ボクがキミを王にする   作:モーン21

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第47話 VS紅葉 エースだから

『あれ、サクラン先輩。お久しぶりです。病院(ここ)で会うなんて珍しいですね』

 

『……姫沢。なんで…』

 

『まぁ野暮用です。先輩はどうして…。あぁ、なるほど。ご家族のお見舞いですか?』

 

『……なんで、おばあちゃんと一緒にいるの?』

 

『おばあちゃん?…あぁ、この方が先輩のお婆さんなんですね。ついそこでハンカチを落とされたのでお渡ししていたんですよ』

 

『…そう、なんだ…』

 

『…よければ一緒にお部屋まで戻っても大丈夫ですか?ちょうどお婆さんも病室に戻られる所らしいですし、ここで会えたのも何かの縁ということで』

 

『…そうだね、そうしようか。おばあちゃん、僕とも手繋ご?』

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

【佐倉side】

 

「い…今なんつった…!?」 

 

全滅(ローナ)する!?」

 

先輩(お前等)も知らないのか?」

 

「知らねーよ…」

 

「無理もない。ほぼ使われない権利だ」

 

「コートに残っている人数が2人以下の場合…チームの態勢を整える為に、自らローナを宣告する事ができる」

 

「だが、結局コートに残ってる人間の数だけ点は失うし、通常通り、全滅の罰則2点も失う。計4失点だ」

 

 

 

 声が聞こえる。能京の戸惑うそれを聞いても僕の心には何一つ響くことはなかった。そんなものよりもさっきの守備(アンティ)で王城さんを、尊敬する人をケガさせてしまった時に場内に響き渡ったあの音がエンドレスで流れ続ける。

 

 耳だけではない。モップでキレイに拭かれて消えたハズの血痕から目が離せないし血の臭いが途切れることもない。両手の感触もまだ残っている。自分自身の身体がこれほどまでに憎らしく思えたのは初めてだ。

 

 一体僕は何をしているんだ…。ケガをさせるだけさせて結局止められもしない…!!害悪でしかない己自身に吐き気が止まらない。

 

 こんなことになるなら…、カバディなんか…

 

 

 

ザッ

 

 

 

……!?

 

 なんで皆が中央線(ここ)に!?訳が分からない。皆、一体何を考えて…!

 

 そんな時、石田(⑦左中)が放った言葉に驚かざるをえなかった。

 

「代わりに攻撃(レイド)出ようか?」

 

「え!?」

 

「1点はいける気がする」

 

 思わず面食らって顔を向けると石田はどこか誇らしげにしている。そんな石田を皮切りに三村(⑥中央左)花井(④中央右)が続いた。

 

「俺なら2点かな」 「い…1点なら…」

 

「俺レベルだとボークラインは越えられるな…」

 

「無得点じゃねーかそれ」

 

 途中ヒロの声も混じったが謙虚すぎるそれに石田が突っ込んでいた。

 

 残りの木戸(③左角)加治(⑤左中)も、

 

「2点」 「同じく」

 

 各々が自分ならと声を上げていく。全員のそれを聞いて僕はようやく事態に気付いた。慌ててそんな楽観的な皆を止めなければと思い声を出すことができた。

 

「い…いや!そんなに楽じゃないよ…!」

 

「わかってんじゃねーか」

 

 だというのに、返ってきたヒロの言葉からは止められたことへの反逆への意志は見られない、ただ当たり前のことを言う自然さを孕んでいた。

 

「お前は紅葉(ウチ)じゃ誰よりも強いと自覚してる。なんで他のチームに対してそう思えない?」

 

 それは…ずっと一緒にいた皆と違ってどれだけ伸びているのか分からなくて不安だから…

 

 頭の中で自分なりの答えを考えていると、そんなのは知らないとばかりにヒロが先を続けた。

 

正人(まさと)さんにケガさせたのは、それだけ力量が近かったせいだろう。あの人がプレー中の事故で恨むようなタマか?」

 

 違う…!!

 

 王城さんはそんな人じゃない!!

