病院
来人の病室
「記憶・・・喪失・・・。」
龍可たちは発見した来人を病院に連れてきていた。診断の結果、龍可たちが思ったように、来人は記憶喪失になっていた。経過観察のため、来人は入院することになった。
「・・・・・。」
来人は窓の外をぼーっと眺めている。
「・・・来人、大丈夫?」
龍可は来人の手を優しく握った。
「・・・どうだろう・・・。」
「え・・・?」
「何も思い出せないからな・・・俺に関することはわからない・・・。不安しかないな・・・。」
「・・・来人・・・・。」
二人の話している様子を遊星、ジャック、クロウ、アキが病室の入口の近くで聞いていた。
「どう思う? 遊星。」
「どうって?」
「わかってるぜ、ジャック。今の来人がどうなのかってことだろ?」
ジャックの問いにクロウがうんうんと頷く。
「今の来人って・・・どういうことなの?」
「今、来人は記憶を失っている。この先・・・記憶を取り戻す日が来るだろう。だが・・・」
「もし戻った記憶が一部だけで、それが俺たちと敵対する記憶だったら・・・。」
「「・・・・。」」
遊星とアキは病室の来人の様子を覗き込む。
「・・・こればかりは、どうなるかわからない。様子を見るしかない。それに、もしジャックやクロウの言う通りになったとすれば・・・その時は、また止めてみせるさ。」
「・・・そうね。今は遊星の言う通りにしましょう。二人とも、今の話、龍亞と龍可にはしちゃダメよ!」
「わかってるって。」
「ふん・・・! 当然だ!」
「・・・・。」
来人について話す4人を遠目から見るひとりの男がいた。
「くくく・・・・・。」
男は帽子を深くかぶり、サングラスをして顔を隠していた。男は遊星たちに気取られないよう、姿を消した。
数日後
龍亞・龍可の家
「・・・広い・・・。」
住んでいたという家に案内された最初の一言だった。
「さ、入って入って!」
立っていた来人の背中を龍亞が急かすように押す。
「龍亞、あまり急がせないで!」
来人はされるがままにリビングに入る。そこではジャックとクロウがなにやら揉めており、遊星とアキは料理や食器を並べていた。
「・・・これは?」
「来人の退院祝いよ!」
「・・・と、そうだ龍可! あれ・・・!」
「! ・・・うん!」
二人は来人の顔を見る。
「・・・?」
「「おかえり! 来人!」」
夜
来人は自分の部屋で机に突っ伏していた。
「・・・ここが・・・俺の部屋・・・。」
自分の部屋だと言われ、通されたが、なぜかどこかしっくりこない感覚があった。
「・・・う・・・!」
頭に痛みが走る。激しい痛みに左手で頭を押さえる。頭の中にある光景が流れ出す。何もかもが破壊しつくされ、崩壊した街。4人の科学者のような男たち。彼らと過ごした日々。それらが流れ込んでくる。
「・・・・今のは・・・誰だ・・・?」
自分を見つけた龍亞と龍可の姿はその光景にはいなかった。さらには仲間だと紹介された不動遊星、ジャック・アトラス、クロウ・ホーガン、十六夜アキの姿もなかった。
「・・・・俺は・・・・・。」
夢の内容が訳がわからず、来人は頭を抱えた。
「えぇ~・・・! まだダメなの?」
来人が入院していたとどこかから聞きつけ、ソラたちがお見舞いに来ていた。
「は、はい・・・まだちょっと体調が・・・。」
「う、うん・・・そういうこと!」
「ふむ・・・そういうことなら、仕方ないな。」
「ですね。ああ、これ、お見舞いの品です。クラスで預かってきました。」
亘は袋に入ったお見舞いの品を龍亞に渡す。
「ソラ、邪魔をすると悪い。オレたちは帰るぞ。」
「・・・うん。」
翔一に諭され、ソラたちは部屋から出た。
さらに数日後
「・・・・・・。」
来人はゴミ箱のデュエルディスク改造パーツを見つけ、デュエルディスクをいじっていた。どうやら、デュエルや機械関係の記憶は失っていなかったようだった。
(また、夢を見た・・・・・。)
新たに見た夢の内容を思い出す。遊星やアキ、ジャックとのデュエルの光景。何かの大会で連勝する自分の姿。その心の底でうずまくどす黒い感情と何かを信じたいような感情。
「・・・・・。」
来人は記憶を失う前の自分の心の内がわからず、天井を仰ぐ。
(俺は・・・一体何をしようとしたんだ・・・?)
