ボクがキミを王にする   作:モーン21

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※祝!灼熱カバディ「第70回小学館漫画賞」(25.01.17)入賞!!
これを期に原作を読んでくれる人が増えてくれると嬉しいですね。


第43話 英峰VS紅葉 目指す方向

「…君には1番苦しめられた気がするよ。またやろう、ね」

 

「ヤシロさん。次は負けねぇす…」

 

「…ええ」

 

 初戦を終えてマーくんは若菜さん、畦道は八代さんの所へと挨拶に行った。畦道はともかく、マーくんの方から若菜さんに絡んでいくのには少し驚いた。まぁ、この試合を振り返ってみるとそうなっても然もありなんだけども。

 

君嶋くん(たっくん)お疲れ-。すっごい影薄かったけど」

 

「ウッセーな。守備(アンティ)が目立ってたら活躍できねーだろうが。お前が逆に目立ちすぎなんだよ。春休みの入院といい、お前ケガしすぎじゃねぇか?」

 

「春休みのはともかく、今日のは名誉の負傷ってやつだよ。帰られちゃったけどね」

 

「…ったく、見かけによらず血気盛んなヤツだなお前は」

 

 たっくんと挨拶を軽く交わす。なんだかんだいって小さい頃から交流があったたっくんだけど、こうして試合するのは今日が初めてだ。次に対決する場があるとしたら大会の時しか無いことを考えると年が2つ離れていることを痛感させられる。

 

「宵…「神畑君。私と同じミスを犯す気ですか?」……」

 

 周りに目を向けているといっくんが八代さんに何やら止められている。いっくんは何か宵越くんに用があったのかな?でも結局いっくんが宵越くんに声を掛けることはなかった。

 

「んー、たっくんはさっきの何か分かる?」

 

「さぁな、分かった所で叶たちには話さねーけど」

 

「ヒドいなー」

 

 あぁ、そういうこと。これ以上能京(ボク達)に助言するなってことね。

 

 じゃ、いっくんの代わりに宵越くんに声を掛けようかな、と思って周りを見渡すと宵越くんの姿は既に見当たらなかった。

 

「あれ?宵越くんどこ行ったんだろ」

 

「宵越ならさっき外に出て行ったぞ」

 

 ウソ、気付かなかった。

 

 追いかけなきゃと思ったけど、とりあえずマーくんとか慶さんに声掛けてからにしないと。勝手にいなくなったらまた怒られちゃう。

 

「すいません慶さん。ちょっと宵越くんの所行ってきますね」

 

「あぁ助かる。お前ならすぐ宵越の居場所が分かるだろうからな」

 

「人をストーカーみたいに言わないでよ」

 

 これで用は済んだと思って急いで出て行こうとすると慶さんに呼び止められた。何だろうと振り返ってみると。

 

「あのバカを連れて行ってやってくれ」

 

 慶さんの指さす方を見てみる。

 

「ゴメン審判なんだけど…」

 

「あ、慶さんいるんで大丈夫す!正人さんどうせプレーに夢中になるでしょ」

 

「ごめんスコア…」

 

「あ、いいっすよ!部長試合見てるとスコアそっちのけだし」

 

「…なんで…僕だってできる…」

 

 後輩2人に断わられて頬を膨らますマーくんの姿がそこにあった。

 

「…………」

 

「おい部長(バカ)、叶と一緒に早く行け。途中ではぐれるんじゃねぇぞ」

 

「慶まで僕のことバカにして!」

 

「はいはいマーくん、早く行こう?」

 

「叶!叶は違うよね!?僕のことバカになんてしてないよね!!?」

 

「早く行こう?」

 

 

 

 

 

 結局あの後ジタバタ騒ぐマーくんを落ち着かせるのにそれなりに時間がかかった。

 

「まったく…!皆して僕のことバカにして…」

 

「でもヒロちゃん先輩と水澄先輩の言ったこと否定しきれないでしょ、マーくん」

 

「それは…そうかもだけど…」

 

