アーククレイドル消滅から数日後
ガレージ
「・・・そうか、わかった。」
遊星はため息をつきながら、牛尾との通話を切った。遊星たちは牛尾と狭霧に事情を話し、来人の行方を捜索してもらっていた。消えてしまった可能性はあるが、わずかな望みに賭けていた。
「・・・今週で、来人の捜索をやめるそうだ。」
「・・・・そうか・・・。」
ガレージの中は暗い雰囲気に包まれる。そこに元気のない龍亞が入ってくる。
「龍亞・・・・・龍可は?」
「・・・・。」
龍亞は静かに首を横に振った。
「あれから部屋から出てこないんだ・・・。ご飯も、食べて・・・なくて・・・。」
龍亞の目に涙が浮かぶ。
「ら、来人の部屋見たら・・・俺たちのあげたプレゼント・・・ゴミ箱に入ってて・・・。」
「あいつ・・・そこまで・・・!」
「龍亞、あれは持ってきてくれたか?」
「あ・・これ!」
龍亞は持っていたノートパソコンを取り出す。来人が普段使っていたものだった。わずかでも手がかりを求め、龍亞が来人の部屋から持ってきたのだ。
「何か手がかりがあればいいのだけれど・・・。」
アキは来人のパソコンを覗き込む。
「・・・ん?」
パソコンを操作していた遊星の手が止まる。
「どうした遊星?」
「このファイルにだけパスワードがかかっている。」
遊星が指さしたのは『記録』と書かれたフォルダーだった。
「ふん、こんなもの!」
ジャックはパスワード画面に『来人』と打ち込む。しかし、当然フォルダーは開かれない。画面には『名前が五人足りません』と表示される。
「自分の名前パスワードにしてるヤツがいるかよ。つうか、遊星ならすぐ開けられるんじゃねえか?」
「パスクラッカーを使えば、すぐにわかるが・・・来人のことを考えると、おそらくパスワードはこれだ。」
遊星は『不動遊星 ジャック・アトラス クロウ・ホーガン 十六夜アキ 龍亞 龍可』と打ち込んだ。するとロックされていたフォルダーが開かれた。
「俺たちの名前だと・・・?」
「なるほど・・・来人は俺たちの監視が役割だったからな。それで俺らの名前がパスワードになってたわけか。」
「いったい何が入ってるのかしら?」
「中身は・・・。・・・! これは・・・。」
「! 何があったの!?」
涙を拭い、龍亞は遊星に駆け寄った。
「これは・・・文字通り記録だ。来人の書いた俺たちの監視記録だ。」
「俺たちの監視記録だと? ふん! 何を書いたか見せてもらおうか!」
ジャックに促され、遊星は『監視記録』と書かれたファイルをクリックした。
【監視記録】
『ルドガー・ゴドウィンによって、モーメントの暴走発生を確認。しかし、未来は変わらず、モーメントは消滅しなかった。やはり、この計画を行うしかない。精霊の最後の力を使い、ダークシグナー出現前に時間移動する。シグナーを監視し、ダークシグナーとの戦いを陰から見届ける。全てはよりよき未来のために。』
【監視記録】(第1話付近)
『この街で情報屋として名を通してしばらく経った。雑賀から依頼の斡旋があった。依頼したのは驚いたことに不動遊星だった。一度は接触を断ろうかと思ったが、ここで信用を得ておけば、今後の計画がスムーズに進むと考え、依頼を受けた。思わぬ誤算だが、これは面白い。シティを救った英雄・・・どんな人間か見せてもらおう。全てはよりよき未来のために。』
【監視記録】(第2話~3話付近)
『立て続けにシグナーに接触した。最も、まだアザは現れていない。龍亞、龍可と話してみたが、到底シグナーになるとは思えなかった。そんな中、治安維持局の胡散臭そうなピエロが接触してきた。レクス・ゴドウィン・・・どこで俺をかぎつけた? ここは知らないふりをして、フォーチュンカップとやらに参加することにする。全てはよりよき未来のために。』
【監視記録】(第4話~第11話付近)
『フォーチュンカップでジャック・アトラスを確認した。大方、レクス・ゴドウィンに担ぎ上げられ、裸の王様をやっているというところだ。そして本人は全く気付いていない。まあそれはそれとして、会場には不動遊星、龍可、ジャック・アトラス、十六夜アキを確認。これでシグナーは4人。こいつらが本当に未来を変えられるのか、確かめていきたい。全てはよりよき未来のために。』
【監視記録】(第12話~第26話付近)
『ダークシグナーとの戦いが終わった。俺自身も予想以上に巻き込まれる形になったが、これであいつらの信用は完全に得た。あいつら自身、この戦いの中で成長し、その先の未来をつかみとった。だが・・・未来に変化はない。やはり、破滅の未来は、変わることはないのだろうか・・・。心の中で大きな落胆があった。だが同時に心の中がざわつくような・・・そんな感覚があった。・・・期待するな。今更どうなるものでもない。俺は俺の役目を全うするだけだ。全てはよりよき未来のために。』
【監視記録】(第27話~第55話付近)
