ゴマすりクソバードの幸せ生活   作:よよよーよ・だーだだ

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5、居候を拉致られる俺様

「……ベビー、ベビー!」

 

 そう言ってベビーゴジラであるぼくを呼ぶこの女の人、〈ゴジョウ=アズサ〉はこのアドノア島に時々やってくる人間の科学者だ。ぼくにはよくわからないけれど、アズサはモナークという組織の一員で、このアドノアに棲んでいる怪獣たちの様子を見張るのが仕事らしい。

 はーい、今行きまーす。アズサの呼び声に応じてぼくが茂みから這い出すと、アズサはいつものとおり穏やかに微笑んで出迎えてくれた。

 

「ちょっと待ってね、ベビー」

 

 そしてアズサが手に持った紙袋をごそごそとまさぐると、紙袋の中から出てきたのはジューシーな肉と香ばしいソースの匂いが漂うハンバーガーセット。

 如何にも美味しそうなそれらを、アズサは惜しみなくぼくへ差し出した。

 

「はい、今月のマクドの新作バーガーよ♪」

 

 わーい、ぼくの好物! いただきまーす!

 

「よしよし。いい子ね、ベビー……」

 

 アズサにはぼくたち怪獣の言葉なんてわからないけれど、それでもぼくはアズサが大好きだ。アズサはいつだってこうしてぼくのことをぎゅっと抱き締めて、そしてそっと撫でてくれる。

 ラドンおじさんは人間のことを「人間なんてのはこすっからいシミッタレどもだからあんまり関わっちゃアいけないぜ」なんて毛嫌いするけれど、ぼくはそう思わない。こんなに優しくて、しかも毎月マクドのハンバーガーなんて美味しいものをくれる思い遣り深い人たちが、そんな悪者であるはずがないもの。

 ……でも、足りないな。もっと食べたい。ハンバーガーをたいらげ、ポテトも食べ終えたぼくはアズサの服の袖を引っ張った。

 

「もう、ベビーったら。あなたは今さっき食べたばかりでしょ~?」

 

 足りない、もっと食べたいよ!

 ぼくがどうしてもせがむと、アズサは呆れたように笑いながら「もう、しょうがないわね……」と自分のハンバーガーをわけてくれるのだった。

 ……ぼくに“お母さん”はいない。たしかにラドンおじさんは育ての親でお父さんみたいなものだけれど、ラドンおじさん自身が言うとおり“お母さん”では決してない。

 そんなぼくに、もしも“お母さん”がいたとしたら、それはきっとアズサみたいに優しいんだろうな、って思う。

 

「ゴジョウ博士、そろそろ時間が……」

「ええ、わかっています……」

 

 ぼくがハンバーガーセットを食べ終えたちょうどそのタイミングで、Gフォースの兵士と何か話し合っていたアズサがぼくの傍へと歩み寄った。そしてぼくの首元に両手をかけ、ぎゅっと頬を摺り寄せながら語り掛ける。

 

「ベビー……」

 

 ……ああ、いつもやってくれるハグだね!

 すぐさまアズサの意図を汲みとったぼくは、ぼくの方からもアズサへ身を摺り寄せた。あったかくて優しい、アズサのハグ。これもハンバーガーと同じく、ぼくの大好きなものだ。

 そうやって思いきり甘えてくるぼくに対し、アズサは消え入りそうな声でぽつりと言った。

 

「……ごめんね、ベビー」

 

 途端、ぼくの頭の後ろで『ガチャリ』と金属音がして、ぼくの首元が急に窮屈になった。まるで首を、絶妙な塩梅で締め付けられ続けているような感触。首に何か取り付けられたみたいだ。

 え、なに? なにか、とりつけたの? アズサによる唐突な行動にぼくが戸惑っている一方、アズサはというとぼくから身を離して顔を背けてしまった。

 ……ねえアズサ、どうしてぼくから離れてゆくの。「ごめんね」って、いったいどうしてぼくに謝るの。どうして今にも泣き出してしまいそうな顔をしているの。ぼく、なにか悪いことでもした……?

