長、ヒロさんと会話していた。
「火ぃ起こすの早いな!!」
「秒っす。俺らキャンプとかガキの頃からやってますし?叶みたいな都会のエリート坊ちゃんには負けねーすよ!」
副部長に褒められて上機嫌のヒロさん。火起こしなんて学校行事ぐらいでしかやったことがないから慣れてないんだよね。どれくらい速かったのかは見てなかったからなんとも言えないけれど、副部長が驚くくらいだからその速さは並じゃなかったみたいだ。
「そうかな?」
が、英峰の火起こしも負けてはいなかった。紅葉のヒロさんとほぼ同じタイミングで火起こしを成功させたらしく、その当事者である
「姫沢君もスゴかったよね…。あれだけあった野菜の下準備をたった1人で終わらせたんだから」
そう人見君が見つめた先には下準備済の野菜が山のように積み重なっていた。そう。元々野菜の下準備を任されたのは僕と人見君の他にももう1人いて、それが姫沢君だった。
能京用に分けられた野菜の山の8割近くをすぐに終わらせただけでなく、他校のヘルプの声が上がるよりも先に手助けに向かって行くし、本当に周りをよく見ている。今ここにいないのも、能京用の野菜の下準備がほとんど終わっている為他の人達の手助けに向かっているからだね。
ちなみにこれは姫沢君に後で聞いた話なんだけど、どうしてこんなテキパキ動けるのかって聞いたら『家族ぐるみで付き合いのある
「完全敗北だよヒロ、コールド負け」
「いや!まだ
「よしできた!」
ヒロさんと同じ高校の佐倉さんによる判定が出るも、ヒロさんは
その声の主は、
「マスと野菜のリゾット」 「んまい!」
「ちょっと待って?」
部長だった。隣には部長の料理の味見をしていたのか、小皿片手にサムズアップしている宵越君の姿もあった。
「百歩譲って火おこしが早いのはわかります」
「うん」
「でも、食材は米と野菜と肉しか用意してません」
「うん」
1番に聞きたいことを横に置いて、ヒロさんは部長を相手に1つ1つ詳細を確認していく。が、1番の疑問点を指摘する時は流石に落ち着いていられなかったのか大きく声を上げた。
「マスは!?」
「近くの
「自由!!!」
見ている僕もヒロさんと同じように声を上げそうになった。いや、さっき『人と違うことが出来る人を見るのは中々面白い』とは思ったけれども。ここまでマイペースなのは想定していなかった。部長しかり宵越君しかり、
「ちゃんとみんなの分も作ってるよ」
「そういう問題じゃなくて…」
「いいから食ってみろ!!」
「あっふ…」
物思いにふけっていると、何故か宵越君がヒロさんに部長作のリゾットを食べさせており、そのあまりの美味しさにヒロさんも何故か食レポを始めていた。『うるせーなお前…』と食べさせた張本人の宵越君も呆れる始末。ヒロさんもなんだかんだマイペースですよね。
「そういえば叶は?さっきから見当たらないけれど」
「んあ?姫沢ならあそこにいんだろうが」
ヒロさんの食レポが聞こえていたのか、八代さんや若菜さんといった周りの人達も部長の料理に興味津々だった。その人達の配膳をしながら部長はここにいない姫沢君の所在が気になったらしいが、隣の宵越君が指摘した方を向いたと思うとそれまで上機嫌だった表情がピシッと固まった。
僕と人見君も気になってそちらの方を見てみると、
「未体験の食感ですが美味しいですね、ヒヨドリなんて初めて食べましたよ」
「叶坊ちゃんの知見に貢献できて光栄です」
姫沢君が黒服スーツをキメている人の隣で焼きたてなのか真っ黒の小鳥に舌鼓をうっていた。どうやらこの黒服スーツの方も部長同様に自身で食材を獲得していたらしい。部長のマス釣りはまだ分かりますけれど、いつの間にヒヨドリなんて狩猟していたんですか!!?
