ボクがキミを王にする   作:モーン21

8 / 51
※いつもは5000字程度を目安に書いてますが、サブタイトル的にここまで入れたい!って思って書いたら10000字越えました。読みづらかったらすいません。

※お気に入り登録、感想等ありがとうございます!


第7話 VS奏和 ケガに貴賤なし

それから先は一方的だった。

 

宵越くんが自慢の回避能力を活かして高谷さんに接近して超近距離戦を仕掛けるも高谷さんの視線の先(ターゲット)がベンチのマーくんに向いているのを気付いた宵越くんが怒りのままに突っ込む。

気付いていないと思われた高谷さんだったが先程と同様宵越くんがチャージに来るのを分かっているように回避し接触(ストラグル)を取った後コート奥に進みボーナスを獲得。退路を塞いできた慶さん、水澄先輩相手にも動揺することなく接触(ストラグル)した後場外へ跳躍。着地するよりも先に長い手足(リーチ)をコート内へ触れさせることで先程の宵越くん以上の3点+1点(ボーナス)の計4点を獲得するに至った。

 

3対6

 

納得がいかない宵越くんだったが慶さんの説明を受けてなんとか納得した様子。が、高谷さんに「長い手足はこうも使える。3点で満足しちゃ…ダーメ♪」と煽られて顔に青筋がたっていた。

 

その後は初めての試合に緊張する畦道を気遣って慣れない攻撃(レイド)に出た伊達先輩が足を掴んできた高谷さんを力で振り回す快挙を達成したものの、残った左足を六弦さんに片手で掴まれ力で抑えられたことであえなく失敗。

コートに1人残った畦道対高谷さんのタイマン勝負は慶さんとの居残り練習で磨いてきた「低い姿勢からの脚キャッチ」を成功させたものの、それを予測していた高谷さんに1枚上回られて帰陣される。

 

伊達先輩の攻撃(レイド)失敗+畦道タッチ+全滅(ローナ)2点により

 

3対10

 

能京チーム初めての全滅(ローナ)となった。

 

図らずも伊達先輩の(パワー)と畦道の特訓項目(脚キャッチ)という得手(えて)を潰されて力の差を見せられた。

 

宵越くんの出来すぎともいう序盤で作った『流れ』は完全に消え、メンバーの精神は深く沈められた。

 

その後能京メンバーは高谷さんを最警戒するようになり、宵越くんの攻撃(レイド)でも高谷さんを狙うことで攻撃(レイド)の場に立たせないようにするも接触(ストラグル)することは叶わず、

 

5対15

 

徐々に点差は広がっていった。

 

しかし真に問題なのは点差ではなく人数差だ。

 

カバディという競技では相手の得点=守備人数減であるため、相手が得点を重ねる裏でこちらが得点できない状況が続くとこちらの守備人数が揃わないまま相手の攻撃(レイド)を受け続けなければいけない悪循環に陥る。

 

このことを宵越くんに伝える慶さん。

 

「…まず、態勢を整えよう。宵越、高谷との勝負は――…」

 

「…わかってる。試合に負けたら意味がねぇ。行ってくる」

 

そう伝える慶さんの表情は苦い。後輩に個人の勝負よりもチーム事情を優先するようにとの指示はチームの司令塔である以上避けられない。でも仕方ないと簡単に開き直れない甘さというか優しさがある慶さんは嫌いじゃない。こんなこと本人に言ったらどうなるかなんて目に見えてるから言わないけど。

 

先程までと動揺に高谷さんを狙う宵越くん。しかし本当の狙いはカバーのために後方へ回り込んできた対角の2人(4番、9番)だ。宵越くんが誰にも接触(ストラグル)せずに急ターンの後真後ろへ突っ込んできたのを見て、2人も宵越くんの狙いが高谷さんではない事に気付いたみたいだ。

 

「逃げ道はねーぞ!!」

 

「いや、身長(リーチ)がある!!外警戒しろ!!」

 

右外(9番)がさっき高谷さんがやった跳躍帰陣を同フィジカルである宵越くんならもしやと警告する。しかし宵越くんが選んだのは回避。うん、あの技術(テクニック)はサッカー由来の動きかな?あの時はボールがあったのと悪天候だったのもあって今のと比べたら大分遅かったけど。今はその足かせがないからか本当に速い。後でビデオ見返すようにしよう。