 ぼくの心からの疑問だったけれど、アズサはそれに答えてくれないまま後ろの方へと後ずさってゆく。

 

「ごめんね、本当にごめんね、ベビー……!」

 

 ねえ、待ってよアズサ、行かないで!

 そうやって追いすがろうとするぼくの前へ、アズサに代わってGフォースの兵士たちが立ちはだかった。

 

「さあゴジョウ博士」

「あとは我々にお任せを」

 

 そう言ってGフォースの兵士たちは手際良くぼくの首――先ほどアズサがぼくに取りつけたものが『特殊合金製の首輪』であることにぼくはようやく気付いた――に手を伸ばし、特殊ナイロン製の丈夫な縄を括りつけて、数人がかりで引っ張り始めた。

 ……こわい、こわいよう! たすけて、ラドンおじさん! たすけて、アズサ!!

 ぼくはそうやって力一杯に抵抗してみせるのだけれど多勢に無勢、人間たちからは難なく抑えつけられ、とうとう狭くて暗い檻の中へと押し込まれてしまった。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 見かねたアズサが割り込んできてくれた。檻の中へすぐさま駆け込んできて、その奥で怯えるぼくを庇うように抱き締める。それからアズサは振り返って、乱暴すぎるGフォースの兵士たちを睨みつけた。

 

「ベビーが怯えています! やっぱり今回の作戦は中止に……」

 

 そうやってぼくのために猛抗議してくれるアズサ。けれど周りの人たちは、飽く迄もプロフェッショナルとして冷静に対応するのだった。

 

「時間がありません!」

「ここは危険です、早く退避を……!」

「ゴジョウくん、キミも……」

 

 Gフォースとモナークの人たちは寄ってたかって、アズサを無理やり引っ張ってぼくから引き離そうとする。

 仲間たちからの懸命な説得を受けて、アズサの方もしばらく悩んでいた、けれど。

 

「……いいんです」

 

 アズサは意を決した様子で周りから差し伸べられた手を振り払い、そしてきっぱりこう答えた。

 

「このまま輸送してもらってかまいません! ベビーと一緒にいてあげたいんです!」

「……!」

 

 アズサが声を上げた途端、その場にいるGフォース、モナーク、人間たちのあいだで動揺が走った。

 どういった事情なのかぼくは知らないけれど、アズサがぼく:ベビーゴジラと一緒に檻に入ってしまうのはどうやらとても都合が悪いらしい。

 けれどそんなこと、決意を固めたアズサはお構いなしのようだった。日頃穏やかで優しいアズサに似つかわしくない毅然とした態度で、ぼくをしっかり抱き締めながら言う。

 

「わたしはベビーの傍にいます! これが、わたしのせめてもの……!」

 

 そんなアズサの態度に、Gフォースの指揮を執っている将校が何か言おうとした。

 

「し、しかし……」

「いや、待ちたまえ」

 

 けれど、モナークの偉い博士――たまにアズサと一緒に来てくれる年配の男性で、アズサほどじゃあないけどぼくとも顔なじみだ――がそれを制する。Gフォースとモナークの力関係はぼくにはよくわからないけれど、少なくともこのモナークの偉い博士はGフォースの将校よりも偉い立場の人らしい。

 モナークの偉い博士はそれからアズサと、真正面から向き合った。

 

「…………。」

「…………。」

 

 互いに真剣な表情で見つめ合うアズサと博士。やがてアズサの視線に籠められたその決意が『本気』であることを悟ると、モナークの偉い博士も納得したように深々と頷いた。

 

「……わかった。ゴジョウくん、どうか気を付けて」

 

