ボクがキミを王にする   作:モーン21

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第4話 進み続ける為の目標(日本一)

宵越くんたちに自己紹介をした休み明け。ケガもあって延びに延びたボクの初登校日。

正直言ってすっごい不安。勉強については大丈夫。教科書読んでたし、分からないところはマーくんに確認したりもしてたから。問題は別にある、友達だ。

 

小中学校でお世辞にも友達が多くなかったボクにとって、友達ができる取っ掛かりにもなる最初の2ヶ月を病院で過ごしたのはあまりにもデカすぎる。

 

ビクビクしながら担任の先生の後に付いていって1年2組の教室に入るとボクは神に感謝した。

 

宵越くんと同じクラスだったのだ。

 

教室に入るまで緊張してたボクは彼を見て安心したからか、そこから先の記憶がない。

気付けば午前中の授業は終わり、昼休みになっていた。

 

「すっごーい!姫沢くん髪サラサラじゃん!羨ましい!!」

 

「まつげも長いよね~、ウソこれ自前!?」

 

「お前あの宵越と仲良いってマジ!?どうやったんだ!!?」

 

「ってか、入学式前から今まで入院ってどんな無茶したんだ!?もう大丈夫なんだよな!!?」

 

お父ちゃん、お母ちゃん。机の周りに人が集まってくれることって実際にあるんだね。

 

とりあえず、周りの質問に1つ1つ真剣に答えて購入したお昼ごはんも食べ終えたら一気に疲れが来た。

 

「ひ、姫沢くん大丈夫?疲れちゃった?」

 

隣の女の子がボクのことを心配そうに見つめてくる。ボクから話しかけることはできなかっただろうから、さっきの騒動さまさまだね。

 

「う~ん、ボクこんなに人が集まってくれたのって初めてで…

慣れてないことしちゃったから、もうバテバテだよ…」

 

机の上に身体を投げ出しながらそう零す。宵越くんに助けを呼ぼうとするも彼はボクの周りに人が集まるのを見てすぐ教室から飛び出して行った。薄情者!

 

「あはは、この時期に新しい人が来るのってまあ無いからね。私達キミに興味津々だったんだ。……いや、宵越くんはそうでもなかったかもしれない…うぅ…」

 

だよね。宵越くんの場合教室に机が1つずっと空いてても気にしなさそう

ボクが入ってきた時もすっごいビックリしてたみたいだし。お互いがお互いの存在を確認してどっちも驚くのって周りからしたら面白いよねって他人事のように考える。

 

「フフッ宵越くんらしいや。うん、でも良かった」

 

ここには優しい人がいっぱいだ。

 

 

 

それから数日後の部活。

 

「いや~…全然ダメだな…宵越君」

 

「ぐっ…」

 

宵越くんがマーくんにダメだしされてる。ここに優しくない人がいたよ。

 

「慶。攻撃(レイド)の成功率出せる?」

 

「宵越の?」

 

「うん」

 

「1点持ち帰りは大体70%…2点なら30%、3点以上なら殆ど無いな」

 

マーくんが振り返って慶さんに聞く。待って、慶さん何のデータも見ずに今の答えられるの?記憶力良いのはもちろん、その状態で暗算できるのスゴ!

 

守備(アンティ)で点取れないなら攻撃で大量得点する率を上げないと」

 

「…しかし何が悪いのかサッパリ…」

 

「サッカーの時のクセかな…敵が集まる前に逃げようとするクセがついてる。

カバディはもっと引きつけて勝負しないと」

 

成る程ね。マンガとかだと1つの競技で有名な人が別の競技で無双するみたいなのよくあるみたいだけど、そう美味い話じゃないって話だ。

ボクは中学時代、カバディ協会にいた頃バレエから転向してきた彼のことを思い出す。

バリバリ活躍してたからすげーって思ってたけど、やっぱり隠れて努力とかしてたのかな

ある先輩の話についてはすっごい興味持ってくれてたけど、それ以外では全くだったからなー。今度会えたら聞いてみるか。

 