 

これで2人アウト。作戦通りに行ったことに安堵してもう一度コートを見ると()()()()が異様な場所に存在することに気付く。宵越くんも帰陣直前に相手コートを振り返ることで違和感を感じたようだが彼を見つけるには至らなかった。

 

「あいつは…」

 

あ~……やられた……

 

「早く戻れ宵越!!」

 

 

 

 

 

 

 

「お前が帰った時点で…相手()の攻撃だ!!!」

 

司令塔の慶さんが叫ぶもその甲斐無く高谷さんが追撃を行う。

 

追撃。相手が自陣に帰った瞬間、ノータイムで攻めて来る攻撃。攻撃手が倒れて帰った場合以外はルール上認められている。帰り際の攻撃手(レイダー)に近づく危険(リスク)があるためやる機会は限られるが決まれば強力だ。

 

宵越くんも慶さんと高谷さんによる接触(ストラグル)でようやく事態を理解したがもう後の祭り。自陣深くまで切り込む高谷さんを宵越くんが追いかけるものの2人はほぼ同じようなスピードの為空いたスペースが埋まることはなかった。

更にアウトの人(水澄先輩と畦道)が戻ってきたばかりだから守備もガタガタ。伊達先輩と慶さんが接触(ストラグル)され3得点。

 

7対18

 

「…やられたね、宵越くん達に教えてなかった隙を突かれた」

 

「いや、教えましたよボク宵越くんに」

 

『おい!今の攻撃(レイド)アリなのかよ!!?』

 

『どうしたのさそんな大声出して…。あぁ、あれは追撃と言ってね。攻撃手(レイダー)が倒れて帰った時以外はルール上認められてるよ。もちろん宵越くんがやってもいいし、逆に宵越くんが帰陣する時もしっかり後ろの確認は忘れないようにね』

 

ボクの部屋で夕ご飯の準備をしている間に見ていたビデオで気になる箇所があったらよく質問してくる宵越くん。その時にしっかり説明して気をつけるようにとも言っていたのにそれが反映されていないことに少しため息をつきそうになる。

 

「まぁ情報で知ってるのと実際に体感するのとじゃ違いますからね。宵越くんも今すごく反省してるみたいですし、説教はしないでおきます」

 

「そうだったんだね…。わぁ、すごい悔しがってる」

 

今になって以前に教えてもらった『追撃』と実際にやられた『追撃』が同じモノだと認識できた宵越くんがコート外でなにやら叫んでる。まぁこれで次以降は失敗しないでしょ。もし次があったらその時はどうしようかな。

 

さて、宵越くんはさておいて。状況は以前悪くなる一方だ。今コートにいるのは水澄先輩と畦道。タッチしたのは攻撃型の宵越くんと慶さん、それと1度攻撃(レイド)に出て高谷さんを吹っ飛ばした伊達先輩。攻め手を潰された。これが狙った結果だとしたら高谷さんは本当に抜け目ない人だね。

 

水澄先輩が攻撃(レイド)に出るがやはり慣れてないせいか動きにキレがなく奏和の守備に気圧されたこともあり誰にも接触(ストラグル)することが出来ないまま帰陣。守備人数の増加はなし。たった2人で守備をしなければいけない悪い流れだ。

 

「捕まらないだけでいい!!2人で守っていけ!!」

 

「う…うす!!」

 

慶さんの指示が飛ぶ。水澄先輩の選択を間接的に肯定する指示。確かに今中にいる2人は守備型の人間だ。人数に目がくらんで慣れない攻撃(レイド)に特攻することに比べたら賢い考えだ。水澄先輩なら積極的に攻めるかなと思ったけど自身よりも力がある伊達先輩が先程攻撃(レイド)で倒されたからそれを鑑みたのかな。

 

「…俺らの領分は守備だ!!()めんぞ、相手が高谷でも…」

 

「おす!!」

 

コートにいる2人が声を出して士気を上げる。しかし、2人の予想に反して攻撃(レイド)に出たのは。

 

「カバディ…」

 

六弦さんだった。

 

「この人、攻撃もできんの!?」

 

「高谷さんは…温存…?」

 

「…お互い様になっちまったな…」

 

