前略、天国のオトッツァン、オッカチャンへ。
あなたたちの最愛の――だったかどうかは知らねえが、まあそういうことにしとくぞ――息子であるこの俺様、空の大怪獣ラドンは今、史上最大のピンチに立たされています。
居候のベビーゴジラを拉致られたので取り返そうと追いかけていったら、行き着いた先で宇宙超ドラゴン怪獣キングギドラが待ってました。
……ふむ、オーケイ、なるほどな。
人間どもがベビーゴジラを攫いやがったのは、俺様こと空の大怪獣ラドンをキングギドラにぶつけて戦わせるためだったってわけか。人間め、俺様はともかくいたいけなベビーゴジラまで巻き込みやがって。
つ く づ く 見 下 げ 果 て た カ ス ど も だ ぜ ! !
……なーんて、憤ってる余裕は今の俺様にはなく。
「これはこれは! 久しいな、我が友ラドン」
ここで俺様、キングギドラに話し掛けられてようやく我へと返る。そーだ、そーだよ、そーだった。人間どもなんぞに怒るより先に、目の前にいるキングギドラをどうにかせにゃならんのである。
そんな俺様の心境を知ってか知らずか、キングギドラは長い首をくねらせながら気さくに話し掛けてくる。
「ラドン、我らのいない間も息災であったか? まあ、その様子では『相変わらず』と言ったところだろうが」
そう語りかけるキングギドラの態度は、まるで昔懐かしい旧友にでも会ったかのような、そんな気安さすら感じられた。
……逆にこえーよ!
キングギドラの野郎から見ればこの俺様ラドンは、かつての『怪獣大戦争』でキングギドラ陣営のナンバー2を務めておきながら戦後あっさり寝返った存在である。ゴジラに輪をかけて器の小せえギドラの野郎が、そんな裏切り者の俺様を赦すはずがない。
……と、とりあえず、なんか喋るか。いつまでも黙りこくってるわけにもいかないので俺様、ようやく口を開く。
「ええっと、これはこれはキングギドラ様、本日は大変お日柄も麗しゅう……」
「オイオイおいおいラドンよう、オメー目ん玉ついてんのかア?」
俺様がせっかく時候の挨拶を述べようとしてんのに、ギドラの首の一本が口を挟んできやがった。
「見ろよこの悪天候、どこが麗しゅうお日柄なんだよwww」
そうやって茶々を入れながらゲタゲタ笑い転げる、キングギドラの右の首ことギドラ二郎。相変わらずうぜえキャラしてんな、ギドラ二郎。まあ言うと殺されるから言わないが。
続けて今度は左の首が、ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべながら言う。
「そうだよう。俺たちギドラがこの星に来たら天候なんて悪くなるに決まってるのに~。ねー、一郎アンチャン?」
そう笑いかけるキングギドラの左の首は、ギドラ三郎。キングギドラの三本首の中では一番トロい性格の三男坊である。
そんなギドラ三郎に水を向けられた真ん中の一番長い首、ギドラ一郎は威厳たっぷりの様相で答えた。
「こら三郎、我を呼ぶときは『アンチャン』ではなく『兄』と呼べと言っておろうが!」ガブー
「いてて、ごめんよお、アンチャン!……」
自分で自分の首に噛みついて折檻するキングギドラ。なんだかシュールなコントみたいな光景だが、決して笑っちゃいけない。迂闊にこの光景を笑った奴は、だいたいキングギドラによる苛烈な制裁の果てに死の運命が待ち受けている。
そう、キングギドラは三つの首を持つが、実は首ごとに微妙に性格が違う。リーダー格のギドラ一郎に、好戦的でイカレたギドラ二郎、そしてボンクラ与太郎のギドラ三郎だ。
キングギドラの首、キャラクターは三者三様だが、その共通点は『とにかく残忍で意地が悪いこと』。どの首を怒らせたとしても俺様は間違いなくデッドエンドである。
「ま、まあ、お日和はともかく、復活されたようで何よりです……」
そうやって平伏し、ひたすらご機嫌取りに徹する俺様。怪獣としての格はもちろん、実力だってキングギドラの方が上だ。下手なことをすりゃあ命取り、ここはとにかくおべっかとお世辞でスッとぼけ通して、ひたすら誤魔化すしかね~っ!!
……と考えていて俺様、気づいたね。
……ギドラの奴、俺様が裏切ったことに気づいてないんじゃあないかしらん?
考えてみればキングギドラの奴、『怪獣大戦争』のときに地球から叩き出されてから殆ど地球には戻ってきていない。ということは、その後の地球の顛末についてはまだよくわかっていないはずだ。もしそうならこの俺様、空の大怪獣ラドンがキングギドラ陣営を離反したかどうか知らない可能性だってあるのでは……?