「…俺、逃げるタイミング早かったか?」

 

「へっへっだってよ」

 

「京平と真司も。

キャッチを狙いすぎて、タッチの的になったり…

逆に慎重すぎてキャッチが遅れるのもダメ」

 

宵越くんに絡みに行く水澄先輩、だけどマーくんに伊達先輩共々指摘されて途端にマジな顔に戻る。うん、2人とも素直に聞き入れて改善する意識ありと。本当に良い人集めたな慶さん。

 

「叶は技術についてボクから言えることはないよ。

ボクと同じ病み上がりなんだから、まずは身体を戻す所から。

後は京平や宵越くんたちについて気になったことがあったら僕と慶みたいに気にせず指摘してくれたら助かる」

 

「りょうかいです、マーくん」

 

ボクは飛び上がりそうだった。っていうか飛び上がった。ずっとあこがれで追いかけていた存在から免許皆伝に近いことを言われたらそりゃそうだと内心冷静なところで思いながら、でも実質まだそうでもないよなとごちる。

 

「…あの技術(カウンター)については正直僕もどうできるようになったか説明できないからね、叶は気にしなくていいよ」

 

「…はーい」

 

師匠に聞いてみた時も感覚的なことしか言われなかったからね。

マーくんみたいに守備を倒すことができたらなって思わないと言ったらウソになる。

あとちょっとで出来そうなんだけどな、何か切っ掛けがあればって感じなんだけど。

 

「…部長おらは?」

 

ボクがうんうんと唸っていると畦道がおそるおそると聞きに行く。

1人だけ何も言われてないなら気になるよね、分かる。

 

「ああ…相馬はね…

オッケー。この調子で頑張って」

 

「えっ…」

 

ポムと音が鳴りそうなほど軽く肩を叩きながら答える。()()()()、けど残酷だ。

 

後ろで宵越くんが畦道だけ及第点をもらいやがったとスゴイ顔をしてるけど、今はポカンとしてる畦道の対処が先かな。

 

「畦道、明日の練習後にビデオカメラ持ってくるよ。それに守備の成功プレイ集いっぱいあるから、時間がある時にでも見てプレイの参考にして」

 

「おー、いいのかヒメサワ!ありがとな!!」

 

「へー、中学校時代のやつか?」

 

「いや、大学生のだよ。知り合いが大学カバディの監督やってて、データをおすそわけしてもらったんだ」

 

マーくんが畦道を指導しないのは、まだ「負け」を知らないから。そんな状態で問題点を指摘しても楽しくないし効果も薄い。そう判断するのはわかるけどそれじゃ畦道が仲間はずれされているみたいでかわいそうだ。

けどこの方法なら楽しくカバディを知ることができる。動画サイトじゃカバディ動画は滅多に見られないから知り合いがビデオ撮っていてくれて本当に助かったよ。

 

「なぁ姫沢、そのビデオ攻撃手のやつのはないのか?」

 

「うんあるよ。ボクの部屋に来た時に見てくれてもいいし、焼き増ししたデータ宵越くんにも渡すね」

 

そう答えると視線を感じたからキョロキョロと周りを見るとマーくんと慶さんだった。マーくんははにかむように、慶さんは憎らしいような顔を向けてきたので軽くどや顔をして返した。

 

 

 

「じゃ今日はこれで!!お疲れ-!!」

 

「お疲れっす!!」

 

練習が終了してマーくんと畦道が順に旧体育館から出て行く。

ボクも宵越くんとともに出て行こうとするけど、なんか妙に宵越くんの動きが遅い。

どこかケガした訳でもないだろうし、どうしたんだろうか?