「それだけカバディに夢中になれるのはマーくんの長所でしょ。だから気にしないでいいんじゃない?」

 

「…そうだね、ありがとう叶」

 

 そんな会話をしながらボク達は歩き続ける。体育館を出た所で宵越くんが近くのベンチに腰掛けているのが()()()から最終地点(ゴール)は最初から分かっていた。

 

「それにしても叶はスゴイね。叶に指指された所を見たおかげで僕も宵越君の場所が分かったけど、言われなかったら全然分からなかったよ」

 

「ボクの目が良いのはマーくんも知ってるでしょ」

 

「うん。でもやっぱりスゴイなって」

 

 そんなことを話していると宵越くんの座るベンチに着いた。宵越くんはボク等が近づいてきたことに気付いていないのか両手をベンチの上背に引っかけてボーっとしていた。

 

 それを察したマーくんがササッとベンチの後ろに回って持ってきていたボトルを「暑い…」と呟く宵越くんのホッペに当ててる。マーくんお茶目だね。

 

「冷たっ…部長…!?」

 

「へへ~ボトル凍らせといたんだ!」

 

「暑いって呟くぐらいなら自分でボトルなりなんなり持って行きなよ。ほら、冷やしたタオル」

 

「姫沢も…なんでお前傘さしてんだよ」

 

「日焼け対策」

 

「女子か!!?」

 

「ほらほら!早く水分とらないと!次の試合もあるし」

 

 宵越くん(後輩)の世話を焼けて何やら楽しげなマーくんとは対照的に宵越くんは「……次…」と呟いたと思うと、先程までツッコミをしていた時より前のボーっとした状態に戻った。

 

 それを見て息を抜いたマーくんがベンチに腰掛けながら宵越くんに言う。ちなみにボクも宵越くんに詰めてもらったおかげでベンチに座ることが出来た。

 

「攻撃が失敗する事なんていっぱいあるよ。気にしてたらキリがない」

 

「…そりゃわかってるよ。でも今回は違うんだ。方向が…」

 

「「方向…?」」

 

 マーくんと一緒に聞き返すと宵越くんはボク等に説明してくれた。

 

 どいつも試合で勝つ為に練習をする。だが部活なんて与えられた時間はどこも似たようなモノ。当然、才能によって伸び方は違うが…差ができる1番の理由は努力の質だと。

 

「目指す方向が自分にとって正しいかどうかが大事なんだ。ただ汗流すなら誰でもできる」

 

「指導者みたいな考え方だね」 「手厳しいね宵越くん」

 

「……」

 

 ボク等の反応を聞いても特に宵越くんは返すことなく、続きを進めた。

 

「…畦道はやった。この合宿で目指す場所を見つけて…守備としても攻撃手としても正しい方向に成長した」

 

 そこまで言うと宵越くんは話すのを止めた。なにか自分の中で考えているみたい。数刻それが続いたと思ったら組んでいた手を放して下を向いていた。

 

「俺の目指した方向は部長と姫沢と同じ方向だった。それに安心して進んできたけれど…本当に俺に合ってたのかな…」

 

 …………

 

「まぁ大丈夫だ。そんなにヤワじゃない。今更別の技を新しく習得するのが現実的じゃねーってのは分かってる。合ってるかどうか気にすんのも時間の無駄だ。ちゃんと切り替え…」

 

「スピードを落とさないまま歩幅を調整する技術と重心を操作して曲がりやすくする体重移動…前に畦道と一緒の時に言ったことだよ、覚えてる?」

 

 宵越くんを遮って呟く。邪魔された宵越くんは特に怒る素振りを見せないままボクの方を見てきた。

 

「…忘れてる訳ねーだろ。あのバックに必要な技術だろうが」

 

「うん。宵越くんにはマーくんがバックを発案したって言ったけどね、実はちょっと違うんだ。ボク等が小さい時にマーくんが『こういう技(バック)があったらいいな』って言っていただけで、ボクがある程度煮詰まった段階で話すまでマーくんもすっかり忘れていたぐらいだったから。ボクは覚えてたのに」