予想外の人が攻撃(レイド)に出たからか2人は驚きを隠せないみたいだった。六弦さんが中学時代に攻撃(レイド)の練習をしていたことを知っているボクは驚かない。パワー型レイドは安定する。高谷さん(エース)体力(スタミナ)回復を兼ねてのことだろうが2人しか守備がいない能京にとって六弦さんは同じかそれ以上の脅威だ。

 

「相手パワーあんぞ!!畦道!!」

 

水澄先輩が檄を飛ばすのと同時に六弦さんが接触(ストラグル)にかかる。なんとか躱した畦道が2回目の攻撃に合わせてチャージに行くも逆に躱される。

 

「カバディ…」

 

「くそっ…脚…脚…!!」

 

ガタイの良さに反して畦道のチャージをことごとく避ける六弦さん。キャントも動きも安定している。守備(アンティ)だけではなく攻撃(レイド)もしっかり磨いていたようだった。隣のマーくんがそんな六弦さんを見てなんかまたオーラ出してる。「六弦…」じゃないよマーくん。嬉しい気持ちはなんとなく分かるけどさ。

 

ゴッ

 

コート上で響く鈍い音。再三のチャージに反応が遅れた六弦さんが対応しようとするもその際に膝が畦道の顎にぶつかる。その衝撃により畦道の頭にあったガーゼが勢いよく剥がれた。

 

「畦道…!!」

 

不意の事故に声を出す宵越くん。カバディをやってたらこれくらいの接触は日常茶飯事。でも宵越くんはそうではない。タメの仲間(畦道)が負傷していないかと不安がる宵越くんだが目の前に映る光景に驚愕したようだった。

 

畦道が六弦さんの脚を掴むことに成功した。

 

「なんべん避けられようが関係ねぇ!!脚止める!!そんだけだ!!」

 

そう声を絞り出す畦道。その執念によって届きそうになかった牙城(守備成功)にようやく手が届いた。

 

「らあああ!!」

 

隙を置かずに水澄先輩も突っ込む。2人の守備としては考えられる限り最上の結果。もしこれが宵越くんやマーくん、高谷さんの()()なら守備成功していただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、相手は世界組4番六弦歩。

 

彼は2人を引き連れながら悠々と自陣に向け帰還しようと()を進める。技術も作戦も介在しない、ただ(パワー)のみを駆使した攻撃(レイド)

見方によっては泥臭い、見方によっては残酷なほど圧倒的な差を痛感させる。

 

本当に羨ましい…

 

「奏和攻撃成功!!2点獲得-!!!能京ローナ!!奏和追加2点です!!」

 

7対22

 

2回目の全滅(ローナ)。1回目は高谷さんによってだったが今度(2回目)は六弦さんによって取られた。このことによって防ぐことができなかった2人は顔を沈ませるが、その功労者は依然に苦い顔のまま。

 

あれかな、マーくんみたいにクリーンタッチ、掴まれないまま帰陣できなかったから自分は未熟者だとでも思ってるのかな?自分はマーくんやボクに無い(パワー)を持っているクセに…

 

ピピピピ

 

「時計止めてください!」

 

思考の海に沈みそうな所を笛に止められる。なにか問題が…!!?

 

能京5番(畦道)の方、選手交代お願いします!!」

 

「え…あ!?」

 

畦道の頭から出血が止まらない。あそこは位置的にガーゼを貼っていた所だ。そういえば六弦さんに引きずられた際に頭が床に擦られていたのを思い出す。ガーゼが剥がれていたこともあって居残り練のケガが開いたのか!

 

「へ…平気っす!まだやれます!!」

 

「いや、ダメです!!一年!!医務室へ!!顧問の先生も!!」

 

自分は大丈夫だと抗議する畦道。だがそれに頷くわけもなく、審判によって指示が飛ぶ。

 

「す…すぐ止まんべこんなん!!おらまだ…」

 

相馬(そうま)

 

依然認めない畦道。宵越くんとは違いチームに何も貢献できていないと考える畦道は必死だ。そんな彼を止めるのは唯一彼を名前で呼ぶマーくんだった。

 

「怪我は敗北と同じくらい怖いものだ。ちゃんと治療してくる事」

 

部長としての言葉に畦道は何も返せない。泣きそうになりながらも先程の様子からは一転わめくのを止めた。

 

「審判。タイムアウト。交代します」

 

