ボクがキミを王にする   作:モーン21

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※少し短いですが、これにてVS紅葉決着です。


第50話 VS紅葉 あと一歩

【宵越side】

 

「…どっちが出る?」

 

「……ん?」 「宵越くんじゃないの?」

 

 水澄が佐倉を倒した。周りの歓声が鳴り止まない中ここで倒されると思っていなかっただろう紅葉はタイムアウトを取ることで嫌な流れを止めようとした。期せずして出来た時間最後の攻撃を考えていると井浦から話しかけられた。

 

 最後の攻撃は俺が出るものだと思っていたものだから即答できなかった。隣の姫沢は何を聞いているんだと不思議そうにしている。それを見て井浦は何やらため息を吐いていた。

 

 …んだよ。

 

「……叶、お前少しは攻撃手(レイダー)の欲ってやつはねーのかよ」

 

「出たくない訳ではないですよ。でも元々今日のメイン攻撃手(レイダー)は宵越くんって話だったじゃない?最後の美味しいところだけ横取りっていうのもなんか違うなって」

 

「お前ってやつは…」

 

「…部長や姫沢だったら次の攻撃(レイド)で逆転できるか?」

 

 奏和戦同様俺に攻撃を譲る姫沢を苦々しく思ったが、それを流して2人に聞く。

 

 俺がらしくないことを言ったからか2人の顔が変わった。

 

「…(よい)「あっ、もし宵越くんが自信無いって言うんなら言ってね!サクッと逆転してくるから!!」お前な……」

 

「弱気になった訳じゃない。逆だ。俺に言ったよな。『能京の獣』…『最強の攻撃手(レイダー)になれ』って…」

 

「冗談だと思った事はねーぜ」

 

 心配そうに詰め寄る井浦とワクワクした顔でにじり寄る姫沢。が、俺が言った後2人とも納得したようで「…作戦を伝える」と話し始めるうちにいつもの顔に戻っていた。

 

 そうだ。

 

 部長や姫沢の()()()として攻撃に出るつもりなんざ更々ない。

 

 俺は、勝つためにこの競技(カバディ)に入った。いつもいつも、勝利まであと一歩の所で届かない。ムカつくぜ。だから、そのために連携や知識が必要なら頭を下げてでも積んできた。

 

 勝つためならなんでもやってきた。だから、この試合を決める最終攻撃(レイド)程度のプレッシャーなんか屁でもねぇ。

 

 最強の攻撃手(レイダー)になる。その軸がブレることほど怖いことはねーからな。

 

 

 

 

 

【姫沢side】

 

「タイムアウト終了!!攻撃権・能京!!」

 

 タイムアウトが明けた。

 

 紅葉はこのタイムアウトの間にフォーメーションを変えたらしい。

 

④花井             ①右藤

 

    ⑦石田     ③木戸

 

 残り15秒で38対40。勝っている紅葉側が取る策はいくつかあるけれど負けている側の能京(ウチ)の策は1つしかない。

 

 3点取る。その為に必要な策は慶さんと一緒に宵越くんには伝えてある。

 

 後は宵越くんの活躍次第だ。

 

「始まるぞ…能京最後の攻撃…!!」

 

「いや、この試合最後の…」

 

 観戦している英峰サイドからも声が上がる。ここ数日お互いに切磋琢磨してきた日々。体育館内にいるほぼ全員がその集大成とも言える最終攻撃(レイド)が始まるのをただ待っていた。

 

 普段、なんて事のない十数秒が、果てしない時間へと変わる。

 

 その一触即発(密度)世界(なか)へ。

 

「カバディ…」

 

宵越くん()が踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 瞬間、動いたのは攻撃側の宵越くんではなく、守備側の石田()さんだった。宵越くんが紅葉コートに足を踏み入れたのと同時に片手を前に突き出したまま宵越くんへ向かっての突貫。

 

 押し返し。

 

 1点を犠牲に能京の逆転の目を詰む作戦。きっとヒロちゃん先輩の指示なんだろう。宵越くんを倒さずともこの攻撃を1点でしのげば2点差で勝っている紅葉は逃げ切れる。

 卑怯とも逃げ腰とも見られる策だ。が、少しでも勝ちの目を上げようとする石田さんの決死の姿勢からそれを情けないとバカにするような人はここには決していないはずだ。

 

 だって、

 

 きっとボク等も同じ策を取っていただろうから。

 

 

『紅葉は初手押し返してくるはずだ。能京(ウチ)の攻撃を1点で凌いで残り数秒耐えれば勝ちなんだからな。使わねー理由がねぇ』

 

 

 宵越くんは動かない。事前に来ると聞いていたからか。その背中は微塵も震えていなかった。

 

 動いたのは石田さん()が宵越くんに触れた瞬間。押し返しに来ていた石田さんの押す力が働くのよりも先に宵越くんは右に大きく避けた。避ける為に大きく動いたからか宵越くんの右足がコートの両端に1mずつある『ロビー』に入った。

 