 

「部長…」 「あはは…」

 

 宵越くんが呆れたようにマーくんを見る。マーくんは困ったように笑うだけだった。

 

「ボクがバックについて考え始めたのは宵越くんのことは知ってからだから数年前からだね。見ててふと閃いたんだ、『これはカバディに活かせるんじゃないか』って。それでできたのがバックなんだ」

 

「…何が言いたいんだ姫沢」

 

「ここまで言って分からない?バックは宵越くんを参考にして作った技っていうのは前も言ったよね。だったらもっと踏み込んで言うよ」

 

 

 

この技(バック)は宵越くんにしか使えない技なんだよ」

 

 

 

「…いやいや、探せば1人ぐらいいるだろうがよ、お前や俺の考えるようなことぐらい」

 

「サッカーみたいに全世界がやっている競技ならまだしも、アジアが本場のカバディでは違うんだよ」

 

 そう言うと宵越くんは言いよどむ。別にカバディが世間からするとマイナーなのはボクらがどうにかできることじゃないんだから気にしなくてもいいのに。

 

「ボクの()()()()に最近まで本場のインドプロリーグに選手として出ていた人がいるんだけど、その人にバックをビデオで見せたら『面白い技術ね。インド(あっち)でも見たことない』って言われたから間違いないよ」

 

「お前、知り合いにカバディのプロ選手がいんのかよ!!?」

 

 宵越くんが驚いたと言わんばかりに聞き返してきた。言うまでもなく()()のことだ。別に隠す必要はないんだけど、知り合いが師匠のことだと言うと話が脱線しそうだから黙っておこう。マーくんに視線を向けると同じ意見みたい。軽くニコッと笑ってくれたから間違いない。お返しにニコッと笑っておいた。

 

「…だが俺が出来るぐらいなんだ。他の奴らも練習すれば出来るようになんだろ…」

 

「慶さんが前に宵越くんに言ったって聞いたよ?『才能で秀でた能力を人に語るのは難しい』って。宵越くんの『回避の目』と同じくらい『歩幅の調整』と『体重移動』は宵越くん自身の才能が必要なんだよ」

 

「こういう叶も大分苦労していたんだよ。僕等が高校に入ってから会うことは減ったけど、連絡の度に足裏をケガしていることが多かったから」

 

「…マジかよ」

 

「当たり前でしょ。宵越くんにとっては前任者(ボク)がいた訳だけど、ボクの場合はいなかったんだから」

 

 ボクが数年掛けてやっと完成した『バック』を宵越くんは自身の()()()もあって数ヶ月でマスターした。教える立場上あんまり言えないけれど、正直嫉妬したよね。

 

「それで出来上がったと思って練習していたらボク等は脚を壊した上に『叶の脚じゃケガするリスクが高すぎるから使うのは辞めろ』と言われる。…正直ショックだったよ。ボクの数年をかけての研鑽がほぼ全て無駄になった訳だから。それにマーくんの最後の大会前に必要な数ヶ月を無為にしてしまって唯々申し訳なかった」

 

「…………」

 

 ボクの愚痴に宵越くんは何も言わなかった。

 

「僕等が目指した技術と僕等には無いサッカーで培った健脚(けんきゃく)を宵越君は持っている。

 失敗は失敗。もうちょっとだったとか(なぐさ)める気はないし、君も納得しないだろう?」

 

 マーくんがベンチから立ち上がった。それに合わせてボクも立ち上がって未だベンチに座る宵越くんを見下ろした。

 

「だから僕等が言えるのはこれだけだ。僕等の目指した技術は間違ってたのかな?」

 

「…………いや…間違ってない……です…」

 

 宵越くんが途切れ途切れとはいえマーくんに敬語を使った。今日は見慣れないものをよく見るなと他人事のように思った。

 

「だよね。そういう事。じゃあ先行ってるね!もう試合始まってる!」

 