今日のお昼頃に黒服の方々が姫沢君に挨拶していた所にバッタリ鉢合わせした時、姫沢君は苦い顔だったから知り合いとはいえ苦手な相手なのかなと勘ぐっていたけれど、今の嬉しそうに小鳥を頬張っている様子を見るにそうではないみたいだ。
「お~い、叶ちゃ~ん!こっちでお兄さん達と一緒に食べない?」
「
「
聞き慣れない大声に思わずそちらを見ると、僕達から少し離れた所でお酒を飲んでいる為か頬を赤くしながらスーツ姿の3人がBBQに励んでいた。僕達と同じ材料の肉や野菜を焼いているだけではなく、持参してきたのかお酒とおつまみも口に入れていて、そこだけ違う世界みたいだった。
「……あの酔っ払い共は無視して大丈夫ですから、叶坊ちゃんは戻られてください。あと少ししたら皆さんの分のホットケーキが出来上がりますので、後でお持ちしますね」
「あはは、ではお言葉に甘えさせてもらいますね。ヒヨドリご馳走様でした。ホットケーキ楽しみにしています」
そういって、黒服の人と話す姫沢君は口調からしてもいつもとは違っていてまるで別人みたいだった。だけど、そう認識を修正する間もなく僕達は姫沢君にいつもの調子で声をかけられた。
「え!?もしかしてマーくん何か料理作ったの!!?食べたい食べたい!!ほらほら!関も人見もそこでボーっとしていないで一緒に食べよう!!」
僕達が声を返す間もなく姫沢君はビューって勢いで部長の所へ駆け寄っていく。少し顔を強ばらせていた部長もその様子を見て表情を軟化させて姫沢君にもリゾットを配る。顔をとろけさせながら食事を進める姫沢君を見て、部長も得意気だった。
…それにしても本当に美味しそう。ヒロさんや姫沢君が特別オーバーな反応をしている訳ではないというのは、他に食べている人達の好感触の反応から見て間違いない。
「…部長すごい…」
「自分も食べて…」
隣の人見と一緒に部長の所へ駆け寄ろうとすると誰かの腕が前に出て来て僕だけ阻まれてしまった。
「…ふ…副部長…?」
僕を止めた副部長は先程の部長や姫沢君みたいな笑顔とは何故か違うものだと分かった。その違和感が何か掴むよりも先に副部長から何かを渡された。
「関の分はこれだ」
「ええっ!!?」
そう言って受け取った小皿はちょうど焼きたての物が乗っているからか少しだけ熱かった。けれど、僕用にわざわざ副部長が取り分けてくれたことに感謝するよりも先にその食べ物についての驚きの方が強かった。
「や…野菜ばっかり…」
「減量、済んでないだろ?大会の抽選時に選手登録と体重測定がある。うちでまだ80kg越えてるのはお前だけだ。あと2kg…来週までにはいけるだろ」
「ば…バッチリ把握されてる…」
そう。副部長から渡された皿には野菜だけでお肉はまったくなかった。副部長の言うことが正しいのは分かるんだけど、楽しくおしゃべりしながらBBQを楽しんでいる皆を見ていると仲間はずれにされているみたいで少し面白くない。
けれど、
「必要な戦力だ。頼むぞ」
「……う…うす…」
冗談ではなく
▽▽▽▽▽
むしゃ…
BBQを楽しんでいる皆と一緒にいるのが耐えきれなくなってとぼとぼとその場から立ち去りながら副部長から渡された
稽古の後はお腹いっぱいちゃんこを食べるのが習慣だった相撲経験者の身としては、野菜って食べた気にならないんすよね…。
「分かる。やっぱり腹を満たすにはお肉が1番。焼きたてであれば尚良し」
「うわぁ!!?ら…
突然話しかけられて驚きながら振り向くと、そこにはこの合宿で知り合った英峰の来家君がいた。
「ビ、ビックリした…こんな所でどうしたの?」
「皆の所から離れていった関が見えたから付いてきた。何かイベント発生する気もしたし、期待してる」
「それは期待されても困るかなぁ…」
情けない所を目撃されていたことに苦笑いしながら彼の顔を見つめてみるが、来家君は気にすることなく僕の隣に並んで歩こうとしている。
昨日知り合ったばかりなのに会話が弾むのは間に
最初こそ来家家の人であることと元世界組であることをカミングアウトされて少し身構えたけど、それからの姫沢君を交えての漫才で有耶無耶になったのと、何故かコスプレに勧誘されたこと、来家君が姫沢君を大事そうに抱えている様子を見て最初あったわだかまりはすぐに解消した。畦道君に突っかかった時はハラハラしたけれど。
練習中は外しているサングラスを今はかけていることもあって表情は読み辛いけれど悪い人じゃないんだろうなって、何となく思ってしまう。来家君は変わった人だ。
「あれ?来家君そのお皿…。もしかして、来家君も減量の為?」
ふと隣を歩く来家君の手に僕と同じく焼いた野菜しか乗っていないのに気付いたので尋ねてみる。お相撲さん体型の僕と違って来家君は痩せ形ではあるけれど200cmの長身だ。身長が高ければ高いほど体重も重くなるだろうと思って聞いてみたけれど。
「違う。これは君嶋さんから『お前は1人で肉食いすぎだ!!』って代わりに持たされた。ちゃんと自分で焼いたのしか食べていないのに。理不尽」
「……ハハ、そうなんだ…」
乾いた笑いしか出てこなかった。聞けば来家君はいくら食べても太らない体質らしい。男子が言うことあるんだねその台詞。正直今全然腹が満たされていない僕はこれに怒っても許されると思う。
「関、
「え?いいの!?ありがとう!!」
許した。速攻で許した。さっきまで来家君に抱いていた少しのイライラはキレイに昇華された。
いや、伊達先輩もよく練習後にプロテインをくれるから実質ア○パンマン?