 接触(ストラグル)前であれば攻撃失敗だったがもう触れられているから問題ない。ともあれ、押し返しから逃れた宵越くんは体勢を立て直して前を向く。

 

「カバディ…」

 

 ()()()()石田さん()以外の3人はそれまでの守備とはまったく違うポジションの取り方をしていた。つい先程開いたばかりのロビーの角に自ら移った花井さん()とその反対側で目一杯距離を取るヒロちゃん先輩。残った木戸さん()は気持ちヒロちゃん先輩寄りの真ん中に陣取っていた。

 

 連携で倒すよりも逃げることに専念した紅葉に対し、宵越くんは誰を狙うのかと見ていると右に舵を切った。離れた位置にいる2人よりも自分に近い花井さん()狙いに決めたみたいだ。

 

 花井さんへ触れようと攻める宵越くん。が、花井さんは不格好ながら躱し続ける。予想以上に粘られて思わず顔を顰めそうになる。

 

 紅葉の守備の基本はサクラン先輩(エース)を守ることのはず。能京(ウチ)とほぼ同じレベルでの新造チームならやる事も多い。であれば、エースを守る練習こそすれど自分自身で攻撃を躱す練習はしていないと読んでいたし、実際マーくん式の『超高性能攻撃マシーン練習』でも躱しきれない場面をよく見ていた。

 

 マーくんレベルとまでは言えないけれどスピードに優れた宵越くんのタッチをここまで躱せるのは正直想定外だった。そして花井さん()の決死の時間稼ぎによって押し返しに出ていた石田さん()が後ろから迫ってきた。死角から伸びた石田さん()の腕が花井さん()(チェイン)を繋ごうとしているのを見てボクはハッとした。

 

 まさか…ここまで…

 

 

 

 

 

 ドシッ

 

 

 

 ボク等の言った通りになるなんて。

 

 

 

『相手は大量得点を防ぐ為に、おそらくバラけて守ってくる。そして(つか)む時はバックやカットの軌道を塞ぐハズだ。()()()。だからその位置関係を利用して…』

 

『残りの敵に向かう軌道(きどう)を作れ』

 

『目の前の相手をよぉく見て。ちょっとでも動きが緩慢になったり固くなったりしたら、それは宵越くんの感知できない所で相手が優位になりそうだってことだから。

 サッカーで何度も1対1を繰り返してきた宵越くんには耳タコだろうけど』

 

 

 

 バック。

 

 合宿前から教えてきた技。合宿前も今この時も、ぶっつけ本番で成功率が高いと言えないこの技を、しかも0距離で後ろから来た守備にぶつかるという前半偶然できたことをもう一度使ったのに宵越くんの姿からは全く緊張している様子は見られなかった。

 

 そして、石田さん()をバックで遠ざけたのと同時に花井さん()のタッチに成功した宵越くんは慶さんの指示通り石田さん()を方向転換の為の緩衝材に使って1人孤立している木戸さん()に向けてダッシュ。

 

『…PK戦みてーなもんだ。結果はどうあれ…大事な場面で外すイメージは持たねーんだ。ガキの頃からずっと…ずっと…』

 

 

 

『そうしてきた!!』

 

「カバディ!!」

 

 ボク等の指示を受けて返した宵越くんの言葉を思い出す。

 

 …うん。本当にメンタルがスゴい人だよ宵越くんは。失敗するかもしれないなんていう不安から来るネガティブな考えを持たない。もしかしたら、この合宿に参加している人の中でトップレベル…いや、1番かもしれないな。

 

 そして、トップスピードで木戸さん()に切迫する勢いのまま伸びた腕は木戸さん()の身体に接触(ストラグル)する。

 

「3人…」

 

 本当に決めちゃった…

 

「カバディ…!!」

 

 勝つ為に必要な3点を取った宵越くんにコート外から歓声が零れ始める。後は帰陣できれば勝ち…なんだけど。そうは問屋が卸さない。

 

 後ろからは先程の2人が、前からはタッチしたばかりの木戸さん()が双方向から迫る。ついさっきボク等が対サクラン先輩に迫った時を思い出す。あの時はそれまで抱えていた疲労なんてすっぱり消え去っていた。崖っぷちの状態では頭の中にあった思考がスッと消えて反って動きが良くなる現象だ。今の3人の動きはまさしくそれだった。

 

 懸命に食らいつこうとする3人。が、宵越くんはそれを嘲笑うかのようにカットの動きでそれを躱す……。

 

 !!……ここで来るんですか……

 

 先輩!!

 

 宵越くんの動きに隙は無かった。コート最奥に守備が張り付いていたこともあって迫り来る3人を躱しきるには左にカットで曲がるしか道がなかった。

 

 だからって…こんな完璧に宵越くんを捉える位置に着いているなんて…!

 

 宵越くんの脚は未だ両足とも宙に浮いている。カットで曲がった直後だ。アイソレーションできる暇なんてあろうはずがない。せいぜい前方にある左足が接地できるかどうかだ。

 

 バックもカットも封じられた。

 

 この状態から逃れられる方法なんて宵越くんに教えていない。

 

 ……でも…!!宵越くんなら…!!

