※リアルでバタバタして1ヶ月振りの更新になりました。定期的に上げられるようにちゃんとしていきたい所存です。
※25/02/16 後書きの一部修正
合宿が進むにつれ…選手たちの行動は自然と2つの傾向に分けられた。
ひたすら量、がむしゃらに足場つくりに
そしてもう一つ。
技術を
ちなみにボクは前者。入院して鈍った身体を元に戻さないといけないのもあるし、試合にこれから出場するためにも必要なことだったから。小手先の技術ではない、ただただ量を課されたメニューをこなしていくうちになんとか
後これは思わぬ収穫だったけど、この合宿場に来てからよく
ボクは乗り物が苦手だから基本休日も外出しないんだけど、時折君嶋家とキャンプとか海とかにご一緒させてもらっていたから別に山に行くのは今回が始めてじゃない。
あぁ、そういえば
技術を磨くという宵越くんや畦道たちを手伝った方が良いんじゃないかと少し気になったけれど、前に慶さんに言われたことを思い出して自分のことだけを考えるようにした。
「じゃあ英峰の皆さん後片付けお願いしまぁす!!」
ヒロちゃん先輩が声をあげるのと同時に5日目の練習終わった。ボク以外の能京とヒロちゃん先輩たち紅葉の皆が荷物を持って体育館から出て行く。『ん、叶も半分英峰なんだから一緒に片付けするべき』と無茶苦茶言ってボクの手を掴む薫は若菜さんが成敗してくれたのでボクも遅れてマーくんたちの後を追った。
「いやぁ、ようやく最下位脱出っすね!昨日までずっと能京が居残り掃除で一緒じゃなかったから寂しかったんですよね!」
「ヒロは神畑たちとも普通に話せるでしょ。寂しかったって言われてもなぁ」
「ずっとトップのお前等に言われても嫌味にしか聞こえねぇぞ」
「ヒドいっすね正人さんも慶さんも!!…にしても、その立役者は浮かない顔っすけど、どうしたんです?」
「…お前ん所の佐倉に負けてんのに喜べる訳ねぇだろうが…」
「…ホント負けず嫌いだねぇ。お前も厄介な
「イッ…痛いよヒロ…」
ヒロちゃん先輩提案で行われた毎朝の
正直カバディは使う道具が少ない競技だからコートに張ったテープを取ってモップ掛けをするだけで終了するのでだいぶ楽なんだけど、身体を酷使した後に自分たちだけ後片付けをするというのは地味にキツイというのは水澄先輩の談だ。
つい昨日まで
「
「うるせぇ!テメェに言われなくてもハナからそのつもりなんだよ!!」
「あっ、いつもの宵越君に戻った」
「それにしても面白い技術だよな。宵越もよくカバディに落とし込んだもんだ」
「…うん、慶さんの言う通りです」
慶さんの言葉に気になる所は少しあるものの頷く。ボクも宵越くん同様にこの走りの技術を使えることを
平らなカバディのコートとは違って
「
期待してるぞぉ、エース!明日も宵越に負けんなよ!!」
「まだ殴りたりないの!!?」
そっか、明日が
……
▽▽▽▽▽
合宿6日目
この合宿中の
合宿所の外周は1周約8km。
カーブなども多く存在し、体力だけではなくペース配分能力が問われるコースである。
レースとはいえ自分に課す課題は人それぞれ。勝敗より優先するものがあれば独自のペースで走る者もいる。昨日までのボクもこれだったね。
でも、せっかく
1周目のジョグを終えたものの皆ここ数日で慣れてきたのかそこまで疲れた様子は見られない。
…いや、1人だけいたね例外が。
「叶…走るの面倒くさい…でも若菜さんからマジメに走れって言われるし…」
「薫~、
「確かにそうだけど…」
「キツイ合宿もほぼ今日で終わりなんだからさ。一緒に結果残そう?」
「……分かった…」
顔を顰めさせながらトボトボと去って行く薫。その薫と入れ違いにボクの元へと来る人が見えた。
「やっぱずっと一緒にいたヤツから言われると違うな。来家の尻を叩いてくれてありがとう」
「別にいいですよ若菜さん。薫曰く『ボクは半分英峰』らしいので」
「言われてたなそういえば。その割には昨日の
「勘弁してくださいよ、その前日までずっと
薫を間に挟んでのころころと続く会話が心地いい。高校生になっていろいろなタイプの人と触れあって来たけれど、その中でも特に若菜さんは話しやすい人だった。
ミニゲームの自身の