「そうだ!お返しと言ってはなんだけど僕お菓子を持ってきているんだ。それを一緒に食べない?」
「……いいの?じゃあお言葉に甘えて」
…思い返せば、この時来家君の顔を見ておけば良かったと思う。この時の僕はただ空腹を満たす為にどのお菓子に手を付けようかと皮算用している所だったから。見ていれば僕はこの時思わぬ所で
少し早歩き気味に
突如ムワッと来た不快な空気に思わず足が止まる。陽が落ちて涼しくなったのにもかかわらず汗が流れていく。冷房が効いた部屋から炎天下に放り出された時よりもヒドいそれは何故だと思考を始めようとするよりも先に原因が判明した。
「…え……」
少しだけ開いた襖を除くと、そこにはこの真夏の暑い日にストーブを焚いている男の人がいた。フードを被った上に毛布を羽織っているおかげで顔は見えないけれど、隣の来家君と同じくらいの長身なのは一目見ただけで分かった。
世界組の…
ふと後ろに付いてきていた来家君を振り返ろうとするよりも先に視界の端で体勢が崩れたのが見えて、「大丈夫すか!!?」と大声を上げながら襖を勢いよく開けてしまった。
「ん?なんだ?」 「…神畑さんお疲れ様です」
「…びっくりしたっすよ…倒れたのかと…」
「関はビビりすぎ。神畑さんは
「薫と能京の1年か…早とちりするな。少し横になろうとしただけだ」
とりあえず緊急事態ではないようで胸をなで下ろした。緊急事態だと思ったのは僕だけだったようで隣の来家君は平然としている。高校が一緒だからなのかな?
しかしあっついなこの部屋…!減量の為とはいえここまでやるのかと少しビックリした自分がいた。正直一刻も早くこの部屋から退出したかった。
「大丈夫なら自分たちもう行きま…」
あ…
立ち上がりかけでようやく気付いた。僕の手には来家君から頂いた
が、神畑さんは僕が手元の皿に目を落としただけで何を考えているのか目星が付いたようで、
「気にするな。毎度の事だ。俺は慣れてる」
僕が詫びの言葉を告げるよりも先に自分は大丈夫だと伝えられた。
「う…うす。じゃあ…」
立ち上がって早くここから退出しようと背を向けた。が、あと一歩の所でこの汗が止まらない部屋から動かなかったのは、奇しくも同じ(同じと一括りにするには失礼すぎるが)減量仲間である神畑さんに聞いてみたい質問が突如頭の中に現れたからだった。
「あの…単純な疑問なんすけど…なんでカバディなんすか?」
「何?」
「いや!カバディが悪いとかじゃないんす!!
ただ、それだけ背が高かったらいろんな競技で有利じゃないすか!