 かくして檻の扉が閉められてコンテナへと格納、ガチャリと外からロックが掛けられる。

 灯りもない真っ暗な檻の中で、ぼくとアズサの二人きり。恐怖に震えるぼくの身体をぎゅっと抱き締めながら、アズサは耳元でこう言い聞かせ続けてくれた。

 

「ベビー、最後まであなたを守ってみせるからね……!」

 

◆    ◆    ◆    ◆

 

 今日は、ベビーゴジラがこの島に来てからちょうど一年が経った記念日だった。

 

 俺様、たまにはウマいもんでも喰わせてやるかなどと思いつき、ちょいと遠出しちまったのが運の尽き。北極まで飛んで行ってデップリ肥ったアザラシをたらふく捕まえて帰ってきたら、とんでもない現場へ鉢合わせすることになっちまった。

 ……人間どもがベビーゴジラに餌付けしてるらしいのは、俺様もうすうす気がついていた。人間ども、特にモナークの連中といえば怪獣大好きのイカれた変態集団だからな。ベビーゴジラ、つまり『ゴジラの子供』なんてのがいれば興味津々で調べたがるのは当然だろう。

 とはいえ俺様、当初は楽観視してたのよ。

 まぁ、たしかにモナークは変態の集団だし、正直怪獣の俺様から見てもヒくレベルである。だが一方で、必ずしも有害なわけでもない。むしろ他の人間なんかと比べたら相当に“弁えてる”奴らだし、モナークの研究とやらが俺様たち怪獣の役に立つ場合も多々ある。

 そんなわけで俺様、モナークのことは敢えて見逃がしておいてやったのだ。むしろ人間どもと直に触れ合うのはベビーゴジラにとっても良い人生経験になるだろうし、奴らの方から直接危害を加えてくるでもないなら放っておいても問題なかろう。できれば、ハンバーガーみてえな変なジャンクフード喰わせて味を占めさせるのは勘弁してもらいてぇところだが……なーんて甘く見過ごしてやっていたのが、良くなかったんだろうな。

 

 まさかあいつら、俺様の留守中にベビーゴジラを攫うなんて。

 

 アドノア島に設置された対怪獣前哨基地、その飛行機発着場からベビーゴジラを無理矢理乗せて発進してゆくモナークの輸送機。その悠々とした飛び立ち方は、まるでこの俺様へ見せつけているかのようだった。ベビーゴジラを連れ帰ってどうする。檻に入れて見世物か、ゴジラ対策のために生体解剖か、はたまたホルマリン漬けの研究標本か?

 ……この空の大怪獣を舐めやがって、トサカにきたぜ。

 余計なケンカは売らねえのが俺様の日頃の主義なんだがな、向こうから売ってくるってんならハナシは別だ。シミッタレでクソッタレな人間(カス)どもめ、よりにもよってこの俺様の“甥っ子”に手を出すたぁフテェ野郎どもだ。

 俺様、怒りに任せて咆哮した。

 

 ――フン捕まえて、炭火焼きにしてやるぜッ!

 

 

 

 

 その日、ベーリング海の空は晴れていた。

 しかし今、その美しい光景を楽しむ余裕など人間側の誰にもない。Gフォース航空部隊に課せられた今回の任務は、共に飛ぶモナークの輸送機を護衛し滞りなく目的地へと届けることにある。

 そして、それは決して容易なものでは無かった。

 

 迫る脅威、それは空の大怪獣ラドン。

 

 ラドンは、モナークの輸送機で運ばれている『積み荷』を標的としていた。怒りの咆哮をあげたラドンは火山地帯の高台へと登り、両翼を堂々と広げて聳え立つ。そしてその広大な翼から爆炎のジェット噴射が全力全開、空の大怪獣ラドンはロケットスタートでもって、アドノア島から憤然と飛び立った。

 空を飛ぶ大怪獣ラドンは、まるで火山噴火が空を飛んでいるかのようだった。体重2万トンの巨体による飛行を可能とするジェット噴射、さらにその猛スピードが引き起こす衝撃波。それらの相乗効果がラドンの眼下にあるものすべてを焼き払い、そして吹き飛ばしてゆく。