そして、若菜さんの優れている所がそれだけではないことはこの合宿で数日生活を共にしたことで分かった。どんなキツイ
他校の後輩な人見にもアドバイスを送ったりしてくれたし、本当に良い人だ。2人が水泳トレーニングで溺れかけたのを
それに、これが1番ボクの中で響いたことなんだけど、
「若菜さんすごいですよね。この
「まぁな。でもまだ1回も1位なれてねぇから全然褒められるモンじゃねえよ」
「いやいや、昨日やっと
「あぁ…、お前も
若菜さんの身長は160cm弱。この合宿の参加者で150cm代の選手はボクと若菜さんの2人しかいない。この合宿の初日で宵越くんからも身長のことでバカにされていたけれど、宵越くんみたいに直接言わないだけで『チビ』だと視線だけで見下されたことが分かってしまう。もう多すぎて正直慣れちゃったけど。
この
…だから、今日これからやるのは
「
「…なるほどな。宣戦布告ってやつか?」
「そう思ってもらって構いません。若菜さんにも勝ちたいなってこの合宿の間ずっと思っていましたから」
失礼します、と一礼して開始位置につく。正直誰かに言うつもりはなかったんだけど、誰かに話すなら宵越くんや薫ではなく若菜さんにしようと決めていた。アファメーションっていう目標を誰かに聞いてもらうことで集中力が上がるって話も聞くし悪くはならないはずだ。
ヒロちゃん先輩の号令がかかる。軽くジャンプを数回して構える。いつ声がかかっても大丈夫なように集中する。…よし。
「位置について!よーい…スタート!!!」
【若菜side】
ヒロのスタートの合図に反応して昨日同様佐倉の後ろに着く。マラソンはトップ集団に張り付くのが鉄則。途中で宵越に抜かれた為3位に下がったが、問題はどこまでこの距離を保てるかということと
…まあ、初日からずっと隙らしい隙はまったくなかったんだがな。
そう内心で溢しながらチラッと後ろを向く。そこにはスタート前に俺に宣戦布告してきた後輩の姿があった。
『
そう俺に宣言してきた姫沢はヤツと同じ高校で
後ろを振り向いたのは少しだけだったはずだが昨日まで
それに、
『…若菜さんにも勝ちたいなってこの合宿の間ずっと思っていましたから』
あんなことを言ってくれた後輩をちゃんと見ないのもかっこ悪いと思ったからな。
姫沢と会ったのはこの合宿が初めてだったが、存在自体は英峰に入部して早々知っていた。
神畑さんや君嶋さんの話で度々出て来ていたから。
『若菜、お前の速さは一級品だがそれだけだとすぐに足を掬われる。基礎練習を怠るなよ』
『はい!!』
『お前より小さくても上手いヤツを俺らは知ってるからな、『チビだから』は理由にはならねぇぞ~』
『う、うす…』
『君嶋、若菜はカバディを初めたばかりだ。叶を例に出すのは良くない』
『来年アイツも
姫沢叶。俺の1つ上の先輩である神畑さんと君嶋さんがよく話題に上げていた俺の1つ下の後輩。神畑さんとほぼ同じタイミングでカバディを始めた世界組の
そして春を迎えて、ソイツは英峰に来なかった。神畑さんも君嶋さんも何やら事情は知っているみたいだけど俺を含めて部内の誰かに教えることはなかった。最後の年、世界組の1番を張っていたって聞いていたから期待値は前よりも高かったんだが頭から消すことにした。
少し遅れて入部してきたソイツの相棒を自称する世界組2番の
この合宿で会うまでソイツは面倒くさがりの薫みたいに取っつきにくい変人だと思っていたが杞憂だった。最初面を見た時は少しだけビックリしたがそれだけだ。元々カバディをやっていて神畑さんや君嶋さんを含めた知り合いが多いからか
誰に対しても快く応対していたし、周りと比べたら小柄な俺に対しても敬語を崩すことは一度もなかった。普段から振り回されてきた薫を上手く動かしている所を見て今すぐに英峰に来てくれと思ったぐらい。
それに神畑さんから渡された各部員のデータ。あれも姫沢が用意した物らしい。俺用に書かれた筋トレ等のメニューをしていると何故か前よりも調子が良くなったように思えた。だけど、俺がそれ以上に痛感したのは合宿開始早々に
誰に対しても人当たりが良く仕事もこなす後輩。そんな奴がチームにいてくれればそんな奴から出てくるとは思わなかった好戦的な宣言に驚いたし、それまで見えてこなかった姫沢の新しい面が見れて面白いと思った。
くっ!