昔、背が伸びなくてやってた競技辞めちゃった…友達がいたので!」
最後こそ『友達』のことだと誤魔化したが、どうしても
だから、体重で制限がかけられているカバディは異色の競技と言ってもいい。それもボクシングや柔道のように自分の体格に合った階級に合わせる為の減量とも訳が違う。わざわざ
「減量してまでやるのが気になって…」
「ああ…確かに気になるかもな」
そう聞くと神畑さんも合点がいったようで、わざわざあぐらを解いてくれた。隠れていた両足が露わになったことで、まだ立ってすらいないのに神畑さんから発せられた大男の迫力を浴びる。
「2m3cmある。しょっちゅうバスケ部に誘われるよ。…そういえばお前も一緒に誘われていたな、薫」
「俺の場合は男バレからもです。やった、神畑さんに勝った」
「そこ勝負する所なの…?」
少しだけ話が逸れたけれど神畑さんが続けた。
「ただ有利不利で考えた事はなくてな…スポーツでメシを食っていく気もなし。部活は社会に出るまでの趣味みたいなものだ。この減量も『いい経験』だと思ってるよ」
「…すごい割り切ってるんすね…」
「みんながみんな王城のように全てを懸けてはいないさ。夢中さは良くも悪くも不安定なものだと思っている」
「すごいなぁ…英峰はそれで結果だしてますし」
さっきまで僕が考えていた次元の話ではなかった。神畑さんは目先の試合の勝利ではなくもっと遠くまでを見据えて行動している。減量から目を逸らして目先の空腹の為にお菓子を平らげようとしていた僕なんかとは比べるまでもなく
「結果…?」
「え?関東2位…ですよね?」
僕が発した感嘆の声は言うつもりが無いものではなかったが本心だった。関東2位は充分誇れる結果だ。いくらカバディがマイナー競技といえどそれは栄誉あるものだと僕は思う。
が、
「2位だぞ…?」
「「……」」
まるで納得してない…。僕と神畑さんが言う結果はどちらも同じ『2位』のはずなのに、神畑さんにとっては決して満足できないということが、こんな暑い部屋で汗が流れない程乾燥しきった手で『2位』を表したことからも分かった。
この人は『趣味』でも意識が高いんだな…自分みたいな意志の弱い人間とは違う。
なんか怖い…
「じゃ…自分はこのへんで…」
「俺も戻ります」
「ああ、せっかくだ。楽しんでくるといい」
「は、はい」
神畑さんのでかさと僕自身の矮小さ。どちらからも目を逸らしたくて一刻も早くこの部屋から退出しようとすると来家君も僕に従うように部屋から出た。来家君が丁度襖を閉めきるよりも先に、神畑さんが思い出したかのように話しかけてきた。
「薫、みんなはちゃんと食ってたか?」
「…はい、皆さんお腹いっぱい食べています」
「そうか。…よかった」
……?
2人が何を話しているのか分からなかったけど来家君の答えを聞いて神畑さんは何故か満足そうにしていた。それを視認した来家君もまた用は済んだとばかりに襖を完全に閉め切る。
来家君がさっき言った通りにイベントが発生したわけだけれど、起こったイベントがイベントだからか元の予定通りに部屋までお菓子を食べに戻ってもいいのだろうかと逡巡してしまった。
「…神畑さんは俺とは違って、食べたらしっかりその分身体に還元されるタイプ。だからずっと前から今みたいな減量メニューをこなしてきた」
隣の来家君がその場から動かずに声を潜めるように話しかけてきた。思わず顔を向けてみたらそれは今までのようなのほほんとしたオーラはまったく見受けられず、真剣に僕に話しているんだということが分かった。架けているサングラスもあいまってとても厳つく感じる。
「食事はメンタル回復にも役立つとても大切な行為。今神畑さんはそれを意図的に断っている状態。そんな状態を何日間も続けていたら…」
「目標82.3kg…」
来家君の語りを遮るように神畑さんの呟きがここまで聞こえてきた。衣擦れの音が聞こえたことからしても体重確認だろうか。流石は英峰の神畑さん、ちゃんと途中経過の目標体重も設定しているらしい。
ギッ…
ドッ ガチャン!!