 

 対するモナーク輸送機とGフォース航空部隊、こちらもエンジン全開で急加速。一気に急上昇し、少しでもラドンの目を晦ませようと雲上の大空へと駆け上がる。

 その雲を突き破って現れる、紅蓮の双翼。晴れ渡った空の下に、ラドンの巨体が現れた。雲海の上に広がる天壌の世界、そこでラドンの甲高い雄叫びが響き渡る。

 

「――――――――ッッ!!」

 

 怒り狂う空の大怪獣、ラドンの猛追跡。ラドンの飛行スピード、その最高速度はマッハ3に及ぶという。有人飛行機としては人類史上最速である、SR-71ブラックバードにも匹敵するという超音速だ。

 アドノア島から離陸したのはGフォースの方が早かったはずだが、空の大怪獣ラドンの全力をもってすればそんなアドバンテージなど無きに等しい。ラドンと人間たち、そして輸送機までの距離は見る見るうちに縮められてゆく。このままだと、モナークの輸送機がラドンに追い付かれてしまうのも時間の問題だろう。

 その最中、人間たちは無線通信を飛ばし合った。

 

〈こちらモナーク輸送機。Gフォース航空部隊、ラドンを蹴散らしてくれ〉

了解(Copy)、ラドンを迎撃する〉

 

 その指示を受けたGフォース航空部隊の戦闘機たちは曲芸めいた宙返りでもってひらりと機体を翻し、自分たちの背後へと追いすがるラドンの巨体めがけて攻撃を仕掛けた。戦闘機が放ったのは空対空ミサイルを十発、並みの怪獣なら容易く丸焼きに出来る火力である。

 だが、ラドンはものともしない。

 ひらりひらりと、Gフォース航空部隊の戦闘機による曲芸飛行でさえ霞むほどの機敏な機動でミサイル攻撃を掻い潜ったあと、ラドンはさらに加速。その刹那、ラドンの赤い巨体が、Gフォース航空部隊の戦闘機たちとすれ違う。

 その刹那に巻き起こったのは、超音速の衝撃波。

 

 ――ブゥンッッ!!

 

 Gフォース航空部隊の戦闘機が2機、とうとう身を躱し切れずに撃墜された。その様子はさながら燃え尽きる線香花火、戦闘機たちは儚い火の玉のように敢えなく燃えて墜ちてゆく。

 ラドンの超音速飛行が引き起こすソニックブーム、その破壊力は眼下の街を根こそぎ吹き飛ばすほどだという。その巻き添えを受けたGフォース航空部隊の戦闘機は、紙飛行機よりも容易くクシャクシャに捻り潰されてしまった。

 まさに圧倒的すぎる、大怪獣ラドン怒りの大進撃。その脅威を目の当たりにしたGフォース航空部隊の戦闘機パイロットたちは、本能的に直感した。

 

 ……ひょっとして我々人類は、とんでもない相手に喧嘩を売ってしまったのでは?

 

 しかし、今さら気がついたところでもう遅い。空の大怪獣にして火の悪魔、ラドンによる“狩りの時間”はまだ始まったばかりなのだ。

 

 

 

 

 わーい、狩りごっこだね! たのしー!!