1周目の終盤、スピードを落とさないままキレイに曲がる
ここん所、宵越から話を聞いてやっと分かった。『走る事』は、『足を、腕を身体を完璧にコントロールする事』である事を。なまじ足は速い方だから
って、頭では分かってんだがなぁ…。実際にここまで差があるんだって突きつけられると中々クルもんがあるよな…!
と、その時だった。微かに空いた壁と俺の間のスキマを突いてそのまま俺の前へと躍り出たヤツが現れたのは。
その走り方は知っていた。なんなら今前にいる2人がそうしているのをずっと見てきていたから。だが、それ以外で出来るやつがいるなんて知らねえぞ!!
あっ
『やっぱりお前のバックってスゲーな。よく思いついて形にできたもんだ』
『…あ~、俺が一から考えたんじゃねえよ。あの技を俺に教えたのは…』
姫沢叶だ。
俺の前に突如現れた姫沢はその勢いのままトップの佐倉達に追いつき…いや、追い越した!!?その勢いのまま2周目トップで折り返すがそれでも勢いを落とすことなく1人旅へと繰り出していった。
さっきまでトップだった2人も驚いたようで、微かにだが声が聞こえた。
まだ丸々1周、8kmも残っているというのにここでスパートをかけるのかと俺も驚きを隠せない。すぐさま姫沢の後を追おうとペースを上げた宵越に対してペース配分を乱されるのを嫌った佐倉は宵越に追従するか己のペースを守ろうか選択に窮しているように見えた。心なしか少しペースが落ちたように思えた。
これがお前の1位を狙う策か、姫沢!!
【姫沢side】
抜くタイミングは元々1周目の終盤と決めていた。
まだ半分以上残っている精神的に1番キツイ場面で予期せぬ負荷をかける。これが2周目以降だときっと上手くはいかなかっただろうな。
1周目をトップで通過した後ペースを落とすようなことはしない。なんなら徐々にペースを上げていった。後ろの人達にボクがどのように見えているのかを意識する。
オーバーペースでどうせ落ちるだろうからと自己のペースを守る人もそんなこと関係ないとばかりにボクの後をつける為にペース配分を崩す人も前者2つのどちらを選択するべきかと悩みに悩む人も。どれも正解で間違いだ。
選択をした時点でボクの目論見は達成していたから。
実力で勝てないのはもう分かっていた。
マラソンはトップ集団に張り付くのが鉄則。でも1番になるにはいつかそのトップ集団から抜け出さなければならない。ずっとトップ集団の先頭でいて誰にも譲らないまま終わるか、先頭の後ろに張り付いたまま最後の最後で先頭をかわしきるか。ランニングの正攻法といえばこの2つかな。
でも、ストライドでも加速力でも2人に劣るボクのフィジカルじゃその方法は到底叶えることはできない。
なら、やるのは奇策1本。ロングスパートだ。
退院してから毎朝10kmランニングと合宿メニューのおかげでスタミナも入院前よりも増えた実感はあるし、ここ数日のランニングでこのコースについても学べた。
後はボクが最後までオーダーをこなせるかどうかだ。
この合宿に来てからなんだか目の調子が良すぎてちょっと怖かったけれど、薫からサングラスを借りたりしている内に落ち着いた。落ち着いた後に確認してみると、前までは視界外の人だけしか見えていなかったんだけど今は普通に
残り2km付近後ろの宵越くんとの差が徐々に縮まるのが分かった。その後ろからはサクラン先輩の姿も見える。徐々に上げていったペースも今が最大。スタミナも正直最後まで持つかギリギリだが変に力んでフォームが崩れることがないよう今一度集中し直す。
残り1km。ボクの100m後ろにまで2人が迫ってきた。わざわざ見なくても感覚でもうそこまで来ていることが分かるほどの大きい威圧感。それから逃げている今のボクは一体どんな表情をしているんだろうか。
視界がチカチカする。顎が上がりそうになる他腕もバタバタと振りそうになる度に修正する。走りの技術の方も最早意識しないとできないレベルだ。無意識下でもできるように何度も練習してきたというのに、まだまだ足りていないんだなとこれからの課題に据えることにした。
残り200m。そう声をかけてくれた誰かの声が終わるよりも先にそれは訪れた。
カーブを終えて最後の直線。最短コースをトップのボクが走っている訳だがそのすぐ横を並ぶ間もなく抜き去った誰か。その数秒後にまた誰かが通っていった。
ロングスパートのツケがきたんだ。横を抜き去って行った誰かの存在は感じたもののその誰かが誰なのかをボクの目が捉えることはなかった。もう走り方の修正をすることすらできないボクはその誰かを相手に粘ることすらできなかった。