「じゃあね~」

 

 宵越くんを置いて体育館へ戻る。正直今言ったことが宵越くんに響いているかは分からない。あの宵越くんがあんなに弱気になっている所なんて初めて見たから何を言えばいいのかほとんどパニック状態だったし。振り返ってみれば、ほとんど前に言ったことと同じじゃないかとも思った。

 

「叶」

 

「ん?どうしたのマーくん」

 

「最後に言った『僕の大会前の数ヶ月を無為にしてしまった』っていうのは僕の方から否定するね。叶がケガしたことはともかく、僕がケガした責任は叶が背負うものじゃない。あの時も言ったはずだよね?」

 

「…ごめんなさいマーくん。でもやっぱりボクがちゃんとマーくんのことを()()おけば…」

 

「まったく、叶は見かけによらず頑固だ。一体誰に似たんだろうね?」

 

 ボクの数歩先を歩くマーくんが前を向いたままボクへと話しかけてきた。ボクの返事を聞いても顔をこっちに向けてくることは無かったけれど最後には困ったように笑っているのが後ろからでもわかった。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

「おう」

 

「お、来たか!」

 

「宵越くん、おかえり~」

 

「もう前半終わっちまうぞ!」

 

 結局宵越くんが戻ってきたのは試合の前半終了間際だった。先程のベンチの時にあった弱気な感じは一切なく、切り替えできたみたいだね。マーくんはともかく、ボクの助言があんまり効いた感じはしないけれど、そこは流石宵越くんだね。

 

ボクとマーくんが戻って来た時点で既に試合は始まっていた訳だけど、合間合間にスコアを見てる水澄先輩や畦道に聞いてみたけど、能京(ボク等)の試合みたいな大きな動きはなかったらしい。今来たばかりの宵越くんに水澄先輩が説明してくれている。

 

「英峰の攻撃か?点差は?」

 

「英峰5点リード。コート内の人数はお互い6人で多いけど、相変わらず神畑さんがボーナス取りまくってよ。今もすでにボーナスは越えて――…」

 

「英峰ボーナス1点獲得!!」

 

 10対4

 

 前半残り30秒で英峰リードの6点差。10対4のロースコア。未だ全滅(ローナ)こそないけれど相手に得点を取らせず自分達は堅実に得点を重ねていく英峰のペースだった。

 

 時間的に紅葉の攻撃で前半は終わりかなとのんびり構えていると、いきなり体育館が響めいた。

 

 

 

「いい加減にしろ!!佐倉!!!」

 

 

 

「な…なんだ!!?」

 

 いっくんが大声を上げた。ボクの方から顔は見えなかったけど怒っているのは誰がどう見ても明らかだった。隣の宵越くんたちも何が何やら分からないといった感じだ。

 

「『いい加減にしろ』って…何かしたのか佐倉…?」

 

「んん…?」

 

「わからん。つーか、本人もあれ…」

 

 水澄先輩がコート内のサクラン先輩を見やりながら言う。言われた当人であるにも関わらず、サクラン先輩は未だ理解しきれていないのかただ呆然としていた。

 

「ホラ怒られた。お前が手を抜くから…」

 

「ああ!?手抜きだ!!?」

 

 ヒロちゃん先輩の言葉に宵越くんが反応する。うーん、()()()だと言われれば違うんだけど周りからそう見られても仕方ないよね。

 

「…………」

 

「ヒメサワ、サクラさんと付き合い長ぇんだよな、何か知らねえか?」

 

「あぁ…サクラン先輩の()()()()だね。いっくんはそれが気に障ったみたい」

 

「悪いクセ…?」

 

 何やら思い悩んでいる宵越くんの隣で畦道がボクに聞いてきたからボクなりの所見を述べておいた。水澄先輩と宵越くんも気になるのかボクに話の続きを促してきたので話し続けることにした。

 