その様子を扉の隙間から龍亞と龍可が覗き込んでいた。
「龍可・・・様子はどう?」
「・・・ちょっと待って・・・。レグルス、どうだった?」
どうやらレグルスに様子を見に行かせていたようだ。
『どうやら、今までの記憶の一部を夢で見たようだ。』
「!」
『それと・・・今の来人に私の姿は見えていない。』
「そ、そんな・・・!」
「る、龍可・・・?」
ひどく落ち込んだ様子の龍可に龍亞は心配の声をかける。
「・・・来人、多分記憶の一部を見てるって。」
「!」
「それなのに・・・なんだか苦しそう・・・。」
「・・・来人・・・。」
さらに数日後
深夜
「・・・!!」
大量の汗を流し、来人は目を覚ました。
「はぁ・・・はぁ・・・! うっ・・・!!」
吐き気を催し、せき込んだ。
「・・・・今のは・・・・・。」
来人はまた、夢を見た。どこか別の場所でジャックたちとデュエルをしていた。しかし、自分の勝利でジャックたちが次々と倒れていくその光景に来人は耐えられず、目覚めてしまった。
「・・・・・んん・・・。」
「・・・!?」
いつの間にか、来人の隣で龍可が寝ていた。驚きで、吐き気が思わず引っ込んだ。
(・・・・ん? え? いつの間に・・・?)
「・・・・・ら・・・いと・・・」
「?」
「だ・・・いじょう・・・ぶだよ・・・。」
寝言でそう言った龍可の目から一筋の涙が頬を伝った。
「・・・・・・。」
それを見た来人は龍可の頭を優しく撫で、起こさないよう、そっと指で涙を拭った。
(・・・この子は、俺をどう思っているのだろう・・・。・・・あんなことをしていた、俺を・・・・・。)
夢の中で仲間たちを傷つけていた自分を思い出し、来人は下唇を強く噛んだ。
昼過ぎ
「はぁ・・・。」
記憶の戻らない来人を心配し、龍可はため息をついた。記憶の戻らない来人に不安が心の中で広がっていた。
「・・・来人・・・。」
龍可の精霊たちは龍可を心配そうに見つめていた。
『クリクリ~・・・・・。』
『龍可・・・・。・・・! これは・・・?』
レグルスは怪しい気配を察知した。龍可の背後にサングラスの男が近づいてきていた。
『龍可・・・』
「ふっ・・・。」
男は1枚のカードをデュエルディスクに置く。カードから漂う瘴気が精霊たちを苦しめる。
『うぐ・・・!? こ、これは・・・!』
「・・・! レグルス・・・!?」
考え事をしていた龍可は苦しむレグルスに気づく。
「あなた、一体・・・」
「魔法カード、発動・・・! 催眠術!」
催眠術
通常魔法
①:次の相手ターン、相手はモンスターの表示形式を変更できない。
「・・・う・・・あ・・・。」
カードの影響で、龍可は激しい眠気に襲われる。
「な、なん・・・で・・・・・。」
(まさか、この人・・・サイコデュエリスト・・・!?)
「ふふふ・・・さあ、眠るがいい・・・。」
「・・・い・・・・・や・・・・」
ついに龍可は眠りに落ちてしまう。倒れそうになったところを男が支えた。
「・・・・・。」
男は不気味な笑みを浮かべると、龍可を担ぎ上げ、どこかへ去っていった。
「待っていろ・・・・・未谷来人・・・!」
「・・・・・。」
来人は自分の部屋でデッキを広げ、ぼーっと眺めていた。
(・・・記憶の失う前の俺は・・・一体、何をしようとしていたんだ・・・?)
思い出せた記憶の一部ではどうやらろくなことをしなかったらしい。
(・・・なのに・・・)
この家でともに過ごした龍亞と龍可の顔、仲間だと言ってくれた遊星たちの顔が浮かんだ。
(彼らは・・・優しいな・・・。)
次第に来人の目から涙が流れ始める。
(・・・俺が・・・いない方がきっと・・・。)
ピリリリ!
「・・・・?」
来人の携帯電話にメールが入った。画面を見ると、龍可からのメールだった。
「なんだ・・・?」
何気なく来人はメールを開く。
「・・・・・!?」
内容を見ると、驚きで目が大きく開かれる。メールに添付されていた写真には縄で縛られ、口にガムテープを貼られた龍可の姿が映っていた。