 

「宵越?何ボーッとしてんだ?そんなキツかったか?」

 

ボクよりも伊達先輩を連れた水澄先輩の方が早かった。

 

「えっ…いや…部長との勝負の時にな…

ボーッとしてたらうまく回避ができたから…最近試してるんだが…」

 

「意外とバカだよな宵越って…」

 

「ふざけているのか?」

 

「うるせーな!!マジメにやってんだよ!!」

 

…宵越くんなりに真似ようとしてたみたい。でも、ボクは水澄先輩たちみたいにバカにできないんだよな~。

 

「宵越くん、分かるよ。ボクも宵越くんみたいに色々と手探りでやったことあるから」

 

最初は宵越くんみたいにプレイ中、日常でもボーッてしてたな。

次にマーくんの攻撃(レイド)をビデオに撮って規則性を見出そうとした。

果てには守備(アンティ)の呼吸の間隔まで調べてやろうかと思った所で

なんか、急に触れるようになったのだ。この期間6年くらいだったかな。

 

このことを3人に伝えると一様に「うわぁ…」って顔をしている。だよね。自分でもそう思う。

あ、倒す方の技術練習言うの忘れてた。まいっか、まだボク自身習得できてないし聞かれてないからね。それに今の宵越くんには不要だろうし。

 

「しかしさっぱりわからん。部長みたく…スピードもあって敵も倒せるなんて器用にはいかねー…

姫沢の方法を試しても時間が足りねえし…」

 

「き…器用…?」

 

「あの人が?」

 

「器用なんてマーくんから一番遠い言葉だよ、宵越くん」

 

「あ?」

 

ボクらの反応に驚いたのか宵越くんが目を見張る。旧体育館を施錠した慶さんが楽しそうにしながら。

 

「残念だが部長(キャプ)は経験と努力の人間だぞ。そこの叶と同じかそれ以上にな」

 

…マーくんがボク以上なのはそのとおりだけど、その言い方はちょっと引っかかるな~。

 

 

 

 

「後ちょっとで夕ご飯出来上がるから机の上片付けといて~」

 

「あぁ…」

 

リビングにいる宵越くんにそう呼びかけるも彼はリモコン片手に気もそぞろに反応するだけだったが、しばらくしてから映像を止めてボクの言う通りにしてくれた。

 

ある程度片付いたのを見てボクは料理を運んでいく。今日のご飯は冷しゃぶと焼きジャケとコンソメスープ。1人部屋のコンロで作るには時間が足りないことは春休みで分かってたからカセットコンロを家から取り寄せた。仮設テーブルの上にコンロを置いて料理をするのは行儀が悪いけど致し方あるまい。

 

テーブルに運び終わっていざ食べようと思った時にドアを叩く音が聞こえた。「ごめんくださーい」と呼ぶ声。この声は!?

 

「はーい!今行きまーす!!」

 

慌てて立ち上がりドアを開ける。何回も聞いた声だ。間違えるはずがない。

 

「マーくん!どうしたの、こんな時間に?」

 

「突然ゴメンね。宵越君に用があって部屋に行ったんだけどいなかったから叶の所にいるかなって思って

あ、これおすそわけね」

 

そう言ってボクにタッパを渡すマーくん。この匂い…肉じゃが!?

マーくんの肉じゃがなんていつ以来だろ!!?絶対美味しいよコレ!

 

「お邪魔しまーす。…宵越君どうしたの?そんな隅の方で」

 

「…いや、姫沢の部屋にいるのがバレたら面倒なことになると思って」

 

「なんで?宵越くんが叶の部屋に行っているのは聞いてるし、女子の部屋ならまだしも叶の部屋ならなんの問題もないでしょ?」

 

「…だよな。なんで隠れようとしたんだ、俺」

 

ほんのり温かいからレンジでチンはしないでいいかな、3人で食べられるように小皿を用意してと。そうだ!マーくんにも今日のご飯食べてもらって感想もらいたいな!!

 

マーくんにそう言ってみたけど、もうご飯は軽く済ませてきたから食べられないとのこと。

うーん、残念。でも次の機会があったら是非食べさせて欲しいって言ってくれた!

その時まで料理の腕も上げないとね!!