「メンバーチェンジ能京!!」

 

そう言いながらジャージを脱ぎストレッチを始めるマーくん。あ、マーくんが出るんだね。

じゃあボクの仕事はこっちだ。

 

「畦道、こっち来て。…今居る場所は?」

 

「…?奏和高校体育館だべ?」

 

「対戦相手は?」

 

「そ…奏和だべ!いきなり何聞くんだヒメサワ…?」

 

簡単な質問を畦道へ。畦道は一体何を聞くんだと訝しげだ。

ボクは審判に向き直って淡々と告げる。

 

「審判、救急箱はこちらで用意できてます。彼のケガについてはこちらで処理しますので医務室の用意は大丈夫です」

 

畦道を椅子に座らせて応急処置をする。救急箱用意しててよかった。ボクがバス酔いしたのもあって実際に持ったのがマーくんなのは秘密だ。

 

「し、しかし…」

 

「見た所傷が開いただけのようですし、消毒して止血、後は包帯で巻くだけで大丈夫でしょう。頭を擦った訳でのケガで頭を強く打ったわけではありません。受け答えもしっかりしていますし、脳震盪の心配もありません。」

 

「わ…分かりました」

 

審判はボクの言うことに納得したのか引き下がってくれた。畦道はボクが述べた文言の内容が分からないのかポカンとしていた。

 

「中学の時に勉強がんばってね。()()()()もあって特別に試験、研修も受けて保健室の先生ぐらいの免許持ってるんだ。」

 

「そ…そっか。頭良いんだべなヒメサワ…」

 

「ちょっと()()()()けど、本当に擦り傷だけだし脳震盪の兆候もなし。でも体調が悪くなったらすぐ言ってね?医務室とか場合によっては病院に直行するから」

 

そう言うのと同時にボクは包帯を巻き終える。後は時間をおいて止血できてるか確認できたら完了だ。畦道はボクの言うことにいまいち理解しきれていないようだったけど、最後だけは分かったようで力強く頷いていた。

 

「では能京攻撃で再開します!!」

 

「よろしく…お願いします…」

 

「お、試合再開だべな。早速部長が攻撃(レイド)に出るんだな。…大丈夫だろか」

 

畦道のケガで少し時間は空いたがようやく試合再開。こちらの全滅(ローナ)を取られての攻撃(レイド)。畦道はビデオ片手に少し緊張しいに眺める。

 

「…畦道。ボクが保健室に行かせずにここに居させたのはこれからの試合展開を直に見てもらうため。集中して、絶対見落とさないで」

 

「ヒメサワ…?」

 

畦道がボクの言うことに疑問があるようだが無視する。そんなことよりマーくんの攻撃(レイド)だ。マーくんの攻撃(レイド)がどう作用するか。ボクも見落とさないようにしないと…!!?

 

マーくんの攻撃(レイド)は音も無く開始し、音も無く終わる。唯一反応できたのは六弦さんだけ。他のメンバーは反応もできずにただ接触(ストラグル)されるだけ。それは高谷さんも例外ではなかった。あ、しっかりボーナスも取ったね。

 

「……の…能京…よ…4点獲得…」

 

「あれ?ボーナス越えてませんでした?」

 

「あっあ…越えてました!!」

 

「…ですよね。4点くらいで僕は()()()()()ので…」

 

主審の判決に疑問のマーくんが副審に確認するとすぐに答えが返ってきた。この反応も久しぶりだな。中学の頃の1軍と2軍の練習試合で丁度同じようなものだったなと思い出す。

それと同じなら今から起こるのは…

 

「ご…5点…しかも…高谷を追い出したァ!!??

 

奮い立つ歓声。あの時は観客はおらず2軍メンバーが反応しただけだったから歓声の大きさに少しビックリする。そんな歓声には反応せずにマーくんは淡々と仲間に告げる。

 

「…さ…守備やろうか」

 

12対22

 

ここまで長かったがようやく、能京の獣が反撃の狼煙を上げた。

 

 

 

 

 

 

「ごッ…5得点…!?」

 

「煉クンが…」

 

「高谷さんが…!!!」

 

「「「初めてコートの外に…!!!」」」

 

