ゴマすりクソバードの幸せ生活   作:よよよーよ・だーだだ

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1、ゴジラの息子と俺様

 ゴマすりクソバード……もとい、空の大怪獣である俺様が生まれたのは、怪獣どもが世界中で暴れ狂う『怪獣黙示録』初期の頃である。

 

 あれは人間と怪獣の抗争が一番激しかった頃で、俺様を産み育ててくれたオトッツァンとオッカチャンは人間どもとの死闘の果てに火山噴火に呑まれて死んでしまい、ただ一頭だけ生き残った俺様は強く逞しく生きてきた。

 寂しいとか悲しいとか、そんなオセンチな感情は雛鳥の頃に枯れ果てたよ。親兄弟を亡くしたばかりの俺様はさながら家なき子の安達祐実、同情するなら餌をくれ、あわよくば養ってちょうだい。

 ま、こー見えて俺様、なかなか親孝行だからときどき墓参りくらいはしてんだぜ。近くに街があるせいで行く度に人間どもがギャーギャーパニック起こすから、気が向いたときしか行かねーけどな。

 

 

 

 そんな俺様が、ベーリング海上空を回遊していたときのこと。

 

 どんぶらこっこ、どんぶらこっこ……

 

 ……なんだ、ありゃあ。大海原のど真ん中に、何やら白いものが漂ってやがる。

 興味を引かれた俺様が飛行高度を下げて近づいてみると、果たしてそれは巨大な『卵』であった。直径は数メートル、殻は硬くて分厚いカルシウム。昆虫や魚ではなくて、爬虫類や鳥の卵をそのまま大きくしたような風がある。

 さっそく海から引き揚げて俺様のマイスイートホーム:アドノア島の砂浜へ、割れないよう慎重にそっと下ろすことにする。

 検めて見れば、まーデカイ。直径数メートル、ウミガメだの海鳥だのの卵にしちゃア随分なデカさである。いったい何の卵だろうねェ、コレェ?

 

 しばし首を捻って思案したところで、俺様の明晰な頭脳による天才的思考でもって真っ先に思い当たったのは『モスラの卵』であった。南洋のインファント島に棲んでいる巨大蛾イイコチャン怪獣、モスラ。なぜかは知らねーけどあいつ昆虫怪獣のくせに、卵だけはこんな鳥の卵っぽいんだよな。

 それになんてったって、モスラの奴には大変ご立派な『前科』がある。いつだったか、インファント島からモスラの卵が台風で流れ出ちまったときに人間の世界へと流れ着いてしまい、一悶着あったことがある。人間の世界では『ハッピー興行社事件』なんて言われてる一大不祥事だが、そのときはゴジラのヤローも巻き込んで結構な騒動になったらしい。

 実際、数日前にも台風が来てた気がするし、モスラの奴ときたら母性の守護神怪獣のわりには結構な天然ボケのおっちょこちょいドジっ子だからまたやらかしたのかもしれんね。『卵、流されちゃいました☆テヘペロ(・ω<)』じゃあねーよ。大事な卵なら産みっぱなしにしないで、ちゃんと管理しろやっつーの。

 

 ……と、考えたところで「いや、モスラの卵ってこともなさそうだな」と思い直した。

 理由はその大きさである。浜辺に転がしたこの卵の直径は、おおよそ数メートル程度しかない。ウミガメだのの卵にしちゃあデカイが、モスラの卵は直径100メートルはあるというし、モスラの卵としては小さすぎらァね。

 じゃあいよいよ何の卵やねん、ってなる。メガヌロン? いやいや、あいつらの場合は卵鞘だからこんな綺麗な卵じゃねえし、だいたいあいつら淡水生の生き物だから孵ったあとならともかく、卵のまま海を漂ったりしたら死ぬだろって。じゃあなんだ、ZILLA、それともリドサウルスか? うーん、その線も微妙な気がするなあ。

 

 ……ま、どーでもいいや。

 

 どこのどいつの卵であれ、このアドノア近海に流れ着いたってンなら所有権はアドノアの主であるこの俺様のものだ。すなわち文字どおり、煮ようが焼こうが俺様の自由であろう。

 ……そういやちょうど小腹も空いてたな。

 日頃は近海でとっ捕まえたイルカやクジラ、あるいは島の地下空洞から時々湧いてくるメガヌロンやカマキラスを筆頭とする昆虫怪獣どもをオカズに糊口を塗している俺様であるが、たまにはちょいと“変わりダネ”を喰ってみたいと思っていたところだ。

 そして卵料理、まあ悪くない。溶岩風呂に漬けて煮卵や茹で卵にしても良いし、割って焼いて目玉焼きかスクランブルエッグ、他の具と併せてスキヤキ、はたまた生のままズルッと啜るのもオツなもんだろうさ。

 よし、きーめた。流れ着いたこのデケェ卵、俺様のランチにしよーっと。そう決めてクチバシで突こうとした、まさにそのときである。

 

 ……ぴきっ。

 

 何かがヒビ割れるような音、その源はくだんの卵からだった。

 ……おいおい、まさか。俺様が手をこまねいているうちに目の前の卵からはピキピキパキパキと音が続いて、やがて殻の表面に大きな亀裂が走った。

 

 ――この卵、孵ろうとしてやがる!