 

「いけヒロ!!!」

 

 先輩がついに宵越くんを捉えた。真正面からのタックル。衝撃を受けきれずくの字に曲がりながら倒れ込む宵越くんの姿が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『不倒の宵越』と囁かれ始めたのがいつなのかボクは知らない。

 

 こういう名前を誰が命名するのかなんて興味もないし、()()()ジュニアユースの1選手なんて話のネタが生まれては消えるこのご時世のありふれた1つだと思っていた。

 

 だけど、少なくともボクが宵越くんを知れたのはこの異名が広まりはじめたおかげだったのは間違いない。

 

 ただ、読んでいた雑誌に目が止まっただけ。その時頭に浮かんだ感情が何だったかは覚えていないけれど2回3回と聞き慣れない名前を短いスパンで何回も見ているといやが上にも覚えてしまう。

 

 そしてたまたまできたスキマ時間。動画サイトで何となく検索して出た動画で1番再生数が多い動画を再生したらそれが出て来た。

 

 前に大きく出て来ていたキーパーを躱したフォワードがそのキーパーに後ろから思いっきり抱きつかれた。誰がどう見てもレッドカード級のファールだった。そのまま倒されてPKで1点かなと思っていると一向に倒れる音は聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 そうだ…あの動画もこんな風に()()()()避けていたっけ…。

 

 

 

 

 

 タックルを受けながら接地すると即座にその勢いを回転で流した。そして回転による遠心力によって掴みが甘くなった腕の間に右腕を挟み込んで、もう1度前を向いた頃に右腕をかち上げることでタックルの勢いをそのままダッシュに活かしながら先輩を身体から剥がそうとした。

 

 

 

「離れない――ッ!!!」

 

 が、唯一残っていた左腕を軸に再度止めようとする先輩。両足をコートに着けることで少しでも宵越くんのスピードを殺そうとしている。ガガガガガと嫌な音が止まらない。

 

 

 

「俺も世界組だあああぁあ!!!」

 

 

 

 …先輩…そんな声出せたんですね…。

 

 いつも飄々としている1つ上の先輩。『ヒロちゃん先輩』というあだ名も『【ヒロ】でよろしく』と挨拶の時に言われた時に冗談のつもりで呼んでみたら笑って許してくれたのを今思い出した。

 

 人だかりの中心にはいつもいる存在。人から好かれる人っていうのはこういう人のことを言うんだなと少なからず参考にもした。先輩自身カバディは中学校からだったから技術自体はボクから教えることも少なくなかったけど、どんな時でも剽軽な所を見てホッとしたこともあったなって。センバツの引き継ぎの時も細かい所までしっかり教えてくれていたし。頼りになる()()だ。

 

 だけど、先輩から熱を感じたことは1度もなかった。決して不真面目という訳ではない。むしろ、ブラフとして使ったりと強かな印象だ。駆け引きが常のカバディにおいて実力差を埋める為にしているんだなって思った。

 

 だから、今こうして大声を出しながら熱をこれでもかと漏れ出している先輩は新鮮だった。もしかしたら、宵越くんに触発されたのかもしれない。先輩は能京(ウチ)の勝利の障害だというのは分かっている。けれど、見たことの無い先輩を少しでも長く見てみたいと思ってしまった。

 

 だけど、時間は待ってくれず。決着はドォン…と今度こそ聞こえた人が倒れた音によって決まった。

 

 前半のマーくんがやっていたように顔を下に向けて少しでも腕を伸ばしている宵越くん。その甲斐あってか宵越くんの長い腕の指先は中央線(ミッドライン)を越えているのが()()()

 

 

 

 

 

 ッ!!!!!!!

 

 気付けば駆けだしていた。

 

 八代さんの得点コールも、右側で慶さん達がマーくんに声を掛けているのも()()()いたけれど気にもとめなかった。

 

 ベンチから畦道が来たのが()()()。見えたけれど速度を落とすことはしない。いつもなら衝突を恐れてスピードを落とすはずなのに、この時の自分はよっぽど高揚していたんだなって痛感させられる。見えていたはずの()()すらも認識から無意識に外していたからよっぽどだ。

 

 片腕を天に掲げて吠える宵越くんに飛び込む。時々やっていたマーくんやいっくんにやっていたそれと比べても遠慮の『え』の字もないそれを敢行した自分が本当に情けない。

 

 でも、本当に嬉しかったんだ。

 

 だって、このチームで初めて勝てたから。

 

 奏和戦では引き分け。

 

 英峰戦では負け。

 

 あと一歩が足りなかった。その歯がゆさは全員が思っていたはず。その悔しさがやっと晴れてくれたことがただ純粋に嬉しかった。

 

 

 

 

 

 あぁ…やっと…やっと勝てた…。

 




※宵越の過去については当然ねつ造です。実際後ろから飛びつかれて倒れないことが出来るかは分かりませんが『不倒』の宵越なら出来るはず!!
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