これまで能京の攻撃(レイド)でも守備(アンティ)でも追い出されなかった高谷さんが再開直後に追い出されたことに観客と奏和高生徒が各々反応する。それは歓声、悲鳴、驚愕と声の種類は違うが内容はほぼ同じものだった。

 

「きゅ…急に現われたような…」

 

「お…お前もそう思った!?」

 

「…おもしれー技だね…」

 

高谷さん以外の奏和メンバーは何がなにやらといった様子。唯一高谷さんが勘づきかけているのは流石としか言えない。

 

「「「部ちょ…」」」

 

コートにいる慶さん以外の3人(水澄先輩・伊達先輩・宵越くん)が大量得点を上げたマーくんに駆け寄って来る。そんな3人を前にしてもマーくんは調子を変えずに指示を出す。

 

「まだ点差はある。喜ぶのは早いよ」

 

「六弦を潰してローナを頂こう」

 

「「「「おお!!」」」」

 

唯一マーくんの攻撃(レイド)を避けた六弦さんがミッドライン、コート中央に進んでいき攻撃(レイド)の準備に移る。六弦さんが倒されれば一挙3点。逆転するにはまだ点差があるが、だからといって簡単にやられてはくれないだろう。3人も浮かれた気持ちを落ち着かせて守備についた。

 

「まずいな…5対1か…」

 

「すぐコート戻れるようにしとけ高谷!!」

 

「アウトにされて動揺すんのはわかるけど集中…」

 

コート外の奏和メンバーがそれぞれ声を掛け合うが、唯一高谷さんのみ返さないままリズムを取りながらなにやら確認している…?

 

「…高谷…」

 

「やべーリズム…そりゃ上がっちゃうよね…六弦さんも」

 

「ヒ…ヒメサワ…?」

 

「…!ごめん畦道。ちょっと集中しすぎたね」

 

畦道が怯えたような声を向けてきたので慌てて()()()。高谷さんの情報が見られるかと気張りすぎた。…あはは、さっきのマーくんのこと言えないなボクも。

 

「カバディ…」

 

そうこうしている内に六弦さんの攻撃(レイド)が始まった。六弦さんの狙いは宵越くん…?マーくんを狙わない理由はなんだろうか?宵越くんをカモと思ったのか、回りこまれたら面倒だと思ったのか情報が少なくて判断がつかない。それ以上に気になるのは六弦さんが笑っていることだ。あれじゃまるで中学時代休憩時間にマーくんに1対1の勝負を挑んでた時みたいな…。

 

六弦さんの初回の攻撃は先程の2人に向けてのものとは違った。ボクやマーくんが使う読みづらい攻撃。宵越くんがたまたま避けられたのもボクやマーくんのを受けて経験があったのと彼自身の反射神経の賜だろう。本当に攻撃(レイド)磨いてたんですね、六弦さん。

瞬間、六弦さんがボーナスを踏む為奥に行くのと同時にマーくんが六弦さんの後ろへ回り込む。察知した六弦さんが後方へ振り返りマーくんを狙って腕を振り回す。

 

「変わったね。力だけの選手じゃなくなった」

 

それを躱しさらに声をかける余裕を見せつけるマーくん。攻撃(レイド)している相手に話しかけるってなかなか意地悪いことするねマーくん?もしかしてベンチにいる時これが言いたくてオーラ出してたの?

 

「部長ォ!!この技…」

 

「僕が引きつける!!」

 

「3人…いや4人で同時に行かないと倒すのは危険だ!!」

 

「やっぱそれだけの選手かよ!!世界組…!!」

 

宵越くんの問いは半ば無視して指示を出すマーくん。先程の攻撃(レイド)成功を見ても対六弦さんの場合掴むまでが第一段階なんだ。マーくんも同じく掴まれてもカウンターで剥がされることを考えれば同じ理屈なんだが、六弦さんの場合は単純に1人では抑えられない(パワー)があるのがこれまた厄介だ。(パワー)だけなら単純に人数をかければいいのだが、六弦さんの場合マーくんが言う通り同時に行かない限り1人1人対処されて終わりなのだ。守備力が不足している能京(うち)としては難易度で言えばもしかしたら高谷さん以上かもしれない。

 

マーくんの指示を受けて能京メンバーは気を張り直す。だが、その緊張状態は意外な形で終わった。

 

六弦さんが誰にも接触(ストラグル)しないまま帰陣したのだ。

 

