龍亞・龍可の家
「ふぅ・・・いいデュエルだった。」
「・・・・・。」
満足そうにしている来人を龍可はジト目で腕を組み、ふくれっ面をして見ていた。
「・・・おい。」
来人は龍亞を手招きして呼ぶ。
「? どうしたの来人。」
「・・・さっきから龍可がどうにも機嫌が悪いんだが、何か知らないか?」
「え?」
龍亞はちらっと龍可の顔を見る。
「・・・・・ほんとだ。え、なんで?」
「いや俺が聞いてんだが?」
「龍亞。」
「!」
龍可から低い声で声をかけられ、龍亞は肩をビクッと震わせた。
「ちょっと部屋に行っててくれる?」
「え、いや、でも・・・」
「龍亞?」
「ひぇ・・・し、失礼しま~す・・・。」
恐る恐る龍亞は自分の部屋に戻っていった。
「・・・俺も部屋もどろっかな・・・」
「・・・・・。」
そうはさせないと来人の服をぎゅっとつかんだ。
「・・・座って。」
「いや、あの・・・」
「座って。」
「は、はい。」
勢いと剣幕に押され、ソファに腰掛ける。その隣に龍可が座る。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
リビングは沈黙に包まれる。
「・・・来人?」
「は、はい・・・!」
静かに名前を呼ばれ、来人は思わず背筋を正した。
「・・・なんで怒ってるか、わかる?」
「え、いや、その・・・」
「・・・・・。」
来人に訴えかける龍可の目に涙が浮かんだ。
「・・・・・・・ごめん・・・。旅に出ること、黙ってて・・・。」
来人は静かに頭を下げた。
「・・・パパから話を聞いた時、来人も一緒に来るのかなって思ってたから・・・。だからあの時・・・本当にびっくりした。」
「・・・・・。」
「・・・ずっと、一緒にって・・・。」
龍可の体と声が震え始める。
「・・・・・。」
「・・・!」
来人はぎこちなく龍可の頭を優しく撫でる。
「・・・来人、こういうのまだ慣れてないよね?」
「慣れてるのもどうなんだそれは。」
「だったら・・・慣れておいてね?」
「・・・そうだな。」
そう答えると、来人は今度は強めにわしゃわしゃと撫でた。
「///つ、強いよ・・・。」
「いいだろ、これくらい。・・・つうかまだ、卒業前にやることがあるしな。」
「え?」
数日後
「・・・・・。」
来人は緊張の面持ちでモニターを見ていた。
「・・・来人、何してるの?」
その様子を龍亞は心配そうに見ていた。
「しっ・・・!」
龍可は龍亞を引っ込めさせる。
ピリリリ!
「!」
ワンコールで来人は通話に出ると、来人の隣に龍可が座った。
「・・・・!?」
画面には龍亞と龍可の両親が映し出された。来人が驚いたのはなぜか二人とも涙顔だったからだ。
「え、えっと、あの・・・。」
「ら、来人、これって・・・。」
「あぁ・・・ちょっと前にメールしといたんだよ。まあ、その・・・俺のことをな。」
「来人のことって・・・・・まさか、アーククレイドルのこと!?」
「さすがにそれは伏せた。」
来人が伏せるのも当然だった。
(自分の子供殺そうとした奴、俺ならぶち殺しかねないしな・・・。悪いが、墓場まで持っていく・・・!)
「・・・あの、そろそろいいですかね?」
『ああ・・・ぐず、すまないね・・・。』
龍可の父親は手元のハンカチで涙を拭いた。
『メールを見たら涙が止まらなくてね・・・! しかし、私はうれしいよ。君と龍可がねぇ・・・!』
「はあ・・・。」
『龍可がよく妻に相談して・・・』
「パパぁ!?」
(どう考えても俺が聞いていい話だったか・・・?)
隣の龍可を見ると、顔を赤くしてプルプル震えていた。
そしてここから数か月の時が流れた・・・・・。
「・・・・・。」
制服に身を包んだ来人はアカデミアの校舎を感慨深げに見つめていた。
「来人~! ここにいた!」
ソラが手を振って駆け寄ってくる。その後ろから亨、翔一、亘がやってくる。
「ん。」
「まったく、卒業式終わったらすぐ出てこうとするんだから。」
「しかし、来人。本当によかったのか?」
「何が?」
「君の進路ですよ。まさかプロにならないとは・・・。」
亘の言葉に来人は鼻で笑う。
「別にプロにならなくても、デュエルはできるからな。」
「だが、結局お前、そのあと進路のこと何も・・・」
「なぁに、俺は元からそんな生き方だったからな。元に戻るだけだ。」
来人はにやりと笑う。
「まあ、お前が決めたのならいいんじゃないか?」
「さすが亨。話が早い。」
「まったくもう・・・連絡とかはしてよね?」
「わかってるよ。」
ピリリリ!