『妙な流れでデュエルアカデミアに入ることになった。断ると面倒そうなのでとりあえず入っておく。アカデミアの連中と話していると不思議と楽しさがあった。ゾーンたちといたときとはまた違う楽しさだった。だがいずれはこいつらの未来を奪う。未来のためだ。仕方ないことだ。・・・なぜか言い聞かせるような感覚がある。なぜだ・・・。全ては、よりよき未来のために。』
【監視記録】(第56話~第61話付近)
『計画通りだ。アポリア・・・今はルチアーノが接触してきた。あいつ、俺とは気づいていなかったようだが・・・ちょいとお灸をすえてやったから大丈夫だろう。それに奴のおかげで思わぬ収穫があった。精霊実体化の力だ。さて、どこで使おうか・・・。全ては、よりよき未来のために。』
【監視記録】(第63話~第69話付近)
『おかしい・・・計画にはなぜか俺のデュエルも計算に入っているようだ。それに聞いていた計画とは齟齬がある。ブルーノ・・・いや、アンチノミーが記憶を消されている。ゾーン・・・一体何を考えている? ・・・あんたもまだ、あいつらの可能性を信じているのか? わからない・・・わからない・・・。全ては・・・よりよき未来のために・・・。』
【監視記録】(第70話~第79話付近)
『WRGPが始まった。順調にサーキットが描かれている。・・・だが今、俺は二つの答えに揺れている。このままゾーンの計画を進めるか、あいつらが未来を変えると信じるか・・・。ゾーンの本心がわからない・・・。そういえば、近々、アカデミアで大会がある。・・・そこで優勝したら・・・・・・・・あいつらを信じて、みよう・・・。全ては・・・よりよき未来のために・・・。』
【監視記録】(第80話~第91話付近)
『アカデミアの大会で優勝した。あいつらを信じたい・・・・・ところだが、それではゾーンたちとの時間を裏切ることになる。少なくとも、アポリアはまだゾーンを信じている。一体どうすれば・・・・・』
『しばらくの間考え、一つの計画を思いついた。幸か不幸か、超融合のカードを手に入れた。俺の計画に支障はない。全ては・・・よりよき未来のために。』
【監視記録(第92話~第100話付近)
『ゾーンの計画通り、遊星とアポリアのデュエルによってアーククレイドルが出現した。そして、俺の計画もここで発動する。俺は今から・・・あいつらの敵になる。あいつらの敵となり、あいつらの持つ可能性を見せることで、ゾーンに納得してもらう。そして・・・敵となった俺は、あいつらに裁かれる。遊星たち・・・チーム5D’sなら・・・未来を変えることができる。だがあえて、あいつらには言わない。俺自身も、俺を騙し、あいつらを本気で倒そうとする。それで・・・それでいい・・・。全ては・・・よりよき未来のために。』
『情を捨てろ・・・! 今までの全てを否定してでも、俺はあいつらの敵になる・・・!! それが・・・今の俺の役目だ・・・!!』
「・・・・・。」
記録を読んでいた遊星たちは沈黙に包まれた。
「・・・来人・・・!」
龍亞は涙を流しながら、ガレージを走って出た。
「・・・これが・・・来人の覚悟か・・・!」
「来人・・・!」
ガレージから飛び出した龍亞はあてもなく来人を探そうとしていた。
「・・・もう・・・・会えないのかな・・・。」
あてもなく探すのは途方もないと感じ、龍亞の足が止まる。
「・・・来人ぉ・・・! ・・・ぶっ!?」
止まっていた龍亞の顔に1枚のカードが貼りついた。
「な、なんだよ・・・危ないなぁ・・・!」
飛んできたカードに怒りながら、ひっぺがえす。そのカードを見て、龍亞は驚いた。
「こ、このカードって・・・!」
龍亞・龍可の家
「・・・・・。」
龍可は自分の部屋で布団にくるまり、枕に顔をうずめていた。
「・・・来人・・・。」
来人がいなくなったという現実を受け入れられず、目に涙を浮かべる。そしてその涙は枕に吸われていく。
「・・・うっ・・・! うぅ・・・!」
『・・・龍可・・・。』
心配に思ったレグルスが龍可のそばに寄る。
『龍可・・・龍亞が心配していたぞ。・・・だから・・・』
「・・・ほっといて・・・。もう・・・いいの・・・。」
『龍可・・・』
「ほっといてよ!!」
近づこうとしたレグルスを大声で怒鳴り、手で払う。
『・・・・・。』
レグルスは静かに頭を下げ、姿を消した。
「・・・・うぅ・・・!」
また涙が溢れ、流れていく。
『・・・・ぃ・・・!』
「・・・・?」
何かが叫んでいるような声が聞こえる。
「・・・・誰・・・?」
『・・・・ーぃ・・・!』
「・・・? 誰なの・・・?」
眠ろうにも声が気になり、声の主を探しに立ち上がる。
「・・・ぁ・・・。」
ここしばらく何も食べていないこともあり、龍可の体がふらついた。
「・・・・!」
部屋を出たところにコンビニのおにぎりが置かれていた。龍亞が置いていったのだろう。
「・・・・・。」
龍可はそれを抱えて、声の主を探す。
『・・・・! おーい・・・!』
「・・・あ!」
リビングの窓に1枚のカードが貼りついていた。
「・・・これ・・・!」
貼りついていたカードは来人の使っていたおジャマ・レッドだった。