…え?なんで帰陣したの?どう考えても六弦さん有利の状況だったのに。

 

「か…帰った…!?」

 

「ストラグル…入ってねー…よな?」

 

声に出た宵越くんと水澄先輩以外のメンバーも六弦さんの行動を理解しきれず呆然とする。審判からボーナスの1点が入っていたことを聞いてもそれはほぼ変わらない。

 

「…ってアレ…ボーナスだけの時って…」

 

「1点入るだけだ。こっちは誰もアウトにならないし、向こうも復活はない」

 

「5対1のままじゃねーか…攻めあぐねて帰ったのか…?」

 

いや、それはない。マーくんはともかく、他のメンバーはあの攻撃(レイド)に対応できてなかった。100歩譲って大量得点は防げたかもだが1人2人ぐらいの接触(ストラグル)があっても帰陣されていただろう。そうしたら最初に接触(ストラグル)入った高谷さんが戻って…。

 

…は?いやいやまさか…え?まさか本当に()()の為に攻撃(レイド)止めたの!!?

 

頭の中に浮かんだ妄想と言われても仕方ない荒唐無稽な考えだがなんでだろうか、「六弦さんなら」と考えたらどんどん根拠が出てくる気がしないでもない。

 

「六弦…『部長』として良くないな」

 

「そんなに僕と1対1がやりたいのかい」

 

ボクと同じ回答に至ったマーくんが問いかける。六弦さんが振り返ってマーくんと見つめ合い、視線が合って先に外したのは六弦さん。視線は斜め上。それはこれまでの過去を振り返って何年にもわたって出来なかった『忘れ物』を取りに来たみたいだった。

 

「……ここしかないのだ」

 

「コート外の選手はアウトになった順に復活する。俺が1人でもタッチ、アウトにしたならば…最初に触られた高谷が復活する」

 

「もう奴は油断しない。必ず点を取る。…つまり…1対1の機会は消える」

 

「約3年だ。(たもと)を分かってから…」

 

ボクが最後に六弦さんと対面したのは六弦さんが中学3年生の引退の挨拶の時だ。あの時隣にマーくんもいたけど2人の性格上連絡して遊びに行くなんてことはやっていないだろう。しかもあの時理由は分からないけど世界戦の後だったのもあって皆ピリピリしていた。あれから3年、マーくんを捕えて倒すことが1番の目標だとボクに教えてくれた六弦さんは奏和の部長になっても変わらないようだった。

 

「俺は守備(アンティ)…ただの狩人(かりゅうど)なのだ」

 

王城正人(おうじょうまさと)という『(けもの)』を追う!!『狩人』だ!!!」

 

部長というしがらみを脱ぎ捨てた狩人(六弦さん)が吠え立てる。奏和が10点リードしていることは今彼の頭にはないのだろう。ただ目の前の(マーくん)倒す(狩る)。それしか考えていないと言わんばかりの集中。六弦さんから溢れる威圧感に身震いしそうになるのを慌てて抑える。

 

「……カバディ…」

 

対するマーくんは何も答えないまま攻撃(レイド)を開始する。だが決して六弦さんを無視したわけではないのだろう。六弦さんほどではないがマーくんも彼との1対1(タイマン)は望んでいたことだった。この勝負に言葉はヤボだといことは周りにいる全員も分かったことだろう。

 

「…学べ。俺の知る限り、個人では最強の守備(アンティ)攻撃手(レイダー)だ」

 

攻撃時間(キャント)30秒。その中の一瞬だ。焼き付けろ」

 

慶さんが宵越くんに話しかける。そう言う慶さんの姿は能京の司令塔というよりは中学時代マーくんの隣にいた頃の『王城の友人』に見えた。

 

「部長の方が強いんだよな…」

 

そう聞く宵越くんだが顔は不安を隠せないようだ。戦績だけならマーくんの勝率が8割だというのは本人から聞いていたみたいだけど宵越くんも分かってるんだろう。過去の戦績は今の勝負には全く関係無いということを。

 

「……」

 

ボクも隣の畦道に言おうとしたが杞憂だったみたいだ。畦道もこの勝負がとても有意義なものだという事を言葉だけじゃなくて感覚でも理解したのだろう。この勝負、マーくんが勝っても六弦さんが勝っても畦道は進化する。確信はないがそんな気がした。