「ブッ殺すぞ…!!!」
「なんで俺がこんな…次が…最後だ…」
何かが蹴り出されて壁にでもぶつかったのか音が部屋から聞こえてきた。それから数秒後噛み殺したかのように漏れ聞こえてきたのはお届け人がいるのかも僕には分からない怨嗟の言葉だった。
先程まで優しいだけじゃなく意識も高い別次元の人だと思っていた神畑さんが発しているとは到底思えず、僕は心臓をドッドッと大きく震わせながらそこから動くことが出来なかった。来家君は発信源である神畑さんにも隣で震えている僕にも何も言わずただその場にいるだけ。今すぐにでもこの場から逃げ出したいのに逃げ出せない。そういう時ってあるよねと他人事のように頭の隅っこで考えていた。
「あー…」
この場の均衡を崩したのは神畑さんだった。それまでのトゲトゲしい言葉から一転して何かを求めるような助けを求めるような声音だった。
「腹ぁ…減ったな…」
気付けば皆のいる所まで戻ってきていた。手元に持っていたはずの来家君の野菜の皿も見当たらない。そういえば走り出す直前で来家君に皿ごと返していたなとまるで他人事のように思い出す。
ただただBBQを楽しんでいる同輩と先輩の方々。空気も陽が沈んでいるからか少しだけ涼しい。ストーブを焚いて空腹を凌いでいる神畑さんがいる部屋と違いすぎて風邪を引きそうになる。僕がこの場から離れる時と同じ光景のはずなのに、神畑さんを目撃したからかここが別世界のように感じた。
つらくないはずがないのに…なんであの人…神畑さんは…つらくないフリなんてできるんだ…
「ぐうぅ…もうお腹いっぱい…」
「もっと食べましょう若菜君。キミは身体ができてないんですから」
「ねぇたっくん…ボクはもう良いからさ、薫とか他の英峰の人に譲りなよ…ボク辻さんのホットケーキ食べるからさ」
「お前はいつもそう言って食べねーだろうが。俺が用意してやってんだから遠慮せずに食え食え!!」
あ…
『薫、みんなはちゃんと食ってたか?』
『…はい、皆さんお腹いっぱい食べています』
もしかして、減量中の
周りに気を使わせないように…
…カッコイイなぁ…
「おーい関!!部長がなんかカロリー少ない料理作ったって!みんなで一緒に食うべ!!」
「俺が野菜切ったんだ俺が」 「手でちぎっただけじゃん」
「うるせーな!絶妙にちぎってあるんだよ!」
……
皆本当に優しい。カロリーが少ない料理だなんて、減量中の僕の為にわざわざ作ってくれたんじゃないかと勘違いしそうになる。
……でも、
「すんません今お腹いっぱいなんすよ~また今度頂きます」
脳裏に浮かぶのは、
そんな神畑さんに少しでも近づく為に、神畑さんのデカさに追いつく為に。
カッコいいかはわからないけど、少しくらい
――オマケ――
「おぉ、薫遅かったな。何処行ってたんだ?」
「君嶋さん、実はちょっと人生という道に迷って…ん?叶が
「あ、薫。たっくんに捕まって強制的に食べさせられてる。…あれ?薫その皿の野菜、まだ食べてなかったんだ。もうお腹いっぱい?」
「俺はあと3回変身を残しているから余裕。これは関に売ったら最初喜ばれたのにいつの間にクーリングオフされたのがショックだったからまだ食べてないだけ。すぐに食べる」
「へー、関が1度もらった食べ物を返すなんて珍しい。何かあった?」
「いや何も」
「ふーん、まぁいいや。あっ食べ終わったらでいいんだけどさ、辻さんのホットケーキとマーくんがまた新しい料理作ったみたいだから取ってきてくれない?ボク、ここから動けないからさ」
「え~やだ、面倒くさい」
「ボクのお肉分けてあげるから」
「YES BOSS」
「おいおい待て待て!薫はもうお肉のお代わり禁止だし、叶も取りに行かせるのは良いがその肉は全部自分で平らげてからにしろよ」
「「え~…たっくん(君嶋さん)のケチ」」
「誰がケチだコラ」
「……仲が良いんすね、あの3人。1人能京混じってるッスけど」
「そのようですね、微笑ましいです」
※関が相撲を辞めた理由は作中で名言されていませんけれど、『身長が伸びなかったから(167cm)』を理由にこの作品では進めていきます。多趣味(ボーリング(マイグローブ、マイボール)、バンド演奏等)だからの可能性もありますけれど、読み直したらやっぱり前者かなって思ったのでこの解釈で進めていきます。
※オリキャラ黒服他3名(犬塚、雉谷、猿山)はそれぞれ赤、青、黄のネクタイをしているらしい。