数日後
病院
「それ、本当!?」
「る、龍亞! しー・・・!」
来人の記憶が戻ったと知り、龍亞は大きな声で驚いた。来人は眠っていたため、龍可はそれを静かに注意する。
「記憶が戻った来人は龍可を守ったということは・・・」
「どうやら、ジャックとクロウが心配していたことはないみたいね。」
そう言って、アキはジト目でジャックとクロウを見る。
「「心配?」」」
「ま、まあ、なかったんだからいいじゃねえか! な、ジャック!」
「そ、そうだな!」
クロウはジャックの肩を無駄に強くたたき、ジャックはわざとらしく大きく頷いた。
「・・・んだよ、人がいい夢見てるときに。」
不機嫌そうに来人が起き上がる。
「来人! もう大丈夫なの?」
「とっくに元気だよ。俺は。」
龍可が来人のそばに駆け寄った。
「貴様が集めたのだろう。早く話せ。」
ジャックの言う通り、来人は話があると遊星たちを呼び出していた。
「まあ、そうなんだがな。牛尾と狭霧も来てたんだが、出てってもらった。・・・最初は、みんなに聞いてほしかったからな。」
来人は照れくさそうに頭を掻いた。
「まあ、その・・・・・おい、ニヤニヤすんな。」
来人の言葉通り、龍亞とクロウがニヤニヤしながら来人を見ていた。
「くそ・・・。」
「・・・来人の話って・・・」
「ゾーンのことか?」
「・・・・・ああ。」
「確か・・・来人はあの時、ゾーンと一緒にアーククレイドルを止めようとしてたんだよな? それが、来人は助かって・・・」
「だから、聞いてほしかったんだ。お前らも当事者だからな。」
来人は一呼吸置き、ゾーンと何があったか話し始めた。
アーククレイドル中心部
「・・・ここか。」
来人とゾーンはアーククレイドルのモーメントにたどり着いていた。
「・・・終わらせよう。ゾーン。」
「・・・・・。」
「・・・? ゾーン?」
「来人・・・あなたも行かなくていいのですか? 仲間のもとへ。」
ゾーンの言葉に来人は鼻で笑う。
「今更無理だろ。」
「ですが、私についてくればあなたは・・・!」
「俺はゾーンには十分すぎるくらい世話になったんだ。だから、それだけで・・・。」
「来人・・・!」
「・・・・。」
来人は静かに目を閉じる。
(パラドックス・・・アポリア・・・・・・ブルーノ・・・。俺もゾーンも、もうすぐそっちに逝くよ。あの時よりも長い時間を、そっちで過ごそう・・・・!)
「・・・・・じゃあな。」
「・・・待ってください。」
アーククレイドルのモーメントに近づこうとした来人をゾーンは呼び止めた。
「なんだよ。今行こうと・・・」
「その前に・・・あなたに伝えておきたいことがあります。」
「・・・え・・・?」
「あなたの・・・名前についてです。」
「名前・・・? いいだろ今更。」
来人は呆れたように笑う。
「来人・・・その名前を考えたのは、私ではありません。」
「・・・何、言ってんだ・・・?」
来人の声が震え始める。
「この名前は、確かゾーンが・・・」
「ええ。あなたに任務を与えた際に、私がつけた名です。ですが、この名前を考えたのは、別の人物なのです。」
「別・・・アポリアか? パラドックス? それともアンチノミー・・・ブルーノか?」
「いいえ。・・・あなたの両親です。」
「・・・・両親・・・?」
来人は頭の中で両親の顔を思い出そうとするが、一切思い浮かばない。
「・・・そんなはずはない。二人とも、俺が子供の頃に・・・」
「私達が初めて会った日のことを覚えていますか?」
「ああ・・・忘れるはずはない。」
「君の服のポケットに入っていたのですよ。両親からメッセージが。」
「・・・・・。」
知らされた事実に来人は言葉が出なかった。
「あなたの名前・・・『来人』の由来は暗い未来を明るく長く照らす人。そうなってほしいと、書かれていました。あなたにも、それを渡しましたが・・・すでに諦めてしまっていたあなたには届かなかった・・・。」
「・・・・だったら・・・だったらどうするってんだよ。」
「・・・あなたの使命は、まだ終わっていません。」
「使命・・・?」
「彼らが未来を変えられるか、監視し、見届けること。それがあなたの使命だったはず。」
「・・・戻れってのか? 今更そんなことができるわけねぇだろ・・・! どんなツラさげて戻れってんだよ!」
来人はゾーンに詰めよった。
「・・・もう、いいのです。」
「何を・・・」
「もう、自分の心を騙す必要はないのです。あなたはあなたの道を進みなさい。私にこれ以上、付き合う必要はありません」
「・・・ゾーン・・・!!」
ゾーンは来人をDホイールごと巨大な手でつかんだ。
「!? ゾーン、待て・・・」
「・・・さらばです、未谷来人・・・!」