 

六弦さんの息が『止まる』。その瞬間をマーくんは逃がさず胸元へ向けてタッチに挑む。

中学時代の1対1で最初のタッチで勝敗が喫することも少なくなかった。そのたびに六弦さんは悔しそうにしてたっけ。

その悔しさが残っていたからか、六弦さんは悠々とタッチを躱す。そして前に残っていた左足首へ向けてチャージする。その敏捷性(アジリティ)は畦道以上だった。

掴んだと思った瞬間、マーくんが寸前の所で上に飛ぶことで事なきを得る。多分だけどマーくん六弦さんを()()()()()脚を残していたな。

 

「まだ接触(ストラグル)なし…!?」

 

「隙がねぇんだ…」

 

「……」

 

「オイ攻撃時間(キャント)持つのか…!?」

 

宵越くんと水澄先輩が2人の勝負を見て感嘆を漏らす。慶さんも声こそ出さないものの2人と同じかそれ以上にこの勝負に集中していた。

宵越くんの言う通り攻撃時間(キャント)は限られてる。マーくんの攻撃(レイド)は隙が見つかれば最速で突いていくスタイル。無駄に時間をかけたりはしない。それだけ六弦さんが油断ならないことも隙がないことも分かっているが、少し違和感を抱いた。

 

「いいぞ…六弦部長敏捷性(クイックネス)でも負けてない!!」

 

「いや、向こうもハンパじゃないぞ…脚ケガしてたんだろ、あの人…」

 

「…そもそも…なんでケガなんてしてたんだ……?」

 

奏和サイドでも声が上がる。勝負から目を離さないまま耳を立てていると高谷さんが興味深いことを言い出した。

 

「あ?カバディやってればケガくらい…」

 

「ケガなんてさせてくれる人じゃないっしょ。倒されたとは思えねー…」

 

……

 

思い出したくないことを高谷さんに指摘されるのを聞いて問題から目をそらしたくなる。()()に関してはボクにも責任があるからなんとも耳に痛いのだ。

 

高谷さんの指摘が聞こえていたのか、六弦さんがハッとしてマーくんに聞き出した。

 

「…王城…!!この3年…どれだけ練習した…!?」

 

もちろんマーくんがそれに答えることはなく、ただ「カバディ…」とキャントを続けながら笑みを浮かべるだけだ。乾燥した唇の端から出血している姿は血気迫るものを感じる。

 

その姿を見て六弦さんが思わず息を『呑む』のを感じた。そしてこの時六弦さんが考えていることが分かった。

 

『お前…まさかその脚…()()()…』

 

そんな動揺から生まれた隙をマーくんが見逃すわけがなかった。

 

右腕一閃。普段なら事も無く避けられただろうタッチは接触(ストラグル)1という結果に変わる。

 

しかしそこは六弦さん、瞬間復活する。無呼吸でマーくんの脚へ向かう。手による直線のタッチは、脚が前に来るという事を知っていた。

 

着地時の右足を狩る!!…その六弦さんの狙いが叶うことはなかった。

 

キュキュキュ!

 

右足が着地するやいなや一箇所にとどまらずに動き続けた。一陣目のチャージを躱された六弦さんが慌ててもう片方の腕を振り抜くも時既に遅し。マーくんは既に自陣近くまで帰還していた。

 

マーくんの右足を掴めなかった理由は至極単純。マーくんが足の回転数を鍛えてきたからだ。これは中学時代からずっと習慣として続けていたラダートレーニングによって鍛えられたもの。ボクもマーくんに倣って狂ったように練習しまくったっけ。

 

『大事なのは動きを読まれないようにすること…自然で安定した動きは地道な『基礎』から作られる。ラダーとかで足の回転数増やしたりバランスを身につけたり…。

…技を使うのはその後かな…』

 

ボクもマーくんと同様身体に恵まれなかった。タメの人は全員ボクより身長(リーチ)(パワー)もある人ばかり。そのことをマーくんに相談したら返されたのが先程の言葉。事実、マーくんは他の誰よりも残された武器を磨き続けていた。()()()()()()()()()()ボクがうだうだ悩んでいる暇はなかった。

 

「誰よりも自分を(みが)かないと振り向いてくれない。僕と六弦の差は――…」

 

「カバディへの愛の違いだ」

 

「僕を追ってるようじゃ…まだまだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰った…!!」

 

「奏和…全滅(ローナ)だぁあ!!