「ん、オレだ。」
電話に出るため、翔一は来人たちから少し離れる。
「・・・で、お前はいいのか?」
「え? な、なにが?」
「散々人には言っておいて、自分は日和見とは・・・。」
「まったくです。」
ソラの周りを来人、亨、亘が囲んだ。
「い、いいいや~・・・あの、その・・・た、タイミングっていうのがあってね・・・?」
「「「今しかないな。」」」
「///え、えぇ!?」
「ほ~ら、早く行って来い・・・!」
「///うわぁ!?」
来人はソラの背中を強く押した。
「ったく・・・。・・・・・!」
ソラを送り出した来人はアキの姿を見つける。
「! 来人・・・。」
「よぉ。」
「・・・・。」
「? どうした。」
「・・・アカデミアを卒業したのが、あの頃だったら信じられないと思って・・・。」
「あぁ・・・。」
来人はフォーチュンカップの頃を思い出す。
「あの黒薔薇時代な。」
「黒薔薇時代って・・・・。」
「・・・てか、お前はいいのか?」
「? 何?」
「・・・・・。」
来人は翔一に告白しようとしているソラを見る。
「・・・・・・!!? ///な、なな・・・!!」
「なんだ、言わないのか。遊星に。」
「////あ、あなた、そういう話するようになったのね・・・。」
「お前も、そういう顔するようになったのか。」
それぞれに穏やかな笑みを見せる。
「・・・そういえば、あなたは来ないの? 明日の、ラストラン。」
卒業式の翌日、チーム5D’sのメンバーでハイウェイのコースを走ることになっていた。
「行かねえよ。俺は除名されてんだ。それに、卒業したら出てかなきゃならないしな。その辺の筋は通す。」
「けど・・・」
「それに今日は忙しいんだ。いろいろ挨拶しなきゃな。」
「・・・そう・・・。」
「んじゃあ、ちょっと行ってくるか。」
マーサハウス
卒業式を終えた来人はクロウとともにマーサハウスにいた。
「しっかしあいつら、なんて言うんだろうなぁ・・・。」
クロウはいまだプロになることを子供たちに言えないでいた。
「泣いて引き留められるか、あっさり受け入れるかのどっちかだな。」
「あっさりだったらちょっとな・・・。」
クロウは恐る恐るリビングの扉を開ける。マーサと雑賀に迎えられたクロウはプロデュエリストになることを明かした。
「そうかい。それがお前の決めた道なら、私は応援するよ。」
「サンキューな。でもガキどもになんて言ったらいいか・・・。」
「さみしがるだろうけど、しょうがないね。みんな、こっちおいで。」
マーサに促され、子供たちが入ってくる。
「ようクロウ! 元気にしてっか?」
「プロリーグに行くんだってな。」
「クロウの実力で通用すんのかな?」
(案外ケロッとして・・・・・いや・・・。)
来人は子供たちの様子に気づいた。
「お前たち、知ってたのか?」
「まあね。」
「私達ももう、子供じゃないしさ。」
「クロウがいなくても寂しくないし、とっとと行っちゃえよ!」
「そ、そうすりゃ俺たちもせいせいするって・・・!」
子供たちの声が次第に震え始める。
「そうだそうだ! せいせいするって・・・!」
こらえきれない涙がこぼれだした。
「お前たちダメだろ! 俺たちは、く、クロウ兄ちゃんに心配かけないように送り出すんだって!」
子供たちの泣く声が部屋に響き渡る。クロウは子供たちを慰めるため、強く抱きしめた。
「来人。」
雑賀が来人の肩に手を置いた。
「雑賀さん・・・。」
「聞いたぜ。今日には出るんだろ?」
「まあ、いろいろあったもんで・・・・。」
「・・・・。」
雑賀は来人をじっと見る。
「・・・? どうかしました?」
「・・・いや、何でもない。精々野垂れ死ぬんじゃねえぞ。」
「わかってますよ。」
喫茶店『CAFE LA GEEN』
「ふっ・・・。」
ジャックは愛飲のコーヒー、ブルーアイズマウンテンを口に運んだ。
「相変わらずそれ飲んでんのか。」
「! 来人・・・。」
「ああ、すみませんおんなじの。」
来人はジャックと同じ席に腰掛ける。しばらくして、来人の前にジャックと同じブルーアイズマウンテンが置かれる。
「貴様、猫舌じゃあ・・・」
「冷ませばいいだろ。んじゃあ・・・」
カップをゆっくりと持ち上げる。
「これからの未来に。」
「ふん!」
乾杯し、二人はコーヒーを飲んだ。
「あっづ!!」
「だから言ったのだ。」
「ほっとけば冷めるだろ。・・・てか・・・あれなんだ?」
来人は店の近くに止められた軽トラを指さす。荷台には大量のプレゼントがぎゅうぎゅうに詰められていた。
「俺のファンからだそうだ。・・・貴様にはやらんぞ。」
「未だにあんなにもらえんだな。普段のお前見たら裸足で逃げ出しそうなのに。」
「貴様・・・!」
来人の指摘にジャックは拳を震わせる。
「ならばいずれ、貴様に思い知らせてやる! この俺の荒ぶる魂を!」