 

 ……じゃアねェーよ、クソが。

 この俺様、空の大怪獣ラドンの“甥っ子”を攫っておきながら、いざ追いかけたら小癪にミサイルなんか撃ち込んできやがって。もーぜってー許さねえ、ここにいる人間どもは全員一人残らずジャパリパーク……じゃなくて地獄の一丁目に送り込んでやる。

 俺様怒りの猛追跡、お得意のソニックブームで航空部隊の戦闘機を何幾か叩き落としてやったあと、続いて俺様はさっきミサイルを撃ち込んできた戦闘機の一機に食らいついてやった。鋭利なクチバシで尾翼を啄まれ、ミサイル野郎の戦闘機は一気に航行不能になる。

 その途端、パカッと戦闘機の頭の部分が取れて、中に乗っていたパイロットの人間が宙へと飛び出した。

 

〈脱出!〉

 

 なるほどー、こういうふうに乗ってる人間だけを逃がす仕掛けなのね~……と俺様が納得する間もなく、戦闘機から発射された人間は絶妙なタイミングで俺様の口の中へ。

 ぱくー。

 

〈ど、ドハティーッッ!!〉

 

 俺様に頭から喰われたパイロット、どうやらドハティとかいう名前だったらしい。そのドハティさんが死んだのを受けて、Gフォース航空部隊の戦闘機たちはより一層奮起して俺様へと挑みかかってきた。

 

〈くそう、ドハティがやられた!〉

〈この鳥野郎、よくもドハティを!〉

〈仇を獲ってやるぜ、ドハティ!〉

 

 むしゃむしゃごくん、愛されてんなドハティ。っつーか仇とか知るかよっ、テメーから飛び込んできたんだろうがっっ。

 まあそんな俺様のツッコミなど、人間どもは知る由もなく。

 

〈くたばれ鳥野郎!〉

〈ドハティの仇だ!〉

〈人間サマの力を思い知らせてやるぜっ!〉

 

 Gフォース航空部隊の戦闘機たちが一斉に機体を翻し、そして一斉に俺様へ銃火を向けた。

 人間どもが俺様を罵る言葉には恨み辛みが籠りまくっているが、そこはプロの兵士なので戦闘機を操る動きは飽く迄も冷静だ。

 戦闘機に搭載された25㎜重バルカン砲による一斉射撃、ハイテクと技量で精密に統制された猛烈な弾幕が俺様へと襲い掛かる。下手な怪獣ならここで蜂の巣、一巻の終わりってやつだろう。

 

 まあ俺様、平気だけどな!

 

 人間どもによる豆鉄砲の雨霰、その猛烈な暴風雨を俺様は顔面から優雅に受け流す……いや目元に喰らうと地味にちくちく痛てえな、とか思ってねえぜ。あんまりしつこいんで鬱陶しいとは思ってるがな。

 とはいえ、このままだと俺様のプライドが傷ついて癪に障るのもまた事実。ここはひとつ、Gフォース航空部隊の連中をまとめて“片付けてやる”ことにした。優雅な俺様はさらに優雅に加速、そして戦闘機編隊のド真ん中へと優雅に突貫してゆく。

 

〈ははっ、鳥野郎め、真正面から突っ込んできやがって!〉

〈弾幕はパワーだぜ、25㎜のガトリング弾幕を喰らえぇっ!〉

〈七面鳥撃ちにしてやるぜえっ!!〉

 

 人間どもが勝ち誇るのを横目に俺様、翼の角度を微細に捻ってジェット噴射を巧みに制御。マッハの高速飛行に横向きの動きを加えることで、俺様の巨体が回転を始める。

 

〈な、なんだ……!?〉

〈こいつ錐揉みし始めたぞ……!?〉

〈なにをするつもりだ……!?〉

 

 人間どもが訝しむ中、俺様の回転はいよいよ加速してゆき、目にもとまらぬ猛回転となる。

 

〈お、おい、気流が……!?〉

〈ま、まずいぞ、衝撃波が拡がって……!?〉

〈まさかっ……!?〉

 

 ……はんっ、自分たちが逆転されつつあることに今さら気がついたか。だがもう遅い。

 この俺様、空の大怪獣ラドンの飛行にはジェット噴射の衝撃波:ソニックブームが付き物だ。そこに回転が加われば……?