 

 思わず眉間が寄ろうとしたので慌てて抑える。そんな僕を見て分かっていたように「違うよな」と僕の反応を見て面白そうに言ったヒロは最後に。

 

「だからお前は(へこ)むべきじゃない」

 

「『もう越えちまうぞ師匠』って…(ほこ)るトコだぜここは」

 

 ……

 

紅葉(こうよう)攻撃!」 「は…はい!」

 

「カバディ…」

 

 ヒロに言われた言葉がなんなのか頭を働かせている途中で、審判の八代さんに声を掛けられた勢いのまま俺は中央線を越えた。

 

 結局…当たり前のように攻撃に出ちゃったな…

 

 昔からヒロにはいいように動かされる。ヒドい友人だ。

 

 そういえば、僕がカバディを辞めた時もそうだったな。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 元々僕は競争が苦手だった。勝敗を争うことよりもその過程が怖いって思うことが強かった。なんなら、他の人が負けて罰を受けるぐらいなら僕が受けた方が良いんじゃないかと思ったりしたこともある。

 

 なら、どうしてカバディを始めたかといったら、

 

『またケガこさえて…大丈夫かい?』

 

『心配ないよ。僕よりずっと華奢(きゃしゃ)な人だって活躍してるんだ』

 

『でも(まなぶ)は優しい子だからねぇ。競争は苦手じゃないかい?』

 

『はは…ちょっとね』

 

 一緒に暮らしてるおばあちゃんに心配してほしくないのと同じくらい、こうして僕の頭をポンポンと撫でてくれる大好きなおばあちゃん(優しい人)に安心して欲しかったんだ。

 

 王城さんたちが引退して新チームになってからヒロや姫沢、来家君といった個性豊かなメンバーがいっぱいいて苦労したこともあったけれど、同世代以下じゃ僕が1番だった。  

1軍監督(水堀さん)から最後の夏の海外遠征で1番のユニフォーム、1軍主将を任されたこともあってその時の僕は有頂天だった。

 おばあちゃん驚くよなぁと、あれだけ心配していた僕が1番なんだもん!とあの時の僕は有頂天だった。

 

 あの時見た記憶は決して忘れることはないと思う。

 

 暖かくなってきたからと片付けていたストーブが何故か戻されていたこと、そのストーブの上に空焚きのヤカンを放置したまま微動だにしないおばあちゃん。

 

 そして、

 

『あの―…あなた…誰?』

 

 おばあちゃんの世界から僕が消えたあの日のことをきっと僕は忘れることはないだろう。

 

 病院で説明を受けている時、何度も何度も頭によぎる『なんで今なんだ』という言葉。

 

 あの日僕はおばあちゃんに伝えたかっただけなのに。それすらも伝えさせてくれないのかと呪いそうにもなった。

 

 僕は弱くないから、安心していいよって…。僕は強いから大丈夫って。

 

 その時僕の心の中の芯がポキッと折れたのを感じた。

 

『なんだ……もう心配されてないじゃん…』

 

 もう何も手がつかない状態だった。それからしばらくたってヒロに伝えた言葉に後悔はない。

 

『勝手にごめん カバディやめる』

 

 ロインで伝えたそれを送った後に何度も見返した。

 

 こんなたった数文字だけで中学から続けてきたカバディを辞めることが出来るんだなと他人事のように思った。だけど、取り消したいとは全然思わなかった。

 

『…能京(のうきん)には行かない。近場の学校に通うよ。毎日お見舞いに行きたいんだ…』

 

 それは近所の川場で直接ヒロに伝えた時もそうだった。

 

 僕は最低だ。デリケートで断わりづらい理由付きの僕のワガママをヒロに押しつけている。流石のヒロでもこんなことを言う僕に愛想を尽かすかもしれない。自分のせいのクセに不安になっていると。

 

『そっか。そっかぁ…』

 

 軽く伸びをした後腕を目に当てながら呟いたヒロのそれは僕を責める気は一切無い、ただ事実を受け入れようとするものだった。

 

 小学校の頃から続くヒロとの関係は心地よかった。僕とは対照的な性格のはずなのに気がつけば一緒にいることが普通になっていた。それは学校生活だけじゃなく中学から一緒に始めたカバディでもそうだった。

 

 小学校の頃とは違う年が離れた上級生との真剣勝負はそれまでの生活では味わえなかったものだ。一瞬も隙を見逃せない遊びでは体感できない緊張感と勝った際に味わえる高揚感を得られたのはカバディが初めてだった。

特に仲良くなった年上の王城さんと井浦さん、年下の姫沢と交わした『同じ高校に入ってがんばろう』という約束もなんか大人になったみたいで唯々嬉しかった。翌日大泣きする姫沢をどうやって泣き止ませようかとアタフタしたのも良い思い出だった。

 

 でも、もうそれは手に入らない。誰でもない、僕の勝手なワガママのせいで。

 

 

 

 日常会話でも…ましてやメディアにも出てこないカバディは、離れようと思えばとても簡単で…

 

「…………」

 

 当然入学初日に配布された部活動一覧にカバディの文字はなかった。

 

 中学約3年間のカバディ一色だった生活とは全然違う学校生活に少しだけ戸惑いながらただ日々を過ごしていた。

 