 

「姫沢、そんなに食べて欲しいなら俺みたいに部長に飯用意してやればいいんじゃねーか?」

 

「僕の方から断わったんだよ、宵越君。(弟分)に甘えすぎたら流石に悪いからね。あと慶がうるさいし」

 

ボクは3口ぐらい程肉じゃがをもらってマーくんに取り分を取ってもらった後残りは全て宵越くんへ。マーくんじゃないけど、ボクも食べ過ぎたら気持ち悪くなっちゃうから。かといって他のおかずを今から減らす訳にもいかないから仕方ない

 

「どう?肉じゃが。わりと自信作なんだけど…」

 

「………う、うまい…す」

 

「美味しいよマーくん!前食べたときより出汁がしみこんでる気がする!!」

 

「そう?よかったー」

 

何故か反応が芳しくない宵越くんを余所にボクはそう返す。だってホントに美味しいんだもん!野菜は箸でつつけば簡単に穴がつくれる程ほぐれてるが柔らかすぎず、出汁の味は少し濃いめだけどその分ご飯が進む絶妙な味付けだった。肉じゃがだけでボクのご飯平らげちゃったよ。残りのおかずどうしよ。

 

「宵越くん、ご飯のおかわり欲しくなったら言ってね?ついだげるから」

 

少し考えたがボクはおかわりをすることにした。食べるのも修行だ。後でハライタになるかもだけど、食べたい欲にかられた時は素直に従った方がボクはいいだろう。

 

「急に訪ねてビックリしたよね。急ぎで聞きたい事もあったからさ」

 

「き…聞きたい事?俺に?」

 

宵越くんのお代わりをよそっているとマーくんが話し始めた。

あれ、そういえばボクここにいていいのかな?マーくんは宵越くんに用があるって言ってたからもし秘密の話ならボクはお邪魔だよね?

 

「マーくんそれボクが聞いてもいい話?もしアレなら席外すけど」

 

「いや叶はむしろここにいた方がいい。僕たちの目標に必要なことだから」

 

さっきまでののほほん顔はどこへやら、真面目な顔なマーくんがそこにいた。

宵越くんも租借をやめてただジッとマーくんの方を見る。

 

「部内でも君にしかわからない世界の事。…宵越君」

 

「全国ってさ、どんな人が行ける世界なんだろう?」

 

ボクたちの周りの空気が引き締まったのを感じる。この先の会話では1つの冗談も許されないような、そんな空気の中でマーくんは構わず続ける。

 

「まだ試合じゃ1度も勝ってないのに…この質問はおこがましいかな」

 

「全国に行ける人間は…本気で全国を目指した奴…」

 

「「………」」

 

箸を置いてそう答えた宵越くんの表情は対面のマーくんに引けを取らないほどだった。

その答えにボクとマーくんがかみしめていると。

 

「…なんてのはよく言われる『たてまえ』で…」

 

「「たてまえ?」」

 

あ、マーくんと被った。ちょっと嬉しい。

 

「実際は一握りの天才だけが行けるもんだと思う」

 

…天才か…

 

ボクの中に浮かぶどの先輩方よりも大きく、タメである彼の背中が出てきた。

ボクにとって彼以上に天才という人はいない。そりゃ一部の先輩の方が彼よりも強いことは百も承知だが、それでもカバディ歴やフィジカル、演技といった色々な要素で敗北を味わったのは彼が初めてだったから。

 

気付けばボクはズボンにシワができるほど強く拳を握っていた。

 

「調べりゃわかる事だろうから言うが…不倒だなんだってメディアにもてはやされても、それ以上の奴はザラにいるんだ。俺も…その…」

 

「…確か全国でベスト4が最高だったよね…」

 

宵越くんは先程のボクのようにズボンを握っている。

 

宵越くんの大会結果は耳にタコができるほどマーくんや慶さんには話してるからね。

確かに技術やフィジカルで宵越くん以上の人はいるんだろう。でもボクが宵越くんのファンになったのはそこだけじゃないんだ。

きっと宵越くんならその負けず嫌いで決して負けっぱなしにはならないだろう。そう確信できる心の強さが宵越くんにはあるんだ。

 

「…サッカーはいつから?」

 

「…覚えてねーくらい昔だ」

 

「一緒だね。僕の場合はカバディでやめてないけど…」

 