「ま、楽しみに待っといてやるよ。」
ジャックの宣言に来人はにやりと笑う。
「ふん! それに言っておくが俺が戦いたい相手は遊星だけではない。」
ジャックは来人を力強く指さす。
「来人・・・貴様もだ!」
「だったら、またいつでも相手してやるよ。それまでキングくらいにはなっとけよ? ・・・ジャック。」
「・・・! ふっ、当然だ。」
ガレージ
ジャックに会ったその足で来人はガレージに入った。
「! 来人・・・!」
「よぉ、遊星。」
挨拶のため、軽く手を挙げる。
「・・・もう行くのか?」
「ああ、最後に寄るところがあるけどな。一通り挨拶しに行ってる。さっき、ジャックに会ったぞ。」
「・・・来人・・・本当にいいのか? このままで・・・。」
「今更なに言ってんだよ。いいんだよ、俺が納得してんだから。あの時も言ったろ。やらかした奴がけじめつけなきゃいけないんだよ。」
「・・・・・。」
「ま、二度と故郷に入れないのはくるものがあるけどな・・・。」
来人は天井を見上げ、ガレージ内を見る。
「しっかし、静かに感じるな。」
「もうここには俺以外いないからな。」
「・・・そうだったな。・・・!」
来人はドアに近づいてくる気配に気づいた。
(・・・今ここにいるのは野暮だな。)
「んじゃあな、遊星。元気でな。」
「ああ。」
龍亞・龍可の家
遊星たちに挨拶を終えた来人は長い時間を過ごした家に戻ってきた。
「おかえり、来人。」
「ただいま、龍可。」
今まで使われていた家具たちはすでに龍亞と龍可の両親のもとに運び出されていた。
「あれ、龍亞はどうした?」
「最後にみんなとデュエルしてくるって。」
「そうか。・・・しかし、随分広く感じるな。」
「うん・・・。」
来人はリビングの真ん中で寝っ転がった。
「ほら、こっち来い。」
「え?」
「ここ、普段はテーブルがあったからこうやって寝っ転がれないだろ? せっかくだからな。」
「う、うん・・・。」
龍可は来人の隣に寝転んだ。
「・・・ねえ、来人?」
「ん?」
「////・・・だ、大丈夫・・・だよね?」
「? 何が?」
龍可は寂しさをのぞかせながら、来人に抱き着いた。
「龍可、お前・・・こういう時の力強いよな・・・。」
「/////・・・だって・・・離れ離れに・・・なる、し・・・。」
龍可の声が次第に震え始め、頬を涙が伝った。
「・・・・・。」
それを見た来人は静かに指で龍可の涙を拭った。
「////・・・らい、と・・・!?」
「・・・・。」
そのまま顔を近づけ、龍可の頬にキスをした。
「////・・・・・。」
龍可は頬を押さえ、来人の顔を見つめた。
「////来人・・・今まで来人からしてきたことなかったのに・・・。」
「・・・いや、タイミングわかんなくて・・・。」
目を逸らし、照れくさそうに頭を掻く。
「でも、これで不安はないだろ?」
「/////・・・・・うん!」
「・・・あの~・・・」
龍亞が恐る恐るリビングのドアを開ける。
「もう入っていい?」
「////龍亞!?」
「・・・・・。」
来人は黙って龍亞に向かって手を伸ばした。
「お前も来るか?」
「いや、もうそういうのは・・・別、に・・・。」
龍亞の目に涙が浮かんだ。
「・・・・・ら・・・・来人~!」
龍亞は来人に飛びつくように抱き着いた。
「へぶっ!」
「////る、龍亞!」
「来人~!!」
顔を来人の肩に当て、強く抱き着く。
「/////・・・来人!」
それを見た龍可も強く抱きしめる。
「・・・お、俺、ぜ、絶対・・・・強くなる・・・! 強いデュエリストになるよ・・・!」
「・・・ふっ・・・。まあ、そう気張るな。」
来人はゆっくりと体を起こし、二人の頭をなでる。
「・・・元気でな。」
「「・・・・うん・・・!!」」
立ち上がり、荷物を肩にかけ、来人は出ていった。
ネオドミノシティ 高台
「・・・・・・。」
旅立つ前、最後に来人は黙祷をささげていた。
(・・・あいつらと出会って・・・いろいろあった・・・。)
目を開けた来人は静かに何もない空を見つめる。
(おかげで、故郷には入れねえし・・・4人の仲間を失った・・・。だが・・・仲間が5人できて・・・友人4人・・・恋人1人・・・。こうも変わるとは・・・。)
心の中で静かに笑う。
(・・・じゃあな、みんな。)
「いってきます。」
『『『『・・・・いってらっしゃい。』』』』
「!?」
空港へ向かおうとした来人は足を止めた。
(・・・・なんで・・・・。)
そう思うのも無理はなかった。聞こえたのはゾーン、アポリア、パラドックス、ブルーノの声だったからだ。
(・・・ああ・・・くそ・・・。)
来人は左手で目元を隠す。しかし、涙が流れ出す。
(・・・振り返るな・・・。振り返るな・・・!)
必死に腕で涙を拭った。
「・・・・・いってきます。・・・みんな。」