そんな俺の読みは、次の言葉で裏付けられることになった。
「ラドン、大戦のその後はどうだ。勝っておろうな、
……やっぱりそうか。ここで俺様の名推理は確信へと変わる。ギドラの野郎、怪獣大戦争が終わったことにすら気づいてないんだ!
俺様の明晰な頭脳は、即座に勝利への方程式を弾き出す。俺様、すかさずこう答えた。
「ええ、我が軍が優勢でございます! 勝利は目前でしょう!!」
……そう。ここで俺様が取ったのは『ひたすらご機嫌取り作戦』である。ここはキングギドラの奴を上手く煽てて、適当に機嫌良くなったところで上手く唆してお帰り願うか、もしくはゴジラの野郎がスッ飛んでくるだろうからそれまで時間を稼ごうって寸法だ。
……『怪獣なんだから堂々と戦え』って? うるせえな、俺様は強い奴にへつらうんだよ。どうせ俺様はゴマすりクソバードだよ、ギドラみたいな大物相手に真正面から戦って勝てるわけねえだろうが。
そんな俺様の本音と裏腹の態度だったが、キングギドラの野郎は気づきもしねえようだった。
「ふむ、ラドン……我が軍の勝利が目前と。実に重畳……」
ギドラ一郎が、重厚な声で答えた。俺様、思わず息を飲む。ここで下手なことを言って命を粗末にするほど、俺様はバカじゃねぇ。とにかくここは全力で媚びへつらうしかない。
「ええ、すべてはキングギドラ様の高潔な指導と、圧倒的なカリスマのおかげですとも! このワタクシ:ラドンも常にギドラ様の栄光をお支えしたく、全力を尽くす所存でおります~……!」
心にもない言葉を並べ立てながら、ギドラに向かって這い蹲る俺様。情けない? うるせえバカ。ひたすらギドラのご機嫌を伺う。とにかくそれしか今の状況を乗り越える道はないのだ。
そんな中、今度はギドラの二郎と三郎が口を開いた。
「おいおい、ラドンよぉ~? オメェ、そんなに媚び売っちゃって大丈夫かァ~? 昔から、ゴマすりの名人だったよなァァ~??」
見上げると、ギドラの二郎の野郎はこれまた意地の悪い笑みを浮かべて、俺様を見下ろしていやがった。
……そう、ギドラ二郎は陰険で、こうやって相手を挑発して揺さぶって玩具にしたがるタイプだ。ここで少しでも動揺を見せれば、付け込まれて引力光線で爆死させられるのは火を見るよりも明らか。
俺様、焦りをぐっと抑えさらにへりくだることにする。
「いやいやいやいや、ギドラ二郎様の仰せの通りですとも! 俺様はギドラ様の栄光を称えるのが何よりの喜びでございますですよ……あっ、いえ、しかし、決して調子に乗ってるわけではございませんので! 全てはキングギドラ様のため! 誠心誠意、心を込めてお仕えしておりますですよ、はい……!!」
必死に平伏しながら、頭を垂れて二郎に応える。何としてでも、この場は誤魔化さねばならない。ここで俺様の忠誠心が疑われたら、三つの首から八つ裂きにされて即終わりだ。
そこでギドラ三郎が、感心したように溜息を吐いた。
「ふぅ~ん……ラドン、お前、意外と律儀なんだなぁ。俺、ちょっと感心しちゃったよぉ~」
ギドラ三郎は一番のヌケサクだが、油断してはいけない。ここで軽口を叩くと、またギドラ一郎に睨まれる。俺様は、まるで宝物を見るかのように三郎に向かって愛想笑いを浮かべて見せる。
「ギドラ三郎様、お優しいお言葉、感謝いたします! ええ、これからも全力でお仕えいたしますとも! どこまでもキングギドラ様の忠実なしもべとして生きてまいりますです、はい!」
その後も俺様、もう媚びに媚びた全力のゴマすりをかまし続けた。キングギドラの首が動くたびに心臓が跳ね上がるが、何とか平静を保つ。ギドラの野郎が少しでも機嫌を良くしてくれたら、こっちのもんだ。
そんな俺の労が功を奏してか、
「そっかぁ~、まあこれからも頑張ってくれえ」
「オメーは素直すぎるんだよお!」
「なんだよお、二郎アンちゃん!」
「これこれ、よさぬか、我が兄弟どもよ……」
……しめた、ギドラの野郎、俺様を信用し始めている。
俺様は心の中で泣きそうだったが、ここで勝利の道筋を確信し始めていた。ギドラは、怪獣大戦争が終わったことをまだ知らない。このままご機嫌取りで時間を稼げば、ゴジラが何とかしてくれるかもしれない……。
と、思った時のことだった。
「……おじさん?」
……今、確かに聞こえた。いや、絶対に聞こえた。俺様、空の大怪獣ラドンの灼熱の背筋が凍りついた。まさか、このタイミングで……!?