「右に同じ~」

 

雰囲気が緩くなったので茶々を入れる。宵越くんは少しムッとしたけど箸を取って冷しゃぶを平らげにかかる。肉じゃが(マーくん)より冷しゃぶ(ボク)のを取ったことに少しだけ優越感。

 

「…フン…カバディがつまんねーと思った事くらいあるだろ」

 

「…それがないんだ。全然。

小中学生の頃、大会がなかったのはつらかったけど…」

 

すごいな、マーくん。ボクは1回腐って周りに八つ当たりしたことがあったというのに。幼稚な自分が恥ずかしい。

まあボクがカバディを辞めるなんて1度も思ったことはない(思ってはいけない)けども。

 

「海外に出れば大会はあったし」

 

「海外…!?姫沢が前言ってた国対抗ってやつか!!?」

 

宵越くんがスゴイ反応。そっか宵越くんは国代表でどこかと戦ったことないもんね。

いや、この場合全国すっとばしていきなり国代表の試合をするカバディが異常なのか。

 

「海外といってもサッカー程の規模じゃない。アジアだけの大会…

カバディの協会に声かけてもらって中学の頃何度か行ったんだ」

 

「そ…それで勝ったのか…?」

 

宵越くんが緊張をはらんだ声で尋ねる。マーくんの実力が世界ではどれだけ通用したのか興味深いのだろう。けど確か…。

 

全く歯が立たなかったそれなりに自信はあったんだけどね…

宵越君の言う通り、すごい人っていうのはザラにいるよ」

 

「ボクの時はたまたま勝ちを何個かもらえたけど、実力で勝てたとは言えなかったね。

ってか本場インドが強すぎて心が折れたよあの時は。スター選手のオンパレードって感じだった」

 

「そりゃ世界に出りゃいるだろ…」

 

「…そう!『上には上がいる』なんてわかりきった事なんだよね。

スポーツやってたらさ」

 

…でも、続けちゃうんだよなぁ…

 

そうこぼしながら立ち上がるマーくん。

 

ボクが1年生の頃マーくんたち3年生が夏に引退した後に残った1、2年生で1軍2軍の再編成が行われた。その時2年生(最上級生)でありながら1軍に選ばれなかった人達が数人カバディを辞めたのは今でも覚えている。ボクが2年生の頃も同じ理由で辞める人は数人いた。

その頃は逃げたなって考えてたけど、今マーくんの話を聞いて認識を改める。

 

『上には上がいる』この『上』が世界レベルと1、2年生の中での1軍レベルの違いがあるだけで誰しもが直面する壁だということ。当然ボクやマーくん、宵越くんも当てはまる。

 

壁に向き合った際乗り越えるよりも避けた方が遥かに楽だ。

 

もしかしたら、カバディというマイナー競技に邁進するよりも避けた道の方が幸福に満ちている可能性も否定できない。

 

だが、ボクやマーくんは進み続けたし宵越くんも競技()こそ変えたもののずっと進み続けている。

 

道を変えることも道を進み続けることも等しく難しく尊いものだということ。

その結果、壁を越えることが出来るのであればそれは賞賛されるものなんだろう。

 

…らしくない。考えすぎて頭が痛い。口に出したらおかしくなったって言われそうだから黙っとこう。

 

「…勝てなきゃ面白くねーだろ」

 

宵越くんがボソッとこぼす。初めて会った日の後慶さんから宵越くんがあの雨の日の試合チームでモメて辞めたというのを聞いた。もちろんそれも理由の1つなんだろう。だけど、宵越くんは『面白くない』サッカー(競技)で続けても先がないと本能で理解したのかもしれない。そう今の宵越くんを見て考えた。

 

「…まあね。負けが面白い人なんていないよ」

 

「みんなできるなら頂点に立ちたいと思ってるんだ。

もちろん僕もそう。だから続けるんだ」

 

さっき道を変えることも進み続けることも等しく難しく尊いものだと言った。それは否定しない。

 