「サクラン先輩は天才です。天性の攻撃センスと優れた身体能力もあって、今の2年生じゃ奏和の高谷さんと同じかそれ以上の素質を持っています。けれど肝心の本人の自己評価が低いせいで無意識的にせっかくのそれらがセーブされているんです」

 

「…高谷と…分かってたつもりだったが、そこまでのレベルなのかアイツ…」

 

「無意識につってもよ、本人がそれにまったく気付かないってことがあんのか?」

 

 サクラン先輩のボク評価に顔を顰める水澄先輩とは反対に未だ半信半疑の宵越くん。メンタル最強の宵越くんからしたら信じられないのも無理ないか。

 

 コート内のサクラン先輩は英峰守備陣の中央に位置して、そこから近寄ってくる英峰守備を遠ざけながら未だボークラインを越えないまま後ろに下がった。その姿から攻撃で取り返そうとする積極性は見られなかった。

 

「サクラン先輩がマーくんの弟子だったっていうのは聞いてるよね?」

 

「おう」

 

「どうやらサクラン先輩は自分を低く見積もる代わりに周りを高く見積もりすぎるクセがあるみたい。だから、サクラン先輩にとって師匠のマーくんは越えられない壁ぐらいの存在なんだ。そのマーくんがたった1度とはいえ完璧に倒された英峰守備に対してもサクラン先輩はマーくんと同じく超えられない壁だと認識しても、まぁおかしくはないかな」

 

 まぁ長々と言いはしたけど、結局の所サクラン先輩は。

 

「英峰守備にビビってるってことだね」

 

「もういい」

 

 ボクの結論とほぼ同時にいっくんが呟いた。檄を飛ばしても未だ変わらないサクラン先輩に対して明らかに軽蔑したかのような冷たい表情がボクからも見えた。

 

「カバディ…!」

 

 が、突如サクラン先輩が攻撃の照準をいっくんに定めた。それまでとは一転して積極的にいっくんを追い出そうと果敢にタッチに挑んでいく。

 

「激しくなった!」 「神畑サン狙いか!?」

 

 畦道と水澄先輩が思わず声を上げている横でボクはサクラン先輩について考える。

 

 …いや、サクラン先輩は切り替えきれていない。まだ英峰守備を恐れている。であれば、本命はいっくんじゃなくて後ろに回り込んで来る2人。

 

 ボクと同じ結論に至ったのか、いっくんはサクラン先輩が後ろに振り返った瞬間の軽く上に上がった足を狙った。

 

 

 

バチッ

 

 

 

「カバディ…」

 

 が、これを読んでいたサクラン先輩がいっくんの右手を逃げる足で当てた。明らかに勝負したがっている相手と真っ向勝負はしない。でも倒す。

 マーくんがしそうなことだった。

 

 が、マーくんレベルであれば

 

(つか)んでる!!」

 

 対応できるのがいっくんだ。蹴り上げた分逃げるまでに隙があったとはいえ、蹴られた反対の腕で掴むとはね…。

 

「カバディ!!」

 

「「引き()がしたァ!!?」」

 

 掴まれた足と反対の足で踏み切って回転するサクラン先輩。それによりいっくんの腕が剥がされた。

 隣の宵越くんと畦道が先程から声を張り続ける。そうなんだ。未だ切り替えきれていないとはいえ、サクラン先輩も英峰守備に対して勝負できるラインには既に立っているんだ。肝心の本人がそれに気付いていないけれど。

 

 回転により数瞬だけ宙に浮くサクラン先輩。いっくんとの距離は開いた。が、英峰の守備はいっくんの個人技だけで成り立つものではない。

 

「「オーライ」」

 

 八代さんとたっくんが(チェーン)を繋いで身動きの取れないサクラン先輩を捉えた。それから数秒後いっくんが後ろに伸びていた足を掴む。

 休憩を挟んだとはいえ、能京(ボク等)との試合を経ての2試合目の動きとは到底思えない動きだった。

 

 サクラン先輩が着地する。が、右半身は八代さんとたっくん、左半身はいっくんに既に捕らえられていることもあって粘り進むことも難しい。

 