 

〈ラドンから離れろっ!〉

〈さ、散開するんだあっ!!〉

〈散れ、散れーっっ!!〉

 

 慌てて逃げ出そうとするGフォースの航空部隊だったが、もはや手遅れだ。

 最大翼長200メートル、総重量2万トンに及ぶ巨体が巻き起こす大回転が、灼熱の高温を伴う激烈な気流をを引き起こし、燃える暴風とでも言うべき激震がGフォース航空部隊の戦闘機編隊へと襲いかかった。

 それはまさに空の大怪獣ラドンの象徴、大火山の噴火と荒れ狂う暴風の併せ技。人間ども御自慢のハイテク最新鋭戦闘機どもとて、こんなんまともに喰らったら一巻の終わり。

 つまり、お陀仏である。

 

〈ぎゃーっ!!〉

〈ぐわぁーっ!!〉

〈うわあああーっ……!!〉

 

 ……え、なに、『ゆで理論かよ』って? うるせえな、怪獣プロレスで常識にとらわれてはいけないのであーる! ゴジラだって放射熱線で空を飛……え、知ってる? じゃあ助走つけてからのドロップキックで宙に浮くのは? うん、それも知ってる? あ、そう……。

 とにもかくにも、護衛していたGフォース航空部隊の戦闘機どもは一匹残らず殲滅された。残るは遠い空を飛ぶモナークの輸送機、ただ一機だけ。

 

 ……ちっ、Gフォース航空部隊とじゃれついてたら、随分と距離を稼がれちまったぜ。

 見ればあのモナークの輸送機、もうあんな高いところにいやがる。俺様がそうやって見上げた視線の先、空高い果てで、モナークの輸送機は悠々と薄雲の中へ消えようとしていた。あいつら、このまま姿を晦ます気か。

 そうは、させねぇ。

 俺様、引き離された距離を取り返そうとジェット噴射で急加速のうえで急上昇。そして一気に巻き上げる。

 

〈ラドン、当機6時の方向から接近! 接触まであと30秒っ!〉

〈くそっ、もっとスピードは出ないのか!?〉

〈無理ですっ、もうこれ以上スピードは上がりません……っ!!〉

 

 モナークの輸送機の中で人間どもがパニくってるのを他所に俺様、とうとうモナークの輸送機の真後ろへぴったり追いついた。そして両足のカギ爪を構え、モナークの輸送機を捕まえようと伸ばす。

 ……ベビー、さぞ怖かったろうな。さあアドノア島に帰ろう。

 俺様が心の中でそんなことを思った、まさにそのときである。

 

 

 突如、鋭い稲妻がモナークの輸送機を襲った。

 

 

 ……な、なんだァ!?

 俺様が見上げると、人間どもとの追いかけっこで夢中になっているあいだに、頭上の空にはいつの間にか濃厚な黒雲が立ち込めていた。馬鹿なっ、ついさっきまで天気は悪くなかったはずなのにっ。

 そしてモナークの輸送機はというと、

 

〈メーデーメーデー!!〉

〈メインエンジン停止ッ!!〉

〈緊急着陸します……っ!!〉

 

 どうやら落雷の影響で電気系統がイカレちまったらしいモナークの輸送機は、動力機関部から黒煙を噴き出しながらよろよろと減速。空を飛ぶ高度も次第に落ち、最寄りの島へゆっくり落ちてゆく。

 だが落下先のポイントが問題だった。

 

〈エンジン停止っ、制御不能ですっ!!〉

〈このままだと岩場に……っ!!〉

 

 モナークの輸送機がよろよろと向かっている先は、無人島の岩場。しかし輸送機はエンジンから火を吹きながら完全に制御を失っており、このままじゃあ無事な不時着なんてまず無理だ。しかもスピードも落ちているとはいえ飛行速度は未だ時速数百キロ、こんな鉄のガラクタみたいな華奢な輸送機が地表へぶつかれば呆気なく潰れてしまうだろう。