「ラドンおじさーん!」
振り返ってみれば、茂みから無邪気に飛び出してきたのはベビーゴジラだ。頼む、今は本当にやめてくれと心の中で叫んでも遅い。ベビーゴジラは無垢な笑顔で、とてとてと俺様の足元へと駆け寄り、両手を広げてぎゅっと抱きついてきやがった。しかもその仕草ときたら、まるで長年連れ添った親子のように自然で愛らしい。
……平時ならまあ和むでもない光景でもないだろうが、今はタイミングが最悪すぎた。
「おじさん、おじさん!」
「お、オイ、ベビー! おまえ、今は遊んでる場合じゃねえぞ!」
俺様は焦りながら必死に小声でベビーゴジラを追い払おうとしたのだが、ベビーはものともしない。
「ねえ、おじさん、そのひと、だぁれ? モスラみたいな、おともだち?」
そう言いながら、ベビーゴジラは何にも疑うことなくまっすぐに俺様の方へ駆け寄ってくる。
まったくもって愛くるしい、実にピュアすぎる笑顔だが、その笑顔は今の俺様にとっては地獄への片道切符だ。
「……おじさん、だと?」
途端、背筋が凍りつくような感覚を覚える。
振り返るとギドラ一郎が静かに、だが明らかに怒気を目線で俺様を睨みつけていやがった。ヤベェ、完全に誤魔化しきれなくなった。俺様の計画はこの一言で崩れ去ったのだ。
右の首、ギドラ二郎はキヒヒヒと笑い始め、左の首、ギドラ三郎は不思議そうに目を瞬かせた。
「おいラドンよぉ、オメェ、ゴジラとつるんでやがったのかぁ~?」
「こいつゴジラの子供じゃん。いったい、どういうことだい、ラドンよお?」
「……これで忠誠とは、ふざけたものだな」
「ち、違うのです! 違うのでございます! え、えっと、これは、その……!」
ギドラ二郎の声には明らかな嘲笑が、それにボンクラのギドラ三郎にさえ明らかに懐疑の様子が混じっている。
……クソ、こうなったら。俺様は両翼を広げ、ベビーゴジラを庇う姿勢を取った。
「お待ちください、ギドラ様! 実はこれには海よりも深く、山よりも高い理由がございましてですね……」
「ほう?」
俺様、ここで得意の出任せを並べ立てた。
「ベビー、いや、こいつを育てているのは、将来に向けた投資なのです! 将来キングオブモンスターになるかもしれない子供を、今のうちから懐柔しておけば……!」
「……なるほど」
あまりに苦しい言い逃れだったが、キングギドラも納得しないものも無かったらしい。
キングギドラは三つの首を寄せ合わせ、ゴソゴソと何事か相談を始めた。その間も、黄金の鱗がギラギラと不吉な輝きを放っている。
「まあ、筋は通っていないことも無いがな……」
「どうする兄者……?」
そんな中、一番のヌケサク:ギドラ三郎が突然思いついたように言い出した。
「あ、そうだ! ねえねえ一郎アンちゃん、いいこと思いついちゃった!」
ギドラの一郎と二郎、三郎へと振り返る。
「なんだ三郎、珍しく考え事とやらをしたのかよ?」
「へっへっへ、たまにはね! ラドンがホントに味方かどうか、試してみようよ!」
「『ラドンが味方かどうか』?」
「なあに、簡単なことさ!」
怪訝な様子を見せるギドラ一郎と二郎に対し、三郎は得意気な表情で答えた。
「そこにいるベビーゴジラを、ラドンに殺させればいいんだよ!」
「……ベビーを、殺せ?」
その瞬間、俺様は思わず呼吸を止めた。クソッタレな要求は散々聞いてきたが、ここまで嫌な冷汗が背中を伝うのは、何年ぶりだろうか。目の前で黄金の三首が揺らめき、まるで俺様の内臓を透かし見るかのような嘲弄に満ちた視線を投げかけてくる。
その提案に、ギドラ一郎も二郎も目を見開いた。そして三つの首が揃って、不気味な笑みを浮かべる。まるで獲物を追い詰めた毒蛇のように。