 

 突然のことで慌てふためくあいだにも、卵の殻にはどんどんヒビが入っていく。そして遂には内圧に耐え切れなくなって、バキンと大きな音をたてながら勢いよく砕け散る。

 盛大に弾け飛んだ卵の破片、その炸裂の中から現れたのは……

 

「オギャアーッ……!」

 

 響き渡る、力強い産声。

 鼻先から尻尾まで含めた全長は4メートルほどで、体色は穏やかな水色。胴に対して頭は大きく顔つきはまだあどけない赤ん坊、薄い瞼を開けばつぶらな瞳が宝石みたいにキラキラ光っている。そして何より背中には、まだ小さくて丸っこいが立派な“背鰭”が三列並んでやがるのだ。

 全身にくっついた卵の殻、それを振り落としながら立ち上がろうとするその姿を見たとき、俺様は確信した。なにを? だってどう見たって“アイツ”にそっくりだからな。俺様たち怪獣なら誰もが知っているアイツ、あの“キングオブモンスター”に。

 

 ……間違いねえ。

 こいつはゴジラの子供、ベビーゴジラだ。

 

 俺様がつい今しがた獲って喰おうとしたこの卵、なんとゴジラの卵だったのである。

 

◆    ◆    ◆    ◆

 

 ぼくが“おじさん”と過ごしたのは、生まれたばかりの頃のことだ。

 

 ぼくの原種にあたるゴジラ=ザウルスは、他の動物の巣に卵を托卵することがあるという。だからまあ『血のつながらない親兄弟』というのも、ぼくのようなゴジラ=ザウルスにとっては決して珍しいことでは無い。

 ただ、ぼくの場合が違ったのは、ぼくが生まれたのは他の動物の巣でも無かったことだ。卵から生まれたばかりのぼくは、此処がどこかの島の砂浜であること、そしてそこが本来いるべき場所ではないことを本能的に察知した。

 

 ……ママは? パパは?

 

 周りを見渡すぼくだけれど、本来なら一緒にいてくれるはずの同族は勿論、仮親にあたるであろう育ててくれる生き物たちの姿もない。

 ぼくは鳴き声を上げた。

 

「ママぁー! パパぁー!」

 

 身体についた卵の破片を振るい落とし、一生懸命に探し回ってみたけれど、ぼくのママやパパになってくれるはずの大人の姿は影も形も見当たらなかった。

 生まれたばかりのベビーゴジラが、どこともわからない島で独りぼっち。そんな状況では不逞の輩というのに目を付けられるのも当然で、

 

「ギィィィ……!」

 

 鋭い唸り声に振り返ると、がさがさと茂みを掻き分けて現われたのは巨大なカマキリどもだった。数は三匹、体長は数メートル、両手に鋭いカマを携え、狡猾にして残忍な目つきでぼくの方を見下ろしほくそ笑んでいる。

 そんな蟷螂の怪獣、〈カマキラス〉の出現。奴らの血に飢えた視線を受けてぼくは本能的に理解した。

 

 こいつら、ぼくを嬲り殺す気だ。

 

 そう察するや否や、まるでぼくの直感を裏付けるかのように、カマキラスどもは一斉に飛び掛かってきた。羽を広げて飛び上がり、小柄なぼくの体を抑えつけて両手のカマで滅多打ちにした。

 

「ギィギィ!」「ギィギィ!」「ギィギィ!」

 

 い、いたい! やめて!

 ぼくは悲鳴を上げて懇願するのだけれど、意地悪なカマキラスどもを却って喜ばせるだけだった。その気になればすぐに殺せる、その余裕が、カマキラスどもを残忍な“遊び”へと耽らせた。カマキラスという怪獣は餌を獲って喰うだけじゃない、自分より弱い者を甚振り殺すのが好きらしい。

 他方、親もいない、生まれたばかりのベビーゴジラであるぼくは、外敵から身を守る術もわからない。本能的に身を伏せて、体を丸めて縮こまることしか出来なかった。

 そんな無力で非力なぼくを、カマキラスどもはとことんいじめてくる。

 

「ギィギィwww」「ギギィーッwww」

 

 やめて、やめて、やめてよう……!