 ベビーが危ない。

 そう思った途端、俺様は勝手に体が動いてた。俺様は限界をも超えてさらに加速、モナークの輸送機へと追いすがる。

 

〈機体強度限界ですっ、これ以上は……!!〉

 

 輸送機の乗組員たちが墜落死を覚悟する中、俺様はまだ諦めちゃアいなかった。

 とうとう墜落したモナークの輸送機、俺様はとっさにその落下地点へ先回り、巨大な両翼を広げた格好でモナークの輸送機を真正面から受けとめる。

 

〈ラドン……!?〉

 

 そして接岸、着地。壮絶な轟音と砂礫をハジき飛ばしながら、俺様なんとか背中から着陸する。

 

 ……痛ってえェ~~~~ッッ!!

 

 俺様、戦いで背中から墜ちたことは何度でもあるんだけどよ、『何かを抱き止めながら』ってのは初めてなのよな。ろくに受け身もとれないまま岩場へ背中を打ち付けた上にひどく擦り付ける形になり、肺からすべての空気が叩き出されて呼吸難になる。

 だがその分、墜落の衝撃はすべて俺様が引き受ける形になった。落ち着いたところで胸の中に抱いたモナーク輸送機を見てみれば、左右の翼がヘシ折れちゃあいたが本体部分はほぼ無傷である。

 そして肝心な中身はというと。

 

〈助かった、のか……?〉

〈ラドンが、助けてくれた……!?〉

 

 中身はしっちゃかめっちゃかみてぇだが、人間どもは誰一人死んでいなかった。そしてもちろん、ベビーゴジラも無事だ。

 ……あー良かった。密かに安堵した俺様が、咳き込みながら身を起こしたときである。

 

 

 舞い降りたのは、巨大なシルエット。

 

 

 ……まず印象に残るのは、まばゆいほどに光輝く黄金の巨体。身の丈は100メートルを軽く越え、特に左右に広げた翼長は片側だけでも150メートル以上。その広大さと言ったら、頭上の空を覆い隠してしまうほどだ。

 それに尻尾もまた異様だ。長く伸びた尾は根元から二股に別れていて、それら自体がもはや別種の生き物のように不気味にのたくっている。その先端には、これまたトゲつき棍棒めいた凶悪な突起が無数に生えていて、震えるたびに棘が擦れてカサカサと威嚇音を立てている。

 そしてなにより眼を引くのは、何と言ってもやはり3本首だろう。特大サイズの大蛇のような長い首が3本、胴体から堂々と伸びている。そこからすらりと見上げた頂上には、邪悪なドラゴンの顔が3つ並び立っていた。頭から何本も聳え立っている角の堂々たる威容と言ったら、まるで覇王が王冠を被っているかのようだ。

 黄金の三頭竜、まさに宇宙の帝王。総じて、地球上のどんな生物にも似ていない禍々しい異形だが、しかし俺様はそいつのことをよぉーく知っていた。

 ……忘れもしねぇ。かつて地球に飛来し、怪獣王ゴジラと覇権を争った挙句に『怪獣大戦争』を引き起こした恐るべき宇宙超ドラゴン怪獣。

 ヤツの名は、

 

「キングギドラ……っ!?」

 

 宇宙超ドラゴン怪獣、キングギドラの来襲。

 あまりのことに愕然とする俺様を余所に、キングギドラは長い3本首を優雅にゆらりとくねらせながら、ぞっとするような悪鬼の笑みを浮かべて告げた。

 

「……やあやあ、久しぶりではないか、ラドン」

 

 ……ここで俺様、ようやく悟ったね。

 モナークとGフォースの奴らがベビーゴジラを攫ったのは、ベビーを研究標本にするためなんかじゃあなかった。人間どもの狙いはむしろこの俺様、空の大怪獣ラドンを誘き出すこと。

 

 そして行き着いたその先で、俺様とキングギドラを戦わせることだったのだ。




書き溜めが尽きた

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