「……ほう、三郎にしては上出来だ」
「へぇ~、たまにはいいこと考えやがる」
「えへへ、でしょ? じゃあラドン、お前の忠誠心を見せてもらおうかな~!」
……こいつ、すっとろのボンクラだけど、やっぱりギドラなんだよな。嬉しそうに最低最悪の結論を述べるギドラ三郎を眺めながら、その現実を俺様はいまさら思い出していた。
そんな俺様に、キングギドラの三本首が畳みかけてくる。
「さあ、なにをためらっているのだ? 我らの敵、ゴジラの子供ではないか?」
「キヒヒヒ、そうだぞラドン、殺して当然だろう?」
「それともまさか、『ゴジラの味方をしよう』なんて言うんじゃあないよねぇ~?」
キングギドラに迫られる一方、ベビーの奴は不安げに震えながら、俺様の翼へ必死にしがみついてきやがった。
「ラドンおじさん……?」
……あーあ、ついに来ちまったよ。いつかこーなる気はしてたんだよなァ。
こんなことになったのも全部このガキが悪いのだ。アドノア島に流れ着いた卵なんざ、最初から食っちまえば良かった。卵焼きでも茹で卵でもスクランブルでも、あのとき始末しておけば今頃こんな面倒な目には遭わずに済んだはずなんだ。
「どうしたの、おじさん……?」
背後で震えながら俺様の翼にしがみつく疫病神のベビーを見て思う。
……ほらみろ、こうやって『おじさん、おじさん』ってよ。だからあんときから散々言っただろうが、俺様はおまえの親でもなきゃ親戚でもねえんだって。
ゴジラ=ザウルスの本能ってのは間違えることだってあるんだ。早いうちに言っとけばよかったんだ、はっきりと。おまえの『本当の親』はもっと強くて、デカくて、放射熱線も撃てる立派なゴジラなんだって。
そう思ったちょうどそのとき、ピロピロケタケタとキングギドラたちの笑い声が響く。
「どうした、ラドン。いつもの功利主義はどうした?」
「かのキングギドラ軍団のナンバー2が弱っちい奴に情けをかけるなんて、なあ?」
「まったく、ラドンらしくないよねぇ!」
そうだそうだ! ギドラ様の言う通りだぜ!
常に強い者の味方、一番よりナンバー2、そしてなにより物凄く弱い。それが俺様だ。さっさとこのガキを差し出しちまえばいいはずなんだ。一年くらい面倒見たからって、なんでそんなに執着することがある。
だが、今この場面で、舌先三寸の軽口がどうにも出てこない。口内が砂漠みたいにカラカラに乾いて、喉に引っかかった声はかすれて出ない。翼の先が微細に震える。
なぜこんな些末なガキ一匹を前に、固まってやがるんだ、俺様は。
ちらりと背後を見る。
「おじさん……?」
ベビーが不安そうに、けれどまだ信頼を帯びた瞳でこちらを見上げている。
そう、こいつは全然疑っちゃいない。「ラドンおじさん」が自分を守ってくれると、本気で信じきっている。笑わせるぜ。こんなゴマすりクソバードに、そんな崇高な役割を押しつけるんじゃねえよ。
「さっさとやっちまえよぉ、ラドン」
ギドラ二郎の、あのイラつく声。
普段なら、ここで俺様はヘラヘラと媚びを売って切り抜けていたろう。それが俺様の生き方だ。そうだ、いつもなら何のためらいもなく引き受けるか、あるいはうまい言い訳をひねり出してお茶を濁すくらい、やってのけるはずだ。
そうだ、ベビーを差し出せばいい。そうすりゃ、いつもの通り、生き延びられる。ずっとそうやってきたんだ。
……なのに今は、なぜかその「いつもの選択」がどうしても指先一つ動かして踏み切れない。腹の底が煮え立つような苛立ちと、理解しがたい葛藤が渦を巻いている。
なんでだ。なんで俺様はこの場でゴジラのガキなんぞを庇おうとしている?