 ぼくはとうとう泣いてしまった。痛くて、怖くて、涙が止まらない。どうしたらいいかもわからない、とにかく誰かに助けを求めるけれど、誰も来てくれる気配はない。

 そしてカマキラスどもは、そんなぼくの無様な弱虫ぶりをますます面白がって、ぼくのことをいよいよ苛烈に痛めつけてくる。エスカレートしてゆくカマキラスどもの弱い者いじめ、このままいけばぼくは生きたまま全身を切り刻まれて殺されてしまうだろう。

 

 そんなときのことだ。

 空から“燃える翼”が舞い降りてきたのは。

 

◆    ◆    ◆    ◆

 

 ……あッぶね~~~~っ!!

 

 危うく喰っちまうところだったじゃねーか! ゴジラの卵なんて喰っちまってたら、ゴジラの野郎が何してくるかわかったもんじゃあねーぜ!

 すんでのところでやらかさずに済んだ、そんな己の強運に胸を撫で下ろした俺様である。いやもー俺様ってば、ホントにとっても!ラッキーマン。

 それに俺様がラッキーだったのは、ゴジラの卵を喰わずに済んだことだけじゃあない。生まれたばかりのベビーゴジラを助けてやろうと思いついたことも実に『ツイてる』と言っていい。

 

 ……おーっと、これだけは勘違いするんじゃねえぜ。俺様がベビーゴジラを助けてやろうとしてるのは別に『独りぼっちで生まれちまったベビーゴジラがカワイソーだなあ!』なーんて情けをかけてやったワケじゃあない。世の中そんなに甘いもんじゃあない。弱い奴やツイてない奴は死ぬ、たとえガキだろうとベビーだろうと例外じゃあない。それが自然の摂理ってもんだろう。

 にもかかわらず、敢えてベビーゴジラに救いの手を差し伸べてやった俺様。そこには深慮遠謀、百術千慮、過酷な怪獣黙示録を抜け目なく生き抜いてきた俺様なりのクールな『計算』があるのだ。

 

 生まれた直後はとっさにバックレちまった俺様、でもついついちっとばかし気になっ……もとい、遠くの岩陰からベビーゴジラの様子を観察してたわけだが。

 

「ギィギィ!」「ギィギィ!」「ギィギィ!」

 

 どこから湧いて出たんだか知らねえが、現れたのは蟷螂怪獣カマキラスが三匹。体長は数メートルにも及ぶようなクソデカカマキリで、左右に飛び出た複眼で周りをぎょろぎょろ油断なく見回しているその姿は如何にも抜け目なく、そして性根が意地悪そうである。

 そんな性悪カマキリどもが三匹掛かりでカマを振り上げ、ベビーゴジラを打ちのめし始めた。

 

「ギィギィwww」「ギギィーッwww」

「い、いたい! やめて!」

 

 あの性悪クソカマキリどもときたら、生まれたばかりのベビーゴジラにも容赦無し、まさに集団フルボッコだ。あるいは日頃デカいツラしてるゴジラ族だからってんで、なおさら目の敵にしているのかもしれねえ。あーやだやだ、弱い者いじめが好きな奴らってホント、やだね!

 そしてベビーゴジラはというと。

 

「やめて、やめて、やめてよう……!」

 

 生まれたばかりのベビーゴジラはとにかく弱かった。生まれたばかりじゃあ放射熱線も撃てねえし、ゴジラによくあるあの異常なまでのタフさは微塵もない。三匹掛かりで寄ってたかって嬲り殺そうとするカマキラスに、ベビーゴジラは為す術も無く泣きじゃくるしかないのだった。

 ……そんな光景を眺めながら思案しているうちに俺様、閃いたね。

 

 こりゃあ、助けるべきでは?

 

 だってよー、考えてみ?

 ベビーゴジラ、赤ん坊(ベビー)とはいえ曲がりなりにもゴジラ族だ。ここでくたばってくれるならまだしも、生き残ったりしたらどうなる? 見捨てた俺のこと、絶対に恨むじゃん。

 そしてなにより『生まれたばかりのベビーゴジラを見殺しにした』なんてバレたら、それこそゴジラの野郎が何するかわからねえ。

 殊にゴジラ族とは付き合いが長く一家言ある俺様、あの背鰭野郎どもが相当根に持つ性分なのは身に染みて知ってるからな。ここでバックレたらどう転んだってお礼参りしに来るに決まってらァね、絶対。

 

 だが、これがもしも逆に、ベビーゴジラの命を助けてやったら?