でも、越えられない壁があろうとも誰も越えた人が過去にいない壁だろうとも道を変え(諦め)ないで進み続けたマーくんだからこそ、ボクはマーくんに付いていくって決めたんだ。

 

「7年前…高校にカバディの大会ができた。先走って海外に行ったりしてみたけど、

少しずつカバディが広まっていく日本で…一緒に練習した仲間と日本一になる」

 

「その目標はずっと僕の中にある」

 

「「……」」

 

「…カバディでなろうよ。宵越君もなりたかったんでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日本一」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もちろんボクはマーくんに付いていくよ。諦め(道を変え)ないマーくんだから能京(ここ)にきたんだ。宵越くんは?」

 

「…どいつもこいつも…簡単に言いやがって…俺はアンタやコイツにすら…」

 

「…勝負で負けたの悔しかった?」

 

ガタッ

 

「…あたりめーだろ…!!」

 

……

 

 

「悔しかったのはこっちの方だ…」

 

「あ?」

 

「……」

 

「いやなんでもない。遅くまでゴメン。僕はもう帰るね」

 

「あ…おう。メシ…どうも…」

 

「いえいえ。叶もありがとうね」

 

「はーい!マーくん、また明日!!」

 

 

 

 

 

 

 

「はい明日の朝ご飯っと!ちゃんと食べて洗って乾かしてから学校に来るようにね!!」

 

「オカンかお前は!?」

 

マーくんが帰って夕ご飯を済ませたボク達はそれぞれの作業に戻る。

宵越くんは食事前に見てた攻撃手(レイダー)の動画をもう一度頭から見直してる。

ボクは宵越くんと畦道に渡すビデオのデータを整理した後は今渡した宵越くんの朝ご飯、おにぎり6個と鍋に入った味噌汁の支度。

 

この間カレーを皆に振る舞った時に宵越くんの朝ご飯も作ることが決定した。

握り飯じゃ力が出ないとゴネる宵越くんだったけど、

 

「作ってもらってる身で何偉そうに言ってんだべ」(畦道)

 

「ちゃんとラップで握るよ。洗い物増やしたいならタッパで渡すけど」(ボク)

 

というボクたちの言葉に返すことができずにこの習慣は続いている。

 

ちなみにいつもならボクの分としてお茶椀1杯分の味噌汁は残すんだけど、夜のコンソメが残っていたからボクの朝ご飯に回すことにした。

 

「今日の具材ごま塩、た○ごふりかけ以外の昆布、明太子、梅、エビマヨは外見から分からないようにしたから楽しめると思うよ」

 

「変なところで遊び心発揮してんじゃねえ!!」

 

うん、宵越くんは大丈夫そう。さっきマーくんが帰った後ビデオを見る顔が少し憂いてた気がしたから心配してたけどこの調子なら大丈夫でしょ。

 

「じゃあね、また明日」

 

「…おう、いつもありがとな」

 

宵越くんは口は悪いけどなんだかんだ毎日こうして感謝を伝えてくる。

いや~、中学時代のボクに聞いても理解できないだろうなと思う。スポーツ紙に載ったこともある宵越くんのご飯の世話をしてあまつさえ感謝してもらえるなんて!

 

宵越くんが去った後のボクの部屋に笑い声が寂しく響く。

あ~、笑った笑った。……寝よう。

 

いや、寝る前に予習復習お風呂スキンケア柔軟料理の後片付け等とやることは目白押しだ。

1つ1つ終わらせていこう。時間は待ってはくれないぞ。

 

……

 

寝る直前になってさっきの3人での会話をビデオに撮っておけばよかったと少し後悔した。

 




独自解釈、独自設定マシマシなお話でした

前話の後書きで書き忘れてた「1年生世代の世界組1番」について

原作では1年生の世界組が志場しか登場していない他「右藤(2年生世界組1番)を全滅(ローナ)した」発言から志場が1番だと思ってたけど、特に1番だと名言した箇所がなかったのでオリ主を1番にぶっこみました
もし明言した箇所があればご指摘よろしくお願いします

最新話(第280話)以降に出てきたら桜の木の下に埋まります
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