「掴まった!」

 

「自陣届くか…!?」

 

 畦道と宵越くんがそれぞれ反応するも旗色は怪しかった。四肢のうち唯一自由があった左腕もいっくんにがっちり捕らえられている。守備の英峰らしい念の入れようだった。

 

「カバディ…」

 

 攻撃失敗かと思ったその時、

 

 サクラン先輩がボク等を、宵越くんを見た気がした。

 

 

 

「カバディ…!!!」

 

 

 

 いっくんに捕らえられた左腕を地面に叩きつけたサクラン先輩はたっくん達に抑えられて自由が無い右腕を軸に回転した。

 つまり、捕らえられたままの左腕を思いっきり上に振り回した。

 

 サクラン先輩の(パワー)は単体で見ればこの合宿でもトップレベルだ。が、英峰の大男3人組もいっくんが減量の影響もあって少し劣るかもしれないけれど、大型選手である以上弱い訳がない。1人対3人である以上サクラン先輩がパワー勝負で敵う訳がなかった。

 

 が、サクラン先輩はその差を回転と1人相手に3人の(パワー)が負ける訳が無いという先入観を崩すことで3人の手を振り払うことに成功した。

 

 3人を振り切ったサクラン先輩は仰向けになったまま地面を蹴って帰陣。英峰守備相手に終わってみれば3点を取りきったナイスレイドだった。

 

「な…なんだ今のは!!?」 「回転して振り払ったぞ!!?」

 

「紅葉3点獲得!!!」

 

「あ…あの3人を…!!」 「ドリルみてーに回った…」

 

 それまでロースコアだった試合展開から一転して大量得点したサクラン先輩に対して周りから歓声が上がる。畦道と宵越くんも信じられないと言わんばかりの驚きようだった。

 

 

 

ビーッ

 

 

 

「前半終了――!!」

 

 

 

 10対7

 

「ナイスレイド佐倉!!」

 

「いいぞ!神畑さん追い出した!!」

 

 歓声が鳴り止まない中タイムアップを示すブザーが鳴り双方のチームがベンチへと下がっていった。点差は3点。未だ負けていて後半は英峰の攻撃からとはいえ、いっくん(エース)を追い出したことで紅葉の士気は上がりに上がっていた。

 

「お前は捕まっても帰れんだし…スピードと技術だけに縛られる必要ないって」

 

「…うん」

 

 ヒロちゃん先輩が声掛ける。3人をパワーで振り払った。ボクやマーくんはともかく、宵越くんでも同じ事をやるのは難しい。サクラン先輩だけの強力な技だ。

 

 なのに…

 

 肝心のサクラン先輩の表情はつい先程大量得点を取った攻撃手(レイダー)とは見えない程の浮かないモノだった。

 

 

 

 あぁ…嫌だなぁ…。このモヤモヤは六弦さんの時と同じやつだ…。

 

 この時のボクは思い当たりのある感情を抑えることに必至で目をつむることでそれに対応していた。

 

 だからか、

 

 ハーフタイム中、英峰ベンチで起こったいっくんの異変に気付くことができなかった。

 




※この話は悩みました。原作はともかく、この作品での宵越は『バックが王城の目指した技術だと既に知っている』為、原作同様落ち込むかどうかも分かりませんでしたが、作者の独断と偏見で勢いのまま書かせてもらいました。
 作中のオリ主も言っていましたがほぼ既に言っていることをもう一度言っただけだったり、話の流れ上王城の台詞をオリ主が大分奪ってしまう形になってしまいました。
 けれど、切り替えの為には原作であったように宵越の道が先駆者(部長)と同じ道だということに気付かせること以外にも、弱音を吐いてそれを周りが受け止めることも大事だと作者は思っている次第です。
 長々となりましたが、『独自解釈』としてこの話を書き切らせてもらいます。何かあれば感想等頂けたら幸いです。

 (それもこれもVS奏和で直前まで予定に無かったバックを使い始めたオリ主が悪い)
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