 

 将来のキングオブモンスターになるかもしれないゴジラの子供、ベビーゴジラ。

 ゴジラ族は根にも持ちやすいが、その分だけ義理堅いところもある。もしもこのベビーゴジラが大きくなって一端のゴジラになったとき、生まれたばかりの命を救った俺様のことはきっと“恩人”と見做してくれるだろう。ともすれば、ベビーゴジラがキングオブモンスターの跡を継いだときにゃあ、この俺様を重用してくれるかもしれん。

 たとえば、こんな風に。

 

「この御恩は一生忘れません、空の大怪獣さま! お礼にあなた様の、一番の家来にしてください~!」

 

 ……ふ、むふふ。

 それに、ゴジラの奴も俺様に感謝するだろう。あいつ、ああ見えてスゲエ寂しがり屋だからな。同族が見つかった、それもその命を俺様が助けてやった、そうとわかればきっと手放しで感謝するに違いない。

 そうなりゃあ日頃でかいツラしてるあの背鰭野郎も、ちったあ俺様に頭が上がらなくなるだろうさ。あるいは褒美の一つでもくれるかもしれないぜ。

 

「顔を上げよ、空の大怪獣。そなたは余の同族、その命の恩人である。褒美を取らす。さあ、なんなりと望みを言うが良い!」

「ははーっ、有難き幸せ……!」

 

 ぐへ、ぐへへへへへ……!

 まあ褒美のことはさておいて、つまりここで俺様がベビーゴジラを助けてやれば一度に二体のゴジラへ恩を売れるというわけだ。しかもカマキラスごとき雑魚怪獣を軽くヒネるだけで。

 

 

 こりゃあ、助けねえわけにはいかねえよなァァァァ~~~~!?

 

 

 そうと決まれば即断即決、俺様はベビーゴジラを助けてやることにした。

 俺様すぐさま急降下、カマキラスどものトリオに空襲を仕掛けた。俺様が繰り出したのは空から怒涛の衝撃波、ソニックブーム。砂塵が巻き上がり、木々が薙ぎ倒され、そしてカマキラスどもを三匹まとめてブッ飛ばす。

 

「ギッ!?」「ギギッ!」「ギィキキキ!!」

 

 突如の急襲に動転したカマキラスども、けれどもすぐさま体勢を立て直して応戦してきやがった。

 一匹目が翅と鎌を振り上げて威嚇し、気を惹いたスキを突く形で二匹目と三匹目が襲い掛かってきた。一匹目は陽動、二匹目を躱せても、三匹目が後詰めによるハーケンクラッシュ。実に連携の取れた三位一体攻撃、並みの怪獣なら一巻の終わりだろう。

 

 だが、俺様の敵じゃあない。

 

 俺様は身を翻し、翼のジェット噴射を切り替えて、いの一番に飛び込んできたカマキラスの鼻づらに猛烈な熱風を浴びせた。その温度は数百度、木々に火の粉が散り、砂浜が真っ黒に焼け焦げる。

 

「キイイイィィィィ……!!」

 

 熱々の溶岩にも匹敵する灼熱の暴風、それを真正面から浴びた先鋒のカマキラスは即死した。カマキラスの燃えやすい体が一気に燃え上がり、ジューシーに肉の焼ける音と匂いが漂う。へいお待ち、かくしてカマキラスの即席ローストが出来上がり、というわけである。

 

「キィィッ!」

 

 三位一体、ジェットストリームアタックが破られたのを見て、二匹目のカマキラスが破れかぶれに飛び掛かってきた。カマキラスの振り上げた腕の鎌がぎらりと光る、狙うは俺様の喉元。きっと自慢の鎌の一振りで、俺様の喉を掻っ切ろうというのだろう。

 ……まあ、効かねえけどな!

 俺様、カマキラス決死の攻撃を華麗に躱し、飛び掛かってきた勢いを逆に利用してカウンターを仕掛けてやった。鋼鉄よりも硬く岩石をもブチ割る俺様自慢のクチバシ、その一撃がカマキラスの複眼めがけて思いきり叩き込まれる。

 砕ける複眼、潰れる顔面。顔を貫かれ、文字通り面食らったカマキラス。くたばり損なったその首元に、俺様怒りの怪鳥蹴(けちょうげ)りが炸裂した。

 

 ――スパァンッ!