『ヒロ!バスケ部見に行こうぜ!』

 

『わり、今日は陸上!!』

 

 聞き慣れた声が聞こえたからスマホから顔を上げる。そこには楽しそうにクラスの人と談笑するヒロの姿があった。まだ知り合って数日しか経っていないのにと改めてヒロの根明さに驚くのと同時に頭に浮かんだのは疑問だった。

 

 ヒロは紅葉に来る事なかったのに…なんで…

 

 疑問に思いこそすれ、直接本人に聞きに行くことはしない。僕自身約束を破った罪悪感もあってあの日からヒロに話しかける機会は減った。ヒロから話しかけられることは変わらないから周りにも『ヒロの友達』と認識されていたけれど。

中学の頃は放課後一緒にカバディの選抜に行くために隣にいることが多かったけれど、色々な部活の人たちと仲良く過ごしているヒロを後ろから見る機会が多くなったなと改めて思った。

 

 

 

 変わったのはヒロとの関係だけじゃなかった。それまでカバディに当てていた放課後の時間はほぼ全ておばあちゃんのお見舞いに当てるようになったからだ。

 

 おばあちゃんに家族アルバムを見せて思い出を振り返ったり、おばあちゃんが好きだった音楽を流したりもした。劇的に変わることはなかったけれど、おばあちゃんと触れあえる時間が増えたことが唯々嬉しかった。

 

 だから毎日走って行った。

 

 晴れの日も、雨の日も。セミが鳴き始めて熱中症を警戒するような季節になってもそれは変わらない。制服姿で学校の荷物を背負いながらのお見舞い(ランニング)は別に天候が変わった程度でキツイとは思わなかった。

 

『佐倉君、毎日病院行ってんだって?』

 

『え?うん』 

 

『すごいな!山の裏だろあそこ!!』

 

『走ったらすぐだよ』

 

『陸上部に欲しいぜ全く…!』

 

 こうして学校で出来た友達に驚かれるのも初めてではなかった。羨ましそうに見てくる視線を無視しながら掃除を続けていると、まだサボりたいらしい彼等は続けて言った。

 

『ヒロも結局入らねーしよ』

 

『へぇ…』

 

 そうなんだ。てっきり新しくできた友達と入ってるものだと思っていたから軽く驚いた。けどそれもヒロらしいなと再認識している途中で()()を聞いた。

 

『何考えてんだかあのデコ助…新しい部活創るとかさ…』

 

 

 

 

 

ハ?

 

 

 

 

 

 友達(ヒロ)の友達との会話?関係ない。

 

 印刷の為にコンビニに行った?関係ない。

 

 外が大雨?関係ない。

 

 まだ掃除の時間? …………

 

 今日のお見舞いは? …………

 

 ヒロが何をしようと僕にそれを止める資格なんてない?そんなの分かってる!

 

 だけど、カバディ(それ)についてだけはどうしても無性に腹が立って仕方なかった。

 

 教えてもらった場所に着くと、丁度ヒロが入り口から出て来た。手元のプリントを嬉しそうに見ながら傘を差しているのを見てやっと自分が傘を持ってきていないことに気付いたけれど、そんなことも気にならなかった。

 

『わざわざ部活を創るなら…能京に行けばよかったんじゃないの?わざわざ僕にカバディを近づけるのは…嫌がらせに近いよ』

 

 言いがかりにも程がある。だけど、僕の心からあふれ出した怒りを止めることはできないし、口から漏れ出てくるそれを止めようとも思わなかった。

 

『入部しろなんて言ってないだろ』

 

『せっかく忘れかけてたのに!!』

 

『…そりゃ嘘だね。どんなにマイナーだろうが…自分のやってた競技を忘れる人間なんていない。あるのは好きか、嫌いか、だ。俺は好きだから部を作った。いろんな部活(のぞ)いて人誘ってな』

 

 僕の大声に怯むことなくヒロはそう答えた。ヒロの後ろを見やるとそこには最近ヒロと仲良くなっていた人の姿があった。

 ……ヒロの今の言葉を聞く限りだと最初からヒロは紅葉(ここ)でカバディを創るつもりだったらしい。入学早々に色んな部活に顔を出していたのもそれだったんだと。てっきり面白い部活に入るモノだと思っていた僕の予想はハナから間違っていたらしい。

 

 それでも…

 

『…能京を蹴って部を創る理由にはならないよ』

 

 僕が王城さん、井浦さんと仲良くなっていた訳だけど、それはヒロも同じだった。

 僕はもう折れてしまった訳だけれど、ヒロの身にも何かがあったとは聞いていない。だったら先輩たちとの約束を破ってまで、入学するまで面識も無い彼らと一緒に部活を創る必要なんてないだろうとどの口がと思いながら問いただした。

 

 すると、ヒロの答えは先程の答えよりも到底信じがたいものだった。

 

無理強(むりじ)いは出来なくても、期待はするさ』

 

 ……え?