状況を冷静に考えりゃ、どう考えても損だ。ギドラを敵に回したら命はない。ゴジラの子供? 知ったことか。わかってる。わかってるはずなのに、翼が、足が、どうにもベビーを踏み潰す方向へは動かない。
(くそ……何を迷ってんだ俺様は)
内心で毒づきながら、気づけば俺様はベビーの前に翼を広げていた。「なんで?」と問うても、自分でも答えが出ない。
ただ、こうでもしなきゃ俺様はこの瞬間を後で振り返って、きっと後悔してしまうんじゃないか――そんな馬鹿げた予感が、胸の奥底で黙っていない。
……ゴマすりクソバードな俺様だって、たまには少しくらいガラにもない真似をしたっていいだろう。そんなことをふと思った。
「……ナメるなよ、
……クソが。
……めんどくせえ。
……俺様ってばホントに、ラッキーじゃねえ。
これが『親心』ってヤツか? いや違うだろうなァ。違うに違いねえ。だってこの俺様がそんな立派なもん持ってるわけねえじゃん。ただの気紛れ、気まぐれ、その場の感情に流されただけのことさ。
「生きた絶滅現象、黄金の終焉だァ? 本当に終わってんのはてめえらだろうが、クソ野郎」
俺様がそう言った途端、キングギドラの三つの首が、一斉に俺様を睨みつけてきやがった。
「なんだと……?」
「たとえゴマすりクソバードと呼ばれようとなあ、矜持ってもんがあるんだよ。コケにするのもいい加減にしやがれ、このクソ野郎が」
三つの首から放たれる冷たい視線の先で、俺様は片翼でベビーゴジラを庇いながら、もう片方の翼を大きく広げて応戦の構えを取った。
「ああ、そうとも。まったくもって俺様らしくねえ。こんなクソガキの面倒を見てるうちに、俺様も随分と性根が腐っちまったみてえだ」
……まったく、なんでこんなことになっちまったんだか。
いつだって勝ち馬に乗り、強い奴の味方をして、そうやって抜け目なく立ち回ってきたはずの俺様なのに。なのに今は、人間どもにも利用され、キングギドラにまで喧嘩を売って、こんなガキのために命を張ろうとしている。
そう思いながら、俺様は背中にしがみついてきたベビーゴジラに声を掛けてやった。
「……ベビー、よく聞けよ。ここから俺様が言うことを、しっかりと覚えておくんだ」
「う、うん……?」
今までの一年間、俺様はこのガキに色々なことを教えてやってきた。怪獣としての戦い方や、人間との付き合い方。そしてなにより大切な『生き様』。まさか、この俺様がそんな大層なことを教えることになるなんて思ってもみなかったが。
「おまえはなあ、本当は誰よりも強い怪獣なんだ。こんなせっこいゴマすりクソバードなんか目じゃねえくらいにな」
「そ、そんなことないよ、おじさん……」
「いいから聞け!」
いつにない俺様からの一喝に、ベビーは姿勢を改める。
……これでよし。俺様は続けた。
「だが、おまえが戦うのは今じゃァねえ。じきにおまえの親戚だか遠縁だか、とにかく本当の仲間が助けに来てくれる」
そう言って俺様、ベビーゴジラを促した。
「……行け」
「え……?」
「人間どもの飛行機の中に逃げ込め。そこなら、この黄金野郎の攻撃も直撃しねえはずだ」
そう告げる俺様に、ベビーゴジラは不安げに聞いてきた。
「おじさんは……?」
「俺様か? へっ、心配すんな。空の大怪獣だぜ? こんなの、朝飯前よ」
まったくの嘘である。むしろ俺様にとっては地獄の夜食くらいのレベルだ。宇宙超ドラゴン怪獣キングギドラとの一騎打ち、しかも子供を庇いながらの時間稼ぎとか、ここまで分が悪い戦いも珍しい。
でも、俺様には覚悟が決まっていた。
「いいから行けよ! このままじゃあ、俺様の格好いいところが台無しじゃねえか!」
そう叫ぶ俺様の言葉に、ベビーゴジラはようやく重い腰を上げた。
「……ラドンおじさん、がんばって!」
振り返りながら手を振って、ベビーゴジラは基地の避難所へと駆け込んでいった。
……よし、これで後顧の憂いなしだ。
キングギドラも、ベビーゴジラを逃がした俺様の態度にとうとう我慢の限界を迎えたようだった。
「ラドン……てめえ、我らを裏切る気か」
「キーッ! よくもふざけやがって!」
「こうなったら仕方ないよねぇ!」
巨大な黄金の三頭竜が、三つの首を大きく広げて咆哮する。頭から生えた角がぎらつき、尾の先端の棘が不気味に蠢く。今にも引力光線を放とうとしているその姿は、まさに宇宙からの破壊の化身そのものだった。
負けじと俺様、雄叫びを上げた。
「金ぴか野郎ごときが、この空の大怪獣をナメるなよ!」
俺様は両翼を大きく広げ、迎え撃つ姿勢を取った。翼からほとばしる灼熱の炎が周囲の空気を焦がし、大地を焼き尽くす。上空では黒雲が立ち込め、まさに天変地異の様相を呈していた。
空の大怪獣ラドン、宇宙超ドラゴン怪獣キングギドラ。
二大怪獣による、最終決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。
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