 

15対23

 

水澄先輩の歓喜の声に合わせて観客からも声が上がる。水澄先輩がマーくんと手を合わせる反対側で伊達先輩もマーくんの手を握って健闘を称える。慶さんも3人が盛り上がるのを嬉しそうに見つめていた。

 

宵越くんは…なんかぬーんとしてる。喜んでいないわけではないのだろう。だけど、自分の活躍外の所で全滅(ローナ)が取れたこととチームの雰囲気が良くなったことに納得がいかないようだった。

 

「す…すげぇ…なんかフクザツだけど…」

 

そう驚愕しながらつぶやく畦道。そりゃ自分が交代した直後に念願の全滅(ローナ)が取れたのだ。畦道の言う通り複雑になるのは当然だ。しかし…

 

「そりゃそうだよ、マーくんだもん。畦道が勝とうなんて100年早いよ」

 

突き放すように答える。変に落ち込む暇は畦道にはない。時間は限られているんだ。少しでも前を向いてもらわないとボクも困る。

 

「ド…ドンマイです六弦さん…」

 

「何が…何が『部長として良くない』だ。オーバーワークで脚を壊すような奴がよく言う…!」

 

そうため息とともに零す六弦さん。内容の割には顔に憂いはなく、晴れやかだった。

 

「ははっ、やっぱ()()()()タイプっすか。六弦さん、負けたのに嬉しそう」

 

「…すまない」

 

「オレも好きっすよ。努力家(そういう)タイプ」

 

「それを沈めんのはもっと好きっすね」

 

「ボーっとすんな宵越!!向こう全員復活だ!!高谷来るぞ!!」

 

全滅(ローナ)を取られて他の奏和メンバーはまだ切り替えできていないにもかかわらず六弦さんと高谷さんは平常心のままだ。慌てて水澄先輩が声をかけて守備の準備を始める。

 

「いや、心配要らない。ちゃんと調整してもらったからな」

 

「調整?」

 

しかし慶さんは必要ないという。ボクも何がなにやらと周りを確認すると慶さんが言わんとすることが分かった。

 

ビーーーッ

 

「前半終了!!ハーフタイム!!」

 

「ええ~…今!?」

 

高谷さんが丁度キャントを開始しようとしたのと同時にタイムアップ。前半終了を告げる笛が鳴り響いたのを聞いて図らずも梯子を外された形になった高谷さんが悲鳴を上げた。

 

成る程ね。最後の攻撃(レイド)、マーくんらしくないとは思ってたけど慶さんの入れ知恵だったんだね。

 

「前半で8点差…だいぶ点とられたイメージあるけどな」

 

「今みたくボーナスとって、ローナ決めれば同点だね」

 

「いけそうな気がしてきたでしょ?」

 

「「おお…!!」」

 

慶さんとマーくんによる点差の事実と希望的観測による檄は普段なら簡単に受け入れられるものではないはずが、前半をいいタイミングで終わらせたことによりチームの雰囲気が良い今は有効に効いた。成る程、こういうやり方もあるんだね。

 

「こういう『流れ』の作り方もある」

 

「さぁベンチに行こう。あ。()()()()()()()()()()()

 

「楽勝ってカオでね」

 

マーくんに言われたとおりに悪そうな顔を浮かべる能京メンバー(伊達先輩がやり慣れてないのかすごくぎこちない)。これマーくんが言ってるけど発案者は絶対慶さんでしょ。意地が悪いもん。奏和メンバーも負けているはずなのに余裕そうな能京メンバーを見て釈然としない表情のままベンチに下がっていく。

 

さて、何はともあれこれで前半終了だ。疲れたはずの皆を労るのは当然として、ボクも準備しないとね。

 




現実はともかく、灼熱カバディ界では姫沢家の両親の力によってオリ主が免許を取得することができました。

原作と違って畦道が部長の活躍を見逃すことはなくなりましたが、これがこれからどう作用するのかは私にも分かりません。

ちなみに疲労箇所が分かるはずのオリ主がなぜ部長がオーバーワークでケガするまで放置したのかについては第1.5話にある通りハシャギすぎた結果です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。