 

 俺様の健脚のフルスイング、そのスピードはマッハ級でそのパワーは瞬間数万トン以上。鋼鉄をも紙のように裂くカギ爪:ヒートクローへと凝縮されたその破壊力は、計り知れないものがあるのだ。

 そんなもん喰らって、カマキラス風情が平気でいられるわけがねえ。

 

「ギッ……!?」

 

 俺様のヒートクローによる回し蹴りをまともに喰らっちまったカマキラスは、ひとたまりもなかった。

 それは喉を掻っ切られるなんて生易しいもんじゃあない、俺様の一撃でカマキラスの首は根元から綺麗に刈り取られてしまった。そして切断された頭は明後日の彼方に吹っ飛んでゆき、遠浅の海へポチャンと落ちた。

 まさに断頭台の一撃、空の大怪獣ラドンによるギロチン処刑だ。

 

「ぎ、ギィ……!?」

 

 残る一匹のカマキラスはというと、仲間二匹が瞬殺されたことで一気に戦意が挫けちまったらしい。途端に踵を返し、翅を広げて羽ばたかせ始める。あのカマキリ野郎、ジャングルの奥へとバックレるつもりだろうな。

 だが、逃がさねえ。

 飛び立ったカマキラスに俺様、すかさず猛追を仕掛ける。カマキラスの飛行速度は全速力でマッハ0.5、対して空の大怪獣である俺様はその気になりゃあマッハ1.5は余裕で出せる。俺様本気の追撃を、カマキラス如きに振り切れるわけがねえ。

 

「ぎ、キィキィ……!」

 

 ……命乞いのつもりか、おい?

 とうとう追い詰められた挙句に両手の鎌を擦り合わせる、そうやって拝み倒してくるカマキラスに俺様は咆哮する。

 

「……幼気(いたいけ)な子供を苛めておいて不利になったらトンズラたぁ、いくらムシケラ風情とはいえ随分ムシが良いと思わねえか。ええ、おいィ!?」

 

 地獄で後悔しながら、くたばりやがれっ!

 カマキラスを難なく捕まえた俺様、足のカギ爪で思いきりカマキラスを鷲掴み、深々と握り締めた上で力を込めて左右に裂く。

 

「ひ、ピギュ、ィ……ッ!!」

 

 ごきっ、ぶちゅるぶちゅる、ブチィッ。

 カマキラスのひ弱な体はひとたまりもない。肉の千切れる音を立てながら節々がねじ切れ、鮮血を撒き散らす。カマキラスは敢え無く首と胴とが泣き別れ、生きながら八つ裂きにされて即死した。

 バラバラになったカマキラスの死骸、その肉の切れ端をちょいとつまみ食いする……うん、悪くない。今日の俺様のランチは、カマキラスの刺身で決まりだな! ローストは、夜食のツマミにでもするかね。

 怪獣プロレスとすら言えない、一方的な“狩り”を終えた俺様が今日一日の献立を思案していると、茂みの方から音がした。

 

 ……がさっ、がさがさっ。

 

 草を掻き分ける音、その方角へと目線を向ければ、先ほどのベビーゴジラが草葉の陰から俺様の様子を窺っていた。

 

「あなたは……?」

 

 おっといけねえ、肝心要のベビーゴジラのことを忘れることだったい。俺様、出来るだけ優しい声色で声をかけてやった。

 

「どうだい、無事か、ベビーゴジラさんよぉ」

 

 そんな俺様を、小さなベビーゴジラはじっと見返してやがるのだった。ふふん、感謝するかな。それとも恩義を感じるか? まあどちらでもいいがな、俺様の役に立てば。

 だが、ベビーゴジラから出てきたのは俺様の意表を突く言葉だった。

 

「……あなたが、ママ?」

 

 ……あのな。俺様がオマエのママに見えるか?

 思わずそう答えちまった俺様。が、ベビーゴジラはつぶらな両目をぱちくり、小首を傾げながらさらに一言。

 

「……じゃあ、パパ?」

 

 いやいや、パパでもねーよ!

 そういえばゴジラ=ザウルスの子供には鳥と同じ『すりこみ』本能、要するに一番最初に見たものを親だと思い込む習性があるのだ。

 優雅な独身怪獣貴族の俺様が、パパ、ママ? ジョーダンじゃあねえ。

 

「じゃあ、だれ??」

 

 俺様が何者か、だと??

 そう訊ねられた俺様、逡巡の末にこう答えてやった。

 

「……俺様は〈ラドン〉。空の大怪獣ラドン様たぁ、俺様のことよ!」

 

 それが、俺様とベビーゴジラの馴れ初めで、この話の端緒なのだった。




続きます。

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  • ゴジラ学会「エメゴジはゴジラではない」
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