残り50m。最早まっすぐ走れているかも分からない。2人はもうゴールしたみたいだがどっちが先着したのかも分からない。ただボクの両足を交互に前へ運ぶことしかできなかったボクはゴール直前で誰かに抜かれたことでやっとそれまでずっと追従する誰かがいたことに気付いた。
その場で倒れ込もうとするボクは地面にキスするよりも先に誰かに身体を支えられた。その誰かは直前でボクを抜いた誰かだった。
あぁ…、この匂いと…ボクの腕を回してくれた肩の位置がボクとほぼ同じことから考えてこの誰かは。
「若菜…さん…」
「おまっ…急に倒れようと…すんじゃねぇよ…危ねえだろうが…」
そう怒りながらもボクに告げた若菜さんもキツそうにしている。そりゃそうだ。
「すいません…若菜さんも疲れているだろうに肩まで借りてしまって…」
「気にすんなって。そんだけ頑張ったってことだろ」
頭を下げるボクに対して若菜さんは軽く手を振って返す。お互いにゴール付近の方へ向けて後続を眺めながら改めて今回の
若菜さんが3位、ボクが4位。
昨日までと比べたら大健闘も良いところだ。マーくんや慶さん、
だけど、ボクは1番になりたかったんだ。
「惜しかったな姫沢。正直俺はお前が1位になってもおかしくなかったと思ってるぜ」
だから、そう声をかけてくれた若菜さんのお世辞に笑顔で返すことすらできなかった。
「…ありがとうございます。でも結果は結果です。若菜さんに1番を目指すって言ったにもかかわらず結果は4位。一時は皆の度肝を抜いたかもですが最後はまともに走る事すらできなかったんですから。本当に情けないです」
座っている間に息を整えることが出来たのもあってそう若菜さんに止まることなく伝えられた後に思っていることをそのまま
若菜さんはただ労ってくれただけなんだから『若菜さんも3位おめでとうございます』辺りのことを言えばよかったのに。まだ回復しきれていない頭ではそこまで考えつくこともできないことに我ながら呆れるばかりだ。
「…んなことねーだろ。姫沢のあれは1番を狙うための立派な戦術だ。結果は伴わなかったとしてもそれが全部無駄だってことはねーだろ。ただトップに付いていくことを考えていた俺なんかよりもすげー立派だって思うがな」
ボクの目をまっすぐ見つめてそう伝えてくる若菜さん。その真剣な目を見てウソをついていないことなんてすぐに分かった。
…若菜さん、見ていてくれたんだ。
そっか…そっか。
若菜さんがボクを見ていてくれたことに嬉しさを隠しきれないままお礼を返すことにした。
「…ありがとうございます。こんな余所の後輩に対してもそんな言ってくれるなんて、若菜さんって優しいですよね」
「姫沢の場合そこまで遠くもねーだろ。
「…っはは、そうでした。ならこれからは薫みたいに迷惑をかけても大丈夫です?」
「年下が遠慮なんかしてんじゃねーよ!…まぁ、お前なら大丈夫とは思うが、来家レベルのやつは流石に勘弁な…」
その後、近くを通った宵越くんとサクラン先輩から今日の1位が宵越くんだったことを聞いて存分に褒め称えていると許容量を超えたらしい宵越くんが顔を真っ赤にして振り払うのをボクたちは笑って見ていた。
人見の応援をしていると疲労困憊の薫が近寄ってきた。どうやら紅葉の
頑張れとは言ったけれどまさかここまで大健闘するとは思っていなかったボクは隣の若菜さんと一緒に、膝を立てた薫の頭をヨシヨシしたりして褒め続けた。ボクも薫もいつものことだから止めなかったけれど周りの人達からしたら珍しかったらしく、周りの人の注目を集めていることに気付いた若菜さんが止めるまでそれは続くことになった。
※この日の前日の外周レースの結果は原作39話8コマ目参照+10位にオリ主が割り込んだ形です。
※宵越が佐倉に先着できた理由は前日僅差で負けた負けず嫌いさ+オリ主のロングスパートに悩むことなく着いていくことを決断できた判断の早さです。
※オリ主が勝手に強化されましたが、VS奏和時点(13話時点)では視界外は人しか見えていなかったのがこの合宿を通してそれ以外のものも見れるようになっただけです。デメリットもそれに応じてあるのでいつか本文で明かそうと思っています。
※蛇足ですが、この日の外周レースの順位を載せておきます。
能 紅 英
1位 宵越 10
2位 佐倉 9
3位 若菜 8
4位 オリ主 7
5位 右藤 6
6位 八代 5
7位 畦道 4
8位 井浦 3
9位 君嶋 2
10位 来家 1
11位 木戸 0
合 計 24 15 16