 

 僕の為?

 

 約束を破ったのも、創部の為に色々な所で頭を下げたのも全部僕の為だって言うのか?

 

『僕は1年以上カバディを見てすらいない…ここまでするなんてヒロはおかしいよ』

 

『何もおかしくない』

 

 思いも寄らないことを聞いて思わず口を尖らせてしまった。だけどヒロは臆すること無く、ただ当然とでも言わんばかりにあっけらかんとしていた。

 

『すげースポーツ選手が見たけりゃ金を払うし、遠くにだって足を運ぶ。労力を使うモンだろ。俺にとってはその選手が…』

 

佐倉(おまえ)だっただけだ』

 

『しかも一緒にプレーができるとなれば…最高だなって』

 

 …………

 

 …僕は…そこまでのプレイヤーなんだろうか…

 

 この衝動のまま気持ちに従って戻ってしまえば、きっと期待(きたい)という重石を()せられる。

 

 でもあの日からずっと、なんの目標もなく空回るこの脚を…地面に着けてくれるのは…

 

 

 

『なんだ、やっぱり戻ることにしたんですね』

 

『…そう言うってことは、ヒロから聞いてたの?』

 

『そうですね。ヒロちゃん先輩からは何回も相談を受けていましたから』

 

『…あんな回りくどい方法をヒロに教えたのも姫沢なの?』

 

『いやいやそんなことしていませんよ。ボクがしてたのは大丈夫かどうかの確認だけでした』

 

 偶然姫沢と会ったあの日以降、大体月に1回ぐらいの間隔で姫沢はこの病院に訪ねてきていた。用事を終わらせた後おばあちゃんの病室を訪ねているらしく、僕がお見舞いしている途中に顔を合わせることもあった。

 姫沢は僕と先輩後輩の関係だとおばあちゃんに明かしていた。ご丁寧に『カバディ』を抜かした説明からして僕に気を遣ったのが分かったけれど、特に触れようとは思わなかった。

 お見舞い中は僕も姫沢もおばあちゃんと会話することがメインだったこともこの奇妙な関係が続いた切っ掛けだと思う。おばあちゃんも『めんこい子だねぇ』と楽しそうに頭を撫でているのを見た時は少し妬ましかったけれど、家族以外でおばあちゃんのお見舞いに来る人は希少だからとても有り難かった。

 

 今はおばあちゃんがお昼寝しているのもあってうるさくする訳にもいかないからと屋上に移動している。先日の大雨が嘘だったかのような快晴だった。軽くお互いのことを話すには都合が良かった。

 

『ここだけの話、ヒロちゃん先輩大分不安そうにしていましたからね?勝手に部活創ってサクラン先輩を怒らせたりしないかって』

 

『……そんなこと気にするぐらいならやらなきゃよかったのに』

 

『それだけサクラン先輩と一緒にやりたかったんでしょ。愛されてますねぇサクラン先輩』

 

 あははと面白そうに笑う姫沢。が、その顔も上げた時には真剣な表情に変わっていた。

 

『中々いないですよ、こんなに尽くしてくれる友達なんて。先輩は恵まれてます』

 

『そうだね。姫沢の言う通りだ』

 

『うん。先輩が分かってるなら、いいです』

 

 そう言うと、姫沢はキリッとした表情を崩して続けた。

 

『さてと!先輩が復帰したってことはもう気を遣わないでカバディのことを話しても良いってことですよね!!先輩に話したいこといっぱいあるんですよ!!』

 

『お…お手柔らかによろしく…』

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

「カバディ…」

 

「佐倉のヤツ全然動かないな…」 「そりゃ攻めあぐねるだろ。9点差だぞ?」

 

「紅葉は大量得点を狙いたいだろうが…能京は触れられてもすぐ敵陣に押し返して、1失点に抑えりゃいい。大量得点するには攻め方が限られてる」

 

 そうか…そうだったんだな…

 

「カバディ…」

 

 重いけどつらくはない。期待(これ)は、フラフラ悩む僕を支えてくれる…

 

(いかり)

 

「遅いんだよ。いつもいつも」

 

 見ててね。僕は、

 

 

 

 エースだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

『本当に羨ましいです』

 




※この話の右藤と佐倉は言わずもがな、王城と井浦、宵越と畦道、不破と神畑etc…だったりこの作品のペアはそれぞれ違う関係性で魅力があると思ってます。
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