つかんだ来人を出口に向かって投げた。
「ゾーン!! ゾーン!!」
投げられた来人はゾーンから離れていく。それを見たゾーンはモーメントに向かって突っ込んでいった。
「アポリア・・・アンチノミー・・・パラドックス・・・すぐに、私も行きます。彼には、本当の居場所がある。なので・・・ここに、置いていきます。・・・来人、生きなさい・・・強く・・・!」
「・・・ゾーン・・・!!」
涙を流しながら、来人はアーククレイドルから出ようとする。しかし、停止したことで、崩れ始め、瓦礫が降り注ぐ。
「くそ・・・!」
隙間から隙間へとなんとか躱しながら進んでいく。
「・・・! あれは・・・!」
進んだ先にDホイールが入りそうな外への隙間があった。
「・・・・・じゃあな・・・ゾーン・・・ブルーノ・・・アポリア・・・パラドックス・・・。」
かつての同士たちに別れを告げ、来人はアーククレイドルから脱出しようとした。しかし・・・
「!! やべ・・・!」
直前で瓦礫がDホイールに接触した。Dホイールから警告音が鳴る。
『システムの損傷を確認。1分後に、フライングモードをオフにします。』
「1分!? く・・・っそーー!!」
トップスピードまで上げ、なんとかアーククレイドルから脱出した。
「・・・!!」
脱出し、海の上まで飛び出したが警告通り、Dホイールが飛べなくなる。
「うああああ!!」
瓦礫の降る音に紛れ、来人はDホイールとともに落下した。
「・・・これが、俺の知る全てだ。」
「・・・そうか・・・ゾーンが・・・。」
来人は静かに頭を下げた。
「来人?」
「・・・ありがとう・・・未来を変えてくれて・・・!」
「お、おい、泣かすんじゃねえよ・・・!」
クロウは来人に背を向け、涙を拭く。
「いや泣いてくれなく・・・て・・・も・・・」
次第に来人は首を傾げた。
「なんだ。」
「いや、なんかまだ忘れてるような気が・・・。」
天井を見上げ、しばらく考える。
「・・・まあ、大丈夫だろ。そのうち思い出すよ。」
「ら、来人がいいならそれでいいのだけれど・・・。」
コンコンコン
「ん。」
軽く返事をすると、牛尾が入ってくる。
「そろそろいいか?」
「ああ。言うことは言った。」
遊星たちは部屋を出ようとする。
「十六夜、お前は残れ。」
「・・・わかってるわ。」
「・・・アキさん・・・。」
「・・・行くぞ。」
ジャックに従い、アキ以外は病室を出た。
「・・・ディヴァインのことね?」
「ああ。野郎、どうやら、ダークシグナーとの戦いが終わったあと、なぜだか、海外で復活してたらしくてな・・・。こっちもいろいろなゴタゴタがあったせいで、奴の不法入国を見逃していたんだ。」
「その辺しっかりやっとけよ。」
「おう・・・って、お前はお前で喋ることたっぷりあるんだぞ! 忘れたとは言わせねえ!!」
牛尾は来人の耳をぐいぐいと引っ張る。
「わ、わかってる! わかってるって!」
「ったく・・・十六夜、ディヴァインが裁判にかけられたときは、証言頼んだぜ。」
「・・・ええ。」
アキが静かに頷くと、牛尾は病室をズカズカと出ていった。
「・・・まあ、どんな証言しようが、あいつは終わったな。」
「そうね・・・でも、何もかも救われるわけじゃない・・・。」
「・・・そうだな。俺もどうなるか・・・。」
天井を見上げ、ため息をつく。
「! そ、そういうつもりじゃ・・・」
「わかってるよ。さて、終わったなら出ろよ。もうひと眠りしたいんだ。」
「・・・そう。じゃあ、またね。来人。」
アキが出ていくと、来人は静かに目を閉じる。
「・・・さて、どうなるか・・・。」
数日後
「・・・・・。」
回復し、退院した来人は高台に行き、静かに黙祷をささげていた。
「・・・・・・・。」
それを龍可は後ろで見守っている。
「・・・・ん。」
「・・・大丈夫? 来人。」
「ああ。しばらくはちゃんと来ないとな。墓もないし。」
「・・・そっか・・・。」
「そろそろ、帰るか。」
「うん。」
龍可は来人のDホイールのサイドカーに乗り、来人は高台から離れていく。
龍亞・龍可の家
「悪かったな、付き合わせて。」
「ううん、気にしないで。みんな、買い出し行っててまだ時間かかるから。」
遊星たちは来人の退院祝いの準備のため、買い出しに出ていた。二人はいつものようにリビングに入った。
「・・・・・・。」
入った来人はリビングをじっと見る。
「・・・? どうかしたの?」
「・・・いや、帰ってきたんだなって・・・。しばらく記憶がな・・・く・・・て・・・」
「・・・? 来人?」
「・・・帰った・・・・・」
「?」
ぶつぶつとつぶやく来人を見て、龍可は首をかしげる。
「えっと・・・らい・・・」
「話って何?」
「・・・・へ?」